「いや~、七草さんの双子さん達は随分快活な性格をしていらっしゃいますな~」
「……………」
双子の説教が終わった数分後、案内された俺は客間にあるソファーに座っていた。目の前には自分と同じく座っている七草弘一だが、サングラスをしていても大変気まずい表情になっているのが分かる。
こうなっているのは、真由美から一通りの話を聞いたからだ。七草弘一は双子の娘のやらかした事に憤りそうになるも、俺がいる事もあって何とか堪えていた。それに加え、今朝から俺を密かに監視してる魔法師達の存在もバラされた事もあって、軽口を叩く俺に何も言い返す事が出来ないでいる。
因みにやらかした双子は別室に待機しており、真由美が少し離れたところに設置されてるソファーに座って同伴している。以前に見たボディーガードである老紳士の男性もおり、彼女達を守るように佇んでいる事も補足しておく。
「まぁ真由美さんが自分の代わりに叱ってくれましたから、この件はチャラにしておきます」
「……そう言って頂けるとありがたい」
俺が上から目線な物言いをしてるにも拘わらず、七草弘一は反論せずに感謝の言葉を述べていた。表面上はそう繕っても、内心は相当腸が煮えくり返っているかもしれないが。
普通ならこんな態度を取れば、真由美やボディーガードの男性が苦言を呈する筈なのだが、二人揃って大した反応を示していない。何だかまるでフォローする気が一切無いみたいな感じがする。
「それはそうと七草さん、今回俺を招いたご用件は一体何なのですか?」
軽口を叩くのを止めた俺は、途端に表情を切り替えて本題に入ろうとした。
いきなりの変わりように真由美がキョトンとしてる中、弘一はコホンと咳払いをして話そうとする。
「娘の真由美に話した通り、君と一度話をしたくてね」
「それだけなら、今朝方から俺の家を見張る必要は無いと思うんですが?」
もう既に真由美達の前で公開した為、俺は監視をする理由を求めた。
これは真由美も知りたいのか、一体どういう事だと言わんばかりに少々不快そうに睨んでいる。
俺が仕掛けた最初の切り口に、七草弘一は一瞬顔を顰めそうになるも、何事もないように答える。
「それについて大変申し訳ないと思っている。だが兵藤君のこれまでの経歴を鑑みた結果、例え軽い世間話をするにしても必要な措置と判断させてもらった」
口では謝罪の意を示しても、心にもないことだと俺は見抜いた。
まだ話し始めたばかりなのだが、この男は表と裏を上手く使い分けることが出来るようだ。十師族と言う裏の権力者だから、それくらいの腹芸はあって当然と言えばそれまでだが、誠実な一条剛毅と違って胡散臭いのが丸出しである。
正直言って、こう言う腹の探り合いをする相手は非常に面倒だ。嘗ての
そう考えているのを余所に、七草弘一は俺を警戒する理由を述べ続けていた。
去年の九校戦で見せた魔法や剣技、横浜事変で呂剛虎を単身撃破した等々、まるで俺を称賛するように語っている。
「――それに加え、兵藤君は九校戦を通じて九島老師からも大層気に入られているではないか。あの方に目を掛けられると言う事は即ち、魔法師として最大の名誉と言っても過言じゃない。もし君を呼び出す途中に何か起きれば、間違いなく老師の耳に入るだろうから、ボディーガードの意味も兼ねて監視させてもらったのだよ」
「成程、そうだったんですか。いやまさか、俺の身を案じてくれていたとは露知らず、一方的に疑ってしまい、大変申し訳ありませんでした」
理由が判明した瞬間、俺は漸く謎が解けたような反応を示し、失礼な振る舞いをしてしまった事を改めて謝罪した。
「謝罪は結構だ。君が疑うのは、至極当然のことだからね」
頭を下げる俺を見た七草弘一は少々気を良くしたのか、全く気にしてないと軽く流してくれた。
取り敢えずこれで機嫌は良くなったみたいだ。流石にずっと上から目線な態度を続ければ、いくら彼が大人でも我慢しきれない可能性がある。
俺が対応してる相手は関東を守護する七草家当主である為、そのお膝元にいる俺が調子に乗ったら最後、家族に多大な迷惑を掛けてしまう。
「しかし、そこまでして俺と話したいのは何故ですか?」
「確認したいことがあるんだよ。兵藤君は
七草弘一のいきなりな発言に、今いる部屋の空気が急に変わった。
聞いている真由美は初耳と言わんばかりに驚愕しながら、俺を凝視している。
「はて、一体何のことやら……」
「白々しい台詞は止めたまえ。此方の方で独自に調べた結果、君はUSNA軍の小部隊スターダストを撃退後、更にはスターズ総隊長『アンジー・シリウス』すらも撃退どころか捕縛したとの報告も入っている」
「……………………」
つらつらと述べる七草弘一に、俺は内心よく調べたモノだと感心する。
あの戦闘はUSNA軍が周囲に知れ渡らないよう魔法とかで処理していた筈だが、どうやら七草家はそれに対抗して調査する方法を持っているようだ。
尤も、真由美の方は全く知らないようだ。その証拠に俺が一人でUSNA軍と交戦後に勝利したと聞いて、頭がパンク状態に陥ってる様子だった。まぁそれでも意識だけは何とか繋ぎ止めているが。
「そしてその後、どう言う訳か九島老師が突然現れ、USNA軍と交渉してシリウスを引き渡した結果になっている。老師が出てきたのは君の仕業なのだろう?」
「……………」
確証があるかのように言う七草弘一に、俺は無表情を装っている。
ここで再び惚けたところで、この男は無駄だと言わんばかりに証拠を突き付けるだろう。此処はもう素直に答えるしかないが、それなりの抵抗をさせてもらう。
「確かにそうですが、それはもう解決したので、今更そんな話を蒸し返されても困るんですが」
「一般人の兵藤君からすればそうかもしれないが、関東を守護する
成程な。つまり俺が九島に対応を任せてしまった事で、知らずに七草家と十文字家のメンツを潰してしまったと言う訳か。もし俺が真由美か十文字に話していれば、間違いなく七草弘一がUSNA軍と交渉していただろう。
だけど、それはやらなくて正解だ。
「とは言え、確かに君の言う通り、この案件は既に解決している為に手の出しようが無い。だからもし今回みたいな案件に遭遇した場合、老師でなく、我々が対処させてもらう。連絡手段としては、そこにいる娘の真由美に話してくれるだけで良い」
担当地方である自分達で解決したいのは分かるが、納得行かないのは何故だろうか。
だが言ってる事は間違ってないから、此処は一先ず従うしかないのは確かだ。
もしもこの男が美味しい所だけ持って行き、不都合な部分は他所へ任せる行為をした場合、
「……分かりました。もし自分の手に負えない件が起きたその時は、真由美さんに話を致します」
「是非とも頼むよ」
下手に断れば何を言われるか分からないので、従う姿勢を見せておくことにした。
それにしてもこの男、態々釘を刺す為に俺を呼び出したんだろうか。だとしても、態々自分の家に招く必要は無いと思うんだが……。もしかすると、まだ他にあったりして、な。
恐らく真由美も似たような事を考えている筈だ。チラッと見た際、彼女が何やら不審な表情で父親を見ていたから。
これで話は終わりなのかと疑問に思ってる中、七草弘一はこう言った。
「では兵藤君の返答も聞けた事だから、今ここでもう一つの重大な案件に移るとしよう」
「重大な案件、ですか?」
今度は一体何を言い出すのだろうか。
またしても俺が裏で動いていた件を調子に乗って暴露する気なら、後で九島に話しておこう。
聞いた話だと七草弘一は若い頃に九島の教え子らしいので、恩師である彼に頼めばどうにか窘めてくれる筈だ。
「君が第一高校にある野外演習場で巨大なパラサイトを討伐した際、『神霊』と言う未知の存在を保護してるそうだね」
『!』
これには俺だけでなく、一緒に聞いている真由美も目を見開く。
そして同時に気付いた。
七草弘一が俺を自分の家に招いた真の目的は、今も俺の傍に居る神霊――オーフィスを自分の手中に収めたい為だと言う事を。
七草弘一との対談ですが、先ずは軽いジャブです。
次回が本番になります。
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