(これは一体、どうするべきかしら……)
達也がパラサイトとの会話中、藤林ではない別の傍観者、四葉真夜は急な報告が入った為に一旦中断した。
数週間前、従弟である黒羽
依頼は順調に行われていたのだが、対象の一体がまるで此方の動きに気付いたかの如く、特定していた所在地から忽然と姿を消していた。それを聞いた真夜は自身の不甲斐無さを呪う貢に苦笑するも、挽回させようと、改めて調査して抹殺せよと再度依頼する形で収めた。
そして現在、抹殺依頼を遂行されたと思われる貢からの報告が届き、これで漸く解決したと思いきや、またしても予想外の内容が真夜の耳に入る。抹殺は間違いなく遂行出来たのだが、その後が問題だった。貢と彼の部下達の前に、奇妙な格好をした存在が現れ、新たに憑依したパラサイトが妖魔の仲間だと歓喜していた。そこで予想外な展開になり、仲間と思われていたその人物に気絶させた後、宿主を連れて貢達の前から姿を消したそうだ。
一通りの報告を聞いた真夜は、只管驚くばかりであった。貢が敵を取り逃がしただけでなく、あの黒羽家を相手に逃げ切る事が出来た乱入者の大胆な行動など、微塵も想像すらしなかった為に。
二度も失態を犯した事で貢が厳罰、場合によっては処分を受ける覚悟であったが、真夜より『任務を遂行したことに変わりないので不問に付す』と決定を下している。四葉の分家とは言っても、諜報部門を統括する黒羽を咎めれば今後の支障を来たす恐れがあると考えた真夜は、次で挽回するようにと軽い激励で済ませた。それを聞いた貢は辛うじて首の皮一枚繋がったと内心安堵するも、己の不甲斐無さに憤りを禁じえなかった。
乱入者についての情報を真夜が求めると、貢はすぐに公開してくれた。その人物は白般若の面を被った男であると。服装は別に、体格は明らかに男性であったので、貢は自分の前に現れた乱入者を男だと断定している。ついでに偶然なのか今のところ不明だが、テロ組織『ブランシュ』のリーダーが白般若の面を被った者が全滅させたと達也の報告にあったから、もしかすれば同一人物の可能性があるかもしれないと貢は推測する。
彼女は話を終えた後、脇に置かれていたハンドベルを手に取り、すぐに振った。ベルの澄んだ音が、一人きりの静かな室内に鳴り響く。
「お呼びでしょうか、奥様」
扉が開き、真夜の執事であり腹心である老人の葉山が彼女の前へ歩み寄る。
「今しがた、貢さんから宿主抹殺完了の報告が入りました」
「そうですか。流石は貢殿です」
逃れたパラサイトの宿主を抹殺出来たことに、葉山執事は貢に称賛の言葉を送った。これで
「ですが、不測の事態も起きたみたいです」
「と、仰いますと?」
此処で葉山は気付いた。余り喜ばしくない状況が起きたから、急に自分を呼び出したのだと。
改めて尋ねる彼に、真夜は貢から聞いた報告の詳細を語り始めた。乱入者――白般若の存在について。
「葉山さん、白般若と聞いて何か思い当たる事はありませんか?」
「私の記憶が確かであれば、去年の春頃でしょうか。達也殿の報告に、『ブランシュ』のリーダーが白般若なる人物に全滅させられたとか」
まるで自分の記憶を確認するように真夜が問うも、葉山は即座に記憶を掘り返して、当時の出来事を簡単ながらも答えた。
「その白般若を被った者と、今回貢さんが遭遇した者が同一人物なのかは現在不明ですが、少なくともただの魔法師でない事は確かです」
「そうですね。早急に調査すべきかと私めは愚考します」
「勿論そのつもりです」
乱入した白般若が黒羽家、もとい四葉の存在に気付いているのかが不明であっても、目撃された以上は相応の措置を取らなければならない。益してや新たな宿主に憑依したパラサイトを、貢達の前で掻っ攫うように姿を消したのだから、見つけ次第抹殺する必要がある。
だが、出現したのが東京である為、即座に抹殺を実行するのは不可能だった。今回貢に依頼した宿主抹殺は、関東を守護する七草家と十文字家に気付かれないよう、密かに行っている。ただでさえ四葉の管轄でないのに、東京に潜んでいる白般若を四葉が狙う事をすれば、向こうは絶対に黙っていないだろう。特に四葉家、と言うより真夜に複雑な感情を抱いている七草家当主が。
「あとこれは、向こうにいる達也殿にも教えた方が宜しいかと。彼は何やら、白般若に対する因縁が見受けられますから」
「いいえ、その必要はありません」
葉山からの提案を真夜は即座に言い放った。
「今はまだ兵藤隆誠の魔法について調査中なのに、ここで余計な情報を与えれば、却って不都合になるかもしれません。此方で調べておきます」
「調べるとは、またアレをご利用するつもりですか」
ポーカーフェイスでありながらも、少しばかり呆れるように言い返す葉山。
「真夜様。まことに僭越ながら、フリズスキャルヴのご利用は、暫く控えられた方がよろしいかと」
無礼は承知の上で、葉山は諌言した。
普段このような事を口にしない彼だが、これには理由がある。最近の真夜は、フリズスキャルヴと言う情報収集システムに頼り過ぎているのだ。
そのシステムを使ってるお陰で四葉は多くの情報を得て、USNAの動きを察知する事が出来た。彼等が『灼熱のハロウィン』を引き起こしたと思われる容疑者として司波兄妹、並びに兵藤隆誠に何らかのアクションを起こそうとしている事も含めて。
因みにフリズスキャルヴを使っても、隆誠に関する情報を得る事は出来なかった。真夜が求めていた魔法に関する情報が何一つなく、今も全く不明な状態である。
自身の魔法――『
「フリズスキャルヴの本体が不明のまま多用し続けるのは危険です。余り頼り過ぎれば何れ、取り返しのつかない事になるかと」
「そうですね……確かに最近の私は、兵藤隆誠の魔法について調べようとするあまり、アレの情報収集能力に頼り過ぎていたようです。ならば近い内、東京にいる達也さんに調べてもらうとしましょう」
「賢明なご判断かと」
葉山は彼女の英断に感謝しつつも、先程まで無礼な発言をした事について深く謝罪していた。尤も、真夜は全く気にしておらずに軽く流しているが。
その後に彼は一礼した後、部屋を後にしたのを確認する。
再び部屋にいるのが自分だけとなった真夜は、既にパラサイトと交戦しているであろう達也の状況を確認しようと、眼を覆うシェード型のモニター装置を再び装着する。