再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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番外編 リューセーVS達也 激突

(どう言うことだ!? 何故急に深雪が『視れ』なくなった!?)

 

 片手で両眼を押さえてる達也は、嘗てないほどの焦燥感に駆られていた。先程まで問題無く使っていた筈の『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』が急に強制遮断されたから。

 

 放課後で隆誠からの罰で生徒会室で仕事をさせられていた時、オーフィスの監視もあって、思うように『視る』ことが出来なかった。神霊である彼女の前で下手に展開してしまえば、主である隆誠に知られてしまう恐れがあった為、問題無く長距離走を行っている程度の情報しか得られなかった。

 

 達也は四葉家当主の最有力候補と謳われている深雪のガーディアンで、彼女に迫る脅威を排除する役割を与えられている。その為に精霊の眼(エレメンタル・サイト)は、彼女の日常と安全を守る為の必須手段であった。

 

 精霊の眼(エレメンタル・サイト)は常にリソースの半分を深雪に割り当てている。その為に達也は深雪からどれ程遠く離れていても、常時『視る』ことが出来る。隆誠に呼び出された河川敷へ来ても、自宅の部屋で安らかに眠っている深雪の姿を『視て』いた。

 

 だが、その情報が強制遮断されてしまった。自分の目の前にいる隆誠によって。

 

「兵藤! 貴様、俺に何をした!?」

 

「ほう? いきなり感情的になったな」

 

 非常に焦っている達也と違って、隆誠は少々意外そうな表情となっていた。

 

 だが、今の達也にそんな事は如何でもいいことであった。

 

「いいから答えろ!」

 

「もう分かってるだろう? お前の鬱陶しい『眼』を強制的に封じさせてもらった。チョッと特殊な精神干渉系魔法を使って、な」

 

 態々訊かなくても分かる筈なのに、怒鳴るように催促する達也を見て、今度は素直に答える隆誠。

 

 その事実を改めて知った瞬間、達也は一瞬絶望しかけるが、それでも必死に自身を奮い立たせようと、眼を押さえていた手を放した後にこう言った。

 

「今すぐ解除しろ!」

 

「断る。人の警告を無視した罰として、お前には暫くそのままでいてもらう」

 

「ふざけるな!」

 

 達也からすれば、隆誠が発した台詞は死刑宣告に等しいものであった。

 

 ガーディアンとして深雪を常時『視な』ければならないのに、精霊の眼(エレメンタル・サイト)を封じられてしまえば、達也の存在意義を失ってしまう。

 

 安全な自宅で眠っているとは言っても、万が一に誰かが侵入してくる可能性がある。それを排除するのが自分の役目であった。

 

 その役割と存在意義を平然と奪った隆誠に、これまでに無いほどの怒りがこみ上げようとしていく達也。同時に深雪を安全な姿を視ることが出来ないことで、感情も恐怖の色へと染まり始めようとする。

 

 すると、あろうことか達也は予想外な行動に出た。以前にやらかした事を忘れてしまったのか、再び拳銃型CADの『トライデント』を取り出して隆誠に向けている。

 

「何の真似だ、司波。ひょっとして血迷ったか?」

 

「今すぐに俺の眼を解除しろ!」

 

「お前らしくないな。『眼』を封じたと言っても、日常には問題無く――ッ!」

 

 まるで別人ではないかと思うほどの達也の行動に、隆誠は只管驚くばかりであった。その直後、トライデントの銃口から魔法を放たれた事によって考えを改める事になる。

 

 幸いと言うべきではないが、達也が放たれた魔力の弾丸は隆誠本人に当たっておらず、河川敷にある木の枝に命中し、折れただけだった。それでも、隆誠の近くであったから、狙いを誤れば当たっていただろう。

 

「……はぁっ。どうやら思っていた以上に、お前が使ってる『眼』は相当大事なモノのようだ」

 

 精霊の眼(エレメンタル・サイト)を封印する前までの隆誠はこう考えていた。普段冷静で用心深い司波の性格からして、『眼』を封じられても相応の手段があるはずだと。しかし今は自身の予想が外れるどころか、斜め上を行く展開に驚くばかりであった。

 

 意外な一面を見せる達也の姿を見て、少々不味い事をしたかもしれないと考察し始める。

 

「早くしろ! 俺は深雪の安全を確認しなければならないんだ!」

 

「それとお前の『眼』に何の関係がある?」

 

「黙れ! これ以上お前の問答に付き合う気はない! 解除しないのであれば、此処でお前を殺してでも――ッ!?」

 

「『殺す』だと? お前が? 俺を?」

 

 達也が殺すと口にした直前、隆誠は予備動作もせず瞬時に接近し、トライデントを持ってる手首を掴んでいた。

 

 突然の事に達也は驚愕しながらも、掴まれてる手を剥がそうとするが、それは叶わなかった。自身を見る隆誠の眼によって動けなくさせているから。

 

「教えてやるよ、司波。お前がどれだけ、身の程知らずな発言をしたのかを、な!!」

 

「ごっ!」

 

 隆誠が掴んでいた司波の右手首を放して早々、彼の腹部に拳を当てた。

 

 襲い掛かって来る衝撃とダメージに、達也は呻き声をあげながら吹っ飛んでいく。そしてそのまま、道路側にある坂へ激突する。

 

「う、ぐっ……っ、ごふっ!」

 

 坂に激突した達也は痛みに耐えながら立ち上がろうとするも、突如胃が込み上がり、すぐに吐いた。

 

 口から出てきたのは自身の血。内臓にダメージを受けた事で内出血が起きた為、吐血したのだ。

 

(何だ、この途轍もなく重い一撃は……!?)

 

 今の達也は精霊の眼(エレメンタル・サイト)を封じられている事で解析出来ない状態だが、それでも想子(サイオン)を放出せず、純粋に(りょ)(りょく)だけの攻撃なのは分かった。

 

 思わず、魔法によって強化されたのではないかと錯覚してしまう。これでレオと同じく硬化魔法を使ったと言われたら、すぐ納得してしまいそうなほどに。

 

 本来であれば『再成(さいせい)』を使って、瞬時に自身の身体を修復させている。それどころか重傷同然の傷を負っていれば、『再成』の派生魔法である『自己修復術式』が自動的に発動する予定だった。

 

 しかし、今はそれを発動させていない。と言うより、発動出来ないと言った方が正しいのだ。

 

 達也が使用する『再成』や『分解』を発動させるには前提条件がある。『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』で情報を認識出来なければ、充分に使う事が出来ないのだ。彼にとって精霊の眼(エレメンタル・サイト)は魔法を起動する為に必要な『鍵』その物である。

 

 それを封じられてしまった為、今の達也は強力な魔法(ぶき)を使う事が出来ない状態に陥っている。魔法と言う手段を殆ど失った事で、唯一彼に出来るのは体術しかない。

 

「? どうした、司波。お前がその程度の一撃で参る訳が無い筈だ」

 

 すぐに立ち上がる事が出来ない達也に違和感を抱く隆誠。

 

「司波妹から聞いてるぞ。『再成』と言う魔法で復元できる筈なのに、何故それを使わない?」

 

(使えないから、こうなっているんだ……!)

 

 フラフラになりながら立ち上がる達也は、好き勝手に言う隆誠に更に怒りが湧き出していく。

 

 因みに当の本人は精霊の眼(エレメンタル・サイト)を封じられた事で、達也が弱体化してる事に全く気付いていない。

 

(だが、早く解除させなければ……!)

 

 たった一撃で既に満身創痍となってる達也だが、今の状況を如何にかしようと必死に考えていた。

 

 出来る事なら今すぐにでも深雪の元へ向かいたいが、目の前にいる隆誠がそう簡単に逃がすつもりなど無いのは理解している。

 

 上着のポケットに入っている小型の投擲(とうてき)(りゅう)散弾(さんだん)を使おうかと考えたが、それは自殺行為も同然である為に無理だった。

 

 対物障壁程度なら展開出来るが、散弾を撒き散らす手榴弾を完全に無力化することは出来ない。再成の自己修復術式があるからこその手段なので、封じられている今は使えないのが現状であった。

 

(だが兵藤の事だから、例え使ったところで――っ!?)

 

 考え事をしながらも隆誠から眼を離していないにも関わらず、瞬きをした直後に消えた。

 

 一体何処へと見渡すも――

 

「こっちだ、バカ」

 

「なっ!?」

 

 いつの間にか隆誠が自身の背後を取っていたことに驚愕する達也。

 

 先程受けた攻撃によって吹っ飛んだ事で、達也と隆誠の間は約20メートル以上の距離があった。

 

 だと言うのに、瞬きをしたあの一瞬で自分に追いついたどころか背後を取っている。隆誠が縮地法を使えるのは知っていても、全く気付かずに接近されるとは思わなかったようだ。

 

 達也が即座に振り向くも、隆誠は既に攻撃の準備をしていて、回し蹴りを仕掛けようとしている。

 

「ふんっ!」

 

「ぐっ!」

 

 咄嗟に両腕を交差して隆誠の回し蹴りをガードするも、先程受けた拳以上の衝撃が襲い掛かり、達也はまたしても吹っ飛んでしまう。

 

 今度は黙って見守る気が無かったのか、隆誠は即座に跳躍する。吹っ飛んでいる達也に追いついて、丁度彼の真上で交差した瞬間に拳を振り下ろした。

 

 それを受けた達也は急降下するように地面へと激突していく。

 

 同時に隆誠も両足で着地し、動けないでいる達也の胸倉を左手で掴み高く掲げ――

 

「おらぁ!」

 

「がはっ!」

 

 すぐに離し、そのまま右の拳で再び達也の腹部に強烈な一撃を与えた。

 

 またしても攻撃を受けた達也はすぐに立ち上がれないのか、両膝と両手を地面に付いて四つん這いの姿勢になっている。

 

 完全に隙だらけとなってる姿を見た隆誠は、追撃をしようと身体を前のめりにしながら、達也の背中目掛けて右の肘打ちを当てた。

 

 直撃した達也は四つん這いから、今度はうつ伏せとなって倒れる。

 

「……なぁ、本当にどうしたんだ?」

 

「う、うう………」

 

 一方的に攻撃を受けてるどころか、未だに再成を使おうとしないことで隆誠が更に疑念を抱く。

 

 隆誠はうつ伏せから仰向けにさせるも、達也はもう完全に動けない状態であった。

 

「ここまで一方的にやられてるのに、何で再成を使わないんだ? 俺はお前がそれを使うと踏んだ上で、(チョッとばかり)本気でやってるんだぞ」

 

「………だったら、解除しろ……!」

 

 達也は睨みながら、封印を解けと要求するだけだった。

 

 それを聞いて、隆誠はある事に気付く。

 

「もしかして、俺が眼を封印したから『再成』が使えないのか?」

 

「………………」

 

 改めて問い直すと、今度は無言になっていく達也。

 

「ああ~成程。あの鬱陶しい眼は盗み見や相手の魔法を分析する他に、お前が使う魔法を発動させる為の『鍵』だったんだな。その所為でお前は魔法が発動出来ず、俺に一方的にやられていたって訳か」

 

 肯定だと分かった隆誠は、同時に状況も漸く納得出来た。

 

 盗み見を封印するだけのつもりが、まさかソレが達也の魔法すら奪っていたとは思いもしなかったのだ。

 

「尤も、例えお前が魔法を使えたところで、俺に一方的にやられることに変わりはないが」

 

「くっ……!」

 

 達也も当然理解していた。再成を使って何度復元しても、隆誠に全く勝てる要素が見当たらず、只管サンドバックになる光景を容易に想像出来るから。

 

「とは言え、お前は俺を殺すと口にしたんだ。相応のケジメは付けさせてもらうぞ」

 

「……好きにしろ」

 

 どれだけ愚かな真似をしたのかと、今更後悔しても遅かった。最早自分は深雪を守る事が出来ないどころか、このまま隆誠に殺されてしまうのだと既に悟っている。

 

「だがせめて、深雪の姿を一目だけでも確認させてくれ……!」

 

「この状況でもまだ言うか。本当に呆れるほどのシスコンだな、お前は」

 

 どうせ殺されるなら、最後は深雪の姿を見て死にたいと達也は願っていた。彼にとって妹が全てである為に。

 

 改めて懇願する達也に、隆誠はこう言った。

 

「だが断る。どうせ司波の事だから、解除した瞬間に再成を使うつもりだろう?」

 

「…………………」

 

「沈黙は肯定と受け取る」

 

 達也とはクラスが違えど一年の付き合いがある為、どう言う行動に出るかを見抜いていた。下手に仏心を出してしまえば、それこそ命取りになってしまう事も。

 

 止めを刺すつもりなのか、隆誠は片手を彼に向けて突き出した直後、掌から白い光球が出現する。

 

「一瞬で楽にしてやる。それじゃあ司波、また明日(・・・・)

 

「!」

 

 隆誠が光球を達也目掛けて放とうと――

 

「悪いけど、そこまでにしてもらえるかな?」

 

 していたが、突如第三者と思わしき人物が止めようと割って入って来た。




達也が原作とは異なるほどのキャラ崩壊してるんじゃないかと思われますが、これには理由があります。

師族会議編で達也の台詞の中に、

『深雪から眼を離すことが不安で、視てないところで何か起きたら気が狂いそうになる』

とありましたので、自分の想像で達也を豹変させました。

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