再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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入学編 討論会前日

 翌日の昼休み、早めに昼食を取った俺は生徒会室へと向かった。

 

 その場所は四階の廊下、突き当たりとなっている。

 

 着いた先には他の教室と同じで扉があるも、『生徒会室』と書かれている中央に埋め込まれた木彫りのプレートがある。

 

 生徒会、か。懐かしいな。前の世界で駒王学園にいた頃、俺の同級生で凄く生真面目な生徒会長――支取(しとり)蒼那(そうな)ことソーナ・シトリーが生徒会長を務めていた。尤も、ソイツは人間じゃなく悪魔だが、それでも人間と母校を愛する良識を持った人物でもある。

 

 まぁ前世(むかし)の事はいいとして。扉の先に四人のオーラを探知すると、その中には七草がいた。残りの三人に関しては渡辺に、昨日会った髪の長い女子生徒で、もう一人は分からない。

 

 確認を終えた俺は扉にノックをすると、すぐに返事が返って来た。

 

『どうぞ~』

 

 ゆったりとした声を出したのは七草だった。

 

「失礼します」

 

 何だか昨日の事はまるで知らないというように聞こえたが、取り敢えず入室許可を貰ったので扉を開けて入ろうとする。

 

 その先には思った通りの四人がいた。けれど、全員が揃って昼食中だ。

 

 見事に女性だけしかいない空間だ。確か生徒会に男子がいた筈だが、別のところで食べてるんだろう。

 

「あら、兵藤くんじゃない。どうしたの?」

 

「昨日の事が気になりまして、あの後どうなったのかを教えて頂きたく伺ったのですが……出直しましょうか?」

 

 見ての通り、七草達は昼食の真っ最中だった為、誰一人食べ終えていない。

 

 俺も流石に食事の昼休みに来るのは非常識なのは重々承知してるんだが、修哉が授業中ずっと上の空なので、彼女に関する情報を与えるべきだと思って訪ねる事にした。

 

 因みに生徒会室へ行ってる事を修哉は知らない。アイツについては一先ず紫苑に任せ、その間に俺が情報収集をするって寸法だ。

 

 それと壬生についてだが、今日は学校自体に来てなく欠席となっている。今朝は早めに登校して彼女に会おうとしても、今日は欠席だと知って修哉が今も上の空になっているのである。

 

「大丈夫よ。折角来てくれたのに、追い出そうだなんてしないわ。まだお昼を食べてないなら、此処で私達と一緒にどう?」

 

「すいません、自分は既に食べましたので。淑女の皆様が宜しければ、談笑相手になりますが」

 

「あら、お世辞が上手ね。どうぞ。男の子とお話するのは大歓迎よ」

 

 椅子に座るよう促されたので、俺は指定の椅子に近付いて腰掛けた。

 

 ホスト席に七草、その隣、俺の前に昨日会った女子生徒、その隣に渡辺、更に隣は小さな女子生徒という順番だ。

 

「念の為、紹介しておきますね。私の隣が昨日会った会計の市原(いちはら)鈴音(すずね)、通称リンちゃん」

 

「……前回も言いましたが、私のことをそう呼ぶのは会長だけです。それと兵藤君、昨日は非常に助かりました」

 

 昨日会った髪の長い女子生徒――市原鈴音は呆れるように言い放ちながら、俺に昨日の礼を言ってきた。

 

 俺から言わせれば、この人は「リンちゃん」じゃなく「鈴音さん」の方がイメージに合うと思う。

 

「その隣はもう知っての通り、風紀委員長の渡辺摩利」

 

 うん、知ってる。この前は超スピードの種明かしの時に驚いた顔は今でも憶えてる。

 

「それから書記の中条あずさ、通称あーちゃん」

 

「会長……司波君達の時にも言ったじゃないですか。わたしにも立場というものがあるんですから、下級生の前で『あーちゃん』は止めて下さい」

 

 七草よりも更に小柄で童顔な女子生徒――中条あずさは目を潤ませて抗議するから、先輩と分かっていながらも小さな子供のように思えた。

 

「今日は此処にいないけど、今月に司波深雪さんも生徒会の書記として任命されています」

 

 ふ~ん、司波の妹が書記ねぇ。

 

 確か聞いた話では毎年恒例で、新入生総代を務めた一年生は生徒会の役員になる事になっている。司波深雪もその例に漏れなく生徒会に入ったと言うことか。

 

「もう一人、副会長のはんぞーくんを加えたメンバーが、今期の生徒会役員です」

 

 はんぞーって……確か名前は服部(はっとり)刑部(ぎょうぶ)だったような。恐らく名字がアレだから、七草は『はんぞー』と呼んでいるんだろう。

 

 それとは別に、少し気になる事がある。中条の台詞に司波の名前が入っていたから、あの兄妹も此処へ訪れて生徒会+風紀委員長と顔合わせしたのか。

 

「ご紹介、ありがとうございます。自分も改めて、1年F組の兵藤隆誠です。お近づきの印、と言う訳ではありませんが、自分の事は好きにお呼びして結構です。名前で呼ぶのでしたら『リューセー』でお願いします」

 

「あら、そうなの? だったらリューセーくんって呼ばせてもらうわね。あと私のことも名前で良いわ」

 

「では……真由美さんで良いですか?」

 

「勿論よ。リューセーくんは中々話が分かるわね」

 

 会って間もないが、お互いに名前呼びになった事で気分を良くする七草(以降は真由美)。

 

 笑顔になってる彼女に、渡辺達が少々驚いた様子を見せている。

 

「凄いな。一年の男子が真由美と会って早々、名前で呼ぶなんて前代未聞だぞ」

 

「他の男子達、特に服部副会長が知ったら悔しがるでしょう」

 

「はぁ~……司波君とは別の意味で凄いですね」 

 

 渡辺、市原、中条は思った事をそのまま口にしていた。

 

「真由美さん以外の方々はどうお呼びすれば良いのでしょうか?」

 

 確認するように問うと、三人はすぐに答える。

 

「私も名前で構わないぞ、リューセーくん」

 

「私は好きに呼んでください。ですが、会長と同じ呼び方はご遠慮願います」

 

「わ、私も『あーちゃん』以外でしたら構いません」

 

「そうですか。では摩利さん、市原先輩、中条先輩。今後とも宜しくお願いします」

 

 渡辺(以降は摩利)を除く、他の二人は無難な呼び方にさせてもらった。特に中条は『先輩』と呼ばれて妙に喜んでいるのは気にしないでおくとする。

 

 お互いに紹介も終えて、このまま談笑に移りたいところだが、その前にどうしても確認しなければならない事がある。

 

「では早速本題に入ります。真由美さん、昨日の話し合いはどういう結論になったんですか? 俺の友人の天城が昨日からずっと気を揉んでまして」

 

「ああ、確か壬生さんと天城くんって中学から先輩後輩の関係だったわね。リンちゃんから聞いてるわ」

 

 こちらの心情を察してくれた真由美は、昨日の事について説明しようとする。

 

 壬生が入ってる有志同盟からの要求は一科生と二科生の平等な待遇だが、具体的について考えていない。そう言う事は生徒会で考えろと押し問答になったそうだ。結局のところ、明日の放課後に講堂で公開討論会を行う予定になったと。

 

 説明を聞いていた俺は呆気に取られてしまった。主に前半部分の内容に対して。

 

 平等にしろと訴えておきながら、具体的な内容は生徒会で考えろって……有志同盟は何の対策も考えずにあんな行為をするとは思わなかった。ただ感情論に走ってるだけじゃないか。無計画にも程がある。

 

 でもまぁ、生徒会としてはそれで好都合かもしれない。ゲリラ活動をする相手に時間的な余裕を与えない為の戦略思想として、明日に討論会をやると誘導したのだ。逆手に取った真由美の作戦は見事だった。しかしその分、生徒会側も対策の時間が取れない。彼女もそれは分かっている筈だ。

 

「まさかとは思いますが、生徒会側は真由美さんお一人で参加するつもりですか?」

 

「流石リューセーくん。正解よ」

 

 俺の予想が当たった事に真由美は、自分の顔を指差しながら笑顔で答えた。

 

 本当に一人でやるって……凄い度胸あるな、この人。

 

 けどそれには理由があるようで、それを聞いた俺は納得した。

 

 一人なら小さな食い違いから揚げ足を取られる心配がないそうだ。そうすれば印象操作で感情論に持ち込まれる事はないと。

 

 更にもう一つ、もしも有志同盟が真由美を言い負かすだけのしっかりした根拠を持ってるなら、これからの学校運営にそれを取り入れていけば良いと言った。まるで自分が論破される事を望んでいるように聞こえる。それも本心で。

 

 明確な理由がある以上、俺からは何も口出し出来ない。明日の討論会を楽しみに待つとしよう。後で修哉に真由美から聞いた話を教えれば安心するだろう。

 

「教えて頂きありがとうございます。これを天城が聞けば多少気が休まると思います」

 

「どういたしまして」

 

 昨日の話について訊き終えた後、真由美達は丁度昼食を食べ終えていた。今は紅茶を用意して飲んでいる。

 

「あとコレは俺の個人的な礼ですが、討論会が終わった後にスイーツをご馳走します」

 

「え? ホントに?」

 

 スイーツの単語が出た瞬間、真由美の目の色が変わった。

 

 女性は甘い物に目がないと言われてるが、どうやら彼女も例外でないようだ。

 

「はい。但し、真由美さんが負けないのが条件です」

 

「え~? そこは勝ち負け関係無く用意してくれないの?」

 

「おやおや。生徒会長ともあろうお方が、明日の討論会に自信がないと? 俺は真由美さんなら問題無いと確信していましたが」

 

「む?」

 

「後輩の信頼に応えられないのでしたら、やっぱりスイーツの件は無しにしましょう。摩利さん達にも用意する予定でしたが、当然これも無しです」

 

『!』

 

 すると、話を聞いていた摩利達が途端に反応した。

 

「真由美、絶対に負けるな! でないと私達も食べれないだろう!」

 

「そうですね。もしも無様に負けたら恨みます」

 

「あ、あの、会長、わ、私もスイーツ食べたいです! だから頑張って下さい!」

 

「あらら、どうやら負けられない理由が増えちゃったみたいね……」

 

 どうやら彼女達もスイーツが大好物のようだ。

 

 三人からのプレッシャーに、真由美は苦笑しながらも取り敢えず頑張ろうと決意する。尤も、討論会で相手を言い負かすのが彼女の目的ではないが。

 

 真由美達と一通りの話を終えた俺は生徒会室を後にして、教室にいるであろう修哉に報告をした。完全にと言う訳ではないが、それなりに安堵の表情を示していたのは確かだ。

 

 因みに余談だが、有志同盟の連中が賛同者を集めようと動き回っていた。強引とも言える勧誘の仕方に、不愉快そうに見ていた修哉の表情が凄く印象的だったと紫苑が教えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 討論会前日の夜。

 

 第一高校から遠く離れた所にある寺に、司波兄妹――達也と深雪が訪れていた。

 

「とまあ、僕が知っているのはここまでだよ」

 

「情報提供感謝します」

 

 住居の縁側に座っている住職――九重(ここのえ)八雲(やくも)から得た情報に礼を言う達也。

 

 達也が師匠と呼んでるのは、体術の指導を受けて門下に入っているからだ。但し正式な弟子と言う訳ではないが。

 

 今日は八雲に聞きたい事があって訪れている。第一高校三年で剣道部主将――(つかさ)(きのえ)について。

 

 その人物がとある組織に繋がっているのを改めて分かっただけでなく、その組織の黒幕も判明した。同時に明日行われる討論会は確実に何かが起こると確信している。

 

 だが、達也はそれ以外にも聞きたい人物がいた。

 

「師匠、出来ればもう一人の人物――兵藤隆誠について調べて頂きたいのですが」

 

「兵藤隆誠、ねぇ……。ここで彼が出てきたか」

 

 もう一人の名前を聞いた八雲はまるで知っているように呟いた。その反応に達也はやはり情報を得ていると確信する。

 

「やはり師匠はご存知だったんですね」

 

「知ってるも何も、彼は以前この寺に来た事があってね」

 

『!』

 

 聞いた達也と深雪は寝耳に水の話だった。

 

 警戒していた相手が九重寺に来ていたなど達也は知らない。全く聞かされていない。

 

 それを八雲に問い詰めたところで、『聞かれなかったから』などと答えるだろう。それを分かっている達也は改めて聞こうとする。

 

「では、兵藤隆誠が此処へ来た目的は何なのですか?」

 

「僕の噂を知ってか、手合わせして欲しいと頼まれたんだよ。よくある事だから最初は断ろうと思ったんだけど、彼を見て気が変わったから受ける事にしたんだ」

 

 九重八雲は住職だが、高名な「忍術使い」として知れ渡っている。それ故に教えを乞いたい者がいれば、手合わせをしたい者もいるのは珍しい事ではない。八雲からすれば日常茶飯事の一つだ。

 

 だから隆誠が訪れて弟子から聞いた際、いつものように直接話して帰らせようとしていた。しかし、彼を見た途端に八雲は撤回するどころか、手合わせをすると承諾した。

 

 師である八雲が何故撤回したのかが気になる達也だったが、彼の話はまだ続くようなので話を聞く事に専念する。

 

「最初は彼の実力を見ようと弟子達にやらせてみたんだが、全然相手にならなかった。彼は達也くんに匹敵する実力者だとね」

 

「お兄様に匹敵!?」

 

「落ち着くんだ、深雪」

 

 隆誠が敬愛する兄に匹敵すると聞いた深雪はあり得ないと言わんばかりに声を荒げた。少しばかり魔法が暴走しかける深雪を達也が宥めている。

 

 八雲も比較する対象を間違えたと少しばかり後悔するも、ここまで話した以上は達也に抑えてもらう事にした。

 

「弟子達が簡単にやられちゃったから、次に僕が直接手合わせをした。達也くん並みと見た僕は相応の力を出してやってみた結果……ちょっとばかり苦戦したけど、僕の勝ちで終わったよ」

 

「そうですか」

 

 八雲が少し勿体ぶって結果を教えたのを聞く達也は驚く様子をせずに受け入れた。

 

 最初はもしかしたら隆誠が勝ったのではないかと危惧するも、やはり杞憂だったかと結論する。自分でも未だに勝てない相手に勝ったとなれば、今まで以上に警戒を引き上げるつもりだった。

 

 だが自分が想定した結果ではなかったとは言え、厄介な相手である事に変わりはない。万が一深雪に襲い掛かるという愚かな行為をすれば、完全に守り切れる自信がない。自身に匹敵する実力者となれば猶更に。尤も、完全に体術で勝てないと分かれば、魔法やそれ以外の手段も行使して確実に仕留めようと達也はそう結論する。

 

「しかし勝ったとは言え師匠が若干苦戦する相手となれば、すぐに調べたんじゃないですか?」

 

「まぁね」

 

 予想通りと言うべきか、八雲はやはり調べていたみたいだ。それは達也としても非常に好都合で、調べてもらう時間が省けたのだから。

 

 改めて聞かせて欲しいと乞う達也に、八雲が語り始める。

 

「兵藤隆誠。家族構成は母と10歳以上年が離れた弟と妹の四人暮らし。父親は一番下の妹が生まれてすぐ事故により他界。彼の両親や祖父母いずれも魔法的な因子の発現は一切無く、さっきの司甲と違って、正真正銘『極普通』の家庭だ。彼が一般人としての生活を送ってる中、今から一年以上前にひょんな事から魔法の因子が発現。それによって第一高校に入学し、現在は達也くんと同じ二科生として学生生活を送っている」

 

「……よくある事ですね」

 

 魔法を持たない子供が稀に発現し、魔法師を目指そうとする。それにより両親が様々な反応を示すも、大抵は応援しようと魔法科高校へ入学させるのが当たり前となっていた。

 

 隆誠もその一人である事に、達也は少し意外に思っていた。魔法技能が其処等の二科生と同程度であっても、あの秘伝同然の技を簡単に使いこなしており、どこかの有名な武術の家系ではないかと推察していたので。

 

「兵藤はどこかの家で師事されていた事は? 師匠が苦戦する相手なのですから、有名な流派に属してもおかしくない筈なのですが」

 

「当然調べたさ。だけどこれには僕も本当に驚いたよ。何と隆誠くんはどの流派にも属してない(・・・・・・・・・・・)。自己流であれ程の強さなんだよ」

 

「なっ……!」

 

 普段冷静である筈の達也もこれには流石に驚愕した。

 

 今も師匠の八雲に体術の指南を受けて相応の実力を持っている自分に対し、その隆誠は誰の指南を受ける事無くたった一人で腕を磨き上げて自身に匹敵する実力を得ている。達也が驚愕するのは無理もない。

 

 体術などは師匠の指導有無で力の差がはっきりする。なのにそれを全く覆している隆誠を達也は恐ろしく感じ始めるどころか、最大限に警戒すべき人物と既に引き上げていた。魔法無しでも、魔法師に対抗出来る実力だと分かれば猶更だ。

 

 加えて、秘伝と称していた『縮地法』と『遠当て』を使っていたから、それを自己流で編み出した。もしかして何処かの流派にある秘伝書でも盗んだのかと問い質したい。

 

 もしもこれを自身の友人――千葉エリカに教えたら、凄い勢いで食いつくだろう。

 

 以前あった乱闘事件の聴取を終え、隆誠の余計な発言によって誤解した深雪を説得した後、友人達に待たせてしまった謝罪の意味合いも兼ねて奢ろうとカフェに行った。その時にコッソリと隆誠の秘伝技を明かした際、エリカが摩利と似た反応をしたのは今でも憶えている。

 

 故に達也は明日の討論会で、隆誠がどう動くのか見極めようと決意する。 

 

 隆誠について一通りの話を聞き終えたが、念の為と言う意味合いで八雲に最後の質問をした。

 

「確認ですが師匠、兵藤隆誠はブランシュなどの組織に繋がっていますか?」

 

「今のところ、そういう情報はないよ。あくまでこれは僕の見立てだけど、彼はそう言った犯罪組織に入ってないと思う。達也くんが何を考えているか大体想像は付くけど、敵に回すような事をしない方が賢明だ。却って自分の首を絞める事になるかもしれないからね」

 

 達也が隆誠を警戒する人物だと八雲は既に見抜いていた。だからバカな真似をしないよう、師匠として釘を刺したのだ。

 

 話は以上だと言った八雲は、もう遅いから帰るよう促した。達也と深雪も用件が済んだので、自宅に戻ろうと寺を後にする。

 

 

 

 

 

 八雲が司波兄妹を見送り、いなくなったのを確認した直後に疲れたように息を吐いた。

 

(あの様子じゃ、そう簡単に警戒を緩めないだろうねぇ)

 

 釘を刺した際に達也は若干間がありながらも素直に頷いていたが、それでも半信半疑と言ったところだ。

 

 弟子である達也の用心深さは師匠の八雲も当然知っている。そこも指摘したかったが、流石に妹の深雪の前でズバズバ言うと少々危うかったので、敢えてそれ以上言わなかった。

 

 彼は隆誠と手合わせをして勝ったと達也達に教えたが、実はこの話にまだ続きがあった。あの手合わせは『八雲が勝った』のではなく、『隆誠が態と負けた』と言った方が正しい。

 

 八雲は当然それに気付くも、弟子達が期待を込めて見守っている事もあり、敢えてソレに乗る事にした。向こうもそれを知ってか知らずか、弟子達の前で八雲を称賛するように言った後に寺を後にしている。

 

 他にも気付いた点がある。直接手合わせをして分かったが、隆誠は全く本気を出していないどころか、自分の力を測るように手加減していた。向こうがもし本気でやったら、あっと言う間に敗北しただろうと確信できる程に。

 

 ついでにこれは直感に過ぎないが、隆誠は体術以外に魔法などの手段が多々あるんじゃないかと想定している。さりげなく使った幻術も簡単に見抜いて攻撃していたから、対策も抜かりない筈だと。

 

 自分の実力を測られたのは一体何十年ぶりだろうかと八雲は顧みた。けれどまさか、達也と同い年の少年相手にそんな事をされたのは生まれて初めてであるが。

 

 あんな末恐ろしい少年を、達也は妹の深雪に害する危険な存在かもしれないと想定しながら警戒し、自ら火中の栗を拾おうとする。それが却って藪蛇になると今の達也は全く気付いていない。

 

 師匠として絶対に止めさせるべきだと本気で考えていたが、あの妹思い(シスコン)の弟子は口で言ったところですぐに納得しないだろう。だったら一度痛い目に遭って、認識を改めさせればいいかもしれないと八雲は思案する。それが吉と出るか凶と出るかは分からないが。

 

(これは僕の思い過ごしかどうか今も分からないけど、彼は明らかに僕より遥かに年下の筈なのに……何でか逆に年上の相手をしてるように思えたんだよねぇ)

 

 ほんの一部に過ぎないが、八雲は本能的に気付いていた。隆誠が自分とは比べ物にならない年長者のような感じがしたと。

 

 それはある意味正解と言える。何しろ隆誠は前世で聖書の神として存在した後、人間として転生、そしてこの世界で再び人間として転生すると言う、普通の人間ではありえない人生(+神生)を送り続けているのだから。




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