再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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入学編 新入部員勧誘②

「お~やってるやってる」

 

 剣道部を探したが校庭にいなかったので、巡回していた風紀委員に居場所を尋ねると、現在は体育館で演武をやっていると聞いた。

 

 第二小体育館、通称「闘技場」へ入った途端に蒸し暑かった。しかし俺はそれを気にせず、見晴らしの良い所で見物しようと、壁面高さ三メートルに回廊上に設けられた観戦エリアから、剣道部の演武を見下ろしていた。

 

 修哉は……いたいた。剣道部の近くにいて、ポニーテールをした女性と話している。彼女が壬生(みぶ)紗耶香(さやか)、か。修哉の言う通り確かに美人だな。先輩と後輩の関係だからか、随分と仲が良さそう。もし紫苑がいたら嫉妬してるんじゃないかな?

 

 それはそうと、模範試合とは言っても中々の迫力だ。ここの剣道部は結構強いかもしれない。アイツが入部するのが分かる気がする。

 

「ん?」

 

 興味深そうに見ている中、観戦エリアに見覚えのある男女二人が視界に入った。よく見ると司波と赤毛の子だ。

 

 二人は俺に気付いていないのか会話に集中している。俺と司波達は丁度対面する位置にいるから、いつになったら気付くのか少し見ていよう。

 

 すると、司波は視線に気付いたみたいで漸く此方へ向けた。俺はそのまま笑顔で軽く手を振ったら、若干不機嫌そうな表情となっている。赤毛の子も俺に気付いて、司波と違い少々驚き気味の表情だ。

 

 もう知らない仲じゃないから、ちょっと話してみるかと移動を開始すると、突如異変が起きた。そこへ視線を向けると、口論してる光景が目に映っている。

 

 

「剣術部の順番まで、まだ一時間以上あるわよ、桐原君! どうしてそれまで待てないの!?」

 

「心外だな、壬生。あんな未熟者相手じゃ、そこにいる新入生に実力が披露出来ないだろうから、協力してやろうって言ってんだぜ?」

 

「修哉君は関係ないでしょ! 無理矢理勝負を吹っ掛けておいて、協力が聞いて呆れるわ! 」

 

「先に手を出してきたのはそっちじゃないか」

 

「桐原君が挑発したからじゃない!」

 

「ちょ、紗耶香先輩、落ち着いて下さい……!」

 

 

 それは剣道部の壬生先輩と、剣術部の部員――桐原と言う先輩が口論していた。

 

 話題に出されてる修哉は戸惑いながらも、壬生先輩を宥めている。どうでも良いんだが、あの二人って名前で呼び合うほど仲が良いんだな。

 

 ついでにあの桐原って人、壬生先輩と修哉が互いに名前で呼び合ってる事にピクリと反応したような気がする。もしかして嫉妬か?

 

 まぁ、今はそんな事どうでもいい。問題はあの口論だ。あんなのがいつまでも続いてると、風紀委員がいつ来てもおかしくない。

 

 風紀委員って言えば、その腕章を付けてる司波がいたな。すぐに視線を向けると……いつの間にか観戦エリアから下りて、騒動の真っ只中へ近づいていた。赤毛の子も一緒に。

 

 取り敢えず俺も降りて騒動の中心へ近づいている中、壬生先輩と桐原先輩の勝負が始まっていた。二人から離れている修哉はハラハラした様子だ。

 

 しかし、それはもうあっと言う間に決着がついた。桐原先輩の竹刀は壬生先輩の左上腕を捉え、壬生先輩の竹刀は桐原先輩の右肩に食い込んでいる。

 

 剣道部の面々や修哉が安堵の表情を浮かべるとは対照に、桐原先輩と同じ別の胴着の一団――剣術部の部員達は苦虫を嚙み潰している。

 

「真剣なら致命傷よ。あたしの方は骨に届いていない。素直に負けを認めなさい」

 

 凛とした表情で勝利宣言する壬生先輩だが――

 

「真剣なら? ふっ、がっかりだぜ。壬生、お前、真剣勝負が望みか? だったらお望み通り、真剣で相手をしてやるよ」

 

 桐原先輩がそう言って、左手首に装着しているCADを右手で起動した瞬間、発生したサイオンが竹刀を覆った。

 

 不快な騒音によって見物人が悲鳴を上げる中、桐原先輩は一足飛びで間合いを詰め、左手一本で竹刀を振り下ろす。

 

 だが壬生先輩は受けようとはせず、咄嗟に大きく後方へ飛び退った。

 

 当たってはいないが、それでも掠めていた。その証拠に、壬生先輩の胴に細い線のような切れた痕がある。

 

 おいおい、桐原先輩は何考えているんだよ。あんなものを斬りつけたら軽い怪我じゃすまないぞ。

 

「どうだ壬生、これが真剣だ!」

 

「紗耶香先輩!」

 

「なっ!」

 

 再び襲い掛かろうとするのを見た修哉が割って入り立ちはだかった。それを見た桐原先輩がハッとする。

 

 不味いと思った俺は、動き出そうとしていた司波よりも早く、超スピードを使い一瞬で割り込んだ。

 

『!?』

 

 突然出現した俺に誰もが目を見開いている。そんな反応を余所に、俺が気合を入れるようにキッと力強く睨むと――

 

「がぁっ!」

 

 突進していた筈の桐原先輩が軽く吹っ飛び、そのまま仰向けになって倒れ気絶した。同時に竹刀を覆っていたサイオンが消失し、ただの竹刀となっている。

 

 今のは前の世界で大好きだった『ドラグ・ソボール』を再現した技――『遠当て』、目から衝撃波を出し相手を吹っ飛ばす。もし本気でやれば、岩を粉々に破壊する事だって出来る技だ。

 

 勿論加減してやったから、桐原先輩はちゃんと生きている。友達の修哉を助ける為とは言え、まさか入学して早々に使う事になるとは。

 

 だけど後悔はしていない。これでもし助けなかったら、俺はこの先ずっと後悔する事になっていただろうから。

 

「修哉、大丈夫か?」

 

「あ、ああ……」

 

 俺が声を掛けると、修哉は目の前に起きた事が未だに信じられないのか唖然としたままだ。

 

 まぁ、いきなり自分の目の前に俺が現れ、更には睨んだだけで桐原先輩を吹っ飛ばしたんだ。そうなるのは無理もないか。

 

 そう思いながら、俺は信じられないように目を見開いたまま動いてない司波に向かって言った。

 

「おい司波、その腕章を付けてるって事は風紀委員だろ? この場合どうなるんだ?」

 

 聞いた司波はハッとして、すぐに此方へ近づきながら言う。

 

「そうだな。桐原先輩は魔法を不適正使用したから逮捕なんだが、明らかに負傷してるから担架を要請しないとな」

 

「おい待てっ!」

 

 納得が行かないと言わんばかりに、剣術部員の一人が怒鳴りつけた。

 

「なんで桐原だけなんだよっ? そこにいる奴も魔法を使ったから同罪じゃないか!」

 

「残念ですが、彼は魔法を一切使っていません(・・・・・・・・・・・・)

 

 それを聞いた剣術部員だけでなく、俺を除くこの場にいる誰もが司波の言葉を理解していなかった。

 

 驚いた。俺が気合だけで吹っ飛ばしたのを理解してるようだ。随分と目が良い事で。

 

「さっきのは明らかに魔法だろうが! 貴様と同じ補欠(ウィード)を庇ってるだけだろ!」

 

「自分は身贔屓なんてしてはいないんですが」

 

「ざけんな!」

 

 嘘は吐いていないと否定するも、剣術部員は完全に逆上して司波に襲い掛かろうとする。けど、司波は簡単に躱した。

 

 向こうが更にムキになって拳を繰り出す。結局は躱されており、簡単にあしらわれている状態だ。

 

 それが引き金となったように、他の剣術部員達も司波に襲い掛かろうとする。だけど全く慌てる様子を一切見せない司波は、只管に淡々と躱し続けている。

 

 あの動きからして、司波はかなり腕の立つ体術使いのようだ。まだまだ俺には遠く及ばないけど、常人から見れば凄いだろう。

 

 完全に乱闘状態となった事で、ギャラリーや剣道部員が、巻き込まれる事を恐れて蜘蛛の子を散らすように避難している。修哉も一緒に。

 

「てめえも同罪なんだよ、補欠(ウィード)!」

 

「リューセー、後ろだ!」

 

 逃げてない俺が観察に徹していると、後ろにいる剣術部員が襲い掛かって来た事に修哉が叫んだ。

 

 後頭部に当てようとする拳に、俺は首を横にずらしながら片手で簡単に受け止める。

 

「なっ!」

 

「!」

 

 見もしないで防御した事に攻撃した剣術部員だけでなく、司波も驚愕していた。

 

 けど俺は気にせず身体ごと振り返りながら、そのままもう片方の手で対象の額に――

 

「ぎゃあっ!」

 

 バチィンッと強烈な音がしたデコピンを繰り出した事により、剣術部員はその痛みに悶えるのであった。

 

 一応物凄く加減したんだが、それでも結構痛いようだ。もし本気でやったら頭なんか完全に吹っ飛んで、スプラッタシーンと言う完全グロ展開な大惨事になっている。

 

 これにより、俺は風紀委員の司波により連行される破目になってしまった。




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