(一体どうやってパラサイトを倒すつもりなんだ?)
自棄になったかのように『
この状況下であれば、自分も助太刀するつもりだった。如何に隆誠とは険悪な関係であっても、集合体として八つの頭になったパラサイトは余りにも危険な存在である為、共闘しなければ勝てない存在であるから。
しかし、肝心の隆誠は一人で挑もうとしている。達也は思わず手を貸す為に動き出そうとするが、途端に隆誠が此方へ視線を向け、訴えるように見ていた。
『お前は手を出すな』
言葉に出さずとも、彼の目がそう語っていた。
だが、それだけではない。目が合った瞬間、達也は突如金縛りにあったかのように身体が動けなくなったのだ。尤も、それはほんの一瞬であった為、傍に居る深雪に気付かれていない。
隆誠がそこら辺の魔法師どころか、一条将輝などの十師族直系とは比べ物にならない実力者であるのは勿論知っている。であっても、一瞥しただけで自分の動きを止めるのは尋常ではなかった。
深雪以外に関する感情が殆ど失っている筈なのに、何故か隆誠の目を見た瞬間に恐怖が沸き上がった。一瞬とは言え、そんな感情を強制的に引き出されたのは初めての経験である。
警戒すべき人物を調べれば調べるほど、どんどん謎が深まっていく達也。精神体であるパラサイトと同時に『視ている』が、全く情報が掴めていない。因みに隆誠は鬱陶しく思っているが、敢えて無視されている事に達也は全く気付いていなかった。
「お兄様、わたし達は一体どうすれば……?」
「……一先ず、いつでも動けるようにしておこう」
不安そうに訊ねる妹からの問いに、達也は間がありながらも見守ると言う選択を取った。それでも万が一に隆誠が敗れた時の事を考慮し、魔法を待機状態にさせている。
すると、移動している隆誠が足を止めた。
パラサイトが未だピクシーに意識を向けている中、隆誠は途端に左手を上げた直後にパチンッと指を鳴らす。
『ギャァァァァアアアアアア!!!』
「ッ!?」
パラサイトが突然の悲鳴を上げた事に達也は目を見開く。彼の眼には、八つの頭全てに槍と形容すべき黄金の光が突き刺さっていた。
アレには見覚えがあった。去年の夏の九校戦で、隆誠がピラーズ・ブレイク初戦で使った魔法である。
未だに
達也だけでなく、深雪やリーナも同様の反応をしている中、隆誠は次に右手を上げてパチンッと指を鳴らした。その瞬間に黄金の光が爆発して、八つの頭は全て吹き飛んだ。
『た、達也、一体これはどう言う事だい!?』
「寧ろ俺が知りたい位だ……」
此方の状況を見えていたのか、耳に付けている音声通信ユニットから、非常に戸惑いの色が濃い声がした。
自身に通信しているのは、演習場の屋上で待機している幹比古だ。彼の協力もあって、此処へ来る前に二体のパラサイトを封印する事に成功している。
古式魔法師の彼でも、パラサイトを完全に倒す攻撃手段を持ち合わせていない。
それがまさか、古式魔法師でない筈の隆誠が以前に見せた魔法で多大なダメージを与えているから、幹比古が戸惑うのは無理もなかった。
達也は幹比古の心情を当然理解しているのだが、自分でも全く分からない状況である為、少々投げやりな返答になっている。
「司波、アレを下がらせろ!」
八つの頭が吹っ飛んだ事で、攻撃に耐えていたピクシーが自由になったのを見た隆誠が叫んだ。
パラサイトの意識を自分に向けさせたかったかもしれないと推察した達也であるが、特に反対する事無く命令を下す。
「ピクシー、こっちに来い!」
「かしこまりました」
ピクシーは反対する事無く、巨大な球体状になってるパラサイトに背を向けて達也の元へ向かって行く。
その途中、パラサイト側に変化が起きた。隆誠によって失った八つの頭があっと言う間に再生される。
達也は敵に背中を見せているピクシーを援護しようとするも、すぐに止めた。八つの頭が全て、隆誠の方へ向きを変えたように、達也に『視えた』から。
直後、魔法の嵐が全て隆誠に襲い掛かる。
(不味い!)
「兵藤くん!」
「リューセー!」
余りの光景に流石の達也も焦りの色を見せた。アレを撃ち落とすのに、全力を振り絞られねばならないのだ。
以前に一高で情報体と化したパラサイトと戦った際、一人の人間に憑依していた一個体だけを相手していたが、かなりの労力を要した。
それが今回は八人分で、あの時とは桁違いの威力が隆誠に降り注いでいる。
傍に居る深雪やリーナも、流石に彼一人で防ぐのは無理だと悟ったのか、この後の展開を予想していたかのように叫んでしまう。
彼女達が身を案じるように叫んだのは、隆誠に対して多少の恩や後ろめたい事がある為、もし彼がここで死んだら非常に申し訳が立たない気持ちになっている。
八つの頭にある口から、まるでブレスの如く吐き出された魔法が襲い掛かるも――いつの間にか障壁魔法を展開していた隆誠は大して焦る事無く防いでいた。
「どうしたパラサイト、それが貴様の全力か?」
「「「………」」」
まるで効いてないと言わんばかりの台詞に、達也達は唖然としていた。
パラサイトが放っている魔法は、並みの魔法師が直撃すれば、どんなに防いだところで確実に即死する威力。なのに隆誠は簡単に防いでいるどころか、余裕の笑みを浮かべてさえいる。
(バカな! 何故
達也は隆誠が展開している魔法障壁を『視て』、内心混乱状態に陥っていた。
あれ程の威力を防ぐのであれば、相応の魔法力を必要とする筈なのだが、今視ているのは全く異なるものであった。隆誠の障壁は十師族の十文字克人どころか、並みの魔法師以下の防御力だった。だと言うのに、あの程度の魔法力でパラサイトが放つ魔法を簡単に防いでいる事が信じられないから、達也は混乱している訳である。
隆誠が普通の魔法師とは違うと分かっていても、流石の達也達もこんな展開は全く想像出来なかった。恐らく遠くから見ている幹比古達も同じ事を考えているだろう。
『オノレェェェェ!!』
パラサイトも攻撃が効いてない事を理解したのか、魔法の出力を上げようと、口から放たれるブレスが大きくなっている。
しかし、それが隆誠に届く事は無かった。今も展開している障壁は罅どころか揺らぐ事なく防いでいる。
「芸の無いヤツだ。もうチョッと頭を使って攻撃しろよ。こんな風に、な!」
攻撃を防いでいる隆誠が反撃に転じようと、途端に右手を上に向かって伸ばした。
魔法が発動したのか、隆誠の上空から巨大な炎が出現する。
ソレ――八岐大蛇と化したパラサイトの統合体に、炎がまるで意思を持っているように巻き付いていく。まるで、二匹の龍蛇が互いに食らい合うように。
『そんな! どうしてリューセーが呪符も使わずに精霊魔法を発動させているんだ!?』
達也だけにしか聞こえないが、信じられないと言わんばかりに叫ぶ幹比古。
彼がそうなるのは無理もなかった。今見ている魔法は、
精霊魔法の名門である吉田家からすれば、一切無縁である筈の隆誠が精霊魔法を使用すること自体あり得ない。
隆誠こと聖書の神も、この世界で扱う精霊魔法は本来使う事は出来なかったのだが、とある事情で可能となる。要因となったのは、隆誠が九校戦の時に造った神造精霊――レイとディーネ。その繋がりを得た事で精霊を理解し、(一部であるが)精霊魔法を使えるようになった。
パラサイトが動きを封じられている中、隆誠は次の行動に移ろうとしている。
「
(今度は一体何をする気だ!?)
術を発動させるような構えを取ったかと思いきや、突如念仏を唱え始める隆誠の行動に理解不能になっていく達也。それは当然、深雪やリーナも同様だった。
九重寺の住職であり自身の師匠である九重八雲がいれば分かるかもしれないが、生憎彼は此処に居ない為に無理だった。
達也達が混乱の極みに陥っていると、新たな変化が起きようとする。隆誠が構えている両手から、突如
『な、ななな、何だ、あああの、凄まじい
通信から聞こえる幹比古も混乱状態に陥っているのか、呂律が回らなくなっていた。
この反応からして、全く知らない魔法だと達也は推測する。そうでなければ、古式魔法師である幹比古がここまで狼狽しない筈。
因みに多くの魔法知識を有している達也すらも、隆誠が使っている魔法について不明だった。
「光!」
その瞬間、円の中から線らしきモノが浮かび上がり、魔法陣の図面になっていく。
それが完成すると、突如球体状のパラサイトに接近し、そして捕獲するように包み込んだ。
『ギ、ガ、グ……!』
先程まで巻き付かれてる炎に悶え苦しんでいるパラサイトだったが、魔法陣に包まれた途端、急に身動きが取れなくなったかのように停止している。
「浄!」
動けないのを確認した隆誠は、一瞬でパラサイトに接近する。
描かれた魔法陣に辿り着き、右手を手刀にして、その中心を突き刺す。
「裁!」
魔法陣の中心を刺して僅か一秒もしない内に放した後に叫び、そして地面に着地する。
直後、ずっと淡い光を描いていた魔法陣が、急に輝き始めようとする。
『ア、ア……ァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
☆
「この気配、我は知っている。そして……懐かしい」
何もない空間にて、嘗て『
「聖書の神、否、リューセー。リリスには悪いけど、我はもう一度、お前に会いたい」
感想お待ちしています。
もし最後の部分が必要無いのであれば、修正するつもりです。