再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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今回は達也側の視点での話です。


来訪者編 行動開始前

 時間は少し遡る。

 

 

 場所はメンテナンスルーム。達也はそこで本日の話題となっていたピクシーをチェックしようと此処にいた。

 

 いるのは彼だけじゃなかった。メンテ室を申請してくれた生徒会長のあずさ、達也が来る前にピクシーを調べていた五十里、その五十里の隣にはデフォルトで花音。そして更に深雪、ほのか、エリカ、レオ、幹比古、美月と言う達也の一行。もし隆誠がいたら、一年の深雪達に対して呆れながらこう呟いているだろう。『無関係な筈のコイツ等が来るのはもうお約束なんだな』と。

 

 ピクシーを調べていた際、驚愕な事実が判明する。以前に交戦したパラサイトが、ロボットであるピクシーに憑依しただけでなく、ほのかの想念によって自我が覚醒したのだ。それによって意思を持った彼女(?)は、達也に従属したいと自ら申し出ている。その理由を告げていた際、ほのかが暴走状態になろうとしたところを深雪やエリカによって止めていたのを補足しておく。

 

 そして一通りの話を聞いた達也が命令を出そうとするが、ピクシーはこう告げた。

 

『もし宜しければ、もう一人お会いしたい方がいるのですが』

 

「もう一人? それは誰だ?」

 

 自分以外の人間も捜していた事に達也は訝るも、取り敢えず訊いてみる事にした。

 

『前の宿主が言っていた名は――「シューティング・スター」です』

 

「!?」

 

 ピクシーから告げられた名を耳にした事で、達也だけでなく、この場にいる者達も目を見開いた。

 

 人名ではないが心当たりがあった。先月にリーナが一高へ来た初日、隆誠はアメリカで注目しており『シューティング・スター』と言う渾名で知れ渡っていると教えてくれた。

 

 パラサイトが隆誠を何故捜しているのかなんて、達也達には全く分からない。当の本人は現在授業に出ている為、すぐに確認出来る状況ではない。

 

「確認するが、その『シューティング・スター』とは『兵藤隆誠』……いや、『リュウセイ・ヒョウドウ』のことか?」

 

『Yes』

 

 以前に憑依していた前の宿主はUSNA軍関係者であった為、隆誠のフルネームを海外側で改めて言い直すと、ピクシーはすぐに返答した。

 

「ならば兵藤を捜している目的は?」

 

『訊きたい事があるからです。これは前の宿主だけでなく、他のパラサイト達も同様で今も彼を捜し続けています』

 

「その訊きたい事とは一体なんだ?」

 

『彼には我々の同胞(なかま)と思わしき繋がりがあるので、その者達が何処にいるのかを知りたいのです』

 

 笑顔で答えるピクシーとは全く異なるように、聞いていた誰もが言葉を失った。

 

 隆誠がパラサイト達との繋がりがある。それは即ち、隆誠はパラサイトの仲間だと言ってるも同然である。

 

「ちょ、チョッと待ってくれ!」

 

「リューセーがパラサイトだなんてあり得ねぇ!」

 

 すると、聞き捨てならないと言わんばかりに幹比古とレオが否定する様に声を荒げた。

 

 二人は信じられないのだ。クラスは違えど、友人としての付き合いがある隆誠がパラサイトの仲間であった事に。

 

 普段彼と一緒に仕事をしてる生徒会メンバーの深雪、ほのか、五十里、中条は声を荒げようとはしてないが、幹比古達と同様の気持ちであった。それ以外にエリカや風紀委員長の花音、そして隆誠と大して接点のない美月も含めて。

 

 幹比古達の叫びにピクシーは慌てた様子を見せずに笑顔のままだった。パラサイトと言えどもロボットだからか、もしくは従属してる達也以外の声に反応しないのかは分からない。

 

「二人とも、落ち着け。兵藤がパラサイトだとまだ決まった訳じゃない」

 

 予想外の返答を聞きながらも達也は冷静さを失わず、ピクシーに抗議しようとする幹比古とレオを宥めようとした。

 

 だが、それとは裏腹に――

 

(これは早急に手を打たねば不味いな。だがそれ以前に今後深雪に近寄らせないよう……いや、すぐには無理だ。兵藤は深雪と同じく副会長だから、引き離すにしても相応の理由が無ければ――)

 

 達也は深雪のガーディアンとして警戒対象を排除、もしくはどうやって引き離そうかと様々な手段を構築していた。

 

 そんな考えを余所に、表面上は冷静を装いながらもピクシーに問おうとする。

 

「ピクシー。兵藤がパラサイトとの繋がりがあると言っていたが、そもそもお前達は以前から兵藤の仲間だったのか?」

 

『違います。彼との面識はありません。前の宿主であれば、その時の記憶はあったかもしれませんが』

 

「確か前の宿主に関する記憶は、移動の際に知識を除いて失われると言っていたな。であれば何故、兵藤に関する記憶だけは残っているんだ?」

 

『分かりません。本来ならば失われる筈の記憶ですが、彼に関しては何故かそのまま残っていました。確証はありませんが、それだけ「シューティング・スター」と繋がっている同胞(なかま)に会いたい欲求があったかもしれないと、私はそう考えています』

 

「先程から『兵藤に繋がってる同胞(なかま)』と言っているが、それはお前達と同じパラサイトなのか?」

 

『パラサイトであるかは断言出来ません。あくまで我々がそう判断しているだけですから』

 

「では兵藤と直接会えば、その繋がりがパラサイトであるかを確認出来るか?」

 

『これも断言出来ませんが、彼に会わせてくれるのでしたら、ある程度分かると思います』

 

 達也の質問に、ピクシーはスラスラと答えていく。

 

 先程までやっていた遣り取りだが、再び会話が出来ている事でピクシーから放たれる思念波が嬉しそうに感じるのは、もう錯覚ではないと彼は確信している。

 

 表情は笑みのままでありながら、まだまだ話し足りないような感じが見受けられるも、一先ずはこれで終わりと言うように命令を下す。

 

 そして達也は決めた。深雪の安全を守る為の名目として、放課後に隆誠を連れて確認しようと。

 

 

 

 

「おい達也、それ本気で言ってるのか?」

 

「いくらリューセーが疑わしいからって、ピクシーの話を全て鵜呑みにするのはどうかと思うよ」

 

 ピクシーとの話を終え、メンテ室を出た二年の中条達と別れた達也は、深雪達に今後の事を話した。

 

 それを聞いたレオと幹比古は空かさず反対意見を出すも、当の本人は意思を曲げようとしない。

 

「確かに幹比古の言う通りかもしれないが、かと言ってこのまま放置出来る案件でもない。ピクシーを除いた他のパラサイトが、どれだけ危険な存在であるかを分かっている筈だ」

 

「それは……」

 

 達也の言葉に幹比古は否定出来ずに口を噤んでしまう。

 

 知っての通り、パラサイトは人間に寄生する魔物である。人間の本質を大きく変えてしまう他、人間の精気を吸い取って己の糧とする危険な存在。この場にいる誰よりも、パラサイトに詳しい古式魔法師の幹比古が誰よりも理解している。

 

 けれど、友人を疑おうとするのは流石に良心が痛んでしまう。いくら達也の言ってる事が正しくても、自分と同じ学校生活を送っている相手に対し、『お前はパラサイトか?』などと言えはしない。そんな事をすれば隆誠との関係に亀裂が入るどころか、絶交されてもおかしくない。

 

「でもよぉ、んなことしたらどっちにしろ後味が悪い結果になるぜ」

 

 それは幹比古だけでなくレオも同様の気持ちだった。友人との付き合いを大事にする彼としては、達也のやろうとしてる事は大変気が乗らないのだ。

 

 時折剣道部に顔を出して、修哉との手合わせをする際に色々と的確なアドバイスを送られている事もあって、実力が少しずつ伸びて色々感謝している。指摘される度に殴ってくる誰かさんと大違いだと口にすれば、とある赤毛の美少女が知った瞬間に激怒するだろうが。

 

「分かっている。だから今回は俺一人でやるつもりだ」

 

 これは最初から達也が一人で問い詰める予定であった。隆誠と親しい関係である幹比古達がいれば、必ず(わだかま)りを残す事になるだろうと分かっていたから。

 

 自分もそれなりの付き合いがあると言っても、余り良い感情は持っていない。加えて隆誠とは元から仲が良くないので、今以上に関係が悪化しても大して問題無いと彼は考えている。

 

 そう締め括ろうとした達也だったが――

 

「わたしもご一緒します。お兄様だけ泥を被せるわけにはいきません」

 

 お決まりのパターンとなっているように、守るべき存在である深雪が自らそう言ってきた。

 

 彼女としては兄が最優先である。隆誠とは生徒会での付き合いがある他に秘密の恩(・・・・)があると言っても、それはあくまで表面上なモノに過ぎなかった。もしも嫌われたところで、深雪は平然と受け入れるだろう。自分にとって兄が全てであるが為に。

 

「深雪が同行する必要は無いよ」

 

「いいえ、今回ばかりは譲れません。もしもそれが原因で兵藤くんと争うような事になって、万が一お兄様がお怪我をされた事を考えると、妹のわたしは居ても立っても居られません」

 

「そんな事態になれば、猶更お前を一緒にする訳には――」

 

「はいはい、今はそう言う事をしてる場合じゃないでしょ」

 

 互いに身を案じ合う麗しい兄妹愛のやり取りを見れば胸焼けしそうだと思ったのか、エリカがぶった切るように割って入って来た。いつもなら耐えるように見ているのだが、今回は事情が事情だから止めざるを得なかった。

 

 深雪は思わず文句を言おうとするも、真剣な表情になって止めてきた彼女の表情を見て出来なかった。

 

 エリカの心情は幹比古やレオと同様に隆誠を疑いたくない気持ちはある。けど、だからと言って躊躇う訳にはいかなかった。もしも隆誠が仮に門人(レオ)を襲ったパラサイトの仲間であったら、彼には千葉家に喧嘩を売った落とし前を付けてもらわなければならないから。

 

「達也くん、今回はあたしも同伴するわよ。正直言ってピクシーの言ってる事なんか丸っきり信じてないけど、万が一の備えは必要じゃない? もし戦うような事になれば、あの隆誠くんを相手にタダで済むとは思えないわ。それは達也くんも理解してる筈よ」

 

「……………」

 

 否定出来ないのか、達也は何も言い返せなかった。

 

 実際その通りである。はっきり言って隆誠の実力は、自身の手に負えないと思えるほど非常に厄介なのだ。

 

 去年の九校戦で披露した魔法や身体能力に加え、近接戦だけで呂剛虎を単独で倒せる実力の持ち主でもある。エリカに言われなくても、簡単に倒せる相手ではない事は充分に理解していた。

 

 だがそれでも、深雪の障害、並びに平穏を壊そうとするかもしれない相手であれば、如何に厄介であっても排除しなければならない。深雪の守護者(ガーディアン)としての役割であるから。

 

「わ、私もご一緒します!」

 

 非戦闘員である筈のほのかも加わろうとするのは理由があった。

 

 元はと言えば、ピクシーに憑依したパラサイトを目覚めさせた原因が自分である。無関係では済まされないと、ほのかはそう考えていた。

 

 それに加え、もし自分の知らない間に再びあの恥ずかしい内容を暴露されたら非常に不味い。もしピクシーが隆誠にそれを教えたら、今度こそ恥ずかしさの余り死んでしまいそうだから。

 

「えっと、兵藤君がパラサイトで無いことを確認するのでしたら、私も協力しようと思っていますが……」

 

 美月も同伴すると主張する事に達也達は少しばかり驚いた。

 

 確かに彼女の水晶眼であれば、隆誠がパラサイトであるかどうか判明するだろう。現にそのお陰でピクシーの中にパラサイトが憑依してるのを確信し、ほのかの思念を写し取った事が分かったのだから。

 

「珍しいわね。美月にしては随分積極的じゃない」

 

「私も兵藤君とはそれなりの付き合いがありますし、達也さんだけ嫌われ者になって欲しくありませんから」

 

「え? それなりの付き合いってどういうこと?」

 

「エリカちゃん、今はそんな事を訊いてる場合じゃないでしょう」

 

 詳細を尋ねようとするエリカに美月は話題を戻そうとする。

 

 因みに幹比古が凄く気になっている様子を見せていたが、確かに彼女の言う通りだと今は(・・)敢えて気にしない事にした。

 

「深雪達の気持ちは嬉しいが、それは流石に……」

 

「そんなの今更でしょ。と言うか達也くん、この状況であたし達が簡単に引き下がると思ってる?」

 

「………はぁっ」

 

 エリカの台詞を聞いた達也は、これは無理だと悟ったのか溜息を洩らした。

 

 深雪だけでなく、女性陣が覚悟を持った目で見て来るから、男の自分ではもうどうしようもない。

 

「分かった。先に言っておくが、兵藤に何を言われても責任は持てないからな」

 

 同伴する事を許可した達也に深雪たち女性陣は強く頷いた。

 

「で、アンタ達はどうするの?」

 

「「う……」」

 

 エリカは口にせずとも目で訴えていた。『女のあたし達は覚悟を持ってるのに、男のアンタ達はこのまま情けなく引き下がるのか?』と。

 

 当然、彼女からの訴えに幹比古とレオは気付いている。

 

 故に――

 

「達也、僕も同伴するよ」

 

「何かあればフォローするぜ」

 

 達也と一緒に隆誠がパラサイトでないかを確認せざるを得なかった。

 

 そして放課後に決行しようと行動を開始する。

 

 だが、彼等は知らない。これから自分達がやろうとしているのは、(元)神をも恐れぬ行為である事に。




感想で達也以外のメンバーが達也を信じて手のひら返しをしてるとコメントがあった為、彼等の隆誠に対する心情を表しました。

読者の皆様からすればフォローしてるように思われるかもしれませんが、個人的に主人公側の原作キャラは好きですので。

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