「すいません、いきなり押し掛けるような事をして……」
「気にしないで。それじゃあ、用が済んだらワタシに一報入れてね」
「了解です」
転移術でレイとディーネの他、(意識を失ってるが)パラサイトに憑依された女性を連れて知り合いの店に来ていた。
此処は以前、九校戦中に散々引っ掻き回してくれた
突然の訪問に男店長は驚くも、(白般若の面を既に外してる)俺の急な頼みを聞いても何一つ訊かず、寝泊まり出来そうな一室を用意してくれた。彼曰く、去年に店員達を悦ばせる
彼とは数年前に偶然知り合って、今もチョッとした俺の協力者になってくれている。
「さて、と」
男店長が出て行ったのを確認した俺は、今も意識を失ってる女性をベッドに寝かせた。その直後、ベッドごと彼女を結界で覆わせる。パラサイトを分離した際、暴れて逃げ出さない為の措置として。
「レイ、ディーネ。念の為にお前達は俺から少し離れてろ」
「どうしてなの?」
「我々が、主の身を、お守りする、必要が、あるのでは?」
自分を守ろうとしているレイとディーネだったが、俺の指示に疑問を抱いていた。
相手は人に憑依するパラサイトだから、万が一に備えて、いつでも戦えるよう実体化していたのだろう。
「お前達には、周囲の人間に知られないよう遮断用の障壁を張ってもらいたい。これも重要な事だから、勿論やってくれるよな?」
「………分かったの」
「……了解、しました」
俺の命令に従ってくれたが、それでも不満だと
こうなる事は予想していたから、既に対処法は考えている。帰った後に褒めながら頭を撫でて、一緒に寝るよう誘えば、この子達はすぐに食いついて不満が霧散するだろう。
レイとディーネは言われた通り、俺達がいる部屋に特殊な障壁を張り始める。ほんの一部であっても、
部屋の周囲が完全遮断されたので、女性に憑依したパラサイトを分離させようと、俺は腕を伸ばし、開いてる片手を対象に向ける。
掌から光玉が出現し、俺は何の躊躇いもなく放った。女性に当たるも、それは爆発する事無く、そのまま身体の中に入っていく。
直後、女性の身体が突如輝き出し――
「アアァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
意識を取り戻したかのように眼を開けるも、悶え苦しむような叫び声をあげていた。
さっき話していた店長だけでなく、この店にいる店員達の耳に入ってもおかしくないほどの絶叫だが、生憎とそんな心配をする必要は無かった。レイとディーネが張ってくれた障壁によって、この部屋にいる者達だけしか聞こえないから。
チョッとばかり耳障りな絶叫であっても、俺は敢えて何も言わず見届けていると、次の異変が起き始める。女性の身体から、パラサイトと思われる
――ナ、何故ダ!? 何故我ガ器カラ離レテイク!
「それがお前達の本体か。取り敢えず『初めまして』と言うべきかな、パラサイト」
宿主から離れる事に疑問を抱いているパラサイトの叫びを余所に、俺は大して気にする事なく挨拶をした。因みに女性の身体に憑依していたパラサイトは完全に分離されている。
――オ、オノレ! コレハ貴様ノ仕業……オ、オオ!
俺が張ってる結界内で暴れようとするパラサイトであったが、途端に豹変した。
自分に殺意を抱くなんかより、少し離れたところで障壁を張っているレイとディーネの方が重要なのだろう。
――ズット捜シテイタ我等ノ同胞ヨ! 今スグ我ト共ニ、コノ愚カナ人間ヲ滅ボソウデハナイカ!
「「…………」」
興奮してると思われるパラサイトの台詞に、レイとディーネは大変不快な表情になっていた。と言うより、完全に殺意を抱いているようだ。
このままだとあの子達が障壁を解除して攻撃しそうな感じがする。そうなれば、この店にいる店長達に多大な迷惑を被ってしまうから、俺としても絶対に避けたい。
それに加え、向こうは俺など眼中にないと言わんばかりに、ずっとレイ達に話しかけている始末。例え俺が会話を試みたところで、今のコイツにまともな話し合いなど出来ないのが目に見えてる。
次からは気を付けようと考えながら――
「もういい、貴様は消えろ。目障りだ」
パチンッと指を鳴らした瞬間、女性を覆っている結界は段々小さくなっていく。
――ギャァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
小さくなる結界は、対象を圧し潰すように覆っていた。
パラサイトは悍ましい悲鳴を上げながら、必死になって離脱を試みているが無駄な努力である。物理攻撃が一切通じない
そして俺が再びパチンッと指を鳴らした瞬間――結界と共にパラサイトも消滅した。
「レイ、ディーネ。この周辺にパラサイトの反応は?」
「………いないの」
「主の結界で、パラサイトは、間違いなく、消滅しました」
「そうか」
一応確認してみるも、先程まで不快な表情になっていたレイとディーネは、揃って対象がいないと断定した。
パラサイトが消えた以上、俺は次の作業に取り掛かる事にした。今も意識を失ってる女性のアフターケアをする為に。
診断してみたところ、彼女の
次に別の誰かを分離する際、異常をきたさない為に光の調整をしなければならないと考えながら、女性を元の状態に戻そうと治療に専念していた。それは当然
「お前達、もう障壁は解除していいから、少し手伝ってくれないか?」
「はいなの!」
「了解、しました」
パラサイトが消滅したのか、俺の頼みを聞いて嬉しそうに近付いて来るレイとディーネ。
因みに女性の治療をしているのとは別に、此処から離れた場所で、司波達が別のパラサイトと交戦してた事を知るのは明日の朝であった。