再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

130 / 223
今回はリーナことアンジー・シリウスとの戦闘です。


来訪者編 戦闘バレンタインデー②

「思いの外、詰まらなかったな……」

 

 決死の覚悟で挑んできた覆面連中に敬意を表する為に、実力(ちから)をチョッとばかり上げて相手をしたのだが、全員一撃で終わってしまった。今はもう見ての通り倒れて、半ば虫の息に近い状態でピクピクしてる。

 

 コイツ等の身体に少しばかり聖書の神(わたし)の光を注ぎ込んだが、身体を蝕む為の物じゃない。『ジェネレーター』と違い、意思と感情があるにも拘わらず殆ど死にかけの状態であった為、余りにも不憫だと思った聖書の神(わたし)は、破損してる肉体を再生させる為の処置として光を注いだ。尤も、あと数年以内の命を引き延ばすのは流石に無理だが。

 

 向こうからすれば余計なお世話だと言い返されるだろうが、あくまで自分が勝手にやった事だから無視させてもらう。

 

 出来れば残りの人生は平穏に過ごして欲しい。俺は倒れている彼等にそう思いながら、この場を去ろうとする。

 

 直後、その先には見覚えのある奴が立っていて、高エネルギーと思われるビームが放たれた。

 

「ッ!」

 

 咄嗟の事であった為、俺は反射的に避けようと身を屈める。放たれたビームはそのまま建物に当たるかと思いきや、届く前に消えていた。

 

 建物の中にいる住人達に怪我が無くて良かったと内心安堵した後、即座に目の前にいる人物の方へと視線を向ける。

 

 約二十メートル先には以前に交戦した仮面の女魔法師がいた。杖のような物を此方へ向け、その穂先からビームが放たれたと思わしき熱風が漏れている。撃ったのは間違いなく彼女だ。

 

(驚いたな。まさか俺と似たような光弾(ビーム)を撃てるとは……)

 

 あの杖みたいな物はCADであるのは間違いないだろう。同時にあれ程の威力を出せるとなれば、仮面の女の魔法力は相当なモノである。

 

 さっきのビームにはプラズマらしき反応があったから、恐らく高エネルギープラズマを集束させビームとして放ったのだろう。普通の人間が直撃したら即死は確実だ。

 

 どうやら俺は仮面の女――リーナを少しばかり甘く見過ぎていたようだ。あんな高威力の魔法は、日本の十師族でも簡単には使えない。アレは下手すれば戦略級魔法に匹敵するだろう。

 

 だが、ソレとは別に文句も言いたかった。いくら建物に被害が無かったとは言え、こんな往来の真ん中でビームをぶっ放すのは頂けない行為だ。

 

「おい、一体どう言うつもりだ!?」

 

 抗議の意味も込めて俺が怒鳴るも、向こうは一切表情を変えないどころか、逆に不敵な笑みを浮かべている。

 

 人が真剣に怒ってるのに、何だよあの態度は。全然反省してないし、まるでしてやったりみたいな表情(かお)じゃないか。

 

 ……どうやらあのバカ娘にはチョッとばかりお仕置きが必要だな。あの程度で調子に乗っているなら、もうついでに実力(ちから)の差を教えてやる。

 

 アイツがスターズ関係者であろうが、もう如何でも良い。俺や聖書の神(わたし)だけに喧嘩を売るだけならまだしも、周囲に被害が及ぶ魔法を使ったのは断じて許さん!

 

 そう決断すると、不敵な笑みを浮かべてるリーナが突如移動を始めた。彼女の足が軽やかに地面を蹴り、かなりの速度だった。足場に魔法陣を展開させたから、恐らく重力制御魔法を発動させたのだろう。

 

 アレは明らかに此方を誘う為の罠だと分かってるが、俺にはそんなの関係無かった。

 

 やる事は一つ。リーナにお仕置きだ!

 

 俺は魔法を一切使わず超スピードを使った瞬間、その場から姿を消した。

 

 

 

 

(一体何処まで行く気なんだよ……)

 

 既にリーナを捉えているのだが、一向に足を止めないので追いかけるしかなかった。

 

 本当なら先回りして彼女の移動を阻止しても良いのだが、人の目がある為に出来ない。

 

 いっその事、俺が強制的に人のいない場所まで連れて行こうかと考えるも、向こうがやっと移動してる足を止めてくれた。

 

 着いた場所は公園、と言うより空き地だった。生け垣は手入れされているが、遊具やベンチがない。多分だが、今は放置されている状態なのだろう。

 

 だが、それは俺にとって好都合だ。此処には人の目が一切無い為、リーナと相手するには最適な場所であるから。

 

 それに今気付いたが、この周辺には外から見られないように遮る光学系魔法が作用しているのも確認した。これは恐らくリーナのバックにいるUSNA軍がやったに違いない。

 

 向こうが立ち止まった直後、追跡していた俺も足を止めて彼女と対峙する。

 

 すると、リーナは予想外の行動に出た。変装の為に発動させていた魔法が突然消えた事により、さっきまで対峙していた仮面の女の姿から一変し、俺が良く知っているアンジェリーナの姿になった。その直後には顔に装着させていた仮面も自ら外して素顔を晒している。

 

(一体どう言うつもりだ?)

 

 彼女はスターズの軍人であるから、本来なら先程の姿に扮して戦わなければならない筈だ。それを解除するなど普通に考えてありえない。自分から正体をバラしているものだ。

 

 それとも、さっきの魔法はかなり高度なモノである為、そっちを集中したいが為に解除した、と言う可能性もあり得る。

 

 まぁどちらにしても、彼女にお仕置きする俺には関係の無い事だ。

 

「リューセー」

 

 自分の推測は如何でも良いように斬って捨てると、漸くリーナが口を開いた。

 

「もう分かっているんでしょう? ワタシが貴方を呼び出したのは罠だと言うことに」

 

「まぁな。だがそれでも、レディのお誘いを断ったら男が廃るから、(いち)()の望みをかける事にしたんだ。来たのは覆面のむさ苦しい男共で非常に残念だったが。全く、男の純情を踏み躙りやがって。この落とし前はどうつけてくれるんだ?」

 

 分かっていながらも来たと言う俺の回答に、リーナが酷薄な笑みを浮かべた。

 

「随分な自信家ね。スターダストを倒しただけで己惚れてもらっては困るわ」

 

 スターダスト、ねぇ。さっき俺が倒した覆面連中はそう言う部隊なのか。USNA軍の魔法師部隊はスターズだけじゃなかったんだな。

 

 確かに、奴等は星屑(スターダスト)の名に相応しいのかもしれない。地球に捕らわれた星屑が、己の身を炎で削って放つ輝きに他ならないのだから。それでもあんな犠牲同然の非人道的な強化をするのは、個人的に気に食わないが。

 

 だが、俺としてはそんな国の事情は如何でも良い事であり、リーナには訊きたい事があった。

 

「その前に教えろ、リーナ。何故こんな事を仕出かしたんだ?」

 

「決まってるじゃない。アナタからの挑戦状を受け取ったからよ」

 

「……は?」

 

 挑戦状? 一体何の話だ? 俺はリーナにそんなの送った憶えはないぞ。

 

「『有名なスターズの隊長が、俺に魔法戦闘で勝てたらUSNA軍に入っても良い』と、リューセーは言った筈よね?」

 

「ああ、そうだな」

 

「ならその挑戦状をワタシが受け取るのは当然じゃない」

 

「何?」

 

 え、ひょっとして――

 

「改めて自己紹介するわ。ワタシはUSNA軍統合参謀本部直属魔法師部隊・スターズ総隊長、アンジェリーナ・シリウス少佐。アンジー・シリウスと言えば、分かるかしら?」

 

「…………」

 

 リーナが自己紹介をした瞬間、俺は無表情でありながらも内心『やっちまった~!』と叫んでいた。

 

 どうやらとんだ勘違いをしていたようだ。彼女はスターズの副長や三番手ではなく、まさか本当の総隊長だったとは。勝手な見解をしていた当時の俺をチョッとばかり殴りたい気分になってきた。

 

 同時に納得もした。俺があんな発言をした事でリーナが不機嫌になっていた事も含めて。

 

 それは無理もない事だった。何しろ俺は全く気付かずに、総隊長であるリーナの目の前で喧嘩を売る発言をしたのだから。

 

 勘違いしていたとは言え、我ながら迂闊な事をしてしまった。自分の基準で決め付けてはいけないと反省したと言うのに……どうやら俺は知らずに全然懲りていないようだ。

 

 ………まぁ、今更リーナに謝ったところで遅いし、もう既に引くに引けない状況になっている。ここはいっそ、向こうの流れに合わせて戦うしかない。

 

「そうだったのか。いや~スマンスマン。まさか簡単な誘導尋問に引っ掛かるドジっ子が総隊長だったなんて思いもしなかったよ」

 

「っ……。悪かったわね、ドジっ子で」

 

 俺の返しに癇に障ったのか、リーナは酷薄な笑みを浮かべながらも頬を引き攣らせていた。

 

「もうついでに教えてあげるわ。ワタシの素顔と正体を知った以上、スターズは貴方を抹殺しなければならないルールになっているの」

 

「へぇ、そうなのか。と言う事は、リーナは此処で俺を殺すか、もしくは軍門に下れと強制的な選択肢を叩きつけるって訳か。その武器を使って」

 

「その通りよ」

 

 そう言ってリーナは手に持つ杖を脇の下に()(ばさ)む形で俺に向けた。

 

「リューセー、今すぐ降参しなさい。アナタが出鱈目な実力を持ってるのは知っているけど、このブリオネイクの前では無意味よ」

 

 成程。あの時放ったビームは、俺にソレの威力を事前に教える為だったのか。

 

 それに全く気付かずノコノコ此処にやってきて、今度は本気で当てると警告してると言ったところだろう。

 

 確かにリーナの言う通り、あのビームをまともに直撃すれば、いくら俺でも無傷では済まない(・・・・・・・・)かもしれない。

 

 にしても『ブリオネイク』、ねぇ。それを英語のスペルで表記すると『ブリューナク』に思えてしまうのは気のせいだろうか? もし前世(むかし)の頃にいたケルト神のルーが知ったら怒りそうだ。『あの程度の威力で自分の槍と一緒にされたくない!』、みたいな感じで。

 

 聖書の神(わたし)が思わず前世(むかし)の事を思い出してると、リーナが杖から水平に突き出している横木の片側を握っていた。

 

 直後に二重螺旋の想子(サイオン)光が走り、その先にある円筒の中で魔法式が瞬時に構築されていく。

 

 そして、杖の先端から煌めき、先程見せたビームが俺に襲い掛かろうとしていた。

 

 だが――

 

「ふんっ!」

 

 身体にビームが当たる寸前、オーラを纏った状態の左手刀で思いっきり横に振った。

 

 俺の左手がビームにぶつかるも、それは放物線を描くように弾き飛んでいく。

 

「………………………………………………え?」

 

「~~~っ。クソっ、チョッと手が痺れたな……!」

 

 何故かリーナが呆然としているのを余所に、俺はビームを弾いた左手をプラプラと軽く振っていた。

 

 あのビームはプラズマを集束させている物だから、もう少しオーラを多めにすれば良かった。でなければ今頃こんなに痺れたりしていない。

 

 だがそれを抜きにしても、相当の威力だった。もし聖書の神(わたし)でなければ、アレを喰らった魔法師は身体が炭化して消し飛んでいただろう。

 

 大袈裟な名前をしたCADであっても、この世界の魔法師からすれば『貫くもの』ブリューナクに相応しいと称賛するかもしれない。前世(むかし)の頃にいたルーであれば、この程度で神話の武器を再現するのは無礼極まりないと憤慨してるだろうが。

 

「おい、何時まで惚けてるんだ?」

 

「………やって……」

 

「ん?」

 

「一体どうやったのよ!? ブリオネイクを弾き飛ばすなんてあり得ないわ!」

 

 先程まで呆然としていたリーナだったが、途端に声高々となり怒鳴り散らしてきた。

 

 まぁ、確かにそうなるのは無理もない。当たった俺の左腕が消し飛ぶと思っていたところを、それを覆すように弾き飛ばしたのだから。恐らく司波ですら、こんな事は出来ないだろう。

 

「どうやったと言われても、こうやって弾いただけなんだが」

 

「嘘よ!」

 

 俺が答えを教える為に左手で弾いた仕草を見せるも、リーナは即座に否定した。

 

 いや、嘘は吐いていないし、本当だよ。と言ったところで向こうは信じないだろうが。

 

 まぁ俺には如何でも良い事であるから、次の手順に移るとしよう。

 

「そうか。なら君の得意分野でやってやるよ」

 

「と、得意分野って、アナタ……」

 

 言ってる意味が分からないみたいに困惑しているリーナ。

 

 向こうの反応に気にせず、俺は久々にあの技を使おうと、額に右手の二本の指を当てる。直後、その指先から凝縮された光のオーラが収束していく。

 

「!」

 

 リーナは指先に凝縮された俺のオーラを見て本能的に恐れを感じたのか、さっきまでの困惑した様子から一変し、再びブリオネイクを構えるように突き出した。そして再び想子(サイオン)光の二重螺旋が走り、円筒の中で魔法陣が構築される。

 

「さっきのはマグレに決まってるわ! 同時にワタシが無意識に手加減しただけ!」

 

「それはどうかな?」

 

「ッ!」

 

 明らかに虚勢を張ってるのが丸分かりだが、そうでも考えないと頭の処理が追い付かないのかもしれない。

 

 加えて俺はさっきから全く余裕な表情のまま話してるから、それが余計に彼女の勘に触っているのだろう。

 

 そしてリーナが再度杖の円筒から高エネルギープラズマのビームを放ち――

 

(めっ)(かん)(こう)(さっ)(ぽう)!」

 

 過去を思い出してしまった俺は、久しぶりに技の名前を叫びながら指先に溜まった光を放った。その直後に螺旋を纏った強力な光線が出る。

 

 滅貫光殺砲。指先に光を凝縮して溜めた光を一気に放つ大技で、『ドラグ・ソボール』でナメクジ星人のピッコルが使っていた技。

 

 嘗て前世(むかし)の高校生時代に、ライザー・フェニックスとのレーティングゲームに備えてグレモリー眷族達に修行を付けていた際、リアスと軽い手合わせをした時に使った。あの時はリアスの『滅びの力』と対抗する時に使ったが、加減を誤って簡単に貫いたどころか、別荘にある山の一部を貫いてしまうと言う自然破壊をしてしまったのは苦い思い出の一つだ。

 

 だが、今回はあの時と違う。リーナが放つビームの威力は既に把握してる他、自身が放つ技も向こうと同じ程度の威力まで抑えている。

 

 俺の滅貫光殺砲とリーナのビームが激突した瞬間、互いに一歩も譲らないと言わんばかりに拮抗していた。

 

「う、嘘でしょ!?」

 

 目の前の現実が理解出来ないのか、思わず叫んでいるリーナ。

 

 だがそれでも俺とリーナが放ったビームのぶつかり合いは続いている。

 

「ぐ、くぅっ……!」

 

 彼女は一瞬体勢が崩れそうになるも、スターズ総隊長としてのプライドが許さないように、地面に立ってる両足に喝を入れるよう踏ん張っていた。

 

 俺の技とリーナの魔法の拮抗は十秒近くなるが、彼女からすれば非常に長く感じるだろう。だが、もうそろそろだ。

 

 瞬間、ビームとビームの衝突が突如消失し、その直後に大きな爆風が吹き荒れる。

 

「あぁっ!」

 

 リーナはブリオネイクを放つのに集中し過ぎていた所為か、爆風によって両足が地面から離れてしまい、杖を持ったまま大きく後方へ吹っ飛んでいく。

 

 それに対して俺は平然と立っている。この程度は大したこと無い他、俺が無意識に展開してるオーラで防いでいるから。

 

 吹き荒れていた爆風が収まり、既に構えを解いてる俺はそのままゆっくり前進していく。リーナが仰向けになって倒れている方へ。

 

「ほら頑張れ頑張れ、俺が飽きるまで何度でも付き合うぞ?」

 

「あ……」

 

 地面に叩きつけられた衝撃によってか、リーナが纏っている情報強化の鎧が揺らいでいるのは分かっていた。

 

 他にも、彼女から恐怖を感じ取った。俺と目が合った途端、見下ろしながら問う俺の姿にほんの一瞬に顔が強張っていたのだ。

 

 そして移動してる足を止め、未だ仰向けになってる彼女に俺はこう言い放った。

 

「どうした? 威勢が良いのは最初だけか?」

 

「…………」

 

 既に俺の勝ちは見えていたが、敢えて戦闘をさせて分からせる事にした。リーナに俺との実力差を知って貰う為に。

 

 それは当然、向こうも理解している筈だ。

 

 ビームが弾かれ、そして俺の技で相殺された。立て続けに信じられない出来事と向き合った事で、スターズ総隊長としてのプライドは既にズタズタだろう。

 

 すると、リーナはさっきまで口惜しげな表情であったが、途端に不敵な笑みを浮かべてきた。

 

「……言っておくけど、リューセー。此処でワタシを倒したところで、既にアナタの敗北は確定してるわ」

 

「ほう?」

 

 俺は既に敗北してる、か。それってもしかして、レイ達の報告に関係してるのかな?

 

「だけどワタシは、USNA軍最強と呼ばれてるスターズ総隊長、アンジー・シリウス。ここで負けを認める訳にはいかないのよ!」 

 

「っ!?」

 

 己のプライドを優先したのか、リーナは最後の力を振り絞るかのように、仰向けのままブリオネイクを至近距離で俺に突き出してきた。

 

 しかも密かに撃つ準備をしていたようで、円筒の中には魔法陣が既に展開済みだった。

 

 この至近距離で俺が弾く事も、相殺する事も出来ないとリーナは分かっているように――

 

「さようなら、リューセー!」

 

 別れの言葉を告げた瞬間、円筒の中から高エネルギープラズマのビームが放たれた。

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……い、いくらリューセーでもこれは流石に……」

 

 リーナは仰向けのまま、残り少ない魔法力の全てをブリオネイクに注ぎ込み、戦略級魔法『ヘヴィ・メタル・バースト』を発動させ、そして高エネルギープラズマビームを放った。至近距離で放った為に熱風を直撃するも、隆誠を確実に仕留める為にはもうコレしかないと思い、敢えて耐え忍ぶ事を決意したのだ。

 

 隆誠が咄嗟に手を出して防ごうとしているところを一瞬見えたが、単なるその場凌ぎに過ぎないと結論している。今はまだ煙によって見えないが、それが晴れれば腕と胴体を貫かれた彼の死体が横たわっているであろう。

 

 本当であれば殺すつもりは無かった。バランス大佐の命令は隆誠に勝利してUSNA軍に引き込む事。殺せとは命じられていない。だが、そんな甘い相手じゃないと理解した為、殺す事を選択した。

 

 ただでさえ高エネルギープラズマビームを片手で弾き飛ばした挙句、それに匹敵する魔法を撃って自分の魔法を相殺したのだ。はっきり言ってコレは異常を通り越した完全なイレギュラーだ。恐らく中継で見ているバランスもそう考えている筈だとリーナは確信している。

 

 そして同時に、隆誠が『灼熱のハロウィン』を引き起こした術者かもしれないと考えた。ブリオネイクのビームを相殺するなど、それは完全に戦略級魔法も同然である。もしかすれば隆誠が二本の指から放った強力な魔法は『グレート・ボム』に関係しているだろう。

 

 こんな事になるのなら、隆誠と出会って早々勝負ばかりしてないで、もう少し親身になって魔法の事を訊き出せば良かった。加えて彼は他の男子と違い、大して気を遣おうともせず普通に接してくれた。自分の容姿が優れていると理解してるリーナにとって、あんな接し方は新鮮だった。出来ればもう少し、彼との対等な関係でいたかったと惜しんでいる。リーナは心の底からそう思っていた。

 

Sorry(ごめん)、シューヤ、シオン。アナタ達の友達、ワタシが、殺しちゃった……」

 

 リーナは思い出す。いつも隆誠の近くにいた友人達を頭に浮かべながら、許されないと分かってても深い謝罪をした。

 

 もし二人に恨まれても自分は敢えて受け入れ――

 

「おいコラ、勝手に俺を殺すな」

 

「!!!!!」

 

 ようとしてるところ、既に死んだ筈の男の声が耳に入った。

 

 そしてさっきまであった煙が霧散した瞬間、リーナの視界にはあり得ない光景を目にする。

 

 開いてる片手を前に突き出し、全くの無傷で立っている兵藤隆誠の姿が。

 

「そん、な……!」

 

 リーナはもう完全に混乱を極めていた。

 

 至近距離でブリオネイクを撃った筈なのに、無傷のまま生きているのかが全く分からない。

 

 何故、何故、何故!?

 

 頭がパンクしているリーナは、もうここに来て目の前の現実がもう受け入れられなくなっていた。

 

「ブリオネイクを、受けても、効かない、なんて……」

 

「いいや、全く効いてない訳じゃない」

 

 ボソボソと呟いているリーナの台詞に、隆誠はこう答えた。

 

「少しは効いたぞ。危うく火傷するかと思った」

 

「……………」

 

 リーナは隆誠の言ってる内容が全く理解出来なかった。

 

 少しは効いた? 危うく火傷? 

 

 そんな程度で済むはずがないと叫びたかったが、恐怖によって身体が竦んでいるほか、もう言葉にする事が出来ない状態なのだ。

 

 今の彼女は絶体絶命な状況に立たされており、打つ手がなかった。

 

 だがそれでもスターズ総隊長として抵抗しようと身体に鞭を打つも、既に魔法力や体力が完全に尽きており、もう何も出来ない状態だった。

 

「じゃあ、今度はコッチの番だ」

 

「え?」

 

 隆誠は今も変わらず片手を自分に向けて突き出したまま言っていた。

 

 そして――

 

「アアァァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 その手から自分を覆う程のビームが撃ち出され、全身に襲い掛かる激痛がリーナに襲い掛かった。

 

 リーナを覆っているビームは数秒後、もう維持が出来ないように天に向かうよう破裂し、そして大きな爆発が起きる。

 

 USNA軍スターズ総隊長、『アンジェリーナ・シリウス』こと『アンジー・シリウス』の敗北が決定した瞬間でもあった。




とあるDB映画シーンを参考にして書きました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。