再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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来訪者編 事前の打ち合わせ

 リーナが住んでるマンションを出た俺――兵藤隆誠は自宅に戻った。

 

 朝帰りした為、母さんが心配していた他に物凄く誤解されたのは言うまでも無い。リーナを含めたUSNA軍に襲われたなんて口が裂けても言えない為、あの手この手で色々誤魔化す事にした。内容に関しては省略させてもらう。

 

 話を一通り終えた俺は学校に行く時間になるまで、一旦休息しようと部屋に戻った。

 

「………ふぅっ」

 

 チョッとばかり疲れたので、コートを脱いですぐにベッドで横になった。部屋着でなく普段着のままで横になるのはマナー違反だが、ベッドカバーを掛けているから一応大丈夫だ。

 

「やはり九島に頼んで正解だったな……」

 

 自分の部屋の天井を見ながら呟く。

 

 九島がリーナの部屋に電話してきたのは決して偶然じゃない。アレは昨夜に打ち合わせしてタイミング良く電話したのだ。

 

 それによってバランスと言うリーナの上官は一気に顔を青褪めていた。あの場面で彼が出てくるなんて全く予想してなかったと言うのが一目瞭然だったと分かるほどに。

 

 やはり一般人の立場である俺だけじゃどうにもならないとつくづく痛感する。軍、益してや国家相手なら猶更に。

 

 如何に実力があったところで、強大な権力の前では大して意味が無い。聖書の神(わたし)能力(ちから)でUSNA軍を平伏すのは非常に簡単だが、そんな事をすれば自分は二度と平穏な生活を送れなくなってしまう。それは非常に愚かな手段であるから、俺は絶対にやりたくはない。相手側が俺の関係者に手を出す愚かな行為をすれば話は別だが。

 

 俺の家族を拉致しようとしたUSNA軍はその対象になるのだが、今回は見逃す事にした。向こうの狙いを事前に阻止したから。

 

 万が一の場合を考えて精霊(こども)達に家の守護を命じて良かったと安堵した。まさか本当に家族を狙おうとしていたなんて思っていなかったのだ。

 

 レイとディーネからの報告で、以前俺と交戦したスターダストの女性二人が来たと知って最初は疑問を抱いたが、後になって分かった。昨夜に意識を失ってるリーナを運んだ後で。

 

 

 

 

 

 

「此処か……」

 

 意識を失ってるリーナを休ませようと連れて行った場所は、現在彼女が住んでいるマンションの一室。

 

 既に生徒名簿で調べて住所は分かっていたが、マンションの構造や部屋の位置までは分からない為、そこは能力(ちから)を使って彼女の記憶を読ませてもらった。それが分かってすぐ転移術を使い、勝手ながらお邪魔してる。

 

 ついでに今も必死に探してるであろうUSNA軍の目を誤魔化す為、俺達の存在を探知出来ないよう特殊な結界を張っておいた。向こうが使ってると思われる監視衛星や探知機を使っても引っ掛かる事は無い。

 

 リーナの記憶を読んだ際、意外な事実が判明した。俺がリーナと戦う前に、USNA軍が俺の家族を保護(と言う名目の拉致)しようと密かに計画していたのだ。

 

 レイ達が聞いた際は何が目的だったのかが一切分からなかったが、まさか俺の留守中にそんな事をしていたとは……。まぁ、それだけ向こうが本気だったという証拠なのだろう。

 

(取り敢えずは……)

 

 考えるのは後にしようと、俺は今もお姫様抱っこで抱えてるリーナを寝かせようと、彼女が寝る時に利用してる部屋へ向かった。

 

 着いて早々、俺はすぐに次の行動に移ろうと一旦床の上に寝かせる。そして意識を失ってる美少女の服を全部脱がせた後に襲う……と言うのは勿論冗談だ。そんな気は一切無い。

 

 単に戦闘服のままでベッドに寝かせるのは不味いから脱がせただけに過ぎない。流石に全裸ではなく、下着姿までに留めている。これがもし前世(むかし)(イッセー)だったら、リーナの(おっぱい)をコッソリ見ようとブラを外していたかもしれないが。

 

 他にも理由がある。戦闘服の中に仕込んでいる情報端末やCAD、そして武器の類を剥ぎ取る為だ。もしも目覚めて所持してる武器で再び暴れて欲しくない為に、だ。それは当然、彼女が持っていたブリオネイクと言う兵器も含まれている。

 

 そう思いながらリーナを全裸一歩手前の下着状態にさせた後、再び抱えてベッドへ移して直ぐ布団を被せた。

 

 脱がしてる最中に起きてないか確認すると、(そら)()してる様子は無いのでチョッとばかり安堵した。まぁ彼女の性格を考えれば、脱がしてる最中目が覚めた瞬間、再び俺に襲い掛かるだろう。そうなっても再び気絶してもらう事になるが、な。

 

 今もグッスリ眠ってると分かったので、リーナの戦闘服とブリオネイクを持ったまま部屋を出てリビングへ向かう。

 

「連れて来たのね、ご主人様」

 

「この者達、何処に、置けば、良いでしょうか?」

 

「ああ、付いてこい」

 

 リビングに着いてすぐ、誰かが転移術で侵入してきた。言うまでもなくレイとディーネだ。俺の家付近で捕えた(意識を失ってる)女性二人も一緒に。

 

 後で調べようと一旦人目の付かない場所へ連れて行かせるよう命じたのだが、意識を失ってるリーナの記憶を読み取った際に彼女達の情報も得たから、急遽変更してリーナのマンションへ連れて来させた。

 

 レイ達の視覚を共有して見ていたが、本当に婦警の格好をしていた。以前は私服警官と偽ってたのに、まさか今度は制服を着て偽るとは……。

 

 この二人も部屋に寝かせようと、リーナが寝てる部屋ではなく、明らかに誰かが使っていたであろう別の部屋に置かれてるベッドを勝手ながら使わせてもらった。勿論、リーナと同じ理由で装備を剥ぎ取って下着姿にさせている。

 

「さてと……」

 

 リーナ達を寝かせた後、再びリビングに戻った俺は、設置されているソファを寛ぐように座って考え始める。

 

 そうしてると、レイとディーネがそれぞれ俺の隣にちょこんと座っていた。

 

「ねぇねぇご主人様、あの人間達を一体どうするの?」

 

「主や、その御家族に、手を出したのです。そんな、愚か者共は、相応の処罰を、下すべきかと」

 

 訊ねてくるレイに、提案してくるディーネ。

 

 因みにこの子達はリーナが俺を殺そうと知った瞬間、途轍もない怒りと殺意を抱いていた。もし抑えなければ確実に殺そうとしていただろう。

 

「一先ず無傷で返すよ。そうしないと色々面倒な事になるからな」

 

「「…………」」

 

 納得出来ないと言わんばかりの表情で俺を見る精霊(こども)達。

 

 それを見た俺は苦笑しながらも、両手を使ってレイとディーネの頭を優しく撫でる。その瞬間、さっきとは打って変わり気持ち良さそうに目を細めていく。

 

「お前達の怒りは充分伝わっている。それに安心しろ。俺や聖書の神(わたし)を殺せるヤツなんて、今のところ存在していないからな」

 

 端から聞けば自信過剰も同然な台詞だが、生憎とこれは紛れもない純然たる事実であった。

 

 この世界で最強クラスの実力を持っている呂剛虎やリーナは、俺が全力を出すに値する相手じゃない。十師族の真由美や十文字は勿論の事、今も俺を警戒し続けている司波達也も同様に。

 

 だが、それとは別に非常に厄介なモノがある。それは権力だった。嘗て聖書の神(わたし)前世(むかし)の頃に持っていた物だ。

 

 本当の愛を知る為に権力(こんなもの)はいらないと、聖書の神(わたし)は人間に転生して平穏な生活を望んだ。最初の転生は正体がバレても、多くの頼もしい仲間や同志がいた事で上手くやっていた。

 

 そして二度目の転生で自分の事を知っている者は一切いない。これは本当の意味で聖書の神(わたし)は一人なのだと改めて認識した。チョッとした孤独感を抱いた程である。

 

 と、そんな俺の個人的感情は如何でもいい。

 

 問題はこの世界にある『魔法』が発展した事によって、様々な結果を(もたら)した。その中の一つに、魔法が兵器や権力の中に組み込まれている。強大な力を持った魔法は戦略級兵器として扱われ、それを使える魔法師は国の象徴――国家公認戦略級魔法師になる。

 

 そのUSNAの戦略級魔法師である『アンジー・シリウス』ことリーナは俺が捕らえた。向こうは必死になってでも救出したいだろう。レイ達が捕らえたスターダストの女性二人を犠牲にしても構わない、みたいな事を考えている筈だ。

 

 もしも此処で殺したら、俺は今後USNAに狙われ続けるだろうと容易に想像出来る。国の象徴が殺されたとなれば権力者が絶対黙ってはいない。加えて各国にも様々な影響を与えてしまう。

 

 故にリーナは非常に厄介な存在なのだ。俺にとっては取るに足らない相手でも、国が絡んだ権力で公認されている戦略級魔法師に迂闊な真似は出来ないという訳である。

 

 だから一般人の俺ではどうしようもないから、誰かに頼るしかない。相応の権力を持っている人物に。

 

 頭を撫で続けた事でレイとディーネの怒りが収まったのを確認した俺は手を放した後、懐にある携帯端末を取り出して電話をする。

 

『おや、兵藤君。一体どうしたのかな』

 

「九島閣下、夜分遅くにすみません」

 

 電話したのは十師族の、九島家の前当主である九島烈。

 

 吸血鬼事件が片付くまで連絡しないと決めていたが、今回は自分だけでは手に負えない事情である為、彼に頼らざるを得ない。

 

『そんな遅いと言うほどの時刻でもない。寧ろあの連絡以降、全く音沙汰が無い事に疑問を抱いていたところだよ』

 

「それは失礼しました」

 

 確か電話したのは先月の下旬だから、現在の日程を踏まえると……約三週間ほど経っている。九島がそう考えるのは無理もない。

 

『別に謝る必要は無い。君が急に連絡してきたのは、「吸血鬼事件」で何か大きな情報を掴んだのだろう?』

 

「いえ。今回それとは全く別で、非常に厄介な案件(もの)です」

 

『………言ってみたまえ』

 

 もう今更とは言え、今回は自分だけで片付ける事が出来ないから、本当の意味で彼に頼るしか無かった。無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)や大亜連合侵攻の時のように、チョッとした手助け程度でどうにかなる状況ではない。

 

 俺が真剣な声で言った瞬間、九島は只ならぬ雰囲気を感じ取ったように説明を求めてきた。

 

「実は先程、USNA軍の小部隊――スターダストから攻撃を受けました」

 

『それは本当かね?』

 

 USNA軍と聞いた事で九島は確認を取るも、俺はすぐに頷く。

 

「ええ。第一波を撃退した(のち)、スターズ総隊長アンジー・シリウスことアンジェリーナと交戦し、これも撃退しました。その後、意識を失ってるアンジェリーナを俺が連れ出し、現在は彼女が拠点にしてるマンションに潜伏しています』

 

『ほう……』

 

「他にもUSNA軍の別動隊が俺の家族を拉致しようとしてましたが、それは俺の仲間の方で事前に阻止して捕らえ、アンジェリーナと同様の場所にいます」

 

『ふむ……』

 

「ここまで聞いてご理解されたと思いますが、彼女達をUSNA軍に引き渡す際、どうか九島閣下からもご助力願えませんか?」

 

 説明してる最中、九島は真面目な表情で頷きながらも聞きに徹していた。

 

 そして俺が頭を下げるように懇願すると――

 

『良かろう』

 

 そうアッサリ了承してくれた。

 

 ………え、一言でOK出すって……。いくらなんでも、すんなり行き過ぎだと思うんだが。

 

 普通に考えれば、こんな重大な案件はそんな簡単に行かない筈だ。先ずは俺の話が本当であるか、証拠があるのか云々と詳細を確認するのがセオリーだ。なのに九島はそれをすっ飛ばして即了承するから、疑うのは至極当然である。

 

「あの、閣下。頼んだ自分が言うのもなんですが、そんな簡単に引き受けちゃって良いんですか?」

 

『構わんよ。これで大きな借りを君に返せるのであれば、私としては願ってもない』

 

「大きな借り?」

 

 はて、九島に貸しを作った憶えはないんだが。

 

 全く心当たりが無い俺が思い出してる中、彼が途端に呆れたような声で言ってくる。

 

『君やその仲間が去年の九校戦で無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)の悪事を暴いた他、横浜事変で呂剛虎の捕縛協力、並びに侵攻した敵艦を此方へ引き渡してくれた件だよ』

 

「え? それって確か俺達の事を詮索しない条件でチャラにしたのでは……?」

 

『そんなわけ無かろう。君が思ってる以上に、どれを取っても非常に大きな借りばかりなのだよ』

 

 まるで自分がいなければ不味い事になっていたみたいな言い方であった。別に俺以外の誰かでも解決していると思うが……まぁ九島がそこまで言うのなら、それだけ大きな借りなのだろう。

 

『それ以外の理由もある。兵藤君ほど刺激に満ち溢れてる若者との付き合いは、これまであった私の人生の中で一番楽しくて堪らないのだよ。君の頼みでならば、私は喜んで協力するさ』

 

 何だか知らずに九島から絶大な評価をされているな。と言うか、刺激に満ち溢れてるって……。

 

 う~ん………まぁ良いや。向こうが喜んで協力してくれるのであれば、俺としては非常に好都合だ。此処はお言葉に甘えるとしよう。

 

 九島が了承した理由を聞いた俺は、この後にリーナの戦闘服に入っていた情報端末を使って、彼女の上官と思わしき人物に此処へ来させる為の話をした。一通りの内容を聞いた彼は特に指摘する事無く、そうするべきだと賛成している。

 

『ならば兵藤君、その上官が来た後に、君が使ってるその端末を私に繋げてくれ』

 

「俺達の会話を聞きながら、連絡するタイミングを狙う為にですか?」

 

『察しが良いな。USNA軍としても、私が急に出てくるなど思っていない筈だ』

 

「なるほど。一種の心理戦ですね。俺との話を終えて油断してる所を突けば、向こうが動揺してる際に多少の隙を見せてくれる、ってな感じですか」

 

『そう言うことだ。例え此方がUSNAを追及する材料があると言っても、なるべく有利な状況に持って行きたいのだよ』

 

 外交に関する交渉では必須だから覚えておくと良い、と九島はそう付け加えながら俺に教える。

 

 権力者であった嘗ての聖書の神(わたし)としても同意出来るものである為、九島の提案を一切反対する事無く了承した。

 

 そして九島と話を一旦終えた俺は、リーナが持っていた情報端末を使い、上官と思わしき人物と話そうと行動に移す。




次回はピクシーの話になります。

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