再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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来訪者編 度重なる乱入者

 仮面の女を気絶させ、今度は覆面女を急いで追跡するも、すぐに見つかった。

 

 常人とは思えない身体能力を使って逃げているようだが、俺からすればまだまだ遅い。対象の禍々しいオーラを捕捉すれば、その後を辿るように超スピードで、あっと言う間に対象の後ろ姿を発見。

 

 相手を驚かせてやろうと、俺は超スピードのギアをもう一段階上げる。一瞬で覆面女に追い付き、そしてヤツの目の前に姿を現す。

 

「!」

 

「やぁ、また会えたな」

 

 覆面をしてても驚愕の声を漏らしていたのが聞こえながらも、俺は気にせず気安い感じで話しかけた。

 

 改めて相手を確認しようと、レオが教えてくれた特徴と間違いなく一致していた。目深に被った帽子に白一色の覆面とロングコート。ついでにコートの中にはハードタイプのボディアーマーを仕込んでいるとも言っていた。

 

 だが生憎、俺にはそんなの関係無かった。聖書の神(わたし)のオーラを纏わせた攻撃は、そんな物を軽く貫通する事が出来る。

 

「……………」

 

「ほう、やる気か」

 

 向こうは俺から逃げられないと悟ったのか、戦う意思を見せるように両手を前に突き出す。左半身で、左の拳を顎の高さに、右の拳を鳩尾の前に、まるで中国拳法のような構えだった。

 

 ついでにレオが言った通り、拳の大きさを見て、やはり女であると確信する。

 

 相手が男だろうと女だろうと関係無い。戦う意思を見せるのであれば倒すだけだ。

 

 左の人差し指を向けようとする瞬間、覆面女は一気に警戒し出している。予想通りと言うべきか、ヤツはさっき俺がキルビームで覆面男を倒したのを知っているようだ。それを当てた事で動けなくなり、倒れて行くところも含めて。

 

 その時にヤツはまだいなかった筈だが、パラサイトと言うのは仲間同士で情報を共有出来るかもしれない。人間と違って念話で送っている、と言ったところか。俺もレイとディーネに今まで何度もやっている事があるから、ヤツ等のコミュニケーションは理解出来る。

 

 まぁ、キルビーム以外にも倒せる手段は他にもある。例えば――

 

「天雷よ、鳴り響け」

 

「~~~~~~~~!!??」

 

 片手を天に向かって伸ばし、短い詠唱を紡いだ瞬間、覆面女の頭上から雷撃が降り注がれた。

 

 俺を警戒していた余り、ヤツは空からの攻撃に気付くのが遅かった為に直撃する。その直後、絹を裂くと表現しにくい獣染みた悲鳴を上げていた。

 

 この雷撃は前世(むかし)に俺の義妹――姫島朱乃が使っていた魔法。『雷の巫女』と呼ばれていた頃に雷撃をメインに使って、朱乃が最も得意としていた攻撃魔法でもある。過去にこれで対象の敵を甚振っていた事により、『究極のドS』と呼ばれていたみたいだが。

 

 っと、少し蛇足しかけたが、あの雷撃に聖書の神(わたし)の光は一切含まれてない。それでも高威力の雷である為、感電なんか生温いものじゃなく、火傷以上のダメージを負う筈だ。

 

 人間であれば麻痺程度まで加減していたが、相手は人間に寄生したパラサイトだ。人間以上に厄介な人外には相応の威力を出せてもらった。

 

「~~~~~~!」

 

(おかしいな。もう消えても良い筈なんだが……)

 

 獣染みた悲鳴から、声に相応しい雄叫びに変わる覆面女に異変を感じた。同時に、直撃した雷撃が未だに消える様子を見せていない。

 

 俺の疑問を余所に、雷撃は頭を抱えるように置かれたヤツの両手に移った。バチバチと両手から音を立てる帯状の雷。即ち、俺が放った雷をヤツは操作して両手に収束させた事になる。

 

(成程。俺の雷を放出系魔法として利用したか)

 

 並みの魔法師が直撃すれば半死半生も同然の状態で意識を失う威力なのに、パラサイトは受け切ったどころか両手に収束させていた。改めてチョッとばかり厄介な相手だと改めて認識する。

 

 まさか利用されるとは思いもしなかったと呑気な事を考えている中、覆面女はお返しと言わんばかりに両手から雷撃を放ってくる。

 

 高出力の雷撃が相当な速度で俺に襲い掛かろうとするも、俺は軽くヒョイッと躱す。現代魔法だからか、操作性がかなり劣っていた為、躱すのに造作も無かった。逆に朱乃の場合は狙いが正確過ぎて逆に読み易かったが。

 

 パラサイトの攻撃手段の中に、相手の魔法を利用する事も理解した。となれば、利用させない手段で倒せば良いだけだ。

 

 今度はボディアーマーを貫通する威力の遠当てを連続で当ててやろう。いくら覆面女でも、魔法とは一切無関係な見えない衝撃波は流石に吸収出来ないはず。

 

 そう考えた俺は、覆面女の攻撃に備えていると――

 

「逃がしはしないぞ!」

 

「え?」

 

「!」

 

 突如、後ろから聞き覚えのある声に、俺だけでなく覆面女も同時に振り向く。

 

 何と俺が気絶させた筈の仮面の女だった。怒りの感情が伝わるように、完全に幽鬼も同然の表情である。

 

 暫く意識を失っている筈だったが、彼女の腹部を見てすぐに理解した。俺が当てた光弾によって分厚いコートの一部が晒されている為、軽量合金と緩衝素材と思われる防具が見えたのだ。恐らくアレで腹部に受けた俺の光弾と、背中に受けた大木の衝撃を緩和して、すぐに意識を取り戻す事が出来たのだろう。

 

 あのまま寝ていれば痛みをある程度逃れる事は出来たと言うのに。表情(かお)に出さなくても、あの様子からして今も必死に耐えていると思われる。

 

 無理をしてまで此処へ来るあの執念深さには恐れ入った。出来れば仲間と思われる女性二人を連れて撤退して欲しかったが、そうも言ってられないか。

 

 仮面の女が加わってしまえば、三つ巴状態になってしまう。尤も、あの女の事だから、攻撃された俺と標的である覆面女を纏めて相手すると容易に想像出来る。

 

 俺からしたらどちらも取るに足らない相手とは言え、面倒なのに変わりない。けれど向こうが来た以上、もう四の五の言ってる場合じゃないから、『纏めて気絶させる』と言う選択しかなかった。

 

 少々やけっぱちな考えになった俺は、覆面女を見ながらも、此方へ向かってくる仮面の女にも意識を向ける事にした。

 

 

「ミキは隆誠くんの援護を。あたしは仮面を抑える!」

 

「分かった!」

 

 

 ん? 今度は横から何かまたしても聞き覚えのある声がしたぞ。

 

 チラッと横へ視線を向けた先には……最悪な事に俺と同じく私服姿のエリカと幹比古が此方へ向かってきていた。

 

(今度はアイツ等かよ! ったく、次から次へと……!)

 

 今日は不運と思われる程、第三者の邪魔が入る日だった。ここまで予想外な事が立て続けに起きると、思わず叫びたくなってしまいそうだ。

 

 抜いた刀を手にしてるエリカは仮面の女の方へと向かって戦闘を始め、鉄扇と木の棒をそれぞれ手にしてる幹比古が俺の近くへ寄ってくる。

 

「リューセー!」

 

「幹比古……」

 

 心配そうな声を出しながら幹比古は、俺が無傷な姿を見て安堵した様子を見せていた。

 

「何でお前達が此処に?」

 

 俺は既に二人が渋谷を歩き回ってるのは既に分かっていたが、敢えて知らないフリをしながら問う事にした。

 

「それはこっちの台詞だよ!」

 

 確かに幹比古からすれば、俺が渋谷にいたのは完全に予想外だったろう。益して、パラサイトである覆面女や正体不明の仮面の女と交戦してる状況を見れば、確実に混乱してもおかしくない。

 

 ついでに仮面の女はエリカからの強襲に驚きながらも相手をしており、覆面女も幹比古が此方に加わった事で今以上に警戒した様子だ。

 

「けど、話は後だ。リューセーも聞いてると思うけど、奴がレオを襲った犯人で間違いないよね?」

 

「でなければ、今頃こうして戦ってない」

 

 確認してくる幹比古に、俺は肯定の返答をした。

 

「ついでに気を付けろ。ヤツに雷魔法を――」

 

「来る!」

 

 さっき魔法を吸収され、更にはそれを利用して反撃された事を教えてる最中、覆面女が襲い掛かって来た。

 

 狙いは俺みたいで、亜音速とも言えるスピードで迫って来る。それを利用しながら、開いた手を此方に向け、明らかに掴んでくるような仕草だった。恐らくレオみたいにオーラを吸い取ろうと、俺の身体を手で掴む為にやってるのだろう。

 

「ソイツに掴まったらダメだ!」

 

「分かってる!」

 

 幹比古からのアドバイスに従うように、俺は回避をしていた。

 

 その後に覆面女が攻撃を止めた瞬間、遠当てを当てるつもりでいる。

 

「くっ、速過ぎて援護が……!」

 

 俺と覆面女の動きを捉えられないのか、幹比古は思うように手が出せない状態だった。出来ればそのまま見守って欲しいのだが。

 

 何度も腕を振るって掴もうとしてくるヤツの攻撃に、俺が後方へ跳躍すると、向こうは一旦動きを止める。

 

「~~~~!!??」

 

 今なら遠当てで仕留めると思った瞬間、覆面女の頭上から電撃が降り注がれた。それによってヤツは再び獣染みた悲鳴を上げている。

 

 あの電撃は俺じゃない。やったのは幹比古だ。

 

「リューセー、大丈――」

 

「バカ! 何て事してるんだ!?」

 

「え?」

 

 心配そうに言ってくる幹比古に俺は即座に罵倒した。いきなりの事に向こうは困惑気味の表情になっている。

 

 その間、覆面女は前回と同様、身体に受けた電撃を両手に収束させている。

 

「ヤツは雷魔法を吸収して撃ち返す事が出来るんだよ!」

 

「ええ!?」

 

 改めて教えた途端、幹比古は俺が焦った理由を即座に理解し、顔を青褪めていた。

 

 だが、もう遅い。覆面女は古式と思われる雷魔法を使った幹比古に狙いを定めている。

 

「くそっ!」

 

 ヤツの攻撃を阻止しようと、俺は咄嗟に聖書の神(わたし)能力(ちから)を使って魔法を無効化(キャンセル)させようとする。

 

 だが、その必要が無くなった。覆面女の両手に纏わせていた電撃が、突如吹き消されるようにかき消えたから。

 

 言っておくが俺じゃない。別の誰かがやったのだ。ついでに、犯人はもう分かっている。

 

 視線を向けた先には、バイクに跨ったまま銀色の拳銃型CADを覆面女に向けている人物がいた。

 

 ソイツの顔はヘルメットに覆われて見えないが――

 

(司波、か……)

 

 俺の知ってるオーラだった為、すぐに司波達也である事が判明した。

 

 アイツの登場によって、少し離れたところで戦ってるエリカと仮面の女も視線を向けている。エリカは服がボロボロで不利な状態になっていたが。

 

 司波は俺をジッと見ていたが、一旦後回しにするような感じで、途端に仮面の女へと視線を向ける。

 

 それに気付いた仮面の女も左手を司波へ向けて魔法を放とうとするも、一瞬で霧散した。司波がCADから放たれた術式解体(グラム・デモリッション)によって、流石の彼女も動揺が隠せないようだ。

 

 再び魔法式を形成するも、またしても霧散。それが三回も続いている。 

 

「あっ」

 

 相変わらずだなと思いながら俺が呆れるように見てる中、幹比古が声を出した。

 

 理由は分かっている。覆面女が隙を見て逃げ出したのだ。

 

 俺としてはすぐに追いかけたい。エリカや幹比古だけでなく、更には俺にとって一番厄介な司波にまで見付かってしまった為、ここは敢えて見逃す事にした。

 

 覆面女が逃げた事で司波は視線を逸らした事で、状況はまたしても一変する。

 

 今度は仮面の女が、ダラリと垂れ下がった右手に握られた拳銃の銃口を地面に向けたまま、銃弾を撃ち出した。サイレンサー付きの銃声が五回続き、彼女の姿を閃光が覆い隠そうとする。

 

 それを見た司波は逃がさないと言わんばかりにCADを向けるが……何故か撃たなかった。

 

 いや、違うな。撃てないのだろう。いつものお得意な鬱陶しい眼で視ても、仮面の女を分析出来なかった為に。

 

 代わりに俺が捕まえても良かったが、それをやれば今まで以上に警戒されてしまう恐れがあるから、敢えて手を出す事はしなかった。尤も、俺は既に面倒な目に遭うのが確定である為、これ以上やらかす訳にはいかない。

 

 司波が魔法を中断して手を下ろしてる中、閃光で覆われていた仮面の女も姿が消えて、逃げられてしまうのであった。

 

 さて、この後はどうやって切り抜けようか。




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