再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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来訪者編はこれで最後になります。


来訪者編 卒業式+リーナとの別れ

 西暦2096年3月15日

 

 

 

 本日の一高は卒業式。校内には喜びの声、同時に泣き声も聞こえていた。後者に関しては決して不幸な出来事ではないと補足しておく。

 

 式自体は既に終わっていて、先程の声は校庭に出てきた卒業生達のものだった。

 

 この後には卒業パーティが行われる予定だ。こんな時でも一科生と二科生を分ける事に俺は少々呆れたが、当人達からすれば気楽で良いみたいだ。

 

 言われてみれば、確かにそうかもしれないと俺は改めて認識する。二科生は一科生が一緒だと変に委縮するだろうし、一科生は二科生を気にして楽しく騒げなくなるかもしれない。一応言っておくが、二つの会場にある料理や飲み物に差はなく、唯一の違いは一科生と二科生の卒業生だけだ。

 

 だが、それでも面倒であることに変わりなかった。会場の設営や料理の手配など、会場が二つになっている分、卒業パーティを主催している生徒会としては余分な苦労を強いられているのだ。

 

 司波が大忙しの生徒会を見て準備や運営を手伝おうかと申し出たので、俺は遠慮なく手伝わせる事にした。

 

 その際、司波妹が――

 

『兵藤くん! こんなことでお兄様の御手を煩わせるわけには参りません!』

 

 と言って俺に抗議していた。

 

 中条であればすごすごと引き下がるしかないだろうが、俺はそんなの気にせず――

 

『今は本当に忙しいんだから、こんな時に麗しい兄妹愛を見せ付けないでくれ。後で疲れてる兄の身体を癒すのが妹の役目だと俺は思うが』

 

『お、お兄様を、わたしが癒す!?』

 

 チョッとした言葉の誘導をした直後、司波妹は面白いくらいに引っ掛かってくれた。顔を一瞬で真っ赤にしているのを見て、どうせ彼女なりの卑猥な妄想をしたに違いない。ついでに中条も飛び火したように、面白いくらいに真っ赤になっていたが。

 

 彼女の様子に司波兄は苦言を呈そうとするも、それを無視した俺は彼是と指示を出して馬車馬のように働かせた。当然指示している俺も、な。

 

 言うまでもないが、俺と司波兄は二科生側の卒業パーティの準備と運営を行った。司会進行をする俺達に、三年生は少々複雑そうな表情でありながらも、パーティを楽しんでくれている。それを目撃した真由美がとても意味深な笑みを浮かべていたが。

 

 因みに真由美は無事、魔法大学に合格した。『吸血鬼(パラサイト)』の件が漸く片付いた事で、余計な気掛かりなく受験に専念出来たらしい。彼女だけでなく、十文字も同様に。

 

 二人以外に、三巨頭の一人である摩利も同じく魔法大学に行くかと思いきや、何と防衛大学校へ進学する事になった。どうやら真由美も知らなかったみたいで、後になってから散々冷やかしていた。

 

 俺もつい『もしかして大好きな彼氏さんのいる大学で甘い時間を過ごしたいとか?』と言った瞬間、摩利は分かり易いほど顔を真っ赤にしながら即座に襲い掛かって来た。と言っても、俺は簡単にヒョイヒョイッと躱し続けていたが。

 

 一緒に聞いていた真由美も悪乗りして、散々と言うくらいに揶揄(からか)いまくっていた。本人は必死に否定するも、完全に暴れそうになった為、俺と真由美はやり過ぎたとチョッとばかり反省する。

 

 あ、言い忘れていたが、一科生側の卒業パーティで臨時生徒会役員のリーナが物凄く張り切っていた。何を勘違いしたのか、希望者を募る余興を、自らバンドを率いてステージに上がっていた。立て続けに十曲くらい歌い、プロ顔負けの中々見事なステージだった。

 

 そんな面白いイベントは是非とも二科生側に見せるべきだと思った俺は、中条に頼んで中継カメラを用意してもらった。突然の光景に二科生の卒業生達は驚きながらも、大いに盛り上がっていたのは言うまでもない。

 

 カメラで中継されると同時に記録したのはリーナに内緒だったが――

 

「リューセー! 今すぐにアレを消去しなさい!」

 

「無理。卒業式の大事な記録として保管される事になってるから」

 

 後になってから彼女にバレてしまうも、結局諦めざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 卒業式が終わってから、リーナは学校に出て来なくなった。

 

 理由としては『帰国の準備で忙しい』だそうだが、俺はすぐに察した。パラサイト討伐の任務を終えたから、軍より撤収命令が出たのだと。

 

 卒業式までリーナが登校し続けたのは、高校生として割り当てられた役目を最後まで果たそうとしたのだろう。俺に何度も勝負を挑み続けるのは、流石にチョッとばかり鬱陶しかったが。

 

 まぁ俺の個人的感情を抜きにして、彼女は楽しそうに学生生活を送っていたから、それはそれで良しとしておく。

 

 それとは別に、一昨日で三学期が終わり、高校生活最初の一年が終了となった。

 

 中学まで平穏に過ごしていた時の俺が、まさか高校に入学してからガラッと変わる事になるとは想像もしなかっただろう。いくら魔法科高校だからって、季節ごとに慌ただしい日々を送りはしない筈。

 

 春にはテロ組織『ブランシュ』の襲撃、夏には九校戦を賭け事に利用していた犯罪シンジケート『無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)』からの横槍、秋には論文コンペ中に『大亜連合』が横浜へ侵攻、冬の年明けにはUSNA側が行った実験の所為で出現した『吸血鬼(パラサイト)』の事件。

 

 こんな大きな事件が頻発するなんて、一体誰が想像するだろうか。いくら聖書の神(わたし)が自衛目的で密かに修行していたとは言っても、ここまで予想してはいない。

 

 出来れば今後平穏な学生生活を送りたい……と願いたいところだが、それはもう無理だと諦めている。俺はこの一年間で様々な事件に遭遇した他、色々厄介なモノに関わってしまっている。そんな事が起きて今更平穏な時間を過ごすのは、ハッキリ言ってほぼ不可能だ。

 

 益してや、現在俺の家には(母さん達には内緒で)神造精霊のレイとディーネ、そして(公式上では)神霊のオーフィスがいる。その気になれば十師族を簡単に滅ぼせるどころか、世界を掌握できるほどの戦力を持っている。言っておくがコレは大袈裟じゃなく、純然たる事実だ。オーフィスは更に弱体化しても、この世界では最強クラスだから、聖書の神(わたし)と一緒に本気でやれば日本どころか世界を更地にする事だって出来る。

 

 だが、此方にその気が一切無くても、向こうはそう簡単に警戒を緩めたりしない。この前に会った真由美曰くの『狸親父』さんが御託を並べていたが、早い話、俺達を恐れているのが丸分かりだった。まぁチョッとばかり威嚇(・・)した事で、余計警戒されてしまう破目になってしまったが。

 

 そんなこんなで春休みを過ごしている最中、突如電話が来た。

 

 

 

 西暦2096年3月26日

 

 

 

「態々俺だけ呼び出すとは、一体どう言う心境だ?」

 

「チョッと伝言を頼まれついでに、ね」

 

 此処は東京湾海上国際空港。

 

 リーナが本日帰国となる為、俺は見送り役として来ていた。

 

 昨日に彼女から電話が来るまで知らなかったのだが、帰国する前に話があるから明日空港に来て欲しいと言われたのだ。

 

 因みに今日は北山が日本へ戻ってくる日と被っており、修哉と紫苑も同行することになっていたが、俺は急な用事が出来た事にしてパスしてる。尤も、今いる空港のどこかに司波達がいるから、もしかしたら会う可能性はあるだろうが。

 

 てっきりまたしても俺と戦うための呼び出しかと警戒するも、今回は違うと即座に否定し、ただ本当に話をするだけで一切罠は無いと言っていた。

 

 まぁ確かに、人の出入りが激しい空港で戦闘をする訳が無いと思った俺は信用して、その翌日に空港へ足を運んだ。本当は連れて行く気など無かったんだが、レイとディーネが前回の件で相当警戒しており、万が一と言う理由で今も透明化して俺の後ろに控えている。

 

「ねぇリューセー。確認なんだけど、アナタの後ろにあの子(・・・)もいるの?」

 

「ああ、基本的には俺の近くにいるぞ。用があるなら、君だけ見えるようにしようか?」

 

「……遠慮しておくわ」

 

 あの子とはレイやディーネじゃなく、オーフィスの事だ。当然彼女も一緒に付いて来て、精霊(こども)達と一緒に透明化している。

 

 学校にいる間、リーナには神霊の存在について軽く教えている。と言っても俺は専門外だから、人間に取り憑くパラサイトとは全く異なる自然現象で、それ以上に強大な力を持った存在と言うくらいまで。

 

 それを知った彼女は顔を青褪め、『パラサイト以上にとんでもないじゃない!』と突っ込まれた。あの子は自分から害を及ぼす事はしない他、基本的に大人しいから大丈夫とフォローはしたから一応問題無い筈だ。

 

「話を戻すけど、ワタシの保護者は憶えてる?」

 

「ああ、一応」

 

 リーナの保護者とは、先月に会った女性軍人――ヴァージニア・バランス大佐の事だ。

 

 恐らくその上官から俺に伝言があるから、態々俺を空港へ呼び出したのだろう。

 

「『ある人物との話し合いにより、我々は今後君達に手を出さない。だが、もし君がUSNAへ来るのであれば我々は喜んで歓迎する』、だそうよ」

 

「そうか」

 

 九島と一体どう言う話をしたのかは知らないが、俺や家族に手を出さないよう確約させたのは間違いないようだ。来たら歓迎するとは体のいい事を言ってるが、自分達の領域(テリトリー)に足を踏み入れたら簡単には逃がさないと丸分かりだった。

 

 伝言を聞き終えると、リーナは途端に悪戯っぽい笑顔に分かる。

 

「リューセーには色々な意味でお世話になったわね」

 

「そっちから勝手に喧嘩売って来たくせに、よくそんな台詞が言えるものだな」

 

 ふてぶてしいものへとなっていくリーナに、俺は即座に嫌味を返した。

 

「何よ、男ならこれくらい軽く流しなさいよ。こっちはアナタの所為でキズモノにされたんだから」

 

「キズモノって……たかが裸一歩手前を見られたぐらいで大袈裟過ぎだろ」

 

「大袈裟じゃないわよ……!」

 

 俺の台詞が聞き捨てならなかったのか、またしてもリーナは表情を変えて俺に詰め寄って来る。

 

「もう一度確認したいんだけど、あの時本当に服を脱がしただけなのよね?」

 

「何度も言わせるなよ。それ以外の事は何もして……あっ」

 

 やばっ。改めて思い出したらチョッとばかりやらかしてたな。

 

 あの時リーナが来ていた戦闘服は、簡単に脱がせなかったから少々強引にやっていた。上着の中に手を入れなければ脱がせない部分があって思わず胸を鷲掴みした他、ズボンを脱がす際に何故かパンツも引っ掛かって一緒に剥いでしまうと言う出来事が。言っておくがアレは完全な事故で、卑猥な行いは一切していない。

 

 だが、今此処でそれを思い出したのは不味かった。リーナが見逃さないと言わんばかりに、両手で俺の胸倉を掴んでくる。

 

「ねぇリューセー、さっきのは何なの? ひょっとしてアレ以上の事をしたの? 今すぐ教えなさい」

 

「リーナ、落ち着け。別に大したことじゃないから」

 

「だったら今此処で話しても問題無いわね。話しなさい。って言うか、話せ」

 

 段々と言葉遣いが荒くなっていくと同時に、目がマジになっているリーナ。

 

 もし教えたら絶対暴れそうな予感がしたので、穏便に済ませるよう誤魔化し続ける事にした。

 

 ――? 何でご主人様はあんな風に誤魔化してるの?

 

 ――さぁ……? 私には、全く……。オーフィス様は、何か、お分かり、ですか?

 

 ――リューセー、まるでイッセーみたいになってる。

 

 透明化したまま俺とリーナのやり取りを眺めているレイとディーネは首を傾げており、オーフィスは思い出すように呟いていた。

 

 とても締まらない見送りとなってしまったが、リーナは再び日本へ訪れる機会があったら絶対に聞かせてもらうと決意して、ゲートへ消えていく。

 

 その後、北山を出迎えていた司波達と出会った際、一緒にいた修哉と紫苑から問い詰められるのだが……それはまた別の話にしておく。




次回以降は番外編を更新する予定です。

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