課題で一騒動起きても、以降は何事も無いまま一週間が過ぎた。
敢えて言うなら、修哉と紫苑が凄く積極的に俺から魔法について学ぼうとしている。友人の二人からして、俺が出した記録を見て師事したいと考えたそうだ。
アレは
本当なら俺が現代魔法で実行する予定のやり方なのだが、如何せん上手く展開出来ない為に頓挫する事となった。俺が無理なら恐らく同じ二科生の修哉と紫苑でも芳しくない結果になるだろう。
そう思いながら教えてみたら……何と言うことでしょうか。二人揃って課題のクリア条件である1000msを軽く切ったどころか、850ms前後の記録を出したのだ。
余りにも予想外過ぎる結果に俺は言葉を失ってしまった。俺の時は全然ダメだったのに、何で修哉達がここまでの結果を出せるんだよと内心憤慨していた。
修哉と紫苑が好成績を出した事により、他のクラスメイト達も是非教えてくれと乞われたが、流石に断らせてもらった。
☆
授業が終わった放課後。
「修哉、今日も部活か?」
帰り支度を終えて紙のノートやタブレットが入った鞄を片手に持っている俺は、修哉に部活の確認をした。
因みに紫苑は陸上部の部室へ向かっている為、もう教室にいない。何でも二年生の
「そうなんだが……」
「どうした? お前にしては珍しい反応だな」
いつも剣道部に行くのを楽しみにしてる修哉だが、今日は全く浮かない表情だ。
友人になってまだ付き合いは短いが、それでもコイツの様子がおかしいのは充分に分かる。何かあまり良くない事が起きているんじゃないかと。
すると、修哉は意を決したように尋ねようとする。
「なぁリューセー、この数日の間に紗耶香先輩と会ったか?」
「壬生先輩? いや、この前カフェで会って以降は全然」
約一週間前に学内カフェで会ったきりとなっている。
彼女は俺を勧誘するのを諦めない様子を見せていたので、てっきりまた来るかもしれないと思っていたが、今も全く音沙汰無し状態で肩透かしを食らっていた。
「その壬生先輩がどうした。お前は剣道部なんだから部活の時に会ってるだろ」
「いや、あの人この数日、部活を無断で休んでいるんだよ。学校には来てるみたいなんだが」
「? どういうことだ?」
学校には来てるのに部活を休んでるのは確かにおかしい。
修哉の話だと、壬生は剣道に関して人一倍熱心だと言っていた。そんな彼女が部員達を放って無断で休むのは違和感がある。
違和感と言えば、彼女は何もかも相手側が悪いと誘導されて言っているような気がした。もしかしたら何か関係があるかもしれない。
こんな事なら
修哉にもっと詳しく訊いてみようと思ったその時、
『全校生徒の皆さん! 僕たちは、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』
ハウリング寸前の大音声が、スピーカーから飛び出した。
突然の放送に俺や修哉は勿論のこと、教室にいるクラスメイト達も困惑している。
『僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』
要求って、その為に放送ジャックと言う大掛かりな事を仕出かしたのか。恐らくこの放送を聞いた風紀委員が止めようと動く筈だ。
何とも傍迷惑だが、すぐに鎮圧されるのは時間の問題……ん? ちょっと待て。
「まさかこの放送、壬生先輩も関わってるんじゃ……」
「え? リューセー、何の話だ?」
俺の呟きを聞いた修哉が反応して訊きだそうとして来た。
「いや、実はな……」
教えない理由がないので、俺は先日に壬生と話した内容を修哉に軽く説明した。主に学校に訴える内容について。
一通り聞いた修哉は寝耳に水の話みたいだ。彼女がそんな事をしていたのを全く聞かされてないらしい。
俺はてっきりもう知ってるかと思っていたが、反応を見る限り本当に知らないのだろう。後輩の修哉とは仲が良いから、俺と同じく勧誘していたんじゃないかと思ったが全くの誤算だ。
彼女がどう言うつもりで修哉に隠していたのかは分からない。有志同盟とやらに加わる価値が無かったか、もしくは自分の事をよく知ってる修哉を巻き込みたくなかったか……どちらにしろ確認する必要がありそうだ。
「リューセー、悪いけど――」
「壬生先輩が本当に関わっているかどうか確かめるんだろう? だったら俺も付き合う」
教室から飛び出そうとする修哉を宥めながら行動する事にした。
放送室へ行く前、壬生がいると思われる2年E組と剣道部の部室へ向かったが、残念だがどちらにもいなかった。
そして俺達はもう一つの場所へ向かう。先程からスピーカー越しに訴えている放送室へ。その途中、放送が途切れてしまったが、俺たちは気にせず向かっていた。
☆
放送室へ向かったのは良いんだが、やはりと言うべきか辿り着けなかった。
何故なら放送室前に渡辺と十文字と見慣れない女子生徒の他、風紀委員会と部活連の実行部隊が既に待機していた。俺と修哉を含めた野次馬達を、放送室へ近づかせないよう数名の風紀委員と部活連が今も壁役となっている。
「くそっ、今すぐ確認したいのに……!」
「まぁ取り敢えず落ち着け。ここはあの人達に任せるべきだ」
もどかしくなっている修哉をどうにか宥めながら、俺は向こうの会話を聞こうとしてると、俺達が来た方向から司波兄妹がやって来た。
二人は俺を見た途端に少々驚くように見たが、すぐに視線を外して渡辺達がいる方へ向かう。司波兄は風紀委員だから問題無く、生徒会に所属してるらしい妹の方も同様だ。
司波兄妹が加わった事で会話が始まり、俺は会話を聞こうと集中する。
状況を端的に纏めるとこうだ。
①放送が止まってるのは、電源をカットされている。
②扉は閉鎖されている。放送室に踏み込めないのは、連中が鍵をマスターキーごと手に入れたため。
③現在は慎重に対応する、もしくは強引に扉を開けて短時間で解決を図る、と言う検討をしている為に手が出せず仕舞いとなっている。
未だ決断が出せていない状況に、俺は少しばかり情けなく思った。
と言ってもそれは検討中の十文字達に対してでなく、この状況に全く関与してない教職員にだ。本来なら職員が来てもおかしくないのに、現れる気配が全くなかった。
三巨頭がいるから問題無いと任せているんだろうか。だとしたら、こう言うのを職務怠慢だと思うんだが……。
「あの人達、いつまでああやってるんだ……!」
「状況が状況だから、簡単に動く事が出来ないんだろう」
十文字達が一向に動こうとしない事に苛立ちを覚え始める修哉。
その気持ちは分からなくもないが、例え俺達がしゃしゃり出たところで何の解決にもならない。
だけど、俺としてもそろそろ決断して欲しいと思ってる。このまま手を
そんな中、兄の方の司波が動き出した。内ポケットから携帯端末を取り出して耳に当てている。
「壬生先輩ですか? 司波です」
「「!」」
少し離れているが、周囲が無言となって見守っていたから、司波の声が充分に聞こえた。
聞いていた俺は勿論の事、壬生の名前が出た事に修哉もピクリと反応している。
「……それで、今どちらに? はぁ、放送室にいるんですか。それは……お気の毒です」
どうやら俺達の推測は当たっていたか。やはり壬生は放送室にいるようだ。
出来れば彼女がいないようにと願っていたが、聞いてしまった以上はもう遅い。
「紗耶香先輩……」
修哉は凄く複雑な表情となっていた。多分、俺と同じ心情だろう。
因みに司波の声は聞こえるが、アイツが使ってる受話器から彼女の声が聞こえなかった。恐らく声が漏れないよう完全遮音設定にしてるかもしれない。
「いえ、馬鹿にしているわけではありません。先輩も、もう少し冷静に状況を……ええ、すみません。それで、本題に入りたいんですが」
司波と壬生との会話はまだ続く。
交渉に応じるから放送室の扉を開けて欲しい。開けても壬生の自由は保障する等々と。
一通りの通話を終えた司波は通話していた受話器を耳から外し、端末本体と一緒にしまい込んだ後、渡辺達に向き合って話し始める。
「なぁリューセー、あの司波って奴、紗耶香先輩とプライベートナンバーを教えるほど仲良いのか?」
「さぁ……?」
修哉が司波と壬生の関係が気になったように尋ねるも、それについて全く知らない俺は返答に困った。
それとは別に、司波はこの後の事を話していた。態勢を整えて、放送室にいる連中を拘束しようと。
更には自由を保障するのは壬生一人だけであり、風紀委員会を代表して交渉しているとは一言も述べていないとサラッと言いのける始末。通話の内容と全く異なる事を考えている司波に、誰もが呆気に取られた表情を浮かべていた。
この前のやり取りで分かっていたが、アイツは本当に性格が悪い。言ってる事は間違っていないと分かってても、殆ど詐欺もいいところだ。
となると、この後は容易に想像出来てしまう。放送室の扉が開いた瞬間、風紀委員が即行で突入して壬生以外の者達は拘束されるだろう。それを見た壬生が騙されたと激高し、司波に食ってかかる筈だ。更に当の本人は無表情のまま、淡々と一切騙してはいないと事実だけを告げて話を終わらせようとするだろう。
ここまで分かりきった展開を考えると、少しばかり壬生が気の毒だ。信じていた相手に騙されたと負の感情が強くなってしまう恐れがある。
不味い。渡辺が風紀委員に突入の指示を出している。このままだと俺が想像した通りの展開になるだけじゃなく、隣にいる修哉が今後司波に対して悪感情を抱いてしまう。勿論それは壬生を罠に嵌めたと言う意味合いで。
部外者の俺が口出しする立場ではないが、ここは無理矢理にでもフォローさせてもらう。友人である修哉の為にも。
そう決意した俺は超スピードを使い、司波達の前に姿を現す。
「失礼。突入する前に少々お待ち頂けますか?」
『!?』
第三者である俺の発言に、この場にいる誰もが一斉に驚愕しながら振り向いた。向こうからすれば、俺が瞬間移動でもしたと錯覚するほどの登場だろう。
「え? え? あ、あれ? 何で、リューセーが、あそこに?」
因みに修哉は俺がさっきまでいた場所と、此処にいる俺を交互に見ながら困惑しているが無視させてもらう。
司波兄と渡辺と十文字は俺が超スピードを使える事を知ってても、いきなり俺が現れた事に予想外だったのか、他の生徒達と同様に驚いている。
話をしようにも壁役の風紀委員と部活連がいるから、こうでもしないと聞いてくれそうになかったので、敢えて超スピードを使わせてもらった。
「き、君は……兵藤隆誠。何故此処に?」
俺を見てやっと理解出来たのか、渡辺が代表して尋ねてきた。
「申し訳ありません。部外者である自分が口を出してはいけないと重々承知してるのですが、司波のやり方は後々些か面倒な事になると思い、意見をしようと強引に割り込ませて頂きました」
「面倒な事だと?」
「それはどう言う事だ?」
謝罪しながら理由を申し上げる俺に、渡辺と十文字は気になるのか続きを促す。
「実は――」
「って、よく見たらコイツ二科生じゃないか!」
俺が説明しようとするも、一科生の一年らしき風紀委員が口を挟んできた。
その台詞に俺の事を知らない他の面々も二科生だと分かり、段々と視線が鋭くなっていく。
「も、申し訳ありません十文字会頭、渡辺委員長! その部外者を今すぐに……!」
壁役となっていた部活連の一人が俺を追い出そうと腕を掴もうとするが、十文字と渡辺が待てと制止したので思わず動きを止めた。周囲も何故止めるのかと疑問を抱いているが、二人は気にせず無視している。
この様子だと俺の意見を聞いてくれるようだ。普通なら部外者の俺を追い出せと指示する筈だが、ちゃんと聞いてくれる辺りは他の一科生と全然違う。
それに加え、この前の超スピードと遠当ての種明かしをした事もあって、俺に何かしらの警戒感を抱いているかもしれない。下手に俺を追い出してしまえば、あの時の技を使われて被害が及ぶ可能性があると考え、そうならないよう話だけは聞いておこうと思ったんだろう。
「話の腰を折ってすまなかったな。それで、君の意見を聞かせてもらおうか」
渡辺が改めて促してきたので、俺はすぐに説明しようとする。
「司波の考えは決して間違っていないのですが、放送室に立て籠っている壬生先輩の心情を考えると、仲間が拘束された途端、騙されたと激高するのが目に見えてます。そうなったら相手側はまともに話を聞いてくれないでしょう。そこで提案なのですが、俺達からちょっとしたフォローをさせて頂きたいのです」
「フォローだと? 壬生紗耶香の事を知っているのか?」
「ほんの少し会話した程度で、前に彼女から有志同盟に入らないかと誘われた事がありまして。尤も、俺は司波と違ってプライベートナンバーまで教えられるほど好かれていませんがね」
俺が意味深のように言いながら視線を横に移すと、司波は少々苦い表情をして俺を睨んでいた。『余計な事を……』と目で語っているのが容易に分かる。
それと妹の方が何やら少しばかり怖そうな笑みを浮かべながら、片手で司波の背中を掴んでいるのは見なかった事にしておく。
「やはり彼女は君にも声を掛けていたのか」
話を聞いた渡辺は納得の表情となるが、すぐに切り替えた。
「だが悪いが却下させてもらう。いくら知り合いだからと言っても、まだ会って間もない君が彼女のフォローをするのは無理だ」
「いいえ、主に俺じゃなくアイツです」
「何?」
俺が指をさすと、この場にいる全員がその方向の先には修哉がいる。指された本人もいきなりの事に戸惑い気味だ。
「あそこにいるのは俺のクラスメイトで友人の天城修哉です。何でも壬生先輩とは中学時代から仲の良い先輩後輩の関係でしてね。アイツをフォローに回してくれれば、激高した壬生先輩も流石に頭を冷やすでしょう。交渉に応じるそちらとしても、決して悪い話ではないと思いますが、如何でしょう?」
「成程。それは確かに一理ありますね」
すると、一緒に聞いていた髪の長い女子生徒が考える仕草をしながらも頷いていた。
その後に彼女は渡辺と十文字に向かって言う。
「お二人とも、私は彼の提案に賛成します。
「むぅ……十文字、どうする?」
渡辺は分かっていても判断しかねないと思ったのか、この場を十文字に任せようとした。
そして――
「話し合いに応じさせる為のフォローをしてくれるなら、こちらとしては願ってもない。それでいこう」
十文字が最終的な判断を下した為に、俺の提案を受け入れてくれるのであった。
因みにさっき俺に噛み付いていた一科生で一年の風紀委員が反対しようとしてたが、渡辺が黙らせた事で事無きを得た。壬生とは別に、コイツの方で後々面倒な事にならなければ良いんだが。バカな真似をして、俺に同性愛疑惑のレッテルを貼らせる事をしないよう祈ろう。
さて、そんな事よりも修哉に壬生のフォローをしてもらう為の説明をしないと。
☆
「紗耶香先輩、話はリューセー達から聞かせてもらいました」
「しゅ、修哉君……」
突入して早々、放送室を占拠していた五人を風紀委員を拘束した。だが壬生だけはそうせず、CADだけを没収しただけに留まっている。他の四人のCADも拘束と同時に没収済みだ。
案の定と言うべきか、激高した壬生は司波に話が違うと詰め寄ろうとするが、修哉の登場によってすぐに止まった。まるで、一番知られたくない相手に知られてしまったような感じがする。
いきなり別人のように大人しくなっている事に、彼女に詰められそうになった司波も予想以上に効果
その後に遅れて来た七草が登場し、今回の措置は職員と話し合いの結果、生徒会に委ねると言ってきた。普通は職員が責任もってやる筈なんだが……相手は十師族の七草なら問題ないと判断したんだろう。
交渉に関する打ち合わせをしたいから付いてきてほしいと言った瞬間、壬生はさっきと同様すんなりと受け入れるどころか、すぐにやるから場所を変えたいと言って放送室から出ようとする。
「ちょっ!? 紗耶香先輩、待って下さい。俺はまだ――!」
「ごめんなさい、修哉君……!」
声を掛ける修哉に壬生は振り切るように一足先に放送室から出てしまった。余りの事に修哉だけでなく、俺を除く全員が彼女の行動に面を喰らっていた。
あの様子から見て、彼女は修哉に今回の事を一切教えていないようだな。まるで巻き込ませたくなかったかのように思える。
「紗耶香先輩、どうして……」
取り敢えずこの後は俺の方で修哉をフォローしておくとしよう。拒絶されたかのような壬生の行動にショックを受けてる様子が見受けられるので。
「え、え~っと……兵藤くん、天城くん、話はリンちゃんから聞かせてもらったわ。ご協力に感謝します。壬生さんの事は私達に任せて、今日はもう帰ってもらっていいわ」
「………分かりました。では失礼いたします。修哉、行くぞ」
「………」
何とも言えない空気となった事に、七草が帰るように促されたので、俺は無言になってる修哉を連れて放送室を後にした。
因みに俺の方で剣道部に『修哉は諸事情があって休む』と言っておいた。こんな状態でクラブ活動させても、上の空で集中出来ないのが容易に想像出来る。
そして司波兄妹も続いてその場を後にしてるが、今はどうでもよかったので何も言わずに別れた。
感想お待ちしています。