再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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来訪者編 吸血鬼事件

 教室へ来て早々、怪事件の話題となっていた。

 

 俺――兵藤隆誠が席に着くと、まるで狙っていたかのように、修哉が俺に声を掛けようとする。

 

「おはよう、リューセー。なぁ、昨日のニュース見たか?」

 

 いきなり問いかけてくる修哉に、俺は少し訝りながらも既に察していた。

 

「ニュースって、あの『吸血鬼事件』?」

 

 分かっていながらも一応確かめる為に問う。案の定、修哉はすぐに頷いた。

 

 それに乗っかるように、紫苑が挨拶しながら話しかける。

 

「リューセーくんはどう思ってる? 単独犯、もしくはプロの組織的犯罪だったとしても、どうも腑に落ちなくて」

 

 紫苑は最初から吸血鬼が犯人とは思っていなく、人為的な犯行によるものだと考えているようだ。

 

 この世界では空想の存在である為、いないと思うのは自然である。

 

 因みに前世(むかし)の頃、俺の後輩にギャスパー・ヴラディと言う女装が趣味のハーフヴァンパイアがいた。更にはあっちのルーマニアに、ツェペシュ派とカーミラ派に別れた二大派閥の吸血鬼達も存在している。

 

 もしもギャスパーが知ったら絶対に違うと否定しているだろう。『僕は人を殺してまで血を吸ったりしません!』とでも抗議しながら、な。

 

「俺も紫苑と似たような考えだよ」

 

 情報によると、被害者の血は一割程度しか抜かれていないから、それが目当てだとしても全然足りないだろう。犯人が何を考えているのかなんて、俺でも全然分からない。

 

 向こうには明確な何か目的があってやっているのだろうが、一般人からすれば『吸血鬼事件』と考えてしまうのは当然の流れと言えよう。

 

「けどさぁ、もしかしたら本当に吸血鬼の仕業じゃないのか? もしくは、それに似た魔物や妖怪の仕業とか」

 

「そんなオカルトな存在がいる訳ないでしょ」

 

 バカバカしいように斬って捨てるように言い放つ紫苑だが――

 

「いや、それ言ったら俺達が使ってる魔法はどうなるんだよ。それに古式魔法師の吉田が使ってる精霊だって、充分オカルト的な存在だろ」

 

「…………あ」

 

 修哉に指摘された事によって、今思い出したみたいな表情をするのであった。

 

 確かにその通りだった。魔法や精霊なんて、この世界はつい百年前までオカルトの最たるものだった。もしかすれば吸血鬼も実は存在していた、等と言う説があってもおかしくはない。

 

 精霊と言えば、今朝方にレイとディーネから報告があった。今までは微弱だったが為に報告しなかったようだが、この数日の間に何度も感じたらしい。奇妙でありながらも悪質な存在が。

 

 それが今回起きている『吸血鬼事件』と被っている事に、もしかして関連してるんじゃないかと疑問を抱くも、今はまだ何の確証も無い。犯人が精霊の仕業であったとするなら、人間を襲って殺す理由がいまいち分からない。

 

 精霊は霊子(プシオン)核にもつ想子(サイオン)独立情報体。(レイやディーネを除いて)基本的に意思を持たない存在であるから、自ら人間を襲うなんて事はしない。例え悪性に染まったとしても、周囲の精霊に悪影響をもたらすだけである。故に俺は『吸血鬼事件』との繋がりは薄いと見ていた。絶対とは言い切れないが。

 

 そう考えながらも修哉に一本取られたと俺が笑っている中、紫苑は途端に誤魔化しの咳払いをしていた。

 

「どちらにしろ、犯人を特定するのは警察の仕事だ。俺達が考えてる間も、エリカのお兄さんが頑張ってるだろうし」

 

「確か千葉さんのところって、警察関係者だったわね」

 

 俺の台詞に紫苑は思い出したとエリカの家族について言った。

 

 去年の秋に起きた横浜事変の件で、俺は彼女の兄である千葉寿和と出会った。軽薄そうでありながらも相当な実力者である事は、(レイとディーネの目を通じて)あの時の防衛戦で知っている。

 

 聞いた話によると、警察や軍関係者の魔法師には約半数と言えるほど『千葉流剣術』の門人がいるようだ。そう考えると、それを纏めている『千葉家』は相当の権力を持っているかもしれない。九校戦前にあった懇親会の時で、エリカがコネを利用して関係者になったと言っていたから。

 

 エリカと言えば、余計な事に首を突っ込んで場を搔き乱そうとするあの悪癖はどうにかならないんだろうか。特に論文コンペの時では風紀委員長の千代田がウンザリしていた程だ。エリカが自らソレに気付いて考えを改めない限り、いつか痛い目を見る事になるだろう。

 

 その後に『吸血鬼事件』の話について終えた際、修哉がある事に気付いた。

 

「あれ? 今日は来ないな」

 

 教室の出入り口である扉を見ながら言った事に紫苑も思い出す。

 

「確かにいつもだったら、彼女がもう来てもおかしくない筈ね」

 

 紫苑の台詞を聞いたであろうクラスメイト達も、気になるかのように修哉と同じ方向へ視線を向けている。

 

 信じられないだろうが、話題沸騰となっている美少女留学生のリーナが、必ずと言っていいほど1-Fにやってくるのだ。俺に会って早々勝負の申し込みをする為に。

 

 一科生のクラスにいる筈の彼女がそうするのは、以前の魔法実習で俺に大敗した後、何度も勝負を挑む事となった。それも連日に。

 

 話題のリーナが二科生の教室に来る事で、クラスメイト達は最初喜んでいた。けれど、彼女が俺に勝負を挑んでは負けての繰り返しをしてる事で――

 

『おっ、今日も来た』

 

『今回は何やって負けるんだろうなぁ』

 

『アンジェリーナさん、頑張れ~』

 

『おい兵藤、偶には花持たせてやれよ~』

 

 とまあ、もう俺が勝つ事を前提とした違う意味での応援をしていたのだ。『今度こそワタシが勝つわよ!』とリーナは噛み付いていたが、結局は俺に全戦全敗して涙目で退散する事となった。

 

 朝には必ず来る筈のリーナが来ない事に俺達が不思議がっている中、端末に一時限目開始のメッセージが表示された事で、確認する間もなく授業の準備に移らざるを得なかった。

 

 後に彼女が来ない理由が、放課後の生徒会で司波妹から聞いて分かった。何でも急遽、家の関係で所用が出来たらしい。留学早々の欠席を不審に思うも、詮索するのはマナー違反である為に敢えて追求はしなかった。

 

 ついでに補足として、光井から聞いたのだが、北山がチョッとばかり大変な目に遭っているらしい。留学先の生徒から、九校戦で活躍した俺の事を何度も訊かれているとの事だ。その中には俺のファンを自称している男子学生もいるらしい。

 

 

 

 

 

 

「レイ、ディーネ、今日はどうなんだ?」

 

 時間は夜。既に家族が寝静まってる中、自室にいる俺は精霊(こども)達に訊ねていた。今朝に聞いた奇妙な悪質な存在が感じ取れるかを。

 

 俺の前に姿を現してるレイとディーネは、目を瞑って探知しようと集中する。

 

「う~ん……いつもと変わんなくて、あんまり感じ取れないの」

 

「離れてるか、抑えてるのか、分かりませんが、気配は、微弱です」

 

 本気で探ろうとしてる精霊(こども)達だが、結果はいつもと変わらないようだ。

 

「そうか。ならばどの辺りだ?」

 

 特定出来ないのであれば、反応があると思わしき場所を訊く事にした。

 

 今度は分かるのか、レイが自信を持って指をさす。

 

「あっちからなの!」

 

「距離までは、不明ですが、今の時間でも、人間がたくさん、賑わっている所です」

 

 レイが指す方角で、ディーネが言う賑わっている所と言えば……渋谷か。

 

 他にも新宿、池袋、六本木など、多くの繁華街もある。だが、この世界では渋谷が中心となって若者が徘徊している。他の窮屈な繁華街と違って無法地帯となっているからだ。そうなってる理由は過去に色々あった、とだけ言っておく。

 

 その渋谷にレイとディーネが言う悪質な存在を微弱でありながらも感じ取ってる、か。『吸血鬼事件』が発生してるのはその渋谷辺りなんだが……とても偶然とは思えないな。

 

「ご主人様、調べに行かないの?」

 

「今日はパスさせてもらう」

 

 本当なら渋谷へ足を運んで調べたいところだが、止めておく事にする。明日は剣道部の朝練があるから、そろそろ寝ないと不味い。睡眠を取るのは人間にとって必要な事だから、いざと言う時に寝ておかないと身体が持たないのを、前世(むかし)の頃に身を以て経験している。

 

 明日以降に調べようと考えた俺は寝る準備を一通り終えて、ベッドに入ろうとするも――

 

「……お前達、何をしてるんだ?」

 

「ご主人様と寝てみたいの」

 

「人間の、真似事を、してみようと、思いまして」

 

 何故かレイとディーネが、セージとセーラみたいにベッドに潜り込み、そのまま俺に引っ付いてきた。あの子達と違い、身に纏っていた服を消して全裸で。

 

 精霊に睡眠は不要である事を指摘するも、どうしても寝てみたいと言ってくる為、俺は仕方なく受け入れる事にした。

 

 そして翌日、俺は調べに行くべきだったと後悔する事になる。学校で司波から、レオが吸血鬼に襲われ、病院に運び込まれたと聞いて。




本当はリューセーをレオと合流してパラサイトと戦う流れにしたかったのですが、それだと展開的に不味いのでしませんでした。

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