再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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来訪者編 戦闘バレンタインデー①

 辿り着いた指定の喫茶店は中々洒落ている所だった。修哉の親が経営してる静かな雰囲気のありそうな喫茶店とは違い、少しばかり賑やかな店だ。客もいて、それなりに人気があるのだろうと思われる。

 

 そう考えながら中に入るも、肝心のリーナがいなかった。オーラの反応が無かったから既にいないのは分かっていたのだが、教えられた店は間違ってないので、取り敢えず向こうが来るのを待つ事にした。

 

 人を待たせていると言う理由で空いているテーブル席に座り、店員に事情を説明しながらドリンクを注文する。

 

(あからさま過ぎるんだよ……)

 

 注文したドリンクを飲みながら、俺は思わず客達の行動に呆れていた。

 

 彼等は俺が店に入った途端、少しばかり静かになったのだ。そして俺が注文したドリンクを受け取った後、時間を置きながらも店から出て行く。あと少し経てば、店にいる客は俺一人になるだろう。

 

 やはりこれは何かあると俺は改めて認識する。リーナからの呼び出しは明らかに個人的な話をするモノではないと言う事を。因みに此処にいる客達は殆どが外国人だ。正確にはアメリカ人、と言えばもう察しは付く。

 

 そう考えると、レイとディーネに――

 

 

 ――ご主人様、お知らせなの!

 

 ――主の予見に、恐れ入ります。

 

 

 命じていた事を思い出していたら、急な念話(テレパシー)からの報告が届いた。

 

 詳細を確認する為、俺はレイ達の記憶を共有しようと、両腕を組みながら瞑目する仕草をする。

 

 その際、店にいる客達はいなくなっており、今はもう完全に自分一人だけとなっていた。

 

 記憶を共有してる最中、既にUSNA軍の罠だと気付いていながらも、俺は敢えて気にせず店に残っている。

 

 念話でレイ達に新たな指示を出していると、窓の先には大型と思われるボックスワゴン車が店の前で停車していた。

 

 誰が見ても明らかに違法とも思われる駐車だが、それを指摘する者は誰もいなかった。店の店員だけでなく、車の周辺にもいつの間にか人の気配が無いから。

 

 直後、ボックスワゴン車のドアが開くと、明らかに一般人と思えない怪しい連中が突撃する勢いで入ろうとして行く。スキー用の目出し帽のような覆面を付けた者達が銃火器を所持しながら。

 

 入って来たのは二人で、俺を見て早々銃口を向けてきた。こんな場所で堂々とテロ行為をするとは、相手側は随分大胆な事をするものだ。

 

 流石に店の中で暴れる訳にはいかないと思った俺は、一先ず相手を無力化させようと、右手で指をパチンッと鳴らした。その瞬間、俺に銃口を向けていた覆面連中は途端に意識を失うようにバタバタと倒れていく。以前に横浜へ侵攻した大亜連合の戦闘艦にいた連中を眠らせた術を使っただけである。

 

「全く……」

 

 ドリンクを飲み終えた俺はテーブルの端末で勘定を済ませて立ち上がり、術で眠らせた覆面連中の方へ近付き、その内の一人が持ってる短機関銃(サブマシンガン)を手にする。

 

 これはサブマシンガンにCADを組み込んだ武装デバイスであり、明らかに日本製でなくアメリカ製の銃器。そして俺が眠らせたコイツ等はUSNA軍人だと結論した。

 

 いくら日本と同盟国だからって、こんなテロ紛いな行いをして大丈夫なのかと不安に思う。それだけ隠蔽出来る自信があるのかもしれないが、俺としては堪ったモノじゃない。

 

 向こうの行為に呆れながらも、俺は一先ず武装デバイスを収納(・・)して一瞬で店を出る。あのボックスワゴン車にはまだ敵が残っているから。

 

 俺が出た瞬間、車の中から店で眠らせた奴等と同じ覆面連中が六人出てきた。さっきのサブマシンガンを構えながら銃口を向けている。

 

 今度は破壊してやろうと、再び指でパチンッと指を鳴らした瞬間、覆面連中が構えてるサブマシンガンが突如ボンッと小さな爆発が起きる。連中が覆面をして顔が見えなくても、明らかに驚いているのが分かった。

 

 向こうの反応を余所に、俺は広い場所へ移動を開始する。それを見た連中は逃がすまいと追いかけてきた。

 

 本当なら店の中にいた奴等と同じく一瞬で眠らせても良かったが、チョッとばかり相手をしてみようと誘い込む事にした。此方の思惑に全く気付いてない覆面連中は、逃がすまいと(態と遅く走ってる)俺を追いかけている。

 

(此処で良いか)

 

 周囲が少し広い場所であったので、着いて早々に足を止めた。

 

 動けなくなった俺を見た覆面連中は俺を取り囲もうとする。近接戦闘で挑むつもりなのか、服の中に入れている抜き身のコンバットナイフを持ち出して構える。

 

 サブマシンガンを所持してたなら拳銃(ハンドガン)もあっておかしくない筈なのに、何故態々そんな物を使うのかが理解出来ない。魔法師と言えど、USNA軍人は基本的に銃をメインとして使う筈だ。

 

 まぁ中には近接戦闘に優れた者もいてもおかしくないから、一々疑問を抱く必要など無い。

 

 そう思ってると六人の内の一人が、ナイフを持ちながら襲い掛かって来た。

 

 常人から見れば相当なスピードかもしれないが、俺からすれば遅すぎる。ナイフを振り翳した攻撃を簡単に避け、即座に相手の懐に詰める。

 

 先ずは一人と、対象の腹部に拳を繰り出す。相手が魔法師であろうとも確実に意識を失う程の一撃を。

 

 例え魔法による情報強化や防具を纏ったところで、簡単に貫ける程の威力である――はずだった。

 

(何だと……!?)

 

 予想外の展開に俺は思わず目を見開いた。攻撃を当てたにも拘わらず、相手は倒れないどころか立っていたのだ。

 

 動きを止まってる事に隙有りと見られたのか、敵は黒光りするナックルダスターをはめた拳を突き上げようとしている。

 

 当然それを見抜いていた俺は即座に意識を切り替え、今度は遠当てを発動させようとキッと強く睨んだ瞬間、相手が吹っ飛んで仲間のいる位置へ叩きつけた。

 

 攻撃する動作をしてない筈なのに仲間がやられたと思ったのか、残りの覆面五人が驚きを露わにしている。

 

 そんな中、俺は倒した敵の一人を見ていた。

 

 いくら相手がUSNA軍人と言っても、さっきやった俺の攻撃は加減したと言っても相応の威力で、確実に気絶してもおかしくない。

 

 だと言うのに、あの並外れた情報強化の鎧は一体何だったのか。いくら他国の魔法師だからと言っても、これは余りにも違和感があり過ぎる。

 

 少々気になった俺は、倒れたのも含めて覆面連中のオーラを探ってみる。すると、思いがけない情報を知ることになった。

 

(って、よく視たらもう殆ど死にかけじゃないか……!)

 

 魔法力のオーラが常人以上に高くても、肉体の内部はボロボロ同然の状態だった。よくこんな状態で動けるものだと思えるほどに。

 

 俺が視たところ、奴等の命はもってあと数年以内と言ったところだ。肉体があんな状態であるのに、何故あそこまで魔法力が異常に高いのかが全く理解――

 

(そうか、コイツ等は強化人間なのか)

 

 出来ないと思っていたが、俺はふと思い出した。

 

 去年の九校戦で、観客の中に紛れ込んでいた大亜連合の強化人間――ジェネレーターの事を。

 

 アレは意思と感情を奪い取った事で出鱈目な魔法力と身体能力を持った生体兵器だった。だが今戦っている連中は意思と感情がありながら、肉体がボロボロになっても強化され続けた成れの果てと言ったところか。

 

 大亜連合と同様、USNA側も随分惨い事をするものだ。内心そう憤慨しながらも、一先ずはコイツ等を片付けようと思考を切り替える事にした。

 

「一人ずつ相手するのも面倒だ。全員で掛かって来い。無駄だろうが、な」

 

『!』

 

 相手がUSNA軍人だと分かっていた俺は、向こうの母国である英語で挑発ながら構えた。

 

 それを耳にした覆面連中は、激昂を露わにしたかのように全員で襲い掛かってくる。まるで差し違えるかのような特攻であった。

 

 五人一斉に振り回すナイフ、ナックルダスターを嵌めたまま突き出す拳。それらの攻撃を俺は順番に躱し、そして捌く。

 

 普通に考えれば、一人である俺が五人の敵を相手するのは無謀だと思われるだろう。同時に圧倒的不利であると。

 

 だが、俺はそれを覆すように相手を押していた。向こうも何故攻撃をしている此方が逆に押されているのかと疑問を抱いていると思われる。

 

 僅かな手合わせだが、この覆面連中は自分の敵じゃないと認識した。魔法によって強化されたと言っても、俺からすれば『ジェネレーター』の劣化版くらいにしか見ていない。

 

 とは言え、こう言う死にかけてる相手ほど非常に厄介だ。自分が死ぬと既に理解してる人間は、場合によって無謀な事を仕出かす。

 

 因みに状況は全く違うが、思わず前世(むかし)の頃、レーティングゲームで(イッセー)と戦った大馬鹿者――(さじ)(げん)()(ろう)を思い浮かべた。アイツは死ぬ事を前提として、己の命を魔力に変換して挑んでいたから。

 

 まぁそんな個人的な思い出は置いておいて、だ。今はさっさと目の前の敵を倒すとしよう。

 

「お前等、弱過ぎて話しにならん!」

 

『ッ!?』

 

 俺が一瞬全身からオーラを発すると、それを見て感じ取った覆面連中は恐怖したかのように動きが止まった。

 

 直後、俺は即時反撃に移る。

 

 一人目は右拳で左頬に直撃。二人目は左拳で右頬に直撃。三人目は右蹴り上げで下顎に直撃。四人目は左足の回し蹴りで顔面に直撃。五人目は右膝蹴りで腹部に直撃。

 

 覆面連中一人ずつに、それぞれの攻撃を一瞬で仕掛けた。

 

「あ、が……!」

 

 最後に攻撃を当てた五人目のヤツが苦しそうな声を上げていたが、残った連中と一緒に意識を失い、そのままうつ伏せになって倒れた。

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な!」

 

「あのスターダストをたった一撃で!?」

 

(やはり、あの『シューティング・スター』相手では荷が重かったか……)

 

 場所は変わってUSNA軍の秘密指揮指令室。そこでは隆誠とスターダストの交戦を中継で一部始終見ている。

 

 オペレーター達が信じられないと慌てている中、総司令のヴァージニア・バランスだけは冷静に事実を受け止めていた。同時に、大亜連合の『人食い虎』を倒せる実力を持っているのは間違いないと確信する。手傷に一つも負わせる事が出来ずに敗北したのは想定外であったが。

 

(この状況から考えて、最終手段も考慮せざるを得ないようだ)

 

 次の相手はUSNA軍最強の魔法師リーナこと『アンジー・シリウス』となっている。ブリオネイクと言う秘密兵器を使えば間違いなく彼女が有利であるのだが、バランスはそれでも嫌な予感が拭えなかった。もしかすればリーナも先程のスターダストと同様に敗北するのではないかと危惧している。

 

 バランスとしては彼女が負ける等と想像したくないのだが、隆誠が見せたあの出鱈目な実力を見た事によって考えを即座に改めたのだ。指揮官として最悪な展開も予想するのは当然である。

 

「ハンター達からの報告は?」

 

「それが、まだ届いていません」

 

「何?」

 

 今の状況とは別に、隆誠の家に向かわせた別動隊の状況を確認するも、オペレーターから予想外な返答が来た事にバランスは眉を顰めた。

 

 ここで時間を少し遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ターゲットが店に入ったのを確認した。ハンターQ、R、これより行動開始せよ』

 

「「了解(イエス・マム)」」

 

 ヴァージニア・バランスからの連絡が入った瞬間、それに応じるように返事をした。

 

 隆誠が自宅を出て数十分後、その家から約数十メートル先に、女性警官二人が乗ったパトカーが停まっていた。

 

 何の事件も起きていない住宅街でパトカーが停まっているのに違和感があるかもしれないが、あちらこちらにいる住民達は全く気にせず素通りしている。市民を守る警察の職務を邪魔してはいけない他、余計な事は首を突っ込まないよう意識してるから。

 

 もし隆誠が女性警官達を見たら、即座に偽物だと気付いて警戒するだろう。その二人は以前に交戦した、私服警官と偽っていたUSNAの女性軍人であると。

 

 彼女達はあの交戦後に大きな負傷はしていなかったが、それまでの任務で負った傷を癒す為、療養と言う名の待機を命じられていた。

 

 そして任務から復帰して早々、リーナの上官であるヴァージニア・バランス大佐より命令が下された。『リュウセイ・ヒョウドウの家族(ファミリー)を保護する様に』と。

 

 二人はスターダストに所属するハンターであるから、本来であればそんな役割を与えられない。『リュウセイ・ヒョウドウと戦う総隊長(リーナ)のサポートをせよ』と命じられれば一切の疑問を受けていなかっただろう。

 

 だが、これには理由があった。隆誠の家族を保護するのに、彼女達が適任であるから。

 

 バランス達は隆誠について調査した際、家族構成についても当然把握している。既に父親を亡くし、現在は母子家庭である事も含めて。

 

 既に隆誠が出掛け、対応する相手は間違いなく隆誠の母親。いくら警察に扮装していても、見知らぬ男が突然訪問などすれば、向こうはすぐに警戒して家から出ようとしないだろう。故に警戒されないよう、ハンターの彼女達が選ばれたのだ。女性の対応は女性にさせようと言う理由で。

 

 ハンター二人はそれなりに容姿が整っており、丁寧に対応する事も出来る。そうすれば向こうもある程度の警戒心は薄れるだろうと、同じ女性であるバランスはそう考えたのだ。

 

 そして、隆誠がリーナから教えてもらった店に到着したのを確認したバランスは、待機中のハンター二人に行動するよう命じた。

 

 了承した彼女達は偽装パトカーを対象の家の近くまで進めようとする。特殊な結界に入り込んだ事にも気付かずに。

 

「私が行くから、周囲の警戒を頼む」

 

「了解だ」

 

 助手席に座ってるQがRにそう言った後、車から降りて己の足で移動する。

 

 多くの家がある中、既に情報を得てる彼女は迷うことなく隆誠の自宅前に立ち、塀に付けられてるドアホンのスイッチを押そうとする。

 

 ――前にご主人様と戦った人間なのね。

 

「ッ!?」

 

 突如、何処かから声がした事によってQは咄嗟に反応し、懐に入れていた拳銃を取り出しながら振り向くも、そこには誰もいなかった。

 

 今のは明らかに聞き間違いではないと判断して周囲を警戒するが、少女と思われる声を出した者の姿は見当たらない。

 

 ――何しに来たのかは知らないけど、取り敢えず眠って貰うのね。

 

「な……こ、これ、は……」

 

 再び声がしたが、今度はさっきと違って意識が朦朧とするだけでなく、急な眠気が襲い掛かってきた。

 

 スターダストは強化魔法師であるから、薬物や魔法による催眠耐性はそれなりにある。なのに、それを全く無視する様にQはあっと言う間に深い眠りについて、そのまま地面に倒れる。

 

 

 

(どうしたんだ?)

 

 パートナーの不可解な行為は偽装パトカーにいるRも当然見ていた。住宅街であるにも拘わらず、拳銃を持ち構えたまま周囲を警戒する様に見ているのも含めて。

 

 今は運良く住民の姿がない(・・・・・・・・・・)から良いものの、いつまでもあんな事をしていたら目撃されるどころか、本当に婦人警官なのかと怪しまれてしまう。

 

(何ッ!?)

 

 直後、Qが対象の自宅前で突然倒れた。周囲に敵の反応と思わしき存在がいない筈なのに。

 

 Rはすぐにパートナーの容体を確認する為、急遽車から出ようとする。

 

 ――貴女も、彼女の、仲間ですね。このまま、眠って、頂きます。

 

「ッ! たい、さ……」

 

 今乗ってるパトカーには自分しか乗ってない筈なのに、突如車内から見知らぬ第三者の声が響いた。

 

 立て続けに予想外な事態が発生したので、Rはバランスに緊急連絡をするも、それが叶わず強制的に眠らされてしまう。

 

 隆盛の自宅前でQが突然倒れ、その後にRは車の中で意識を失っているにも拘わらず、家にいる住民達は全く気付いていない。そして、二人が密かに何処かへ運ばれている事も。




先ずは前哨戦で、次が本番となります。

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