再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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来訪者編 レオの見舞い

「此処か……」

 

 今日は学校だが、俺は午前中の授業を抜け出して中野の警察病院へレオの見舞いに訪れた。

 

 抜け出したと言っても、学校に何も言わず無断で来た訳じゃない。生徒会長の中条に事情を説明して許可を貰っている。レオの友人であり、生徒会副会長として見舞いに行くのは当然であるから。

 

 本当なら修哉と紫苑も連れて行きたかったが、生徒会や部活連の役職がない生徒を連れていく事が出来ない為、今回は俺一人で行く事となった。

 

 因みに俺と同じ副会長の司波妹は、放課後に司波兄や光井を含めた友人達と一緒に行くらしい。それは既に予想していたので、俺としても別に問題無かった。敢えて言うなら、司波妹がほんの一瞬に『兄以外はどうでも良い』ような冷たい感情を表面上に出していたのが、少しばかり気に食わなかった程度だ。

 

 兄妹揃って面倒な性格をしていると思いながら、レオがいる病室へ辿り着く前、予想外の人物と鉢合わせる事になった。

 

「兵藤か」

 

「あら、リューセーくんじゃない。生徒会として西城くんのお見舞いに来たのかしら?」

 

 何故か分からないが、十文字と真由美がレオがいる病室から出てきた。用件が終わって出たところ、こうして俺と会ったのだ。

 

「ええ、まぁ。ですが俺としては、レオと大して接点の無いお二人が此処へ来た理由を知りたいのですが」

 

 学校を抜け出した俺とは違い、自由登校になってる三年の二人は別に問題にならない。けれど前部活連会頭と前生徒会長が、特に部活連にも生徒会にも関わっていなかったレオの見舞いに来るとは到底思えない。何か別の理由があって来たのだと俺は踏んでいる。

 

「すまないが兵藤、こちらの詮索はしないでもらいたい」

 

「ごめんね、リューセーくん」

 

 (本人が無意識に)少しばかり威圧感を出して言ってくる十文字と、少々困ったような顔で俺に謝ってくる真由美。

 

 この二人がレオの見舞いに来て、尚且つ詮索無用と釘を刺してくると言う事は、十師族絡みの案件である事がすぐに分かった。

 

 一般人の立場である俺は引き下がる選択しかない為、「失礼しました」と謝罪するしかない。それを受け取った二人は用件が済んだように、俺に会釈をして去って行く。

 

(どうやら今回の事件、十師族も見過ごせないようだな)

 

 後ろ姿の二人を見ながら俺は内心、相当深刻な事態である事を察する。

 

 普段行動しない真由美と十文字が一緒にいるのが証拠だ。もしあの中に摩利がいれば前三巨頭として動いていると思って大して気にしないが、その彼女がいない時点で、十師族として動いているのが丸分かりだった。

 

 今回起きている『吸血鬼事件』に七草家と十文字家が動いている事を考えると、魔法師が大きく関わっている事になる。となれば、被害者の中には十師族と関わってる魔法師がいて……いや、まだ何の情報もないまま考えたら、変な方向に思考が向かってしまうから止めておこう。

 

 取り敢えずはレオの見舞いを優先しようと、あの二人が動いてる件については後回しにした。

 

 病室の扉をノックした後、「どうぞ」と中からレオと思わしき聞こえた。

 

 随分元気そうだなと思いながら、ドアを開けて病室の中へ入った後、すぐにドアを閉めた。

 

 一般の病室とは思えないほどに広く、それなりにグレードが高い個室で俺を出迎えたのは、ベッドの上に身体を起こしているレオがいた。

 

「おっ、今度はリューセーじゃねぇか」

 

「随分元気そうじゃないか、レオ」

 

 俺を見たレオが少々驚いたような表情となっていた。

 

 さっきまで真由美と十文字が見舞いが来た事が予想外だったからか、俺も来るとは思わなかったのだろう。

 

 俺が生徒会副会長並びに友人として見舞いに来た事を言うと、レオは納得の表情になっていく。

 

「達也達は来てないのか?」

 

「放課後に来る予定だ。俺は生徒会長の許可を貰って、こうして一早く見舞いに来たんだ」

 

 司波達がいない事を知った途端、レオは少しばかり寂しげな表情だった。普段から一緒にいるメンバーが来てないのだからそうなるのは当然の反応だ。だから俺は気にしないように流している。

 

 因みにレオの看病として付き添っている筈のエリカは、今此処にいないようだ。真由美と十文字が見舞いに来た際、何処かへ行ったらしい。

 

「司波から聞いた時に驚いたぞ。吸血鬼に襲われたそうだな」

 

 俺の台詞に少々照れ臭そうにレオが笑っている。

 

「レオの事だから、無抵抗でやられたとは思えないが」

 

「まぁな、オレがそう簡単にやられてたまるかよ」

 

「因みに何処をやられた?」

 

 不敵に笑うレオに、俺はすぐに質問を投げかけた。

 

 その途端、先程まであったレオの笑みが即座に消える。

 

「いや、それがなぁ、よく分からねぇんだよ」

 

「? どういう事だ?」

 

「実は――」

 

 改めて問う俺にレオは納得行かないような表情で話してくれた。

 

 昨夜、とある事情で渋谷を散歩している最中、吸血鬼と思われる正体不明の敵と交戦するも、不可解な事が起きたようだ。殴り合ってる最中、腕を掴まれた瞬間に身体の力が抜けてしまったと。その所為で寝転がっているところを、エリカの兄である警部――千葉寿和に見付けてもらったらしい。

 

「急に力が抜けるとは、確かに妙な話だな。毒を喰らった、じゃないんだよな?」

 

「ああ。血液検査でもシロだったぜ」

 

 俺が確認すると、レオは全く異常は無いと自信持って答えた。

 

「相手の姿は見たのか?」

 

「見た、って言えば見たけどな」

 

 歯切れの悪い返答でありながらも、レオは犯人の特徴を教えてくれた。

 

 目深に被った帽子に白一色の覆面、ロングコートにその下はハードタイプのボディアーマーで人相も身体つきも分からなかったらしい。

 

「ただ、女だった、ような気がする」

 

「女、か」

 

 レオと腕力で対等に殴り合える女がいるなんて普通に考えてあり得ないが、魔法や薬などによる強化を施せば充分に可能だ。

 

 もしくは、その女が普通の人間では無いと言う可能性もある。聖書の神(わたし)のような例外中の例外とも言える存在であったとしたら。

 

 そう考えると、俺が本格的に動く必要がありそうだ。もしも相手が嘗て聖書の神(わたし)が前にいた世界の超常的存在であれば、この世界の魔法師達では歯が立たないと断言出来る。並みの魔法師を簡単に倒せる実力を持ったレオがやられる程の相手であれば、絶対に動くと思われる司波達でも分が悪過ぎるどころか、あっと言う間に敗北するだろう。

 

「因みにそれはさっき来た真由美さん達にも話したのか?」

 

「ああ。俺以外に昨日襲われた被害者は七草家の――っ!」

 

「へぇ」

 

 俺の問いにレオが答えようとしてる最中、途端にハッとする様に喋ってる口を手で塞いだ。

 

 今更止めたところで遅い。もう有益な情報を頂いてしまったから。

 

 成程な。被害者が十師族の関係者である為に、真由美達が動いているって訳か。確かに七草家としては黙っていられないだろう。十文字家も被害に遭ってるのかは分からないが。

 

 ともかく、関東を守護する七草家と十文字家が動く理由は分かった。あの二人としても、これ以上の被害を出さないように共闘してるのかもしれない。

 

「リュ、リューセー、今のは聞かなかった事にしてくれねぇか?」

 

「はいはい、分かってるよ」

 

 真由美達の事だから、自分達に関する事は他言しないようレオに口止めしたのだろう。

 

 しかし、当の本人がポロッと喋ってしまったから完全に約束違反と見なされる。もし二人が知ったら、レオは確実に大目玉を喰らってしまうのは確実だ。

 

 俺としてはレオにはそんな目に遭って欲しくない為、敢えて聞いてないフリをしておく事にした。放課後に来る予定の司波達に会って、同じヘマはしないようにと忠告をしながら。

 

「ところでレオ、そろそろ横になった方が良いと思うぞ」

 

「いやいや、リューセーが思ってるような怪我はしてねぇよ」

 

「……そうか」

 

 レオは俺に余計な心配をさせない為に意地を張っているのか、大変元気そうに振舞っていた。

 

 だが、俺は既に気付いていた。この病室に入った際、レオから感じるオーラが大変弱々しくなっている事に。もしも俺が軽い一撃を当てたら、簡単に気絶してしまうほど弱っていると断言出来る。

 

 オーラとは人間の生命力その物である。それがゴッソリ無くなるような事になれば、起きていられないどころか、意識を保つことすら出来ない状態に陥る。にも拘らず、レオがこうも元気に振舞っているって事は、それだけ肉体の性能が高いのだろう。

 

 最初は何故レオのオーラがこんなに少ないのかと疑問に思ったが、話を聞いてすぐに分かった。覆面女に腕を掴まれた瞬間、急に力が抜けたと言っていた部分で。恐らく犯人はその時に吸い取ったのだろう。掴んだ手からレオのオーラをゴッソリ奪うように。

 

 まさかドラグ・ソボールの極悪人キャラの科学者――ドクター・ヘドが作った人造戦士みたいな存在がいるとは思わなかった。相手のオーラを奪う「オーラ吸収式」人造戦士がいたのを今も憶えている。もし遭遇して戦うような事になれば、手を掴まれないようにしないといけない。

 

 となれば、今のレオを回復させるには体力回復アイテムを使えば全快になると思うが……止めておこう。レオが死にそうになっているのであれば即座に使っていたが、オーラを奪われて弱っていると言っても命に別状は無い。ゆっくり休めば元の状態に戻ると確信している。

 

 加えて、もしアレを使ってしまえば、放課後に来るであろう司波達に追求されるのが目に見えてる。レオを治した以外に、俺が作った体力回復アイテムの詳細も含めて。そして司波を通して軍に知られたら非常に面倒な事になるのが目に見えてる。

 

 助ける手段があってやらないのは薄情だと思われるかもしれないが、今回も見送らせてもらう。それだけ俺の体力回復アイテムは(別な意味で)危険である為に。

 

「なら修哉と紫苑にもそう伝えておくよ」

 

「おう、頼むぜ」

 

 二人に余計な心配をさせない為だと分かったのか、レオは是非にと了承した。

 

 すると、レオが何か思い出したような表情になる。

 

「あ、そうだリューセー。天城には、退院したら剣道部に顔出す事も伝えといてくれ」

 

「分かった。ってか、まだ続ける気力があるんだな」

 

 レオは去年修哉と手合わせして負けてからというもの、リベンジしようと剣道部へ足を運んで来ていた。結果としては未だにレオは一度も勝ってない。修哉との身体能力にかなりの開きがある為だ。

 

 だが何度も勝負を続けてる事もあってか、修哉の動きに付いて行けるようになっていた。それによってヒヤリとなる場面が何度も起きる程だ。俺としては大変に良い経験と見ている。

 

「当たり前だ。天城に勝つまで何度も挑ませてもらうからな」

 

「それは構わないが、先ずは自分のクラブの方へ行くんだぞ」

 

「分かってるって」

 

 レオが何度も剣道部の方へ足を運んでる事もあって、山岳部から苦情が来た事がある。『大事な部員を引き抜くのを止めて欲しい』と。

 

 言うまでもないが、山岳部に入ってるレオを引き抜こうだなんて微塵も思ってない。もし向こうがまたしても何らかの苦情が来て、剣道部に参加させないよう言って来たら、何の文句もなく従うつもりだ。レオが大人しく言う事を聞いてくれればの話だが。

 

 そんな会話をしている中、突如病室のドアが開いた。入って来たのはエリカだ。

 

「隆誠くんじゃない。達也くん達は放課後に来るって聞いてたけど」

 

「やぁ、エリカ。生徒会副会長として、一足早く見舞いに来たんだよ」

 

 さっきの会話は聞かれてないみたいで、俺は内心ホッとしながらエリカの話に合わせた。因みにレオも俺と同じく安堵してる。

 

 

 

 

 病室を後にした俺は、学校に戻る事にした。

 

 その途中、俺はある事を確認しようと、傍に控えている(透明化中の)レイとディーネに問う。

 

(レイ、ディーネ、チョッと良いか?)

 

 ――はいなの。

 

 ――何でしょうか?

 

 周囲に通行人がいる為、俺は念話で話しかけると、レイとディーネは即座に返事をして来た。

 

(敢えて失礼な事を聞くんだが、もし精霊が汚染されたらどうなってしまう? 人間に取り憑いてオーラ、または精気を吸い取る悪霊になってしまうか?)

 

 レオが教えてくれた話が本当であれば、犯人は人間ではない。人間が人間の精気を奪うなんてあり得ないし、明らかに人外と言える存在の仕業だ。もしくは人間に寄生した人外の何か、と言う線もあり得る。

 

 昨日レイ達からの報告にあった悪質な存在が精霊で、ソレがレオを含めた被害者達の精気を奪う様な存在に成り下がる可能性があるのかを訊いてみた。

 

 ――う~ん、レイはご主人様に会う前はずっとあの山にいたから分からないの。

 

 ――私も、レイ姉さまと、一緒です。それに私は、汚染される前、主によって、救われましたから。

 

 俺が真面目な質問をしてると理解していたのか、レイとディーネは不快な表情にならず答えてくれた。因みにあの山とは『富士山』の事を指す。あそこは霊峰である為、上質で澄み切った精霊が存在している。

 

 故郷以外の精霊しか見た事の無いレイ達が知らないのは当然、か。仮に汚染された精霊がいたとしても、霊峰の息吹で浄化されるだろうし。

 

(では質問を変えよう。お前達が以前から感じていた奇妙な存在は、同胞(なかま)だと思えるか?)

 

 ――違うの! あんなのと一緒にしないで欲しいの!

 

 ――主、こればかりは、いくら私でも……!

 

(……ゴメンな。今のは聞かなかった事にしてくれ)

 

 今度はさっきと違って途轍もない嫌悪感を示してきた。普段から隙あらば俺に甘えてくるコイツ等がここまで反抗的になるって事は、それだけ忌避感を示す存在と言う訳か。

 

 どちらにしろ失言であった事に変わりない為、家に帰ったら謝罪も込めて遊び相手になるとしよう。

 

 他にも色々考えている内に、いつの間にか学校に到着していた。一先ずは思考を切り替えて、先ずは中条に戻って来た報告をしようと、携帯端末を使って連絡をする。




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