再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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今回は本編です。


幕間 ~茶碗の交渉~

 大亜連合による横浜侵攻から一週間経った。

 

 予想通り、あの侵攻によって全ての魔法科高校は臨時休校となったが、ほんの数日程度だ。けれど、一高だけは他と違ってもう一日伸ばす事になったが、その日は11月3日の祝日であったから、休日と大して変わり無い。

 

 そして11月4日から一高の授業再開となり、元の日常生活を送る事となった。だが、司波だけは違い、学校が再開しても欠席で、登校したのは翌日の11月5日。恐らくは軍の関係で休まざるを得なかったのだろう。

 

 軍で思い出したが、あの侵攻後の深夜頃に妙な反応があった。この日本から遥か遠い場所で、凄まじいオーラを感じたのだ。聖書の神(わたし)能力(ちから)を使って調べたところ、大亜連合の鎮海軍港だと判明するも、そこにあった筈であろう軍艦や施設が丸ごと無くなっていた。まるで地形の一部をスプーンで抉り取ったように。

 

 あのオーラには司波達也と思わしき想子(サイオン)を感じられたから、恐らくアイツの仕業だろうと推測した。あの莫大な威力からして、恐らく戦略級魔法を使ったに違いないと。

 

 そして理解した。国防軍が未成年である司波を軍人にしてるのは、戦略級魔法が使える為に重宝されているのだと。確かに対象を一瞬で殲滅する事が出来るのであれば、軍がそうするのは無理もない。

 

 今回ばかりは本当に驚かされた。兵藤隆誠(おれ)聖書の神(わたし)ほどではないにしろ、あれ程の魔法(ちから)を持った司波には正直恐れ入る。殆ど反則級な実力者で、アイツに勝てる魔法師は数少ないだろう。

 

 加えて、司波妹からの話では『再成』と言う反則級の復元魔法も使える。苦痛を味わう代償があるとは言え、何度も使われたら不死身と錯覚するかもしれない。並みの魔法師が相手をすればの話だが。

 

 もし俺と戦う事になっても負けはしないが、その復元魔法が非常に厄介だ。もし『再成』の情報が無かったら、手痛い目に遭う事になるだろうから。

 

 アイツの息の根を確実に止める方法は……魔法の中枢である頭を一瞬で吹っ飛ばすか、ギャスパーの『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』を真似た結界で閉じ込めてる間に心臓と脳を停止させる、ってところか。前者はともかく、後者はかなりのオーラを消費してしまうが。

 

 ……って、何で俺は司波の事を考える度に、戦う事を前提で考えてるんだよ。もうこれで何度目の反省だろうか。

 

 改めて反省してる中、突如自分の部屋にある扉からコンコンッとノックする音がした。言い忘れたが本日は日曜で、つい先ほど昼食を終えたばかりの時間帯である。

 

「リューセー、貴方にお客様よ」

 

 ノックをした後に扉が開くと、顔を出した母さんが俺にそう言ってきた。

 

 客? もしかして修哉と紫苑が遊びに来たのか? でもあの二人が俺に何の連絡も無しに来るとは思えないんだが……。

 

 全く心当たりのない俺は来客の対応をしようと部屋から出て、客が待機してるであろう玄関へ向かう。

 

「久しぶりだね、兵藤君」

 

「俺は先週振りだな、兵藤」

 

「………えっと、何故お二人が家に?」

 

 玄関には嘗て金沢で世話になった十師族の一人――一条剛毅と、その息子である将輝がいる事で俺は思い出した。俺の作った茶碗の交渉で家に来る事を。因みに剛毅はスーツ姿で、将輝は三高の制服姿である。

 

 

 

 

 

 

「まさか一条家当主ともあろうお方が、本当に俺が作った素人の茶碗なんかの為に交渉しに来るとは」

 

「将輝から聞いている筈だ。この茶碗は重要文化財であると」

 

 リビングに案内して、俺達はソファーに座って対談している。尤も、剛毅の隣に座ってる将輝は話を聞いているだけだが。

 

 因みに母さんは二人にお茶菓子を用意した後、セージとセーラを連れて買物に行っている。まるで関わりたくないような感じで。

 

 お客が来ているのに買い物に行こうとするのはマナー違反とも言える行為であるのだが、これにはチョッとばかり理由がある。あくまで一時的なモノなのだが、今の母さんは魔法師に対する恐怖感を抱いているのだ。

 

 そうなった原因は、先週に起きた大亜連合による横浜侵攻の件だ。相手が他国の敵兵とは言っても、魔法に関する争いに息子の俺が巻き込まれたから、母さんはチョッとばかり神経質になっている。家族の俺はまだしも、魔法師である一条親子が来た瞬間に警戒心を露わにしていた。日本を守る為に戦った自国の魔法師であると分かっても、あの時の事を思い出すだけで非難しそうだと、母さんは逃げるようにセージ達を連れて出掛けたのだ。

 

 母さんが失礼な態度を取ってしまった理由を話すと、二人は不快にならないどころか、逆に申し訳ない気持ちになっていた。それは寧ろ当然であると重く受け止めている。本当に親子揃って凄く真面目で責任感が強いと思ったのは内緒にしておく。

 

 とは言え、態々金沢から来てくれた一条親子に申し訳ないから、俺は暗い話を打ち切ろうと本題に入った。

 

 そして改めて剛毅が態々持って来てくれた俺の茶碗を、石川県に寄付して欲しいと話している最中だ。

 

「それは聞いてますが、重要文化財ってどういう事なんです?」

 

「私は実物を見た事はなくとも、知識としては知っている。君が作った茶碗は既に失われた日本の国宝――『曜変天目茶碗(ようへんてんもくちゃわん)』なのだよ。有名な鑑定士がコレを見た途端に仰天していたそうだ」

 

 日本の国宝……はて? どこかで聞いたような気がするな。

 

 確か前世(むかし)の頃、とある鑑定番組でゲストが出したお宝でそのような紹介を……って、アレかぁぁぁぁぁ! 思い出したぁぁぁぁ!

 

 何? この世界でも『曜変天目茶碗(ようへんてんもくちゃわん)』が存在してたの? 俺や聖書の神(わたし)は全然知らなかったよ!

 

 因みに茶碗の名前は忘れていたが、鑑定番組でその茶碗を紹介された際、宇宙のように綺麗だったと印象強く憶えていた。陶芸体験教室では、あの時の事をぼんやりと思い出したから、何も考えずに作ってしまった。

 

 よくよく考えてみれば、あそこにいた店長さんが凝視していたのに納得だ。恐らく『曜変天目茶碗(ようへんてんもくちゃわん)』の知識があったから、俺の作り方をじっくり見ていたんだろう。

 

 あ~~~~……聖書の神(わたし)とした事が、そんな事に気付かないまま作ってしまうとは……本当にドジを踏んでしまった。

 

 石川県は九谷焼で有名である他、あの国宝茶碗はそこの県立美術館に保管されていた事もあった。それを知ってる石川県民としては、是が非でも『曜変天目茶碗(ようへんてんもくちゃわん)』を手に入れて再び美術館で厳重に保管したい筈だ。

 

「兵藤君、この茶碗が旅行の思い出として作った物である事は重々承知している。私は一条家当主としてでなく、石川県民代表として、どうか譲ってもらえないだろうか? それが無理であるなら、この茶碗の製法を教えてもらいたい。勿論、どちらも相応の謝礼を支払うつもりでいる」

 

「俺からも頼む、兵藤。どうか親父の顔を立ててくれ」

 

「あ、いや、何もそこまでしなくても……」

 

 親子揃って頭を下げて言ってくる為、俺は返答に困ってしまう。

 

 十師族の一条家が一般人の俺に頭を下げるのは、普通に考えてあり得ない行為だ。一条を支援してる者達が知れば絶対黙ってはいない。

 

 ここで下手に交渉を長引かせるような事になれば、後々面倒な事になるのは目に見えてる。もういっそのこと、無償(タダ)で譲る事にしよう。

 

 だけど、それでは不審に思われるから、チョッとした条件を付けておく必要がある。

 

「……はぁっ。分かりました、お二人がそこまで仰るのでしたら、この茶碗は石川県に寄付します」

 

「ッ! ほ、本当か?」

 

「ええ。当然、謝礼も必要ありません。ですがその代わり……」

 

 チョッとばかり勿体ぶって言いながら言う俺は、剛毅にこう言いだした。

 

「石川県にいらっしゃるお偉方が、俺たち家族に接触しないよう一条家で釘を刺してもらえませんか? こんな事は言いたくないんですけど、向こうが新しい国宝欲しさに密かに接触されたら非常に迷惑ですので」

 

「それは……」

 

 剛毅は思わず言い返しそうになろうとするも、途端に否定が出来なくなったかのように途中から無言となってしまう。

 

 何処の世界でも、人間と言うのは非常に欲深い生き物である。欲しい物を簡単に手に入れるなら、もう一個くらいなら大丈夫だろうと考えてしまう。それがエスカレートして同じ事を繰り返してしまい、歯止めが利かなくなってしまう傾向がある。

 

 そういう人間を聖書の神(わたし)は過去に見たから、欲張らないように俺は剛毅に釘を刺そうとしている。

 

「……分かった。私の方から上層部に、君たち家族に今後接触しないよう徹底しておく。だがそれでも向こうが万が一に来た場合、その時は私に連絡してくれ」

 

 剛毅は少々考える仕草をするも、俺が提示した条件を呑んでくれた他、彼の連絡先のナンバーを教えてくれた。

 

 取り敢えず交渉が終わった事により、先程まで俺の手元にあった箱付きの茶碗は、再び剛毅の手元に戻る事となる。

 

「兵藤、お前に訊きたい事がある」

 

 話はこれで終わりかと思っていたが、安堵の表情となっていた将輝が途端に真面目な顔つきになって訊いてきた。

 

「あの侵攻の翌日に緊急師族会議が行われたんだが、アレを見た俺は今でも信じられない」

 

「何をだ?」

 

「お前が大亜連合で有名な呂剛虎を相手に圧勝したのが。勿論、親父を含めた十師族や十文字さんも含めてな」

 

 ああ、アレか。軍や警察関係者だけじゃなく、十師族も見ていたのか。九島から聞いて何となく予想していたが。

 

 多分だけど、俺と呂剛虎の戦闘映像を見た十師族は摩利と同様に口を開けて呆然としていただろう。

 

「そんなに信じられないなら、今から相手してやろうか?」

 

「! 上等――」

 

「止すんだ、将輝」

 

 俺の台詞を聞いた途端に好戦的な笑みを浮かべる将輝だったが、剛毅が窘めた瞬間にハッとして罰が悪い表情となった。

 

「大変すまない、兵藤君。愚息が失礼をした」

 

 さっきとは違う意味で頭を下げて謝罪する剛毅に、俺は気にしないように言う。

 

「いえいえ、お気になさらず。確かに第三者からすれば、俺が呂剛虎と戦って勝つなんて普通にあり得ませんからね。剛毅さんも実はそう思ってるのでしょう?」

 

「……敢えて言うなら半信半疑、と言ったところか。だがあの映像を見た限り、間違いなく君であるのは確かだ」

 

「……………」

 

 半信半疑と言うも、剛毅は将輝と違って事実と受け止めているようだ。それでも何か知りたそうな感じがするが。

 

 そしてある程度話し終えた後、一条親子は退散する事となった。勿論、交渉で譲った茶碗を忘れずに。

 

「兵藤君、もし再び金沢に来る機会があれば、我が家へ訪れてくれ。その時は快く歓迎する」

 

「ウチの母さんや瑠璃がお前に会いたがってると補足しておく」

 

「分かりました。その時は母さんや弟達と一緒に来ます」

 

 母さんが魔法師に対する認識を改めるように、美登里さんと話せばある程度の解消が出来るかもしれないから。

 

 家族を連れて来ると聞いた剛毅は、是非ともそうしてくれと言った後、将輝を連れて兵藤家を後にした。

 

 買い物へ行った母さん達が帰って来るのを待とうと、リビングで寛ぐことにした。

 

 その翌日、俺が学校に来て早々に真由美と十文字から急な呼び出しを受ける破目となった。その理由は、一条家が東京へ訪れて俺の家を訪問した事により、七草家と十文字家が相当慌てていたようだ。




次回もオリジナルの幕間話になります。

感想お待ちしています。

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