再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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番外編 七草家からの招待②

「ええっと、此処で間違いなさそうだな……」

 

 日曜日の午後。

 

 携帯端末の地図を頼りに移動していた俺は、東京の都心に近い高級住宅街にある、豪華な洋風の邸宅を見て足を止めた。此処が目的地――『七草邸』であるから。

 

 学校で話していた時、真由美が案内用として車を寄越すと言ってたが、敢えて拒否させてもらった。彼女のご厚意は大変嬉しいのだが、最初から頼る事をしては向こうから何を言われるか分かったものじゃない。彼女にではなく、七草家当主に対してだ。

 

 知っての通り、七草家は十師族結成当時から、一度も枠外に落ちた事の無い名門。その当主である七草弘一は、これと言って悪い噂は一つも見当たらない。魔法師側からすれば、畏怖の念を抱くほどの人物と思われてるだろう。

 

 だが、それはあくまで表の顔に過ぎない。恐らく裏で表沙汰に出来ない事を何か仕出かしているだろうと俺は踏んでいる。

 

 十師族は民間人の扱いとなってるが、表の権力は放棄していても、政治の裏側では司法当局を凌駕する権勢だけでなく、超法規的な特権を持っている。もしも魔法師関連の事件が起きれば、情報操作で意図的に隠す事だって可能だ。

 

 他にも例を挙げるとしたら、去年の横浜事変が起きる前、三年の関本勲が犯罪行為を犯して特殊鑑別所で拘留されていた件を言えばすぐに理解出来るだろう。面会をする際に真由美が『七草』の名を使った事で、本来しなければならない筈の手続きや聴取を省くことが出来た。こう言う一般人の目に入らない所で、十師族の権力が通用すると言う訳である。

 

 それに加えて、『七草家』は『四葉家』と並び最有力とされている一族であり、主導的地位を争う地位にある。あの噂に悪名高い『触れてはならない者たち(アンタッチャブル)』と争えるのだから、裏では相応の権力を行使出来るに違いない。そんな名門の家にたった一人で行く俺は、周囲から見れば相当な命知らずだと思われるだろう。

 

 

 ――ご主人様、アレ(・・)本当に放っておいていいの?

 

 ――ずっと、見張られて、いますが……。

 

 

 家の前に付いて早々、同行している(透明化中の)レイとディーネが少々不快そうに言ってきた。

 

 本当は精霊(こども)達を連れて行くつもりは無かったのだが、こうして同行させたのは理由がある。

 

 俺が七草家に向かう前から、レイとディーネが自宅の周囲に不審な人物数名いるとの報告があった。それを聞いた俺は警戒するが、家を出た後から如何でも良くなった。聖書の神(わたし)能力(ちから)を使って軽く調べたところ、七草家の関係者である事が分かった為に。

 

 急に見張り始めたのは、恐らく俺が真由美の御好意に甘えなかったからだろう。一人で『七草家』に向かう途中、何か良からぬ事を企てるのではないかと向こうが警戒したかもしれない。

 

 そう推測したところ、精霊(こども)達は不快な表情になって眠らせてやろうと躍起になるも、俺が手を出さないよう抑えている。家に待機させておくと何を仕出かすか分からないから、オーフィスと一緒に連れて来たと言う訳である。

 

 

 ――レイ、ディーネ。勝手な事すれば、リューセーに怒られるからダメ。

 

 ――うっ……。わ、分かってるの。

 

 ――は、はい。承知、しております、オーフィス様。

 

 

 俺と同じ考えである(透明化中の)オーフィスは、レイとディーネが早まった行動をしないよう窘めている。

 

 聖書の神(わたし)が造った精霊(こども)達は理解しているのだ。元とは言え『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』が自分より格上で、決して逆らう事が出来ない存在である事を。

 

 顔合わせした時に最初はレイだけ反抗的な態度を示すも、彼女の実力(ちから)を感じ取った瞬間、今はこうして従順な態度を取っている。時折(俺関連で)噛み付く事があっても、オーフィスは全く気にしていない。

 

 まるで二人の子供を宥める母親みたいな光景だと苦笑しながら、七草邸へ向かおうと再び足を運ぶ。

 

「いらっしゃい、リューセーくん。待ってたわ」

 

「お出迎えありがとうございます。しかし、何も真由美さんがしなくても……」

 

 門前には私服姿の真由美が佇んでおり、俺は少々申し訳なさそうに言い返した。

 

 今まで学校の制服しか見てなかったので、こう言った格好は久々だ。

 

 俺が知ってるのは去年の九校戦へ出発する日、真由美が七草家の用事で遅れたこともあってサマードレスを身に纏っていた。

 

 あの時は中々可愛らしい姿を見せてくれたが、今は清楚な淑女と思わせるような格好になっている。恐らく客人の俺を出迎える為の衣装なのだろうが。

 

「何処かの誰かさんに案内(エスコート)を断られちゃったから、こうしてお出迎えしないといけないと思ってね」

 

「あはは……。それは失礼しました」

 

 出迎える理由を聞いた俺は何も言い返せなくなってしまった為、謝罪する選択をするしかなかった。

 

「でも、どうして断ったの?」

 

「呼び出された用件も分からずご厚意に甘えれば、後々何か言われるんじゃないかと考えてしまいまして。真由美さんの父君を悪く言うつもりは無いんですが、九島閣下からも、『謀略好きなところがあるから油断しない方が良い』と言われまして」

 

「……否定出来ないわね」

 

 普通なら侮辱された事に憤ってもおかしくないのだが、真由美は理由を知った途端に嘆息していた。

 

 彼女がこんな反応を示すのでなれば、自分の父親が謀略好きだと知っていることになる。それと同時に、少々軽率な行いをしていたと悔いている様子だ。

 

「まぁ取り敢えず案内するわ」

 

 そう言いながら門の扉を開けて、真由美は俺を自宅へ招こうとする。

 

「あ、そうだ真由美さん。チョッとお耳を」

 

「?」

 

 移動中に耳を拝借するよう言うと、彼女は不思議そうな表情になりながらも俺の方へ顔を近づける。

 

 今朝方から俺の家に張り付いてる連中について訊こうと――

 

 

「こらーっ! お姉ちゃんに何やろうとしてるの!? この変態!」

 

 

 したのだが、突如非難めいた台詞が聞こえた。

 

 明らかに俺に対して言ったものだと理解した俺が振り向くと、甲高い声に相応しい小柄な少女が玄関の扉を開けて早々一直線に自分の方へ駆けて来ている。状況からしてあの少女は七草家の身内であり、俺が真由美に卑猥なことをやっていると誤解したかもしれない。

 

()(すみ)ちゃん!?」

 

 驚きながら振り返る真由美は咄嗟の判断と言うべきか、耳打ちをしようとしてる俺から距離を取った。恐らく彼女も俺と同じく、誤解されたと思ったのだろう。

 

 呼び方から察して、恐らくあの少女は真由美の妹だろう。同時にかなりの姉思いで、良からぬ行為をしてる俺を見て成敗しようと、ああして勢いよく飛び出したに違いない。

 

「あんたみたいな変態は、こうしてやるっ!」

 

 すると、少女――香澄の身体がフワリと浮かび上がった。明らかに加速・移動系の魔法を使っており、小柄な身体が空中で加速しながら放物線を描かず一直線に飛び、突き出された膝が俺の顔面に襲い掛かろうとする。

 

 片手で受け止めるのは造作も無いが、態々そんなことをする必要が無い為、軽く身体を横にずらして紙一重で躱す。

 

「えっ、嘘!?」

 

 躱されたのが予想外だったのか、香澄は信じられないと言わんばかりに驚愕の声を出していた。

 

 攻撃する筈の対象がいなくなっても魔法の効力は失ってないが、小柄な少女は即座に解除し、今度は減速魔法を使って見事地面に着地する。

 

「ほう、中々器用に出来るじゃないか」

 

 一度発動させた複合魔法を解除後に別の魔法を発動するには、相応のテクニックを必要とするから、一科生でもそう簡単に出来ない芸当だ。それを見事にこなすとは、流石は『七草家』の魔法師と言ったところか。

 

「変態なんかに褒められても嬉しくないわよ!」

 

「…………」

 

 誤解されてるとは言え、こうも平然と人を変態呼ばわりされるのはチョッとばかり頭に来てしまうが――

 

 

 ――ご主人様、あの失礼な人間吹っ飛ばして良い?

 

 ――姉さま、二度と口を、開けないよう、眠らせた方が、よろしいかと。

 

 

(はいはい、お前達は大人しくしてな)

 

 物騒な事を言い出すレイとディーネを宥めているので、あの少女に対する怒りは霧散していた。

 

「運良く躱したみたいだけど、今度は絶対に当てて――」

 

「いい加減にしなさい!」

 

 我慢出来なくなった真由美は、香澄の頭上に拳を落とした。

 

 こうなるだろうと思っていたから、敢えて反撃せずに見守っていたのだ。俺がやらずとも、姉である彼女が必ず折檻するだろうと。

 

「…………………」

 

 声も出せずに頭を押さえてうずくまっている香澄を見て、さっきの拳骨は相当痛かったのだろうと俺は予想する。

 

「……お姉ちゃん、いきなり何するのさ?」

 

「それはこっちのセリフです! 香澄ちゃん、貴女、いきなり何てことしてるの!?」

 

 涙目で訴えている妹を、真由美は両手を腰に当てて見下ろしている。言うまでもなく、本気で怒っている証拠だ。姉の剣幕によって、先程まで興奮していた香澄は一気に冷めるように、顔色が真っ青に変化していく。

 

「魔法の無断使用は犯罪だって何度も何度も教えてあげたでしょう! いくら自宅内だからって、お父様が招いたお客様相手に……一体どういうつもり!?」

 

 普段見せない真由美の姿に、俺は呆気に取られていた。学校で慌てる姿は何度も目にしてるのだが、こんな風に逆上しているのは初めてだから。

 

 対して、姉の怒りを浴びている香澄は、縮こまりながらも抵抗を諦めようとしていない。

 

「で、でも、ソイツがお姉ちゃんにキスしようとしてたから……」

 

「なっ……キ、キス!?」

 

 妹の反撃が有効だったのか、真由美は違う意味で顔を赤らめていた。

 

 キス、ねぇ。耳打ちするつもりが、まさかそんな風に見られていたとは……。

 

「私たちはそんなこと、してません! 何を考えてるんですか、貴女は!?」

 

 真由美は必死に否定しようと、更に凄い剣幕で怒鳴るが――

 

「お姉さま、香澄が誤解するのは無理もありません」

 

 すると、新たな少女の声がした。

 

 俺だけでなく真由美も振り向くと、髪型を除いて香澄と全く同じ顔をした小柄の少女がいる。

 

 見ただけで分かる。瓜二つである香澄と少女は間違いなく双子だと。

 

泉美(いずみ)ちゃん……」

 

 新たな少女――泉美の登場に、真由美は段々と怒りが収まろうとしていく。 

 

「遠目でしたが、妹の(わたくし)から見ても、その方がお姉さまに不埒な行いをしてるとしか思えませんでした」

 

「うっ……」

 

 香澄をフォローする泉美の弁護に、段々と言い返せなくなる真由美。

 

「……念の為に訊くけどリューセーくん、貴方は私に何をしようとしたの?」

 

「余り大きな声で言えない内容だったから、耳打ちをしようかと思ったんですが……」

 

「それは今この場で言える?」

 

「出来れば止めた方が良いかと……」

 

 耳打ちした内容の開示を求めようとする真由美に、俺が渋った途端に香澄はキッと俺を睨む。

 

「何で言えないの!? アンタやっぱりお姉ちゃんにキスしようと――」

 

「香澄ちゃんは黙ってなさい!」

 

「ですが、今この場で仰って頂かなければ、私たちは納得出来ないのですが?」

 

 真由美が香澄を口出しをしないよう怒鳴っているが、泉美は俺に疑問の目を向けている。

 

 やれやれ、この双子は父親の立場を悪くしてしまう事に全く気付いていないようだ。

 

 まぁ、俺としては別に構わない。寧ろ好都合な展開と言える。これから対面する予定の七草家当主に、少しばかり有利な立場を取る事が出来るのだから。

 

「お姉さんに耳打ちしようとしたのは、今朝から俺の家を監視してる七草家の魔法師達を如何にかして欲しいと、密かに頼もうとしたんだよ」

 

「「………………え?」」

 

「………………あ・な・た・た・ちぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

 内容を言った瞬間に香澄と泉美は固まってしまい、最後に真由美が嘆息しながら額を手に当てた数秒後に再び雷が落ちるのは当然の流れであった。

 

 密かに俺を監視してるどころか、完全にバレてしまってる事を公に言ってしまえば不味い事になると、これは流石に双子も理解しているようだ。




こんな感じで香澄と泉美の出合わせました。

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