再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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今回も幕間的な話で、リューセー側の内容です。


来訪者編 隆誠の考察

 時間は夜。

 

 俺は部屋でこれまで起きた事を整理していた。

 

(少しばかり不味い事になったな……)

 

 司波達にパラサイトだと疑われるも、幹比古のお陰でどうにか無実だと証明出来たが、それとは別の厄介事が起きていた。まだ完全にバレていないとは言え、神造精霊であるレイ達との繋がりを露見したのが不味い。

 

 俺が怒っている事を理解させた後に罰を下した事で、深く追究させないように成功する。一番知りたがっていた幹比古達は負い目となったように諦めるも、司波達也のみ違った。アイツは他と一緒に頭を下げて反省していたが、あくまで表面上に過ぎない。

 

 あの程度で簡単に引き下がる性格でないのは分かっていた。機会があれば知ろうと言う魂胆が丸分かりだが、多少は周囲の空気を読んで暫く大人しておくのが吉、みたいな事を考えている筈だ。

 

 クラスが違うとはいえ、司波との付き合いはそろそろ一年になる。普段あの鬱陶しい眼で視られてる俺としては、能力(ちから)を使わずとも分かってしまう。あの呆れるほどの警戒心が無ければ多少仲良く出来るんだが、それを指摘したら余計警戒するから、本当に質が悪いったらありゃしない。

 

 加えて、あの鬱陶しい眼もいい加減に止めて欲しい。俺が生徒会の副会長に就任してから頻繁に使っている。アイツにとっては監視かもしれないが、俺からすればストーカー行為も同然だった。特に生徒会室で司波妹と二人になっている時とか。もしも俺が彼女に不埒な行いをしようものなら、あのシスコン兄は生徒会室の扉をぶち破ってでも駆け付けてくると断言出来る。

 

 司波が用心深すぎる原因の源は、間違いなくあの眼だろう。幹比古の話では『魔法式を分析出来る』と言っていたが、アレは相手の位置も把握出来ている。司波の眼は謂わばドラグ・ソボールの便利メカ――『ディテクター』みたいなモノだ。あんな便利な眼が前世(むかし)の頃にいたテロリスト――『禍の団(カオス・ブリゲード)』が知れば、無理矢理に拉致してでも欲しがるのが容易に想像出来る。

 

 そのお陰でアイツは常に先手を打っていた。九校戦のモノリス・コード、そして横浜事変での戦闘でも。司波にとって、その眼は一種の強みであり、そして弱点でもある。

 

 もしも聖書の神(わたし)能力(ちから)を使って鬱陶しい眼を封じる、もしくは使えなくすれば、司波の戦闘力は激変する筈だ。今まで頼っていたものが急に使えなくなってしまえば、どんな人間でも必ず冷静でいられなくなる。普段無感情な司波でも、多少は狼狽する筈だ。

 

 これまで何度そうしてやろうかと考えた事か。敢えて無視してるのを良い事に、向こうはこっちの気も知らないでやりたい放題している。

 

 かと言って俺がそれをやってしまえば、アイツは一層警戒されてしまう破目になる。例えどんなにキツい灸を据えたところで、妹を守る為と言う理由で絶対に懲りる事をしない。司波はそう言う奴なのだから。

 

(まぁ、司波以外にも問題はまだあるんだが……)

 

 昨夜に交戦したリーナを含めたUSNA軍、更にパラサイトが発端である『吸血鬼事件』。まだどちらも解決していない。

 

 しかし、前者に関しては近い内に片付く予定となっている。協力してくれた九島の方で、今後俺に手を出さないようUSNA軍に釘を刺して貰っている。彼の政治手腕を疑ってはいないが、国を動かせるほどの権力は無い他、九島家の当主から退いている身である為、絶対に大丈夫だと断言出来ない。

 

 世間話をした際、今年で米寿(88歳)になると言っていた。失礼極まりない事を重々承知の上で言わせてもらうと、もういつ死んでもおかしくない高齢者だ。故にポックリ逝ってしまったら、USNA軍と交わした約束は白紙状態になってしまう恐れがある。

 

 例えそうなって向こうが懲りずにまた仕掛けてきたら、今度は徹底的に叩きのめすつもりだ。そのついでに、USNA軍が持っている(魔法も含めた)軍事機密情報を能力(ちから)によって根こそぎ頂いた後、日本中だけでなく全世界にばら撒いてやる。そうなればUSNA軍どころかアメリカ政府は俺と言う一個人に構ってられず、各国の対応に明け暮れる日々を送り続けると言う悲惨な現実が待っているだろう。国のメンツを徹底的に潰されれば、それを立て直すのに相応の時間を要する。世界のパワーバランスを壊してしまう事になるが、聖書の神(わたし)に喧嘩を売った相応の報いとして受けてもらう。

 

 っと、まだ確定してない未来について語るのは此処までにしておこう。今は目の前の事を優先しなければ。

 

 もう一つの問題はパラサイトだ。司波達也やUSNA軍以前に、これを解決しなければ平穏な日常を訪れる事が出来ない。

 

 覆面男はリーナが始末し、覆面女は学校で自害した後にピクシーへ憑依している。数は不明だが、あの二体のパラサイト以外にも間違いなくいる筈だ。

 

(ん? ちょっと待て。今気付いたんだが、覆面男に憑依していたパラサイトは一体どうなった?)

 

 確か依り代にしてる人間が死亡、もしくは身体を失うと、パラサイトは霊体となって彷徨うと言っていた。だからリーナに始末された覆面男のパラサイトは……実質倒したのではなく逃げられたと言った方が正しい、か。

 

 真由美から覆面女の事を聞いた時点で思い出すべきだったのに、それに気付かないまま今になって思い出すとは不覚だ。

 

 覆面男に憑依していたパラサイトは、もう既に別の人間に憑依していると想定すべきだ。もしリーナが再びソイツを始末したところで、また振り出し状態に戻ってしまう。

 

 そう考えると、リーナたちUSNA軍のやっている事はハッキリ言って無意味に等しい。霊体であるパラサイトを滅ぼさなければ、ソレはまた新たな人間に憑依するというループ状態に陥る。いや、もうすでに陥っていると言った方が正しいか。

 

 となれば、パラサイトを倒そうとしている司波達も不味い。ただ憑依してる人間を殺すだけと考えているなら、リーナのやってる事と全く変わらない。

 

 まぁ司波の事だから何かしらの対処法を考えている筈だ。現状で自分が倒せない相手と分かれば、対パラサイト用の攻撃手段を編み出している……と考えて良いのだろうか。

 

 並みの魔法師より抜きん出ているとは言っても、確実に勝てるとは思えない。いくら司波が対人戦に優れているエキスパートでも、パラサイトみたいな対妖魔戦となればビギナーに成り下がってしまう。加えて古式魔法師でもないから、流石のアイツでもパラサイトを簡単に倒す事は出来ない筈だ。

 

(やはり確実に仕留める事が出来るのは俺だけ、か) 

 

 俺、もとい聖書の神(わたし)であれば葬る事が出来る。自分の光は当然霊体にも通用するから、人間に憑依しているパラサイトのみを消すのは造作も無い。

 

 とは言え、未だ実際に試した事が無いから絶対と言えないのが実状だ。再びパラサイトと交戦すれば証明する事が出来るのだが……少しばかり問題があった。

 

(俺一人だけで片付けたら絶対文句を言うのがいるんだよなぁ……)

 

 司波は別に問題無い。アイツは普段俺を警戒してるから、知られたところで更に警戒度を上げるだけで済む。それはそれで鬱陶しいが。

 

 俺が懸念してるのは千葉エリカだ。彼女は門人であるレオがパラサイトにやられてしまった為、報復しようと動いている。それに無理矢理付き合わされている幹比古は気の毒としか言いようがない。

 

 千葉家は十師族じゃないと言っても、百家の中でも名門と呼ばれている。加えてエリカ自身もプライドが高い。

 

 因みに俺をパラサイトと勘違いして襲い掛かった件はあったが、もうそれは帳消しにしている。俺が簡単に躱した際、彼女の口と鼻を塞いで逆に殺しかけてしまった以外に、ちゃんと罰も与えているから。それは当然エリカも承諾済みだ。

 

 だがそれとは別に、エリカが報復しようと躍起になって動いているところを、俺だけで片付けたなんて知られたら後々面倒な事になるだろう。面子を取り戻す機会を潰したとか言う理由で。

 

(ま、そうなったら力の差を教えてやれば良いか)

 

 今まで千葉家には極力関わらないようにしていたけど、もし向こうがああだこうだ五月蠅く言ってくるなら、思い切って相応の手段を取らさせてもらう。その時にはエリカと相手をして、あの鼻っ柱を圧し折ってやるのが丁度良い。印可と言う実力を持っている故か、どうも過信してるような気がするので。

 

 他にも彼女の兄――千葉修次と戦うと言う選択肢もあるが……止めておくか。そんな事をすれば俺にとって不味い事になる。彼の恋人である摩利とはそれなりの仲だから、関係が拗れるような事は避けたい。普通は身内のエリカを気遣うべきなんだが、俺としては摩利の方を優先する。

 

 一先ずエリカの対処はこれで良いとして、パラサイトについて戻るとしよう。

 

 俺が一人で動くのが不味いのは分かった。そう考えると………久しぶりに分身拳を使い、もう一人の俺が『白般若』に変装して活動するしかない。

 

 そうなれば司波達と鉢合わせする可能性は高いが、それは別に構わない。仮に遭遇したら、もう一人の俺が出て、変装した白般若の俺と別人だと思わせる事が出来る。いくら司波でも、人間が分身するなんて言う非現実的な事を考えたりしない筈だ。非現実的な事をやってる俺が問題となってしまうが、そこは敢えて気にしないでおく。

 

 行動を開始するにしても、それは明日だ。昨夜にリーナ達との戦い、今朝は捕虜の引き渡し対応、そして放課後には司波達との対応により、疲労が溜まりに溜まってる状態だ。故に今夜は明日に備えて、早めに寝るとしよう。人間は睡眠を取らなければ、身体や思考がまともに働かなくなるから、休む事も重要なのだ。

 

 なるべく万全な状態で行動したいから、チョッとばかりレイとディーネにも協力して――

 

 ――ご主人様、身体を癒す為にレイが添い寝するの!

 

 ――主、私が使う水の力で、主の疲労を回復、する事が出来ます。

 

 もらおうと考えていた際、いつの間にか俺の目の前に現れて奉仕する気満々だった。

 

 ……まぁ良いか。この子達は風邪を引いた母さんを治した実績があるから、今回はお言葉に甘えるとしよう。

 

 如何でも良いんだがレイとディーネ。添い寝するからと言って、即座に服を脱いで全裸になるのは止めてくれ。ちゃんとパジャマを用意するからさ。

 

「ん? おお、来たか」

 

 俺が寝る準備をしている中、携帯端末が突然鳴り響いた。ディスプレイには『九島烈』と表示されている。恐らく今朝の結果報告をする為に連絡したのだろう。

 

 既に準備万端のレイとディーネには申し訳ないが、俺は九島の話を聞こうと通話ボタンを押す事にした。

 

「もしもし閣下、お待ちしてましたよ」

 

「「……………………」」

 

 九島と話している最中、精霊(こども)達が可愛らしく頬を膨らませながら睨んでいるのは気にしないでおく。


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