再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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来訪者編 戦闘の後処理

 さっきのはチョッとばかり危なかった。まさかリーナが至近距離でビームを撃って来るとは思わなかったのだ。

 

 魔法で収束させているとは言え、間近で撃ち放てば術者本人にも被害が及ぶ。はっきり言ってアレはかなり危険な行為だった。

 

 プラズマと言うのは超高温度な物質であり、それを集束させて放てば超高温の熱風も発生し、下手に喰らえば火傷どころじゃ済まない。

 

 もし俺がただ単純に防いでいたら、リーナは間違いなく高温の熱風によって大火傷をしていただろう。魔法師なら情報強化と言う不可視の壁を使って身を守る事は出来るが、生憎今の彼女は全ての魔法力をブリオネイクに使い切ってしまった為、生身で受けざるを得ない状態だった。

 

 流石にそれは不味いと思って、急遽聖書の神(わたし)能力(ちから)無効化(キャンセル)する事にした。咄嗟の事で流石に全て防ぎきれなかった為に、プラズマから発生する煙と熱風が漏れてしまっていた。因みに熱風に関しては火傷には至らない程の温度であるから、リーナが直撃しても大して問題は無いので大丈夫だ。

 

 無効化(キャンセル)させているビームが収まった後、煙によって前方が遮られててリーナの無事な姿は見えなかったが、何やらボソボソ呟いていたのが聞こえた。

 

Sorry(ごめん)、シューヤ、シオン。アナタ達の友達、ワタシが、殺しちゃった……』

 

 どうやらリーナはビームで俺を殺したと思っていたようだ。挙句には何やら悲しそうな声で修哉と紫苑にも謝っていた。

 

 それを聞いてチョッと頭に来た俺は思わず言い返してしまった。勝手に俺を殺すなと。

 

 直後に煙が晴れてリーナと対面した瞬間、彼女は俺の姿を見た途端に驚愕していた。と言うより、恐怖で顔が引きつっていた。

 

 そしてある程度の会話をした後、この戦いに終止符を打とうと、動けないリーナに向かって光弾技――『メテオブラスト』を撃つ。完全に無防備となっていた彼女は光弾に包まれ、悲鳴を上げながら天高く吹っ飛んでいった。

 

 メテオブラストは『ドラグ・ソボール』劇場版に出る極悪人キャラで空孫悟に似ているヤサイ人――ダーレスが使っていた技である。ピッコルの滅貫光殺砲を片手で受け止めた後、そのお返しとしてメテオブラストを放ったシーンが一部で有名だった。

 

「おっと」

 

 前世(むかし)を思い出している中、さっきまで空へ向かって吹っ飛んでいたリーナが俺に向かって落下するのが見えた為、すぐに両腕を伸ばしてキャッチに成功する。端から見ればお姫様抱っこの光景だろう。

 

「う、あ……」

 

「ふむ、我ながら見事に加減したものだ」

 

 防護服や防具は完全にボロボロとなっているが、それに対し肉体に大して損傷はない。威力調節した俺の光弾で大火傷はしなくても、それなりの衝撃を受けてもらった。故にリーナの端整な顔は綺麗な状態のままである。

 

 それでも相当なダメージだったようで、完全に意識を失っていた。魔法力と体力が尽きてる状態で(加減した)メテオブラストを直撃すれば、そうなるのは致し方ない。リーナとしては屈辱かもしれないが。

 

 さて、どうするか。リーナの誘いは罠だと分かってても、ここまで大事になるとは全く想像しなかった。

 

 ついでに此方を監視してるUSNA軍も動いている筈だ。もしかしたら、彼女を回収する為に別動隊が来るかもしれない。

 

 今も抱えてる彼女を置いて、すぐに退散すべきだろう。だが、それはそれで却って面倒な事になってしまう。

 

 知っての通り、リーナはUSNA軍で最も優秀な部隊のスターズ総隊長である。そんな彼女が俺と戦って敗北したとなれば、USNA軍は絶対に許さないだろう。

 

 俺に報復行為を行うならまだしも、家族や友人に手を出そうとする可能性が充分ある。メンツを重視している連中は払拭させるには手段を選ばない傾向があるのだ。特に国や軍などがお偉方とか、な。

 

 そう考えると、USNA軍には釘を刺しておく必要がある。俺や大事な家族、そして友人達にも今後一切手を出すなと。

 

 だが、何の権限も持っていない一般人の俺には無理だ。例え向こうが口約束したところで信用なんか出来ない。どうせ狡賢いお偉方は『部下が勝手にやった事だ』とか言って、あたかも記憶にないみたいな誤魔化しをするのがオチである。

 

 となれば、権限を持った誰かの助力が必要になる。十師族の関係者である真由美と十文字は無理だ。二人は学生な上に、外交のやり取りなんて出来やしない。真由美の父親は七草家当主であるが、十師族は特権を持ってると言っても、表向きは民間人である為に外交に直接関わる事は出来ない。であれば当然、一条家も当然無理である。

 

「………はぁっ、仕方ないか」

 

 諦めるように嘆息した俺は、一先ず行動を開始しようと超スピードで姿を消した。

 

 

 

 

 

 

「シリウス少佐はまだ見つからないのか!?」

 

「ダメです! 先程から何度も広範囲に索敵していますが、発見出来ません!」

 

 秘密指揮指令室は完全に大慌てだった。常に冷静である総指揮官のバランスですらも、今までの状況を中継で見ていた事で錯乱状態に陥っている。

 

 混乱の発端は隆誠がスターダストを倒してからである。

 

 リーナがいつの間にか配置を離れ、あろう事か往来の真ん中でブリオネイクを撃ったのだ。

 

 そんな事をすればターゲットの隆誠が逃走するのではないかとバランスは内心焦るも、向こうが追跡を始めた事で彼女だけでなく、指令室(コントロール・ルーム)の雰囲気が多少の落ち着きを取り戻した。

 

 だが、その後に予想外な出来事を見た事で指令室(コントロール・ルーム)の時間が急に止まった。リーナが放ったブリオネイクのビームを、隆誠が片手で弾き飛ばしたのを見た事で。

 

 流石のバランスもこれには言葉を失い、自分の目を疑っていた程である。だが、それは当然の反応と言えよう。

 

 リーナが放ったビームは戦略級魔法『ヘビィ・メタル・バースト』であり、結界容器『ブリオネイク』を使うことで収束ビームとして発射することが出来る。謂わば対人用最強の殺傷兵器と言えよう。

 

 魔法師が情報強化したところで直撃すれば身体が炭化して吹き飛ぶ筈なのに、あろう事か隆誠は片手だけで弾き飛ばした。それを見たバランス達が固まるのも無理からぬ事だ。

 

 更に信じられない事に、またしても驚くべき光景が中継に映し出された。今度はリーナが放つブリオネイクのビームに対抗する魔法を使おうとしていたのだ。

 

 それを見たバランスは『一体何の真似だ?』と正気を疑うも、再び固まる事になる。

 

 リーナが放ったブリオネイクのビームに対し、隆誠の指先から螺旋を纏った強力なビームが放たれた。互いのビームが衝突し、一歩も引かない激しいぶつかり合いとなるも、約十秒後には本当に相殺される事となった。

 

 指令室(コントロール・ルーム)の時が再び止まっている中、隆誠は仰向けになって倒れてるリーナに降参するよう勧告。

 

 何とか意識を取り戻したバランスがリーナの敗北が確定すると判断し、最終手段を使わざるを得ないと決意した瞬間、ここで更なる想定外の事態が起きた。仰向けのリーナが最後の力を振り絞って、至近距離からブリオネイクを放った。如何に隆誠でも生きてはいないだろう。

 

 本来は隆誠をUSNA軍に引き込ませる為で、殺す事は命令していなかった。だからリーナのやった事は完全な命令違反であるのだが、バランスは咎める気は無く、仕方ないと諦める事にしたのだ。

 

 今回の戦闘で隆誠は色々な意味で危険な人物と判定せざるを得ない。さっきまでの信じられない出来事を二度も見せられては、殺すしかないとブリオネイクを放ったリーナの判断は間違っていないどころか、寧ろ正しいと思っている。

 

 同時に日本政府に対してこう思った。あんな恐ろしい学生を、よく今まで放置していたものだと果てしなく呆れるほどに。

 

 もし彼がUSNAにいたら、間違いなく軍に引き入れている他、あっと言う間にスターズの一員になっていただろう。そう思えるほど、隆誠と言う存在は余りにも惜しい存在であった。

 

 取り敢えずこれで任務は達成したと指令室(コントロール・ルーム)は後処理に移ろうとした直後、隆誠が無傷で生きていたと判明したと分かった瞬間、三度目の時が止まる事態に陥った。

 

 ただでさえ目の前の現実がもう受け入れられないと言うのに、最悪な光景を目にする事になる。隆誠が動けないリーナにビームを放って止めを刺した後、辛うじて生きているリーナを抱えたまま姿を消したのだ。

 

 ブリオネイクを持ったリーナを隆誠に連れて行かれた。その事実を漸く理解したバランスはすぐに覚醒し、慌てながらもこの場にいる全オペレーター、そして現場にいるバックアップチームを総動員して捜索を命じた。

 

 バランス達がこうも必死になって捜索するのは当然理由がある。リーナこと『アンジー・シリウス』はスターズ総隊長以外に、もう一つの役職がある。

 

 国家公認戦略級魔法師、通称『十三使徒』。国家により戦略級魔法に適正を認められ国威発揚の目的で対外的に公表された魔法師。元々はリーナを含め十三人居たが、『灼熱のハロウィン』にてその一人である劉雲徳は戦死したと見られている。

 

 それ故に戦略級魔法師であるリーナを隆誠が連れ去ったのだから、バランス達が必死になって捜索しているのだ。もしも彼女が隆誠に連れて行かれた後に殺害されてしまえば、USNA国家の損失になるどころか、世界のパワーバランスに大きな影響を与えてしまうから。加えてこんな事が世界中に知られれば、USNAは間違いなく各国から追及される事になる。

 

 そんな最悪な展開を何とか回避したいが為に、バランス達は倒されたスターダストの回収をしながら捜索を続けるも、一向に発見の報告は入らなかった。

 

(そう言えば……)

 

 急にバランスはある事を思い出した。一向に報告が来ないハンター二人を。

 

 先程まで隆誠が見せた非常識極まりない戦いの中、リーナが連れ去られた事で失念していた。だが、捜索中にふと思い出したのだ。

 

 念の為に再度ハンター達の状況を確認したのだが、未だに報告が無いとの返答だった。

 

(いや、待て。何故私はあの時点で疑問を抱かなかった?)

 

 ハンターQとRは常に冷静で的確な判断を下し、無駄な事は一切せず確実に任務をこなす優秀な女性魔法師である。魔法が使えない一般人を保護するだけで、そこまで時間は掛からない筈だ。にもかかわらず、未だ二人からの報告が来ないのは絶対におかしい。

 

 バランスの計画では、リーナが交戦する前に隆誠の家族を別室で保護している予定であった。そして此方が不利な状況だと分かれば最終手段を行使しようと、隆誠に家族を保護してる事を教えて降伏を促すつもりだった。けれど、余りにも信じられない光景を目にした事で、完全に失念する破目になってしまった。

 

 本来ならすぐに気付くべきだったのだ。ハンター達から結果報告の連絡が来ていない事に。

 

 そして今になって……失敗したのだと判断した。加えて連絡が来ないと言う事は捕らわれた、若しくは殺されたかもしれない。スターダストに所属しているあの二人を簡単に倒す隆誠の協力者がいる事も含めて。

 

「至急ハンター達の位置も確認せよ!」

 

 もし二人の身に何か起きているなら、リーナと同様に見付からないはず。そう嫌な予想を浮かべながらオペレーター達に指示を出した。

 

 その直後、指令室(コントロール・ルーム)からコール音が響いた。

 

「大佐、シリウス少佐からの通信です!」

 

「何?」

 

 オペレーターから通信者はリーナだと答えた事で、バランスは即座に疑問を抱いた。

 

 隆誠との戦闘に敗れ意識を失い、更には連れて行かれた彼女が通信するのがおかしいのだ。極秘に通信してる可能性があるだろうが、あの隆誠がそう簡単に見逃す訳が無い。

 

「繋げろ」

 

 だが、バランスは応答するよう命じた。今の状況でリーナの居場所が全く分からず仕舞いであったから。もしも隆誠であれば、上手く誘導して彼女の居場所を知れば良いのだと。

 

 オペレーターが指示通りすぐに繋げるも、画像は『SOUND ONLY』とだけ表示されていた。

 

「シリウス少佐、状況を報告せよ」

 

『残念ですが、彼女じゃありませんよ』

 

 代表してバランスが問うも、返答したのは見知らぬ男の声だった。

 

 それを聞いたオペレーター達は戸惑いの声を上げているが、バランスだけは唯一冷静で問おうとする。

 

「何者だ?」

 

『もうご存知でしょう? ついさっきまで其方の総隊長さんと戦っていた者です』

 

 名前は明かさずとも、通信してる相手はすぐに分かった。リュウセイ・ヒョウドウであると。

 

 日本人であるのに、向こうは流暢な英語で話している。思わずアメリカ人じゃないかと錯覚してしまう程に。

 

「これはこれは、まさか『シューティング・スター』から連絡を寄越してくれるとは思わなかった。だが何故此処の連絡先を君が知っているのかね?」

 

 バランスは努めて平静を装いながら訊ねた。下手に慌てて彼女の事を確認すれば、此方が相当不利な状況であると悟らせない為に。

 

 だが、通信者――隆誠はそれを見抜いていながらも、敢えて相手に話を合わせようとする。

 

『総隊長さんが偶然にも情報端末を持っていたので、其方に連絡しようとチョッと拝借させてもらいました。いや~、てっきり出ないかと思いましたよ。貴女が彼女の保護者でよろしいのですか?』

 

 此方の状況を分かっていながらも、大変白々しい台詞を口にする隆誠にバランスは内心舌打ちをする。

 

 偶然に情報端末を持っていたのではない。自分達の連絡手段として持たせていたのだ。

 

 恐らくリーナを連れ去った後に身体検査をした際、情報端末を見付け、こうして指令室(コントロール・ルーム)に連絡をしたとバランスは推測する。

 

「まぁ、そんなところだ。それで、シリウス少佐はどうしているのかね?」

 

『今はグッスリ眠っていますよ。言っておきますけど手は出してませんからね。意識を失ってる女の子に乱暴する趣味は無いので』

 

 場所は不明であるが、少なくとも無事である事は分かった。尤も、隆誠の言っている事が本当であればの話だが。

 

 バランスが通信しながらも目配せで隆誠が使用してる情報端末を逆探知するよう指示するも、調べたオペレーターからは見付からないと首を横に振っていた。

 

 リーナだけでなく隆誠も一体何処にいるのかが全く分からなかった。監視衛星や魔法で対象を探知する機器を使っていると言うのに見付からないのはおかしい。

 

 対象を見付ける事が出来ない事にバランスはもどかしさを抱きながらも、隆誠から情報を得ようとする。

 

 だが、彼女よりも先に隆誠が口を開いた。

 

『念の為に聞いておきたいんですけど、彼女に親や兄弟、もしくは恋人とかいますか?』

 

「……軍機だから答えられないのはそちらも分かっている筈だ。大体それを聞いてどうする気かね」

 

『どうやらその口ぶりだと今はいないみたいですね。まぁ別にいなくなっても悲しむ人がいないなら、いっそのこと消えてもらった方が楽かなぁと思いまして』

 

「ッ!」

 

 余りにもとんでもない台詞にバランスだけでなく、この場にいるオペレーター達も耳を疑う。

 

 同時に通話しているこの男は余程の考えなしか、気が触れているのかと思わざるを得ない程に判断出来なくなった。

 

 それもその筈。バランス達は最初、『いくら隆誠でも十三使徒のアンジー・シリウスを殺せる訳が無い』と高を括っていたのだ。それは魔法師としての常識であるからと言う理由で。

 

 実際、『十三使徒』であるリーナは殺すにも捕虜にするにも大物過ぎる存在なのである。USNA最強の魔法師という肩書きは、USNAのシンボルとして象徴されるもの。その存在への抵抗はUSNAという存在への反逆と同義。言わば、リーナにはUSNAからのいざという時の最終防壁的な安全装置(セーフティ)が付属しているのである。

 

 にもかかわらず、「アンジー・シリウスを殺す」という明確な『意思』を彼は淡々と口にした。何の権力も持たないどころか、特に有名な一族の出という訳でもない魔法師の少年が、USNAという“国家”を全く恐れていない。それがある種の不気味さを感じさせてしまう。

 

 当然、バランスとしてはUSNAの財産も同然である彼女を失わう訳にはいかない。例えどんな犠牲を払ってでも取り返さなければならないのだから。

 

「其方の要望を聞きたい。可能な限り請け合うから、シリウス少佐を此方へ引き渡してもらえないか?」

 

『……無礼を承知で尋ねますが、貴女にそのような権限があるのですか?』

 

「役職は機密上明かせないが、今回の作戦の指揮を執ったのは私だ」

 

『なるほど』

 

 バランスは即座に交渉の場に立つ決断を下していた。

 

 リーナの命が向こうに握られている以上、下手に機嫌を損ねるような真似は出来ない。

 

 隆誠は別にバランスやUSNA軍を軽視している訳でも、アンジー・シリウスという交渉札を得て調子に乗っている訳でもない。冷静に、理性的に、そして冷徹に応対している。その事実を否応にも理解させられた。

 

 だからこそ温い判断は出来ない、と認識を改める。隆誠がリーナを撃退した時点で、バランスには学生相手でも油断するつもりは最早毛ほども無くなっていた。

 

 幸いにも、兵藤隆誠が十師族や百家でもない一般人であった事が功を奏した。

 

 如何に彼がどれほど強力な魔法を持つ魔法師であっても、立場上が一般市民である以上、彼自身にとって有益な要求というのは、USNA軍に余程デメリットのあるものでも無いだろうとも考えられる為でもあった。

 

『でしたらついでに、(うち)の近くをウロついてた女性達も、所属が同じなら一緒に引き取って貰えませんか? 警察官のコスプレなんて、場合によってはしょっぴかれますよ?』

 

「!?」

 

 隆誠から予想外の台詞を口にした事で目を見開いた。

 

 その警察官には思いっきり心当たりがある。隆誠の家族を保護しようと別動隊で動いていたハンターQとRの事だった。コスプレでなく変装なのだが、そこは敢えて突っ込まない事にする。

 

 やはりハンター達も捕まっていたとバランスは考えた。店に誘き出された筈の彼が知っているのは、後になって協力者から聞いたのだろうと。

 

 人質が三人と分かった瞬間に歯軋りをするバランス。彼女としてはリーナが最優先であり、ハンター二人は最悪切り捨てようと考えている。

 

 だが、それを隆誠に知られてしまう訳にはいかなかった。折角向こうが返そうとしているのに、ハンター達を見捨てるような行動に出れば、向こうは不快に思うどころかリーナを殺してしまいかねない。

 

「……分かった。彼女達も私が責任持って引き取ろう」

 

『助かります』

 

 今は下手に刺激するような事は言わず、素直に応じる事にした。同時に、ハンター達から状況の詳細を確認しようと考えながら。

 

「それで、君と直接話をする場所と日時は?」

 

『翌日の午前六時、総隊長さんが拠点にしてるマンションに来て下さい。護衛を連れて行くのは最低でも一人です。では』

 

 隆誠はすぐ答えた後に通信を切った。もうこれ以上の質問は受け付けないと言わんばかりに。

 

 一通りの話を終えても、指令室(コントロール・ルーム)には緊張の糸が切れる様子が全く無かった。

 

「……大佐、どうされるのですか?」

 

 オペレーターの一人が確認する様に問うも、バランスはこう答えた。

 

「私が直接出向くしかあるまい。此方が下手な事をすれば、シリウス少佐を本当に失ってしまう」

 

 あの会話の中でUSNA軍に対する文句を言ってもおかしくない筈なのに、隆誠は敢えてそれをやらなかった。暗にお前達の考えはもうとっくにお見通しだと分かっているように。

 

 色々な意味で非常に厄介な相手であると、バランスは心底そう思った。寧ろ、本当に学生なのかと疑う程だ。

 

「ところで、交渉先となっているシリウス少佐のマンションに反応は?」

 

 指定先をリーナのマンションにしたのであれば、実はそこを隠れ蓑にしてるのではないかとバランスは推測した。

 

「ありません。やはり別の場所に潜んでいるようです」

 

「そうか。ならばリュウセイ・ヒョウドウの家はどうだ?」

 

「此方には少佐達と思わしき反応が無い他、ターゲットもいないようです」

 

「……一体何処に隠れているんだ?」


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