再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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来訪者編 討伐後の翌日

 女性の治療は問題無く終えた。憑依されたパラサイトを強制分離させた事で肉体と精神が危険な状態であったが、レイとディーネの助力のお陰で正常な状態に戻す事が出来て安堵している。

 

 ただ、記憶に関しては別だった。アレの所為で当時の出来事が混濁している事もあって、憑依される直前までの内容は消させてもらっている。あんな不幸な出来事を憶えていたら一生トラウマになってしまうから、勝手ながら俺の方で記憶を書き換えた。『多数の変質者に追われる気配を感じて逃げていたところ、突然気を失ってしまい、その後から何も憶えていない』と言うシナリオを。内容的にチョッと無理があるかもしれないが、パラサイトに関わらせないだけ良しとしておく。

 

 変質者で思い出したが、俺が変装時に遭遇した黒服の集団が、再び女性を狙うのが気掛かりだった。奴等は如何にも裏家業を生業(なりわい)にしてる暗殺者みたいな集団だから、もしかすれば再び狙うかもしれない。奴等は俺がパラサイトを分離させたのを知らないし、そのまま放置するなんて到底あり得ない。

 

 防衛措置という理由で、聖書の神(わたし)の加護を施しておいた。もし誰に命を狙われる事態が起きれば、俺に報せる為の警報的なモノを。加えて防衛的な役割も兼ねており、もし攻撃されればある程度弾く事も出来る。もし再会したその時は、あっと言う間に片付けて、奴等の記憶と言う名の情報を根こそぎ頂くつもりだ。向こうが動いた場合の話になるが、な。

 

 その後に俺は治療と加護を施した後、勝手ながら彼女を第三者に保護させようと、以前レオが世話になった中野の警察病院に送っておいた。あそこは信用出来る場所だから、あの連中も簡単に狙う事はしないだろうと言う俺の希望的観測だが。

 

 本当ならもう少し行動したいところだが、既にパラサイトや黒服の集団に遭遇した為、これ以上は不味いと判断して引き上げる事にした。

 

 如何でも良い事だが、店長に黒服の集団の事を話してある。もし俺が連れて来た場合に奴等を好きにしていいと言った瞬間、『その時を楽しみに待ってるわぁ♪』と舌舐めずりしながら大変爽やかな笑顔で言っていた。

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

 俺は登校して教室に向かう途中、司波を見付けた。学校に来てるのだから別に問題無い光景なのだが、今回は少しばかり様子がおかしい。何故ならエリカとレオと幹比古が司波を連れて、教室とは全く別方向の所へ向かおうとしていたから。

 

 あの様子からして何かありそうだと思った俺は、向こうに察知されないよう完全に気配を消しながら跡をつけてみる事にした。

 

 四人が向かった先は、屋上。

 

 朝一番は寒いのに、態々吹きさらしの屋上へ行ったと言う事は、それだけ周囲に聞かれたくない話なのだろう。尤も、俺としては長居をしたい場所ではないが。

 

(アイツ等、話があって屋上に連れて来たんじゃないのか?)

 

 何やらエリカ達が凄く言い辛そうな表情を見た俺は、だったら態々こんな寒い場所に行くなよと内心呆れていた。

 

「もしかして、パラサイトに逃げられでもしたか?」

 

『ッ!』

 

 司波も同様に考えていたのか、用件をさっさと済ませる為に結果を聞いた瞬間、三人はビクッと身体を震わせていた。余りにも分かり易い反応で、思わず苦笑しまいそうになる。

 

 話の内容から察したところ、向こうもパラサイトと遭遇していたようだ。そして捕まえたが、結局は逃げられてしまったと。

 

 司波は俺と違って、パラサイトを倒しきれる手段は無いと見た方がいいだろう。そうでなければ、パラサイトに逃げられたと言う無様な結果にはならない筈。常に効率の良い選択を選ぼうとする司波の性格を考えれば、な。

 

 これ以上エリカ達の失敗報告を盗み聞きするのは良くないから、すぐに教室へ戻ろうと――

 

「横から、かっさらわれたんだよ」

 

「そんなに手強い相手だったのか?」

 

 レオの台詞を聞いて俺はすぐに足を止めた。教室に戻ろうとしていた司波も同様に。

 

 横からかっさらわれたとは即ち、司波達とは全く別の第三者がパラサイトを捕獲したと言う事になる。

 

 俺の時に遭遇した連中の一味なのかと思いながら、改めて耳を傾けてみると幹比古達の話が続く。

 

「負け惜しみに聞こえるかもしれないけど、実力で言えば、そんなに手強い相手じゃなかったと思う」

 

「ただ、装備が周到でよ。殴ったらコッチが痺れるスーツなんて、初めてだぜ」

 

「打ち込むと何か粉が飛び散るんだもん。もっとリーチのある得物を持って行けば良かったわ」

 

 ん? 何だか黒服の集団と全く違う気がするな。因みに俺は奴等と交戦せず、ディーネの補助によって転移術で逃げる際、ソフト帽を被った男が針みたいな投擲しただけ。であっても、幹比古達が交戦した連中とは特徴が合わない。

 

「最後は真っ黒な飛行船で持って行かれちゃったのよ。もう腹が立つったら」

 

(飛行船、ねぇ……)

 

 エリカ達の話を聞く限り、どうやら俺が遭遇した連中とは全く違うようだ。

 

 あの時、俺は黒服の集団と対面する前に飛翔術を使って移動していたが、飛行船らしき物は無かった。仮にステルス機能があっても、不可視物質を捉える事が出来るレイとディーネが真っ先に気付いていただろう。

 

 敢えて別の場所で待機させていたと言う可能性があっても、あの連中はそんな目立つモノを使って移動手段にしているとは考えられない。暗殺者であれば目立つ行動は一切せず、密かに行動するのが鉄則である。

 

 一体何処の誰なのか疑問に思っている中、それは司波が答えを示した。

 

「そういう面白装備を採用していてステルス仕様の飛行船を運用しているとなると、国防軍情報部防諜第三課で間違いないと思う」

 

 エリカ達が遭遇した相手は国防軍だったのか。どう言う目的でパラサイトを捕獲したのかを九島に訊いてみたいが、流石に無理なので諦めよう。いくら俺に協力してくれてるとは言っても、軍内部の情報まで教えてくれるほど甘い男じゃない。司波が独立魔装大隊の隊員だと態々教えてくれたのは、向こうが俺を警戒している事もあって、敢えて独り言という形で済ませている。

 

 となると、黒服の集団も軍関係者……いや、多分違うな。奴等は見た感じ、軍に所属してる雰囲気は感じられなかった。加えて(変装していた)俺を回収すると言う指示を出していたから、軍とは全く異なる集団と見た方が良いだろう。

 

 向こうの話はまだ続いているが、これ以上長居してると司波に感付かれそうな気がした俺は、気配を消したまま屋上から立ち去る事にした。

 

 

 

 

「まあ、そんなに気にすることは無い。今度は横槍が入らないよう手配してから罠を仕掛ければ……ッ!」

 

「た、達也、急にどうしたんだい?」

 

「何でいきなり怖い顔になってるの?」

 

「あそこに何かあるのか、達也?」

 

(……気のせいか。誰かが俺達の会話を盗み聞きしていたような……)

 

 

 

 

 

 

 二時限目を終えた休み時間に、司波が俺に会いに来た。理由は当然、俺が昨夜にパラサイトと遭遇したかの確認についてだ。因みに幹比古達は、この前あった出来事を理由に来ていない。

 

 黒服の集団遭遇の他、パラサイトを捕獲後に分離したのは伏せている。俺は家庭の事情で、敢えて不参加と言うアリバイを作り、分身拳を使って白般若に扮していたのだ。

 

 話を一通り聞いた司波は怪訝な表情になっていたが、疑問を抱きつつも簡単に引き下がった。恐らく独立魔装大隊のコネを利用して、俺の自宅周辺に設置してある監視カメラのシステム履歴にハッキングして調べるかもしれない。俺に関する事は徹底的に調べないと気が済まない性質なのは、もう今更なので慣れている。

 

 それが終わったかと思いきや、昼休みに今度は別の人から呼び出しを受ける事となった。

 

「え? リューセーくん、昨夜はパラサイトを捕まえに行かなかったの?」

 

「司波から聞いたんでしょうが、生憎俺は行ってません」

 

 俺を呼び出したのは前生徒会長の七草真由美で、今は仲良く昼食を取っている。

 

 受験まで残りあと僅かだと言うのに、こうも毎日学校に来て大丈夫なのかと俺は少しばかり心配だった。尤も、彼女は優秀だから落ちる事は絶対無いだろうが。

 

 これはもう今更だが、もう俺と真由美はお互い気楽に話す関係になっていた。有名な十師族の令嬢相手に、この一年でよくもまぁ此処まで築き上げたものだと我ながら感心してしまう。

 

「もし俺が動いてパラサイトを捕獲していたなら、真由美さんか十文字先輩に一報入れてますよ」

 

「それはまぁ、確かに……」

 

 俺に対する信用があるからか、彼女は疑う様子を見せずに頷いていた。

 

「ところで、俺の事を教えた司波と一体何の話をしたんですか?」

 

 休み時間の時にアイツは俺にパラサイトと交戦し、逃げられてしまったと言う結果を教えてくれた。エリカ達が急遽交戦した国防軍にパラサイトを奪われた詳細を伏せて、な。

 

 話題を変えた途端、真由美は急に言い辛そうな表情になる。

 

「悪いけど、こればっかりは流石にリューセーくんに教えられる内容じゃないのよね」

 

「……そうですか」

 

 真由美が教えられないって事は、七草家に大きく関係してるって事になる。彼女は十師族関連の話になると、必ずと言っていいほど口が堅くなる。

 

 司波の事だから、恐らく国防軍について教えた筈だ。えっと、正式名称は確か、『国防軍情報部防諜第三課』だったか。

 

 それを知った彼女が俺に話せないとなれば、第三課とやらは十師族、もしくは七草家と繋がっている可能性がある。あくまで推測である為に、まだ断定出来ない。

 

 コッソリと真由美の頭の中を調べる方法はあるが、それは敢えてやらないでおく。と言うより、俺がそんな情報を知ったところで何の意味も無いから。

 

 パラサイトについての話を一通り終えた俺は、残った昼休みの時間を真由美との談笑で済ませる事にした。

 

「あ、そうだ真由美さん。来月にホワイトデーを考えてますが、受け取ってくれますか?」

 

「勿論。楽しみに待ってるわ♪」


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