それと今回も短いです。
九島からの連絡は、予想した通りの結果報告だった。此方が有利な立場である事を一切変わる事無く、USNA軍は今後俺に手を出さないよう約束してくれたとの事だ。
勿論、単なる口約束だけで済んでいない。USNA軍が俺を強襲、並びに俺の家族を密かに拉致しようとしたのは大問題であり、もし公表すれば外交問題に発展してしまう。その一連を知った九島は大きな弱味を握る事が出来たから、それを盾にして俺や家族に対する不干渉を約束させたのだ。公表して欲しくなければ此方の言う通りにしろ、みたいな感じで。
だが九島の性格を考えれば、その程度で済ませていない筈。他にも情報を頂いたのではないかと訊いてみたが――
『すまないが、学生の君に交渉の詳細まで教える事は出来ないな』
俺が学生であるのを理由に聞く事が出来なかった。
あくまでチョッとした興味本位に過ぎなかったから、別に深く知ろうとは思ってない。自分や家族に手を出す事さえしなければ。
せめてパラサイトに関する情報は得られたのかもう一度尋ねてみたが、余り大したモノではなかった。俺達が知っているパラサイトの概要と全く変わらないだけでなく、霊体になった時の対処法なんて一切無い。それ以外で知れたのは、USNA軍から脱走した軍人達の情報だけ。
因みにリーナ達は今後もパラサイト討伐を続けるとの事だ。パラサイトの憑依者がUSNA軍関係者である為、その不始末は自分達で片付けたいと。九島としても断る理由が無かったみたいで、秘密裏に処理するなら継続して構わないと許可したらしい。
出来れば許可して欲しくなかった。本当の意味でパラサイトを倒す手段を持っていないのであれば、始末したところで余計に
だが生憎、それを理由に九島を責める気は無い。元々は俺が彼に手を貸して欲しいと頼み、そして後の事を任せたのだ。それを今になって非難するのは筋違いどころか、恩を仇で返してしまう事になる。
恩に報いる為、今日起きた出来事としてピクシーにパラサイトが憑依してる件を話した途端、九島は大変興味深そうに『その話を詳しく聞かせてくれ』と言われた。
この時の俺は何の疑問も抱かずに話していたが、約半年後になって、それを教えた事を後悔するのは完全に予想外だった。
☆
西暦2096年2月16日
レイとディーネが力を使って俺の身体を癒してくれたお陰で、昨日に溜まっていた疲労は一気に無くなって万全な状態となった。かなり早く就寝した為、いつもの時間より早く起床してしまったが。因みに母さん達はまだグッスリ眠っている。
今日は剣道部の朝練があるのだが、それでもまだ早過ぎる。久しぶりに庭で自分用の早朝トレーニングでもしようかと考えたが、頭がスッキリしていた事もあって予定を切り替えた。昨日の放課後に起きた
転移先は一高にあるロボ研のガレージ。場所と位置さえ把握してれば、一瞬で学校に到着する事が出来る。けれど、学校に設置されてるカメラをすり抜けて侵入すれば問題が起きてしまうので、敢えて徒歩と交通機関を使わざるを得ない。因みにガレージに現れる寸前、俺は万が一の事を考えて咄嗟に視覚阻害用の結界を張っておいた。目の前にいる対象も含めて。
「ピクシー、サスペンド解除」
パイプ椅子に腰掛けている対象――ピクシーに向かって話しかけると、それに反応するかのようにソレはパチッと目を開けた。
「ご用でございますか」
マスターである司波に命じられているのか、昨日に使っていた能動型テレパシーを使わず、起動時の決まり文句を再生していた。
こう言う従順なところはレイとディーネに似ていると思いながらも、俺は本題に入ろうとする。
「ピクシーの中にいるパラサイト、お前に用がある。普通に喋って欲しいからテレパシーを使ってくれ」
「申し訳ありません。私は・マスターの・許可なく・サイキックを・行使することを・禁止されています」
予想通り司波の命令に背く事はしないようだ。
「一時的で構わないから、そこを何とかしてくれないか?」
「申し訳ありません。私は・マスターの・許可なく・サイキックを・行使することを・禁止されています」
改めて頼んでみたが、やはり無理だった。さっきと同じ台詞で断られる始末である。
流石は自ら司波に従属したいと言っただけであり、見事な忠誠心だ。思わず感心してしまう。
悪いけど、今回ばかりはその忠誠心を僅かな間だけ捻じ曲げさせてもらう。昨日、俺達に迷惑を掛けた元凶であれば猶更に、な。
「ならばお前を消滅させるしかないな、パラサイト」
『!』
俺が開いてる片手からボール状の光を出現させた瞬間、先程までと違う反応を示す。
ロボットである筈なのに、ピクシーは身体を震わせていた。俺が一歩近づくだけで段々と表情が変わっていく。
『そ、その光は、まさか……!』
「ほう、察しが良いな」
恐怖によってか、ピクシーは司波の命令に背くようにサイキックを使っていた。いや、そうせざるを得ない状況になってしまったと言うべきか。
俺が出した光は、
教えていないにも拘わらず、ピクシーは本能的に感じ取ったようだ。コレが霊体である
「お前が想像してる通り、コレはあらゆる存在を消す事が出来る光の塊だ。当然、お前たちパラサイトですらも、な。信じられないなら、今この場で試してやろうか?」
『っ!』
改めて『終末の光』について簡単に教えながら照準を定めると、ピクシーは完全に恐怖した。まさか、自分を簡単に消す事が出来る存在がいたなんて思いもしなかったのだろう。
「もう一度言うぞ、ピクシー。これが最後の
『……………………』
今度は急に無言となってしまったピクシー。此処でまた断ってしまえば、俺が何の躊躇いもなく『終末の光』で消されると理解したのだから。
俺がこのような脅しをしている理由は当然ある。そもそもコイツが昨日に起きた騒動の元凶なのだ。
司波達はピクシーの話を聞いた上で、俺を敵だと疑い、そしてあのような行動に移った。大袈裟な言い方だが、アイツ等はピクシーの発言に振り回された被害者と言う事になる。まぁそれでも人にCADを向けたり、襲い掛かって来たのは流石にやり過ぎな為、罰を与えた事で一先ず許したが。
けれど、本来咎めなければならない筈のピクシーに対して、俺はまだ許していなかった。それどころか怒りも収まってすらいない。
自分で言うのはなんだが、
逆に、それ以外の相手となれば話は別となる。人間を害する
いくら今後司波に従属するとは言っても、ロボットに憑依する以前まで多くの人間を襲っていた敵を目の前にして、簡単に気を許す事は出来ない。尤も、ピクシー本人は過去の事を全く憶えてないと言ってるから、チョッとばかり始末に負えない状態であった。
加えて今のピクシーは光井の想念と言う名の心を持っているから、ある意味彼女の分身みたいなモノだ。正直言って今でも消すかどうか判断に迷っている。
とは言え、人外の存在が俺や司波達に迷惑を掛けた事に変わりない為、此処は敢えて心を鬼にしてピクシーに選択肢を与えた。一時的に従って生き延びるか、もしくは主の司波に従ったまま消されるかを、な。
『……答える前に教えて下さい。貴方に従えば、私は今後もあの方と一緒にいられますか?』
「お前の返答次第だな。そもそも昨日、ピクシーが司波達に余計な話をした所為であんな事になったんだ。別に責任を取れとは言わないが、相応の罰を受けてもらう。だから俺に一時的従えと言っているんだ。それでも司波に対する忠誠心を貫くなら……本当にこのまま消えてもらうぞ」
『……………………』
ピクシーは再び無言となった。
漸く自分が仕出かした事を理解したみたいで、途端に目を閉じて考え始める。
そして――
『分かりました。一時的ですが貴方に従います、「仮初めのマスター」』
「理解してくれて何よりだ」
目を開き、覚悟を決めたピクシーが言う通りにしてくれたので、俺はすぐに『終末の光』を消した。
従うとは言っても、多少の抵抗はしてるようだ。マスターである司波と区分けするように、俺を『仮初めのマスター』と呼んでいるから、思わず苦笑してしまいそうになる。
まぁ俺には如何でも良い事なので、ピクシーの気が変わらない内に早速訊き出そうとした。一連の「吸血鬼事件」についての他、それを起こした動機も含めて。