本当なら
かと言って余り無駄に時間を掛ける訳にもいかなかったから、チョッとばかり自己流にアレンジした古式魔法を使う事を決意する。
パラサイトの動きを止めるのに使った精霊魔法は、レイとディーネのお陰と言うべきか、簡単に発動する事が出来た。
次に使ったのは、某霊界探偵に登場する主人公の師匠が使う技――『霊光波動撃 修の撃』を真似てみたが、思いのほか上手くいったことに内心安堵する。アレは本来敵を倒す技でなく、技を受けた対象に裁きを下すもの。情報体のパラサイトが悪の塊であった為か、浄化どころか消滅する結果になってしまったが、な。
まぁ兎に角、パラサイトを倒せたから良しとしておく。後ほど古式魔法師の幹比古に問い詰められたところで、この前の件を盾にすれば何も言い出せなくなるだろうし。
「ルーナ・マジック……?」
俺が結論していると、呆然としていたリーナが突如聞き覚えの無い単語を口にする。
恐らくだが、それは系統外魔法の中で最も有名な魔法の一つである精神攻撃魔法『ルナ・ストライク』を指しているのだろう。
確かに俺が使った技は、端から見ればそう言う風に捉えられてもおかしくない。完全な誤解なのだが、
「こんな強力な精神干渉魔法を……リューセー、アナタは一体」
地面にへたりこんでいるリーナが、信じられないように俺を見ている。
だが、彼女だけでなく司波兄妹も同様だった。特に司波兄は途轍もない警戒感を出して目を鋭くさせている程に。ついでに司波妹は少々恐怖しているのか、緩和するように兄の手をギュッと繋ぎながら見ている。
「USNAの魔法師は、人の魔法について詮索するのはマナー違反だと教わらなかったのか?」
「べ、別に、そんなつもりは……」
普段のリーナであれば、俺が指摘すると必ずと言っていいほど突っかかって来る。だが今回ばかりは、いつもの彼女ではない。
パラサイト討伐の任務によって大きなストレスに曝され、張り詰めた緊張の糸で過大な負荷が掛かっていたところ、それが消失したから一種の虚脱状態に陥っているのだろう。
「さっきの魔法について報告したければ好きにすればいいさ。黙ってくれるなら、あの件は
「「?」」
あの件とは、数日前にリーナ(+女性軍人の二人)を無条件でUSNA側に引き渡したアレだ。
どうせ向こうの事だから、USNAは大きな借りが出来たと思い込んでるだろう。俺としてはさっさと清算しておきたいから、ここで済ませておく事にした。
因みに司波兄妹は俺とリーナの会話を聞いて不可解そうな表情になってるが、そこは敢えて気にしない。
「寧ろそうした方が好都合だろう? パラサイト討伐の任務は成功したってことになるんだからさ」
「…………………」
俺が黙秘する際のメリットを教えるも、リーナからの返答は中々帰ってこなかった。
虚脱状態とは言え、今は必死に考えているのだろう。
彼女が軍人としての姿勢を貫いて報告するのであれば、それは何れ死ぬほど後悔することになる。向こうの命令で再度俺と戦うのであれば、今度は容赦無く徹底的に潰させてもらう。その他にUSNAの機密情報を根こそぎ頂いた後に全世界へ公表する、もしくは九島に全て提供して完全に弱味を握らせる等々、いくらでも手段はあるのだから。
どんな返答が来るのかを内心ワクワクしながら待っていると――
「いいわよ……黙っていてもらえるなら、ワタシにとっても悪い話じゃないし。リューセーのことは黙ってる。……どうせ誰にも取り合ってもらえないだろうし」
「賢明な判断だな」
黙秘する選択をしたことに、俺はチョッとばかり残念な気持ちになってしまったのは心の内に秘めておくとしよう。
だが、それはあくまでリーナに関する話であり、今もそこで聞いている兄妹は別だった。
「リーナはこう言ってるが、司波はどうするつもりかな?」
「……元より他言無用でいるつもりだ。それとリーナ、アンジー・シリウスの正体についても、沈黙を守ると誓おう。幹比古達にも俺の方から言っておく」
少々間がありながらも、司波も口外しないことを約束してくれた。
恐らくコイツのことだから、『ルナ・ストライク』と勘違いしてるあの技を見た事で、今はまだ敵に回さない方が吉だと判断したかもしれない。
俺としても、そうしてくれた方がありがたい。もし此処で愚かな選択をすれば………果たしてどうなっていたことやら。
まぁそんな事よりも、リーナには他に言いたい事がある。
「リーナ」
「まだ何かあるの?」
既に立ち上がってるリーナは苛立ってそうな台詞を口にするも、声はそこまで不機嫌ではなかった。
「もし軍人を続けるのが嫌になってきた場合、手を貸すぞ」
「えっ?」
「俺にはチョッとしたコネがあるから、いざとなったら頼ってくれ」
「リューセー? アナタ、何を言ってるの?」
俺の発言にリーナは怒ることも笑い飛ばすこともせず、純粋に疑問を抱いているだけだった。
「ワタシは別に、スターズを抜けたいなんて……『シリウス』を辞めたいだなんて思ってないわよ。もしかして何か企んでいるの?」
「そんなのはない。俺はただ、学校でドジっ子姿を見せる君の方が一番似合ってると思っただけさ」
「んなぁっ!」
思った事を口にした瞬間、先程までの不安気な表情から一変した。
因みに俺の台詞を聞いた司波妹は噴き出しそうになるも、咄嗟に手で口を塞いで顔を逸らしている。
「リューセー、どうしてアナタはそうやって空気を読めない発言をするの!? さっきまでシリアスに考えていたワタシがまるでバカみたいじゃない!」
「ははは~、それはすいませんでした~」
ズカズカと俺に近付いて怒鳴り散らすリーナに、俺は顔を逸らしながら空謝りしていた。
うんうん、やっぱり彼女はこうでなくちゃいけないな。
もしパラサイト討伐前にさっきの台詞を言えば、追い詰められていた表情をしていた時のリーナは如何でも良い様に聞き流していただろう。
だが、今こうして怒鳴ってる彼女は全く異なっている。心が晴れて余裕を持てる状態になったから、チョッと揶揄っただけで簡単に乗ってくれる。
「ところで兵藤、ずっと気になってることがあるんだが」
すると、リーナが俺に怒鳴り続けているのを無視する感じで司波兄が話しかけてきた。
「あの魔法陣は、一体何時になったら消えるんだ?」
「え?」
司波兄が指しながら言ったので、俺は思わずその方向へ視線を向ける。
確かにアイツの言う通り、パラサイトを倒す時に使用した魔法陣が消えず、地面に展開されたままの状態だった。
(おかしいな。もう既にアレとの接続は切れた筈なのに、何故消えていないんだ?)
魔法陣は本来、術者が魔法力を注ぐ事で展開される。俺の場合はオーラであっても原理が同じなので、注ぐのを辞めればすぐに霧散する筈。
けれど、地面に展開してる魔法陣は未だに消える素振りすら見せていない。まるで何か別の力が注がれるように、徐々に輝き出そうとしている。
俺と似た考えを持ったのか、リーナと司波妹も怪訝な表情になってアレを凝視している。
試しに遠隔で魔法陣に接続してみたが……消去することが出来なかった。
現時点で判明したのは、もう既に俺との繋がりが断たれており、新たな魔法となって構築されている。何が発動するのかは今も全く分からないが。
何れにせよ、あの魔法陣を放置する訳にはいかない。此処は一高の野外演習場だから、生徒や教職員の目に入れば大事になってしまう。生徒会の副会長として、俺が責任持って消去しなければならない。
「司波。俺が消すから、お前はいつでもアレを撃てる準備をしてくれ」
俺が言うアレとは『
「構わないが、俺がやった方が手っ取り早いんじゃないのか?」
「いや、それは最終手段にしてくれ。あの魔法陣は俺との繋がりが断たれてる上に、何の魔法なのかが全く分からない。お前としても、何も分からないまま壊すのは嫌だろう?」
「……確かにな」
司波が頷くのは、あの厄介な眼を使っても分からないからだ。
魔法の内容が分からなくても、俺が描いた
一通り話し終え司波達が見守っている中、俺は未だに消えない魔法陣へ向かおうと足を運び出す。
中心部分に辿り着いた俺は改めて調べ直すと……全く分からなかった。
本音を言えば詳しく調査したいところだが、生憎今は時間が限られてる為、破壊を優先せざるを得なかった。
中心部分にオーラを注ぎ、完全消去を試みると――
「な、何だ!?」
「「「ッ!?」」」
魔法陣は消えないどころか、一層輝きが強くなり始めていた。
見守っている司波達も、突然の攻撃に目を見開いている。
(どういう事だ。俺は消そうとしているのに、何故逆に発動しようとしている!?)
「くっ、止むを得ん!」
俺の戸惑いを余所に、司波は拳銃型CADを俺、ではなく魔法陣に狙いを定めて『
だが、向こうは何故か撃たなかった。それどころか戸惑いの表情になっている。
「あの魔法陣を撃ってはダメだと? 一体どういう事だ、幹比古」
どうやら司波の魔法発動を阻止したのは、通信をしている幹比古のようだ。止めたからには何か理由があるのだろう。
だがそれとは別に、魔法陣が更に強い輝きを発していく。
こうなったら
《見つけた……》
(え? この声は……)
すると、何処からか声が聞こえた事で、俺は動きを止めた。
初めて聞く声じゃない。同時にひどく懐かしい気持ちになっていく。
《やっと見つけた……》
最初よりも近くで、その声は聞こえた。
余りにも久しぶりに聞いたから、自分の思い過ごしかと思ったが――
《約束を、果たしに来た》
だがこの声に聞き覚えがあり、俺の眠っている記憶が蘇る。
それは自分が初めて転生した
嘗て無限を体現する最強の龍神であり、テロリスト集団『
もうついでに、ソイツは俺が死ぬまでずっと傍に居続け、息を引き取る寸前に『我はまた、会いにいく』と言っていた。再会するのは当分先だなぁと思っていたが、それがまさかこんな状況で……。
「オーフィス……」
思わず名前を告げた瞬間――
《リューセー、久しい》
その挨拶がトリガーとなったのかは分からないが、魔法陣は大きな輝きを発する事となった。
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