オーフィスの大人バージョンに興奮する九重だったが、話し合いの結果としては、取り敢えず無害だと言う事は信じてもらえた。
けれど、時々で良いから九重寺へ来て欲しいようだ。時間が経つことで、オーフィスが考えを改めていないかどうかの確認をしたいと言う理由で。
確かに一度だけ話したところで、そう簡単に警戒を緩めたりしないのは人間として当然だった。益してや相手は簡単に大災害を起こせる神霊であるから、様子を伺いたいのは至極当然だろう。
司波の師匠だけあって、かなり用心深いと改めて理解するも――
「ところで兵藤くん、オーフィスちゃんの幼女姿は見れるかい?」
「ええ、まぁ。オーフィス」
「ん」
「お? …………おおぉぉぉ! 大人姿も充分魅力的だけど、こっちも凄く可愛くて、萌え要素が満ち溢れてるじゃないか! 素晴らしい!」
「………はぁっ」
ただ単にオーフィスの姿を見たいが為に九重寺へ来て欲しいんじゃないかと、エロ坊主の発言に果てしなく呆れるのであった。
この男、もしかしたらイッセーと物凄く気が合うかもしれない。特にスケベ関連の会話になった瞬間、卑猥談議が延々と続いて確実に盛り上がるだろう。
☆
「――はい、これで終了となります」
「「はぁぁ~~~~………」」
司波一行に罰を執行して三日目。
既に夕日が落ちかかっており、エリカとレオは解放されたかのように突っ伏していた。
一日目の時にやった抜き打ちテストで、二人が間違えたところを重点的に教えようと、講師役の俺は空き教室を使って数時間も講義をしていた。
本来の参加者はエリカとレオだけだったんだが――
「凄いじゃない、リューセーくん。教師に向いてるんじゃないかと思うくらい、大変分かり易い講義だったわ」
「そうだな。あたしも受験前に、大変有意義な時間を過ごさせてもらったよ」
「兵藤、無理を言ってすまなかったな」
元三巨頭である真由美、摩利、十文字も一緒に受けていた。
その所為で一番前の席に座っているエリカとレオは、一番後ろに座っている三人からの視線を受けた事で、精神的に凄く参っていたのである。
「まさか、本当に最後まで受けるとは思いませんでしたよ。寧ろ、この二人以上に楽しくやっていましたね」
俺が講義をしている中、真由美や摩利から質問される事が多々あった。しかも少々意地の悪い質問で、講師役の俺が答えられないんじゃないかと思うほどの。
だけど、そう来るだろうと思っていた質問を想定済みのように、俺は一切迷うことなく回答している。それを聞いた二人は予想外みたいに面食らって、チョッとばかり口惜しそうな表情となるも、十文字が窘めるように咳払いをしたことで大人しくなったが。
因みにエリカとレオは一つも質問しないどころか、俺の説明に何とか付いて行くのがやっとみたいで、全く質問してくれなかった。分からなければ真由美達みたく素直に質問すれば良いのに、と講義中に何度そう思った事か。
まぁそれでも、ちゃんと理解はしているようだった。俺が簡単な問題を出してみたところ、難しそうな顔をしながらも答えてくれている。
「では、後の片づけは俺がやりますから、真由美さん達はお先にどうぞ」
空き教室の利用申請をしたのは俺である為、後処理として報告用の書類を学校側に提出しなければならない事になっていた。
真由美達もそれを知っており、感謝の言葉を述べた後、空き教室を後にする。
「おい二人とも、何時までそうしてるんだ?」
「んなこと言われてもよぉ~……」
「あの三人の所為で、こっちはどれだけ辛い目にあったと思ってるのよ……!」
講義で使った道具を片付けている俺は、未だ机に突っ伏している二人に声を掛けると、漸く顔を上げようとしていた。
「それは単に苦手意識を持ってるからだ。お前達が思ってるほどそんな厳しくないし、気さくな人達だぞ。特に摩利さんとか」
「そんな風に言えるのはリューセーだけだっての」
悪感情を抱かせないように三人を擁護したつもりだったのだが、大して意味が無いようだった。
「ふんっ。あの女のどこが良いのよ」
「本当にお前は摩利さんを毛嫌いしてるんだな」
去年の九校戦で、エリカが摩利を嫌ってる理由を偶然知った。
バトル・ボードで怪我をした摩利の身を案じていたエリカの兄――『
いつまでそんな詰まらない意地を張り続けるのかは知らないが、いい加減に態度を改めた方が良いと思う。尤も、このお転婆はそう簡単にいかないほど強情な上に、軽く指摘した程度で素直に応じる性格じゃない。
「なぁエリカ、何でそこまで摩利さんの事を嫌ってるんだ?」
理由はもう既に知ってるんだが、エリカは俺があの時の光景を覗き見されたのを知らない為、敢えて尋ねる事にした。
すると、此方の問いに彼女が途端に不機嫌そうな表情でこう言い返した。
「隆誠くんには関係の無いことよ」
「確かにそうだけど、出来ればそう言う態度は表に出さないでくれ。先輩相手にそんな失礼な振る舞いを見てる俺としては、流石にチョッとばかり目に余るんだが」
「ふんっ」
俺が指摘するも、エリカは全く聞く耳持たずだった。
まるで幼い子供を見ているような感じになる俺は、内心呆れると同時に嘆息してしまいそうだ。
それほどまでに、大好きな兄を取られた事が彼女にとって凄く気に食わないのだろう。もし司波妹であったら、エリカ以上に拗れてしまうかもしれないが、な。
これ以上言っても無駄だと諦めた俺は、疲れながらも帰る準備をしてる二人を見ながら、空き教室を出ようとする。
「俺は後処理が残ってるから、二人はもう帰って良いぞ」
「あっ、リューセー」
空き教室を出た直後、レオが何か思い出したように声を掛けながら追いかけてきた。
「どうした。もしかして講義の延長希望か?」
「
廊下で足を止めた俺は振り向きながら問うと、レオが嫌そうな顔をしながら即座に否定した。
それを見た俺は冗談だと言いながら、改めて何の用かを尋ねた。
「なぁ、リューセーは明日からクラブに出るんだよな?」
「ああ、そうだが」
剣道部を三日休んでる事で、修哉が教室で退屈そうに愚痴っていた。
いつも俺と相手をするのが日課になっている他、今のアイツと本気でやれる相手は既に俺しかいない。他の部員と相手する際には手加減しながらやってるみたいだが、三日も続いてる事でフラストレーションが溜まっているようだ。
俺としても、今も鍛えている弟子をいつまでも放置する訳にはいかない。だから明日はみっちり相手をしようと、ほんの少しばかり実力を上げるつもりだ。
現在も上級用バンドを着けて更に身体が重くなって動き辛くなってる筈だが、もう段々と慣れてきている。もし外した瞬間、急激に動きが良くなるどころか、バンドによって抑えられている魔法力が噴き出してしまう恐れがあるから、今後は自分の力を
「だったらよぉ、明日俺も剣道部に参加して良いか?」
「それは構わないが、先ずは山岳部の方へ顔を出すべきだろ」
レオが諸事情によって三日休む事を、山岳部部長に前以て説明しておいた。
だと言うのに、明日に参加する筈の
「心配ねぇよ。部長には俺が言っとくからさ」
「そう言う問題じゃないんだが……」
エリカほどじゃないにしろ、レオも結構人騒がせなところがある。
物事には手順と言うものがあるんだから、然るべき行動をして欲しい。
レオとエリカはそう言う事をしない所為で、横浜事変や
「まぁ良い。だけどもし向こうから何を言われても、俺は一切責任持たないからな」
「おう、分かってるって」
何やらいい加減そうな返事だが、一応レオからの言質を取った。
「だけどレオ、やるにしても時間を置いてからの方が良いんじゃないか?」
テストと講義を行ったことで、レオの身体が少々
対して修哉は上級用バンドを着けてるとは言っても、多少動きが遅くなったところで、油断しなければレオに負ける事は無いだろう。もしバンドを外した瞬間、圧勝と言う形で終わってしまうが。
「問題ねぇよ。家に帰ってからもちゃんと鍛えてるからな。それに俺としても、早く勝ちたいんだ。去年からずっと天城に負けっぱなしってのは性に合わないどころか、エリカに何言われるか分かったもんじゃねぇ」
「おい、此処でそれは不味いって」
自分達がいる廊下と空き教室の距離があるとは言え、もし聞かれでもしたら――
「チョッとレオ、今の話は本当なの?」
「「ッ!」」
非常に宜しくない展開になる事を想像していたのだが、最悪なタイミングで訪れてしまう。
女子の声を耳にした俺とレオはビクッと身体を振るわせた後、ギギギッと聞こえた方へ視線を向けると、空き教室から出たエリカが佇んでいるのであった。
決して気のせいだと思いたいのだが、彼女の身体からチョッとばかり殺気を感じる。それでも明らかに空き教室で見せた不機嫌とは全く違う。
直後、エリカはツカツカと此方へ来てレオを問い詰めようとする。
「あたしはレオが去年から天城くんに負け続けてるって初耳なんだけど、詳しく説明してくれる?」
「え、エリカ、それはだな……」
怖い雰囲気を醸し出しているエリカに、レオは必死に言い訳を述べようとするも、思うように喋る事が出来ない様子だった。
「……レオ、お前って奴は本当に……!」
もう言い逃れは出来ない理解するが、それでも迂闊な発言をしたレオに文句を言いたい俺であった。
その後、一通り話を聞いたエリカは次に俺の方へと視線を向ける。
「隆誠くん、明日の放課後に天城くんと一緒に千葉道場へ来なさい」
「いや、明日はクラブが――」
「い・い・か・ら・来・な・さ・い!」
「―――はぁっ、分かった。修哉には俺の方から言っておくよ」
拒否は許さないと脅してくるエリカに、俺は観念するように嘆息しながら了承せざるを得なかった。
再戦する相手はエリカでした。
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