再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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幕間 ~友人の成長~

「う~ん、どうしようかぁ……」

 

 昼休みの時間に食事を済ませ、修哉達と別行動してる俺は廊下を歩きながら悩むように考えていた。

 

 今日のクラブ活動で修哉を桐原の手合わせを予定していたのだが、それが叶わなくなってしまった。食堂で会った壬生から聞いた話によると、桐原が急遽家の用事でクラブを欠席するようだ。

 

 詳しい事は知らないが彼の父親は軍関係者で、その息子が先月起きた侵攻――横浜事変に巻き込まれた時の状況を改めて聴取しようと、今日は授業が終わったら即時帰宅する。だから今日予定していた修哉との手合わせが急遽中止となってしまった。

 

 既に一週間以上経ったとは言え、政府や軍は未だ後処理に追われているようだ。三年前に起きた沖縄海戦の件も重なっているのかは知らないが、その時に条約や協定を結ばなかった事で先月の横浜事変が起きたのだから、恐らく今になってそのツケが回っているかもしれない。

 

 まぁ、学生の俺にとっては如何でも良い事である。今考えるべきなのは、今日のクラブ活動でやる手合わせをどうするかだ。

 

 修哉は強くなったのだが、自信を持つ事が出来ていない。俺との手合わせで一度も勝てずに負けてるから、本当に強くなっているのかと最近疑問を抱いているのだ。

 

 その為に今日のクラブ活動で桐原と一戦交えさせようとしたのだが、肝心の彼が欠席となってしまった為に叶わなくなった。

 

 他の相手を用意すればいいが、俺以外の剣道部員や剣術部員では相手にならない。実戦経験のある桐原だからこそ修哉の最適な相手だった。

 

 中級用バンドを外した修哉は、以前俺が手合わせした時のエリカに近い実力を持っている。であれば彼女なら適任じゃないかと言われるかもしれないが、それは遠慮させてもらう。

 

 知っての通り、エリカは名門『千葉道場』の娘で印可の免許を持つ実力者。万が一に修哉との手合わせで傷を負わせたとなれば、修哉が『千葉家』に目を付けられるかもしれない。俺としてはそんな面倒事は避けたいから彼女に相手してもらいたくない。

 

 他の相手とやらせようにも、まともにぶつかってくれる相手が――

 

「おっ、リューセーじゃないか」

 

 すると、誰かが俺に声を掛けて来た。

 

 親しげに名前で呼んでくる相手に俺は考え事を中断すると、目の前には司波の友人――レオがいた。

 

「随分考え込んでるみたいだけど、何か悩み事か?」

 

「チョッとな。それはそうと、エリカはどうしたんだ?」

 

 レオが司波達と一緒じゃない場合、彼女と一緒にいるのが当たり前になってるのを認識していた俺は、少しばかり疑問を抱いたので聞いてみた。

 

 すると、俺からの問いにレオが途端に眉を顰める。

 

「なぁ、俺とエリカをワンセットにするの止めてくれねぇか? 俺達はリューセーが思ってるような関係じゃないんでな」

 

「別にそんな意図は無かったんだが」

 

 この前あった横浜事変が起きる前から一緒に行動していたのを見た事もあって、レオが一人行動してるのに疑問を抱いただけだ。

 

「じゃあ司波達は? さっきは食堂で一緒じゃなかったか?」

 

 修哉達と一緒に食堂へ来た際、司波達がいつものメンバーで食事してるのを見かけた。いつもなら食事を済ませたら一緒に何処かへ行く筈だ。

 

「俺だって偶には一人になりたい時だってあるさ。今のリューセーみたいにな」

 

「まぁ、そりゃそうだ」

 

 レオの言い分に俺も同意した。

 

 考えたい事がある他、何の理由もなく突然一人になりたい気分になるのは、人間としては当たり前の行為だ。人間に転生した聖書の神(わたし)も含まれている。

 

 けれど、それを抜きにしても、レオが一人行動するのは珍しい。こう言っては失礼なんだが、司波やエリカのような誰かに付き従うようなタイプで、一人行動は大して好まない奴だと思っていた。

 

 どうやら俺の勝手な思い込みだったと内心反省しながらも、レオと一緒に歩きながら世間話をしてる。

 

「そう言えばレオ、聞いた話だとエリカの家――『千葉道場』に行って鍛えてもらったそうだな」

 

「まぁな。と言っても、あんま大して活躍出来なかったが」

 

 ふと思い出した俺が口にすると、レオは少々不満気な表情で答えながら俺をチョッとばかり睨んでいた。

 

 恐らく、あの時の事を未だ根に持っているんだろう。呂剛虎と戦おうと意気込んでいたところ、俺が意見を出した際、急遽変更して賊の捕縛グループに回された事を。それはレオだけじゃなく、エリカにも言える事だが。

 

「言っちゃ悪いが、もし俺じゃなくレオとエリカが呂剛虎と戦ったら、間違いなくやられていたぞ」

 

「っ。そんなの、実際にやってみなきゃ分からねぇだろ?」

 

 俺の言い方に少しばかりカチンと来たのか、噛み付くように反論してくるレオ。

 

 聖書の神(わたし)にとって呂剛虎は単なる遊び相手に過ぎないが、この世界の魔法師達にとっては脅威の存在だ。いくらレオやエリカが近接戦に優れているとは言っても、歴戦の猛者同然の呂剛虎相手では分が悪過ぎる。

 

 もし二人が果敢に挑んだところで……呂剛虎はレオとエリカの攻撃を容易く躱した後、即座に強烈なカウンターを喰らわせ、それを受けた二人はあっと言う間にKO……と言ったところだろう。

 

 相手を倒す武器や技があるとは言っても、当たらなければ意味が無い。俺が戦った呂剛虎は魔法だけでなく、身体能力も非常にずば抜けていたから、それを考えるだけでレオとエリカが敗北する姿を容易に想像出来る。

 

 だが、それを今のレオに言ったところで聞き入れないだろう。エリカに鍛えてもらった事で今の自分は誰にも負けない、という『自信』を超えた『過信』がある事で。

 

 それを解消させるには、既にレオ以上の実力を持ってる修哉と相手をさせれば考えを改め……ん?

 

「? どうした、リューセー?」

 

 ふと考える仕草をした事で、さっきまで眉を顰めていたレオが訝りながら問うも、俺は全く気にしなかった。

 

 そうだよ。修哉と相手をさせるに丁度良いのが目の前にいるじゃないか。レオと言う絶好の獲物……じゃないじゃない、手合わせ出来る相手が。

 

「お、おいリューセー、マジでどうしたんだ? 急に気味悪い笑い方してるぞ」

 

「なぁレオ、チョッと頼みがあるんだが」

 

 若干引き気味になってるレオに気にせず、俺はある事を頼む為の交渉を始めた。

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 クラブ活動の時間になり、剣道部は第二小体育館を利用している。

 

 いつもなら俺が修哉の相手をするのだが、今回は違う。

 

「何か悪いな、西城」

 

「気にすんなって」

 

 俺の頼みで急遽来てくれたレオが修哉の相手をしてくれる事になったから。

 

 因みに今回の件にエリカだけでなく、司波一行も全員知らない。俺がレオに言ったのだ。出来れば内緒で剣道部に来て欲しいと。

 

 もし耳に入ったら、今頃は司波達が此処へ足を運んで修哉とレオの手合わせを見物していただろう。けれど、現在この第二小体育館には剣道部員とレオだけしかいないと言う事は、司波達は今回の手合わせを知らないと言う事になる。

 

 既にバンドを外して竹刀を構え、防具を身に纏った胴着姿の修哉。同じく竹刀を持って構えてるジャージ姿のレオだが防具は付けていない。普通に考えればレオは場違いだと思われるだろうが、主将の壬生に前以て話してあるから問題無い。

 

 本当ならレオにも防具を付けさせるべきだが、当の本人が必要無いと言って断ったのだ。確かにレオは硬化魔法を使わなくても、そこら辺の人間より頑丈である為、防具は却って邪魔で動き辛いだろう。一応は俺の方で許可を取ってある。万が一に酷い怪我をした場合、俺がコッソリと能力(ちから)を使って治癒するつもりだ。

 

 レオはエリカに鍛えてもらった事もあって、素手以外に竹刀もそれなりに使える。普通に考えれば竹刀を使い慣れてる修哉が有利であるが、今の自分なら修哉相手であっても問題無く勝てると考えているだろう。俺の弟子を甘く見てもらっては困るけど、戦えばすぐに分かるから敢えて何も言わないでいる。

 

 逆に修哉は負けるかもしれないと不安がっている。自分と違ってレオには実戦経験がある事を知っているから、それによって若干気後れしているのだ。

 

 自分の実力を過信してるレオと、自分の実力を不信に思っている修哉。今回の手合わせによって、二人が自分に対する認識を改めてくれれば良いと思っている。

 

「二人とも、準備は良いか?」

 

「おう、良いぜ!」

 

「あ、ああ……」

 

 審判役となってる俺の確認に、レオと修哉は返事をした。

 

 修哉、自信が無いからって、いつまでもそんな情けない姿を見せるなよ。お前は本当に強くなってるんだからさ。

 

「大丈夫かな、修哉君……」

 

 因みに他の剣道部員達は二人の勝負が気になるかのように、此方の様子を見ていた。特に壬生は不安げな様子である。彼女もレオがエリカによって鍛えられたのを知ってるから、負けるんじゃないかと考えているようだ。

 

「それじゃあ……一本勝負、始め!」

 

「うおおぉぉぉぉ!」

 

 俺が開始の合図をした途端、先ず動いたのはレオだった。

 

 突進しながらの面。いかにもレオらしい攻撃である。

 

「?」

 

 対して修哉は、何故か構えたまま動こうとしなかった。まるで何か腑に落ちないかのように。

 

 修哉の頭にレオの竹刀が、あと少しで当たろうとする瞬間――状況がすぐに変わった。

 

「い゛っ!」

 

『!?』

 

 さっきまで微動だにしてなかった筈の修哉が、紙一重で躱した。それどころか、そのまま回転しながら相手の背後に一瞬で回り込んでレオの背中に竹刀をパアンッと打ち込んだ。この光景に壬生達は驚愕している。

 

 剣道での試合では本来相手の背中に攻撃してはいけないのだが、これは実戦形式にしている為、修哉の反則負けにはならない。前以て実戦形式でやると手合わせ前に言っており、修哉とレオも承諾済みだ。

 

 そして見事に当たったレオは痛そうな声を出すも倒れてはいない。普通なら修哉の攻撃を喰らえば倒れてもおかしくないが、本当に頑丈な身体をしている。

 

「………え? あれ?」

 

 自分がレオに勝ったと言う実感が湧いていないのか、修哉は呆然としたような声を出している。

 

 因みに修哉がさっきやったのは返し技である『(りゅう)(かん)(げき)』。俺が九校戦の新人戦モノリス・コード決勝で一条を倒した時に使った『九頭龍撃』の会得に必要な技の一つだ。他にもまだある。

 

 俺が教えてる時は失敗の連続だったが、まさかレオとの手合わせによって成功させるとは予想外だった。まだ一回だけだが、な。

 

 まぁそれでも、この成功は俺にとっては収穫だ。一度でも成功の感覚を知れば、大きな経験となるだろう。今回はレオに感謝しないといけない。

 

「はい、修哉の一本勝ち」

 

 弟子の勝利に喜ぶのを抑えながらも、俺は淡々と勝負の判定を下した。

 

 だがこれには当然――

 

「ま、待てリューセー! もう一回! もう一回だ!」

 

 納得行かないと言わんばかりにレオが再勝負を申請してきた。

 

「分かった。修哉も良いよな?」

 

「え? あ、ああ。勿論だ」

 

 こうなるだろうと既に分かり切っていた俺は確認すると、未だに勝利した実感が湧いてない修哉は了承している。

 

 本人達の前では決して言わないが、修哉の身体能力は一ヵ月以上前からレオを超えていた。恐らくこの後の勝負も修哉が何度も勝ち続けるだろう。

 

 俺が修行用として使わせているバンドによって、アイツは既に並みの魔法師を簡単に倒せるだけの身体能力を持ち合わせている。加えて俺との手合わせで、動体視力や反射神経も結構鍛えれたから、さっきレオがやった面は遅く感じていた筈だ。

 

 身体能力、動体視力、反射神経。それらは戦闘においての基礎であり、戦闘において最も重要な要素だ。この世界では魔法による実力(ちから)で左右されると言っても、それは結局人間が使う物だ。魔法だけが全てではない。対抗出来る肉体(からだ)精神(こころ)を鍛える事で、人間は魔法なんか使わずとも高みへ至る事が出来る。尤も、それはあくまで俺や聖書の神(わたし)の考えに過ぎないから、絶対に正しい訳ではない。

 

 レオは僅か数日で武器や技などの手段を学んで強くなったようだが、俺から言わせれば単なる付け焼刃に過ぎない。半年近く俺の修行に耐えて、着々と実力をグングン伸ばしている修哉とは全く違う。単なる身贔屓じゃないかと言われたらそれまでだが。

 

「よし天城、今度はマジでやるからな!」

 

「お、おう!」

 

 俺の考えを余所に、再勝負をしようとするレオに修哉が応えようと再び構える。

 

 此処から先は予想通りと言うべきか、全て修哉の勝ちで収まった事となった。レオは非常に負けず嫌いな性格なのか、一本取るまで何度も勝負をしてくる始末。

 

 この二人の勝負が意外と面白く参考になる為、俺だけでなく、壬生達も練習そっちのけで見物していた。

 

 そして――

 

「天城、明日もまた来るからな!」

 

「それは構わないが、山岳部の方は良いのか?」

 

 全敗したレオは物凄く口惜しいのか、懲りずに明日も勝負しようとするのであった。

 

 一応司波達には黙っておくよう隠し通していたのだが、翌年に起きる『事件』が切っ掛けでバレてしまい、エリカによって強制的に千葉道場へ連れて行かれる破目となってしまう。




とりあえずオリジナル話はここまでで、次回以降は「来訪者編」になります。

感想お待ちしています。

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