再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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入学編 新入部員勧誘③

「縮地法と遠当て、か。中々興味深いものを見せて貰った」

 

「そりゃどうも」

 

 本部を退室した後、俺は司波と一緒に歩いていた。

 

 本当ならすぐに別れようと思っていたんだが、司波が何やら聞きたそうな雰囲気がしたので、ほんの僅かでも話し相手になろうと興じている。

 

「しかし、あんな秘伝同然の技を簡単に教えても良かったのか?」

 

「よく言う。ジックリ観察しようと目を皿のようにしていた誰かさんが言う台詞じゃないと思うんだが」

 

「…………」

 

 俺の台詞に司波は否定せずに無言となった。

 

「まぁそれはそうと。司波、お前いつの間に風紀委員になったんだ? 二科生なのによく入れたな」

 

「俺とて最初は入る気などなかったが、色々と事情があってな」

 

「ほう」

 

 どんな事情なのかと訊いてみたいけど、司波がそれを簡単に教えてくれるだろうか。

 

「だったら教えてくれよ。ちょっとで良いからさ」

 

「プライベートな事情をお前に教える気はない」

 

「いいじゃないか。そっちの頼みで俺の秘伝を見たんだから等価交換だ」

 

「それはあくまで会長達からの頼みで、俺は見せて欲しいなどと言った憶えはない」

 

「ふ~ん、そう来るか」

 

 渡辺が言った通り、どうやらコイツは本当に一癖ある奴だ。しかも性質が悪い事に、自分は何も口出ししてないから一切非はないと言うスタンスを取っている。

 

 何だか棚から牡丹(ぼた)(もち)のように思えてしまう。そう考えるだけで少しばかりイラっとくる。

 

 なので、俺からちょっとしたお返しをしてやるか。

 

「じゃあせめてこれだけ教えてくれ。司波、あの乱闘事件が起こる前に赤毛の子と一緒にいたよな?」

 

「赤毛の子……ああ、俺の友人の事か。それがどうした?」

 

「校庭で服がはだけた彼女の腕を掴んで、人気(ひとけ)のない場所まで無理矢理連れて行ったのを偶然見たんだが」

 

「誤解を招く言い方をするな。あれは――」

 

「お兄様、それはどう言う事ですか?」

 

 説明しようとする司波に、突如第三者が割って入る声がした。

 

 思わず振り返った先には妹の司波深雪だ。しかも気のせいか、彼女の全身から冷気を放つようなオーラが放たれている。

 

 ついでの彼女の後ろには司波の友人である赤毛の子や、この前に見た友人達もいる。特に赤毛の子は凄く焦ったような表情だ。

 

 冷静に見ている俺とは別に、兄の方の司波は段々と顔を青褪めていく。

 

「エリカを人気のない場所まで無理矢理連れて行ったというお話、私、大変興味があるのですが」

 

「待て深雪、誤解している。それは兵藤の勘違いだ」

 

「そんじゃ俺帰るわ。またな、司波」

 

「兵藤、お前――!」

 

 巻き添えにならないよう、俺は別のルートで即時退散した。それに気付いた司波は俺を引き留めようとするも、妹によって阻まれてしまい叶わなくなる。

 

 本当なら転移術、もしくは超スピードで逃げたいところだが、流石に人の目があるので走って逃げる事にした。

 

 棚から牡丹餅についてはコレでチャラにしておこう。尤も、司波としては濡れ衣を着せられたと思ってそう簡単に許さないだろうが。

 

 俺が逃走をしている最中、司波は誤解してる妹に弁明しようと必死になっているのであった。

 

 

 

 

 

 

「ゴメン、リューセー。俺が出しゃばった所為で迷惑を……」

 

「気にすんなって」

 

 司波から逃走した後、校門前にいた修哉と紫苑に会った。

 

 修哉は俺が風紀委員の司波に連行された事で凄く申し訳ない気持ちになっていたようだ。その後に事情を知った紫苑も一緒になって、二人して俺が来るのを待っていたのだ。

 

 その後にお詫びをしたいと言う事で、俺は二人に案内されて喫茶店(カフェ)でご馳走になっている。因みに、ここは修哉の父親が経営してるカフェみたいだ。用意されたコーヒーや料理が結構美味い。

 

「私は逆にリューセー君に感謝するわ。君がいなかったら、修哉が危うく相手の魔法で大怪我するところだったし」

 

「そう言うなよ、紫苑。修哉としては壬生先輩を守ろうとしたんだからさ。まるで騎士(ナイト)みたいだったぞ」

 

「なっ……」

 

 俺が揶揄うように言うと、修哉は少しばかり顔を赤らめていた。

 

 だが逆に、紫苑は少々不機嫌そうな表情となる。

 

「相変わらず紗耶香先輩の事となると、そうしたくなるのね。あ~あ、ほんとに紗耶香先輩は修哉に愛されてるわね~」

 

「何言ってるんだよ、紫苑」

 

 意味深のように言う紫苑に修哉が困惑気味となる。

 

 言うまでもなく、彼女は嫉妬していた。修哉が体を張って守ろうとした壬生に対して。紫苑と壬生は仲が良いと修哉は言ってたが、案外そうでもなさそうだ。特に恋愛面に関して。

 

「もし私がそんな場面になっても、修哉は助けないんでしょうけど」

 

「そんな訳ないだろ。お前が危険な目に遭いそうになったら、紗耶香先輩には悪いけど俺はお前を一番に優先するぞ」

 

「えっ?」

 

 すると、さっきまで不機嫌だった紫苑が途端に変わる。

 

「俺にとって紫苑が一番大事なんだ。ずっと一緒にいる幼馴染と学校の先輩とじゃ全然違う。それに紫苑は――」

 

 修哉が何だか段々と紫苑が如何に大事であるかを語り始める。それによって彼女の顔がどんどんと真っ赤になっていき、次第には俯いていく。

 

 う~ん、本人にとっては幼馴染優先論を語ってるつもりなんだろうが、俺からすれば恋人の惚気(のろけ)話に聞こえてしまう。更に性質が悪い事に、修哉が真剣な顔で言っている。もう紫苑の顔は熟れたトマトみたく真っ赤だ。

 

 ブラックコーヒーを頼んでおいてよかった。自覚無い惚気話によって口の中が甘ったるくなってたから、苦いコーヒーのおかげで何とか相殺出来ている。

 

 どうでもいいけど修哉、お前やっぱり紫苑と付き合えよ。この先ずっとこんな空気が続くとなると、本当にもどかしくなるんだからさ。

 

「だから俺としては紫苑が何より――」

 

「修哉、これ以上はもう止めて! リューセー君がいるんだからぁ!」

 

 羞恥に耐え切れなくなった紫苑は真っ赤な顔のまま爆発した。

 

 いや、別に続けていいよ。君達の惚気話を肴にしながらコーヒーを飲んでると、何だかとても愉悦な気分になっちゃってるから。

 

 おっと、肝心のコーヒーが無くなっちゃった。店長さんにお代わりを頼まなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 西暦2095年4月9日

 

 

 

 新入部員勧誘週間は四日目。校庭は相変わらず多くのクラブが、未だ何処に入部しようかと迷ってる有望株の新入生を確保しようと躍起になっている。

 

 勧誘行為に度が過ぎた行為を行ってるクラブは、風紀委員によって取り押さえられる事となる。当然、風紀委員となってる司波も動いており、今日も頑張っていた。

 

 因みに俺の発言で司波深雪を誤解させた事については、物凄く恨みがましい目で見られる事となった。前回と同じく、誤解を解くのに少しばかり時間が掛かったそうだ。

 

 二度も誤解を招いた事を言ったから、アイツは俺に対する警戒を強めているだろう。勿論、発言に対してのだが。

 

 さて、それはそうと、俺は現在ちょっとした面倒事に巻き込まれていた。

 

「全く、懲りない連中だ」

 

 そう言いながら俺は下を見ながら、埃を振り払うようにパンパンと手を叩いていた。そこには複数の一科生達が倒れている。

 

 何故こんな風になっているのかは当然理由がある。事の発端は二日目の出来事だ。

 

 俺がいくつかクラブ見学をした後、休憩がてらに森林エリアへと向かったのだが、そこでまるで待ち伏せしていたように複数の一科生達に取り囲まれた。

 

 どうやら二科生である俺が初日に剣術部の次期エース、二年生ではトップクラスの実力者と目されている桐原(きりはら)武明(たけあき)を倒した事がお気に召さなかったようだ。

 

 そのニュースを知った一科生、と言うより魔法選民主義の連中を驚愕させ、怒り狂わせてしまった。だから俺が今後調子に乗らないよう、相応の報いを受けさせようとしている。

 

 理由を知った俺は、余りにも下らなさ過ぎると内心物凄く呆れ果てた。同時に安っぽいプライドだと。

 

 こんな連中(バカども)とまともに相手する必要は無いと判断し、上辺だけの謝罪をしてやり過ごそうとしたのだが、その選択は誤りだったと思い知らされた。何と連中はあろう事か、俺に魔法を撃ってきた。

 

 咄嗟に躱した俺は風紀委員が黙っていないと即座に抗議するも、更に信じられない事に連中はとんでもない事を言い放った。『これは単なる事故で、お前はそれに運悪く巻き込まれただけだ』と凄く嫌な笑みを浮かべながら。

 

 聖書の神(わたし)が別世界の異物とは言え、実に嘆かわしいと思わざるを得なかった。たかが魔法と言う手段があるだけで優越感に浸り、それを少し傷つけられただけで報復行為に走ろうとする愚かな連中(バカども)が、この日本を担う魔法師になるのを考えるだけで恐ろしくなる。

 

 取り敢えず個神(・・)的な事情は後回しにしようと、俺は正当防衛と言う理由で、魔法を撃ってきた連中(バカども)をあっと言う間に終わらせた。超スピードで移動しながら、対象の首筋にトンッと手刀で当てて気絶と言う僅か数秒未満で。向こうからすれば何が起きたのか分からずに気を失っただろう。

 

 そこからは間が悪かったと言うべきか、一科生を気絶した後に偶然来た司波が目撃して、すぐに取り調べとなった。誤解を招いた件もあって仕返しをされるかと思ったが、そう言った私情に走らず、事情を説明したら察したようにすぐ解放し、気絶した一科生達を連行しようと別の風紀委員に要請した。

 

 しかし、これで終わりじゃなかった。三日目にまたしても一科生達に襲われたのだ。しかも最悪な事に、向こうは真正面から挑んでは勝てないと分かったのか、今度は離れたところから魔法を撃ってきた。躱した俺はすぐに捕まえて気絶させ、今度は司波以外の風紀委員に事情を説明して連行させたのだが、思いも寄らない事態が起きた。何と犯人はすぐに釈放されたらしい。

 

 それを聞いて納得出来ない俺は即行で風紀委員会に抗議するも、証拠不十分と言う理由だそうだ。思わずふざけるなと憤慨しそうになるが、風紀委員側としてはそうせざるを得ない理由があると説明された。俺が捕まえた犯人は風紀委員が取り締まる前に気絶させてしまった為、本当にその一科生がやったのかと疑念を持たざるを得ない。更に当の本人は目覚めた後、『そんな事をしてない』と真っ先に否定してきたので、結局は釈放となった。

 

 どうやら一般生徒と風紀委員の証言は全く異なるみたいで、いくら俺が声高に叫んでも風紀委員がちゃんと目撃しない以上立証されない決まりになっているようだ。恐らく襲った一科生はそれを分かった上で仕掛けたかもしれない。知能犯もいいところだ。

 

 そして四日目の今日、前回と同様懲りずに襲い掛かって来た一科生を一瞬で気絶させている。

 

 このまま俺が風紀委員に連行させたところで、コイツ等はすぐに否定し釈放されるのがオチだ。そうやって逃げるんなら、こっちにも考えがある。

 

 今この場に俺と、気絶してる一科生の二人だけしかいない。

 

「さ~て、お前ら魔法師にとって不名誉なレッテルを貼らせてやる。恨むなら、俺に喧嘩を売った自分の愚かさを後悔する事だ」

 

 そう言いながら俺は、前の世界にいた(イッセー)が開発した技――洋服破壊(ドレスブレイク)を発動させた。

 

 翌日以降、とある一科生の男子生徒二名が暫くの間、学校を休む事となった。そして数か月後には転校届を出していなくなっている。

 

 理由は勿論ある。何故なら人気のない場所で愛しあうように全裸で抱き合ったまま眠っている所を、風紀委員の一人に目撃されて学校全体に知れ渡ってしまったのだ。

 

 これは後に第一高校を震撼させた事件となるも、職員が総動員して外に漏れないよう徹底的に隠蔽された。毎年、国立魔法大学へ最も多くの卒業生を送り込んでいるエリート校である一高としては赤っ恥も同然なので、何としても避けたい事態だった。

 

 その間、生徒達――と言うより男女別に極端な反応をしていた。男は当然悍ましく思っている。女も当然そうなのだが……一部は凄く興奮して真相を知りたがっていた。『どっちが攻めでどっちが受け』とか『リアルBL』とか『誘い受け? それともヘタレ攻め?』などと言う意味不明な単語を口にしている婦女子がいたそうだ。




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