再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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入学編 新記録更新

 新入部員勧誘週間は過ぎたが、結局何処のクラブに入る事無く終わる事となった。

 

 修哉は剣道部、紫苑は陸上部に入部するよう勧められたが、個人的にどちらも興味無かったので丁重に断らせてもらった。

 

 それとは別に剣道部についてある事が起きた。と言っても、俺が襲ってきた一科生関連じゃない。修哉が中学時代に世話になった二科生の女子生徒――壬生紗耶香が俺に話があると誘われただけである。

 

 彼女は先日に起きた乱闘事件の際、俺が割って入り守ってくれたお礼を言いたかったみたいだ。もし俺がいなかったら、危うく自分だけでなく後輩の修哉が大怪我をしていたかもしれないと。ぶっちゃけ紫苑と似た話だ。

 

 何の問題も無く終わろうとしていたんだが、その後から少しばかり彼女の雰囲気がガラリと変わった。

 

 壬生が剣道部に是非とも入部して欲しいと矢鱈強く懇願される事に疑問を抱いた為、何故そこまでするのかと逆に尋ねると、魔法科高校に対する不満から始まった。魔法の成績が最優先される他、高校生活の一環である喰らずクラブ活動まで魔法の腕を優先されるのが気に食わないようだ。加えて、一科生が二科生を平然と差別する不満も一緒に。

 

 それらを聞いた俺は何とも言えない気持ちだった。本当なら魔法科高校の二科生として入学した以上、それを覚悟しなければならないと模範的な回答で話を終わらせたい。けれど、俺は壬生の言い分を根本的に否定する事が出来なかった。

 

 つい先日、一部のバカな一科生達が俺を襲った件がある。ソイツ等は二科生の俺が一科生の桐原を倒した事に怒り狂い、プライドを傷つけられて報復行為に走った。『補欠(ウィード)如きが一科生(ブルーム)に逆らった罰だ』とあからさまに見下しながら。尤も、四日目に襲い掛かったバカ共二人は俺が同性愛者と言うレッテルを貼らせて、今もずっと欠席中となっているが。

 

 一科生全てと言う訳ではないが、ああ言う魔法主義者のバカ共が余計な事さえしなければ、壬生や他の二科生達も大層不満を抱く事は無かっただろう。と言っても、あくまで俺の個人的な意見に過ぎないが。

 

 壬生から一通りの理由を聞き終えた際、部活連とは別に非魔法競技系のクラブで連帯して学校に訴える為に協力して欲しいとも言われたが、俺は丁重に断らせてもらった。自分は剣道部の入部意思が無い上に、デモ活動には余り参加したくないからと言って。

 

 向こうは俺の返答を聞いて引き下がるも、完全に諦めたと言う感じがしなかった。恐らく時間が経ったら再び誘うつもりだと予想する。

 

 あとついでと言う訳ではないんだが、壬生と話している際に妙な違和感が見受けられた。彼女の言い方は何もかも相手が悪いと言わんばかりのもので、まるでそう言う風に誘導されているみたいに感じられる。本当だったら術を使って心の深層や頭の中を探りたかったが、修哉の先輩と言う事もあって止める事にした。

 

 

 

 

 

 

 西暦2095年4月15日

 

 

 

 入学関連のイベントが一段落し、魔法実習が本格化される事となった。

 

 知っての通り、二科生は一科生と違って教師がいない為に指導が一切無いから、結果を出して提出という形で終わる。それにクリア出来なければ終わらない仕組みだ。

 

 入学時点である程度の基礎的な魔法スキルを身に付けているとは言え、一切の指導もなく独力でこなして向上するは無理な話なのだが、二科生として入学したからには覚悟しなければならない。

 

 他の二科生達には悪いが、俺は却って好都合だった。俺が前の世界で使った魔法を試す事が出来るので。

 

 

 

 

「1013ms(ミリ秒)、か。惜しい修哉、あともうちょい!」

 

「くそっ、行けると思ったんだが……!」

 

 非常に残念がる俺に、舌打ちしながら悔しそうに呟く修哉。

 

 現在は午後で、1年F組は魔法実技の真っ最中だ。

 

 今やっている実技は、簡単に言えば基礎単一系魔法の魔法式を制限時間内にコンパイルして発動する、と言う課題を、二人一組になってクリアする内容となっている。クリア条件は1000msを切る事で終了。

 

 因みに俺は修哉とペアを組んでおり、紫苑は別のクラスメイトと一緒だ。幼馴染とペアを組みたかった誰かさんに少々睨まれたが、俺は気付いていながらも無視させてもらった。

 

 それはそうと、今回の実技は簡単そうに聞こえるだろうが、二科生にとっては最初の難題だった。修哉だけでなく、紫苑や他の二科生達も未だにクリアしていない。今のところ修哉がベスト記録で、他は一番遅くて1235msだ。

 

 1000msを切らなければクリア出来ない為、実技中に達成しなければ居残りとなってしまう。聞いた話によると、他のクラスの二科生も同様だ。午前中にやっていた司波のいるE組もクリアするのに、恐らくかなりの時間を要しただろう。

 

 修哉や他のクラスメイト達の実技内容を見て思った通りだと確信した。このまま俺がやっても、彼等と同様の結果になるだろうと。

 

 俺、と言うより聖書の神(わたし)は魔法と言う概念を最初から理解してるのだが、この世界の魔法は法則が余りにも違い過ぎて理解し切れていない。それどころか、必死に理解しようとしても中々思うように展開出来ない状態だ。

 

 再び転生してもうすぐ16年目となるのだが、やはりどうしようもない。それどころか、まるで異物の聖書の神(わたし)に理解させないよう世界が抑止力を働かせているのではないかと思う。前の世界で数々の魔法を即座に理解していた筈の頭が、この世界では殆ど働かない状態に陥っているから。聖書の神(わたし)兵藤隆誠(にんげん)に初めて転生した際、能力(ちから)の大半が制御されて使えなくなった事があるので、恐らくソレと似たような制約を課されたのかもしれない。

 

 まぁとにかく今の俺がどんなに理解した所で、魔法を展開する為の処理能力がなければ、このまま劣等生として高校生活を送る事になる。

 

 平穏な学生生活を送りたい俺としては別にそうなっても構わないが、あの一科生達が仕出かした行動を考えると、この先も面倒事が起こり続けるだろうと予想した。

 

 安っぽいプライドを持った一科生(ブルーム)二科生(ウィード)に負けたと知っただけで、すぐに刺激されて報復行動をとるのだから、とても平穏な生活は送れそうにない。向こうが差別意識を改めない限り、絶対無理だと断言出来るほどに。

 

 と言っても、今の俺じゃどうする事も出来ないのが現状だ。この世界の現代魔法をまともに扱う事が出来ない劣等生の俺が何をやったところで、殆どが戯言だと聞き流されてしまうのがオチだ。第一高校の三巨頭なら話を聞いてくれるかもしれないが、向こうは色々と手一杯みたいで簡単に動いてはくれないだろう。

 

 他を考えた結果、やはりコレしか思い浮かべる事が出来なかった。前の世界で活動した聖書の神(わたし)兵藤隆誠(おれ)が使用した能力(ちから)を使うしかないと。

 

 この世界の現代魔法と違って、向こうの魔法と術は難なく使える状態だ。この前使ったイッセーの技――洋服破壊(ドレスブレイク)を大して苦も無く使えたのが証拠だ。

 

 故に俺は試す事にした。今回の実技で以前の能力(ちから)がどこまで通用するのかを。

 

 そんな中、修哉が四回目の挑戦をし、998msの結果を示して何とかクリアとなった。

 

「やったじゃないか、ギリギリでもクリアだ」

 

「はぁっ、やっと出来た」

 

 クリア出来た事に修哉は途端に安堵の息を漏らしながら疲れた表情となる。四回もやったのだから、そうなるのは無理もない。凄く集中してやっていたのが分かっていたので。

 

 因みにこの課題は500ms以内が、魔法師として一人前と呼べる目安とされている。

 

 修哉が出した記録はお世辞にも優秀とは言えないが、それでもクリア出来ただけ充分と言えよう。

 

「悪いリューセー、俺の所為で長く待たせちまって」

 

「気にするな。見てる間、充分参考に出来たからな」

 

 修哉や他のクラスメイト達の手順を見て、これが魔法師として当然の工程なのだと理解した。同時に俺も同じ結果になってしまうだろうと。

 

 さて、それじゃ一丁やってみますか。

 

 課題用CADの前に立った俺は、ほんのちょっとばかり気合を入れて片手でパネルに触れてオーラを流し込み、前の世界で使用した魔法式の理論をそのまま展開した。

 

 その結果――

 

「に、ににに、224ms!?」

 

『………は?』

 

 修哉が信じられないと言わんばかりに俺の記録を叫んだ事により、課題をやっている他のクラスメイト達も手を止めて此方を凝視した。

 

 これは当然、俺も目が点になっている。まさか前の世界で使った魔法式が問題無く使えるどころか、思っていた以上の結果を出す事が出来たので。てっきり1000msを何とか切れるぐらいと踏んでいたのだが。

 

 不味い。どうやら気合を入れ過ぎて加減を誤ってしまったみたいだ。一科生でさえ無理な記録を、二科生の俺が新記録更新したなどと知られれば、あっと言う間に大騒ぎになる。

 

「……あ、あははは! ど、どうやら計測器の操作ミスかもしれないから、もう一回やろう!」

 

 俺は誤魔化すように224msの記録を消し、改めてチャレンジする事にした。

 

 自ら念を押してちゃんと加減をしようと、さっきと同じ要領で能力(ちから)を展開する。

 

 そして今度は――

 

「……な、703ms……」

 

 加減しても充分過ぎるほどの結果となって修哉が呟く。

 

 一科生からすれば問題無いのだが、二科生では充分過ぎる記録だ。これにより、俺は二科生最高の記録保持者(レコードホルダー)となってしまった。

 

「お、おいリューセー! 何だよこの記録は!? ってか一回目のあれはどう言う事だ!?」

 

「リューセー君! 一体どうやってあんな凄い記録出したの!? もしコツがあるなら教えて!」

 

「あ、いや、そう言われても……」

 

 詰問する修哉以外に、課題中の紫苑も詰め寄って来て教えて欲しいと乞われてしまった。

 

 他のクラスメイト達も知りたいのか、クリアしたい為に挙って『教えてくれ!』と詰め寄られたのは言うまでもない。

 

 これは後ほど、二科生の俺が『224ms』と言う歴史的大記録を出した事に全校生徒や教職員達に知られる事になるも、殆ど(・・)が『計測器の故障だろう』とか『単なる操作ミス』だろうとバカバカしいように聞き流していた。

 

 ついでに某S氏の兄が何やら密かに調べているみたいだが、俺は敢えて気にしない事にしているのは余談である。




リューセーが出した結果数値は、某DBの大会の予選記録数値を参考にしています。

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