再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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今回は第三者側の視点です。


来訪者編 幕間①

(大失態だ……)

 

 場所はとある週契約家具付き賃貸マンションのリビング。そこにあるソファーの上にバランス大佐はグッタリと座り込んでいた。

 

 兵藤隆誠を確保(=拉致)する為にあらゆる手段を講じて挑むも、大敗を喫するどころか、逆にスターズ総隊長のリーナを捕獲されてしまう。何とかして彼女を取り返そうと交渉するも、アッサリ引き渡されたところ、十師族『九島烈』の登場という予想外の不意打ちを受けてしまい、完全に主導権を握られてしまうと言う散々な結果になっている。度重なる失態によって、彼女のキャリアと矜持を大きく傷つける事になった。

 

 左遷や不名誉除隊を覚悟で報告したが、意外にも本国や大使館に駐在している軍官僚から軽い叱責程度で済まされた。敵に踊らされたとは言え、USNAの切り札である十三使徒『アンジー・シリウス』を取り返した事が功を奏したのだ。これでもし彼女が死んだとなれば、バランスは確実に首が飛んでいただろう。

 

 だが、九島烈に情報を奪われてしまった件に関しては別だった。兵藤隆誠が危険な魔法師といっても、一般市民である彼の家族に手を出そうとしたのは確実に外交問題になる為、USNAは日本に弱味を握られてしまうことになったのだから。

 

 パラサイト討伐を成功させたところで、今回の大失態を払拭させることは出来ない。手を出せなくなった兵藤隆誠とは別に、他の容疑者を確保しない限り。

 

 九島烈は隆誠と彼の家族に干渉しないよう約束させたが、それ以外の事に関しては一切触れていなかった。なので今後は、非公開戦略級魔法師として疑いのある司波兄妹に狙いを定めるしかない。

 

 そう考えに耽っている中、突如ノックする音がバランスの耳に届く。

 

「失礼します」

 

 入室の許可を求める声だが、何故か緊張する様に動揺していた。

 

「入れ」

 

 バランスは怪訝に思いつつも、姿勢を正しながら、しっかりした発音を心掛けながら許可を出した。

 

 リビングに入って来たのは、自身の護衛役を務めている軍曹。つい先日、隆誠に捕らわれたリーナを引き取る際、運転手をさせたパンツスーツ姿の長身の女性だ。

 

 その彼女が、何故か顔を強張らせながらこう言った。

 

「大佐殿に、ご面会を求めている者がおります」

 

「……何者だ?」

 

 本来面会など出来ない筈だった。バランスがこのマンションにいる事は秘密にされており、もし来るとすればUSNA軍の人間だけなのだが、護衛の軍曹が緊張する理由は無い。それはつまり、USNA軍が情報封鎖しているにも関わらず、部外者でありながらも、彼女がいるのを知って会いに来ている。

 

 もしかすれば兵藤隆誠、九島烈に匹敵するほどの厄介な人物ではないのかと思いながら、バランスは改めて訊いた。

 

「名はアヤコ・クロバ。ヨツバ家のエージェントを名乗っております」

 

「ヨツバ……!?」

 

 触れてはならない者たち(アンタッチャブル)と恐れられている十師族『四葉』は、バランスも当然知っている。つい先日対応した『九島烈』とは違う意味で有名であり、彼以上に関わりたくない存在でもあった。

 

 もしかしたら兵藤隆誠は『四葉』とも繋がりがあるかもしれない。そんな風に考えてしまうほど、彼女は少々混乱していた。

 

 

 

「お目にかかれて光栄ですわ、ミズ・バランス。わたくしは(くろ)()亜夜子(あやこ)と申します」

 

「USNA軍統合参謀本部大佐、ヴァージニア・バランスです」

 

 少女――亜夜子はきれいな英語でバランスにそう挨拶をした。

 

 しかし、完璧な発音で言っても慇懃無礼なものであった。

 

 軍人に、益してや高級士官である自身を知っているのであれば敬称で呼ぶ筈だ。更には自らの名を告げる時にファミリーネームを先にしたのだから、恐らくわざと言ったのだろうとバランスは察しながら、敢えて自己紹介をしていた。

 

「お忙しい中お時間を頂き、ありがとうございます。本日は十師族が一、四葉家の当主、四葉真夜の代理人として、お願いに参りましたの」

 

 四葉家の代理と聞いて、バランスはまたしても厄介な相手をする事になったと内心歯軋りをする。九島に手酷くやられたのに、ここに来て四葉が出て来るのは最早更なる災厄に等しい。

 

 ここでまたしても兵藤隆誠を理由に、またしても都合よく自分を振り回すのではないかと脳裏を過らせてしまう。

 

「うかがいましょう」

 

 バランスは取り敢えず訊く姿勢を見せて、亜夜子が紡ぎ出そうとする言葉に意識を集中した。

 

「ではお言葉に甘えて。大佐が手掛けておいでの、我が国の魔法師に対する干渉を完全に(・・・)中止していただきたいのです」

 

(やはり知っていたか……!)

 

 干渉とは当然、今回行っていた兵藤隆誠の強制確保の事を指しているのだろう。更には日本の非公開戦略級魔法師に関する調査とその確保と無効化(場合によっては暗殺)作戦も含まれている。

 

 それを「中止せよ」と言う無遠慮な要求とは別に、バランスはある事に気付いた。その言葉の前に「完全に」とも含まれていたから。

 

 彼女がそう言ってきたのは即ち、四葉はUSNAが兵藤隆誠と交戦してるのを知っているのだ。USNAが情報封鎖をしても、四葉のエージェントである少女が自分の居場所を簡単に暴いて此処へ来たのだから、それを知っているのはおかしくない。

 

 改めて「完全に中止せよ」とは、隆誠とは残りの容疑者達(司波兄妹)の干渉もするなと改めて要求してきたのである。

 

「わたくしどもの当主、四葉真夜は、あなた方の過剰な干渉を憂慮しております。貴国と我が国は同盟国ですから、このようなことを火種にしたくないと申しておりますの」

 

「……それは四葉からの警告か? 手を引かねば、火がつくという」

 

 バランスの質問に、亜夜子は答えず、ニッコリ微笑んだ。

 

「大佐、余り無理をなさると、他の方々からご心配されますよ?」

 

「貴様っ!」

 

 バランスは思わずソファから立ち上がり、激高してしまった。

 

 心配するように言った亜夜子だが、実際は違う。遠回しにこう言ったのだ。『お前の返答次第で、USNA軍は甚大な被害を受ける事になる』と。

 

 ただでさえ九島の件で手酷い目に遭わされたと言うのに、此処で四葉を敵に回してしまえば、バランスは更なる大失態を晒してしまう。そうなれば本国はもう庇いきれないどころか、彼女に全責任を負わせて片付けるのが目に見えてる。

 

 これ以上の失態を回避するのは、向こうの要求を受け入れるしかないほど、バランスは追い詰められていた。

 

 しかし、亜夜子は彼女の激高に気を悪くせず、未だに微笑んだままである。

 

「大佐、どうかお気を鎮めてくださいませ。わたくしどもは、できますならば、ミズと良好な関係を築きたいのです」

 

「良好な関係だと……?」

 

 亜夜子の言葉に従うわけではないが、取り敢えずと言った感じでバランスはソファに座り直す。だがそれでも投げかけられた言葉は、自分の感情を更に逆撫でするものだった。

 

「わたくしども四葉の実力は、大佐もご存知のとおりです。そしてわたくしどもも、大佐のお力はよく存じ上げております」

 

 USNA軍の力でもスターズの力ではなく、『バランスの力を知っている』と亜夜子は言った。その言葉にバランスの理性は彼女の話に耳を傾けろと命じている。

 

「大佐が今回の一件から手を引くお手配を下さると同時に『とある情報』を頂けるのなら、わたくしどもは大佐個人に対して感謝を忘れません、と当主は申しております。今後もし機会がございましたなら、大佐のお力になれるでしょう、とも」

 

「………その『とある情報』とは何だ?」

 

 魅力的な提案だが、バランスは踏み止まった。

 

 あの「四葉」と個人的なコネクションを持てるのであれば、これ迄の失態を挽回出来る武器となる。

 

 だが、すぐに乗る訳にはいかない。向こうが提供しようとしてくる情報の内容次第では断らざるを得ないのだ。

 

 もし仮に亜夜子がUSNA軍の機密情報を寄越せと言った瞬間、この話は無かった事にする。祖国に対する裏切り行為が出来ない他、彼女のプライドが絶対許さないから。

 

「『兵藤隆誠』に関してです。特に彼の戦闘記録や魔法の情報が欲しい、と当主は申しておりました」

 

「リュウセイ・ヒョウドウの、だと?」

 

 四葉真夜がどうして自分の国にいる魔法師の情報について欲しがるのかを、バランスは理解出来なかった。

 

 一応彼に関する情報も充分に機密扱いなのだが、少なくとも本国に関するものではない。取り敢えず自身の権限で提供出来る範囲内ならではという条件を付けた上で、バランスは亜夜子の提案を受け入れる事にした。

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