再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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番外編 七草家からの招待④

「言っておくが、これも先のUSNA軍の件と同様に調べたものでね。娘の真由美から何一つ聞いてないと誓っておく」

 

 一瞬真由美の方へ視線を向けたのを見て察したのか、七草弘一がすぐに娘は一切関係無いと俺にそう言ってきた。

 

 USNA軍の交戦がバレたのとは違い、オーフィスに関しては何が何でも白を切りたい案件だった。

 

 もし権力者が知れば、二つの選択肢を選ぼうとする。

 

 一つ目、神霊と言う存在が余りにも危険であれば自分に牙を向けられるかもしれないから、今の内に不穏の芽を摘むよう密かに始末する。

 

 二つ目、神霊の危険性を理解しつつも、上手く利用すれば強大な力を得られるのではないかと思い、いっそのこと自分の手駒とする為に取り込もうとする。

 

 他にも数多くの選択肢はあるのだが、大きな権力を持っている人間ほど臆病であり、同時に欲深でもある。特に十師族と言う権力者ほど、非常に面倒な存在はいない。

 

 目の前にいる七草弘一は、明らかに二つ目の選択肢を考えていそうな顔だ。サングラスで目が見えなくても、明らかに良からぬ事を考えているのが聖書の神(わたし)でなくても分かる。

 

 十師族の血縁である真由美や十文字がどんなに箝口令を敷いたところで、結局は当主の耳に入ってしまうって事か。まぁ流石にプライベートなことまで調べたりはしないだろうが、一応それも今後は警戒しておくとしよう。

 

「そうですか。それで、一体何をお話されたいのですか? 神霊はもう既に俺が責任持って預かる事を七草さんの御息女、並びに十文字家当主代理のお二方より了承を頂き、もう終わった話になっておりますが」

 

「そう言う訳にはいかない。私は古式魔法について専門外だが、神霊はパラサイト以上の力を軽く凌駕する存在だと聞いている。いくら十文字家当主代理の克人殿が了承しても、娘の真由美も関わっているとなれば、七草家当主の私としては到底容認できない案件なのでね」

 

 成程、そう来たか。

 

 十文字克人は既に当主代理を務めてる身だから、彼が了承すれば簡単に口出しできない。

 

 だが、真由美は七草家の当主代理じゃない。いくら七草家の令嬢であっても、当主としての権限までは持ってないから、彼女が了承しても七草弘一が待ったを掛ければ口出しが可能となる。

 

「既に調べたと思いますが、俺が預かってる神霊は基本的に大人しい性格で、自ら人間に害を与える行為なんか一切しませんよ」

 

「いくら君がそう主張したところで、直接見ていない私からすれば詭弁にしか聞こえないな」

 

 オーフィスが無害な存在である事をアピールしても、七草弘一は聞く耳を持たない様子だ。

 

「ならば、如何すれば宜しいのですか?」

 

「本当に無害なのであれば、その神霊を七草家の方で預けてもらえないだろうか」

 

「! お父様、いくら何でもそれは横暴です!」

 

「旦那様……」

 

 七草弘一が無害を証明する為の手段を口にした瞬間、これまで傍観していた真由美と老紳士の男性からの横槍が入った。

 

 こうなる事を予想していたのか、彼は険しい表情で余計な口出しをするなと言わんばかりの様子で、二人を一瞬で黙らせようとする。

 

「七草さん、神霊(かのじょ)を手駒にしたいのでしたら止めた方が良いですよ」

 

「何やら誤解してるようだが、別に私はそんなつもりで言ったのではない」

 

 暗にバカな真似をするなと警告をする俺に、七草弘一は即座に否定してきた。

 

「預けると言っても、それはあくまで一時的なものだ。七草家(われわれ)が設立した研究所で、ほんの数日ほど視させてもらうだけだよ」

 

 研究所で、ねぇ。一時的とは言っても、その間に神霊(オーフィス)を徹底的に調べるつもりなのだろう。

 

「……言っておきますが、数日程度であっても絶対拒否されますよ。それにあの子は、俺以外の人間に従う気なんて微塵もありませんから」

 

「ならば、君が説得してくれないかな? 此方で神霊の安全を確認出来ない限り、私は今後、兵藤家(きみたち)を常時監視せざるを得なくなってしまう。強大な力を持った存在を警戒するのは、至極当然のことなのは君も充分理解してる筈だが」

 

「……………」

 

 要請に応じなければ自分だけでなく、無関係な家族も監視する、か。家族を大事にする俺にとっては、非常に効果的な手段だ。

 

 もし監視中に俺が不審な動きを見せた瞬間、七草家は捕縛する為に動くだろう。神霊を使って何か良からぬ事を企んでいる、等と取って付けた理由で。

 

 まぁ、それは尤もかもしれない。強大な力を持ってる存在を、監視するのは権力者として至極当然の行為だ。

 

 けれど、俺としては絶対お断りだ。どうせ七草弘一の事だから、自分にとって良好な結果を出さない限り、適当な理由を付けて神霊(オーフィス)を研究所に縛り付けようとするだろう。いくら大人しいオーフィスでもウンザリして、勝手に研究所を抜け出すのが容易に想像出来る。

 

 まぁそんな些細な出来事なんかより、俺が一番懸念してるのは家族の方であった。

 

 いくらこの男でも、流石に魔法とは一切無縁の母さんやセージ達には手を出さないと思うが、それでも油断は出来ない。特に母さんは未だ魔法師に対する忌避感がある為、こんな状況で多くの魔法師達に監視されてると分かった瞬間、余計に忌避感が強まってしまう恐れがある。

 

 さて、どうするべきか。此処で俺が断った直後、少々思い上がった七草弘一(おろかもの)を力付くで黙らせるのは造作も無いが、そんな事をすれば確実に七草家と敵対関係になるのが確実だ。場合によっては、家族にも非常に大きな迷惑を掛けてしまう。

 

 かと言って要請に応じてしまえば、オーフィスは確実に囚われの身となってしまう。俺が条件を付けさせれば不自由な扱いはしないと思うが、そうなると七草弘一は俺を体良く利用する筈。条件を付けさせると言う事は即ち、俺はこの男に大きな借りを作ってしまう事になるから、それを清算する為の行動を示さなければいけなくなってしまう。

 

 

 ――我が信用出来ないのであれば、今この場で姿を現そう。

 

 

『!?』

 

 すると、突然オーフィスの声がした。

 

 聞こえたのは俺だけでなく、七草弘一達の耳にも入っている為に周囲を見回している。

 

 数秒後、俺の目の前に大人姿のオーフィスが現れる。

 

「オーフィス……」

 

「ええ!? そ、その子、オーフィスちゃんなの!? 私が見た時とは、全然違うじゃない……!」

 

 幼女姿のオーフィスしか見てない真由美は、目の前にいるスタイル抜群な長身美女が同一人物とは思えずに狼狽した様子を見せていた。

 

 同時に、先程まで話題となっていた神霊が現れたことで、七草弘一は身構えている。

 

「そこの人間、我、お前の児戯に興じる気は無い」

 

「っ!?」

 

 オーフィスから名指しされた七草弘一は、突然の台詞に絶句していた。自分が考えていたことを児戯と言われたら、誰だってそうなるだろう。

 

「それと、リューセーと家族を困らせるな」

 

「……兵藤君、出来れば彼女を抑えて欲しいのだが」

 

「下がれ、オーフィス」

 

 珍しく怒った様子を見せてるオーフィスに、俺は控えるよう言った。

 

 けれど、彼女は此方へ視線を向けてジッと見て来る。

 

「だけどこの人間、我やリューセーを手駒にしようと、さっきから頭の中でずっと考えてる」

 

「ほう……」

 

 俺はすぐにジト目で七草弘一を睨む。

 

「やはりそう言う魂胆だったんですね、七草さん」

 

「……何を根拠にそのような事を言えるのかね?」

 

 確信を突いたように言っても、七草弘一は動じる様子を一切見せなかった。

 

 やはりこの程度のことで取り乱したりしないようだ。ならば、威嚇の意味も込めてチョッとばかり脅すとしよう。

 

「オーフィスには人間の心を読む能力があるんですよ。と言っても簡単に信じられないでしょうから……オーフィス、今この場で七草さんの過去の一つを言ってみろ」

 

「分かった」

 

 俺の指示にオーフィスは了承した後、七草弘一をジッと見た後――

 

「お前、ヨツバマヤ、と言う人間と婚約関係だった。もう既に別れたけど、三十年以上経っても諦めきれない未練タラタラ男」

 

「ぶっ!」

 

 思いもよらない内容を言い当ててしまった。 

 

 俺は過去を言い当てろと指示しただけなのに、何も七草弘一の心情まで言わなくても良いだろうに。その所為で思わず吹いてしまったじゃないか。

 

 真由美と老紳士の男性は俺と違って吹いてないが、顔を横に逸らして必死に堪えている。

 

 そして肝心の七草弘一は……思いっきり口元を引き攣らせており、体中をプルプル震わせていた。

 

「た、確かに私が、嘗て四葉殿と婚約していたのは、紛れもない事実であっても……未練など、一切無いのだが……!」

 

「嘘。お前、今でもヨツバマヤのことを愛して――」

 

「下らない憶測を言うのは止めてもらおうか!」

 

 もう我慢出来なくなったみたいで、七草弘一は途端に怒鳴り散らした。

 

 今までとは全く別人のような姿を見せてる事に、俺だけでなく、真由美達も意外そうに彼を見ている。

 

「……兵藤君、悪いが今回の件は無かったことにしよう。ついでに監視を付けない事も約束する。真由美、彼等を送ってあげなさい」

 

 七草家当主として振舞う事が出来なくなってしまったのか、彼は俺に帰るよう言ってきた。

 

 よほどオーフィスに、自分の心情を言い当てられたのが気に障ったのだろう。同時に、触れて欲しくない過去を探るように命じた俺も含めて。

 

 

 

 

 

 

「すいません、真由美さん。父君の機嫌を悪くする話にしてしまって」

 

「気にしなくていいわ。リューセーくんを家に招いた私の方が、逆に謝りたいくらいだから」

 

 話が終わった俺は、真由美と一緒に歩いていた。因みにオーフィスは俺の指示で再び透明化させている。

 

 あくまで予想に過ぎないが、七草弘一は今後、余程の理由がない限り俺やオーフィスに会おうとしないだろう。自分の過去だけでなく、四葉真夜に対する未練が残ってる事もバラされたのだ。今頃は自室で荒れてるかもしれない。

 

「今回は私の父だから良かったけど、リューセーくん、今後はオーフィスちゃんに相手の心を読ませることをしてはダメだからね」

 

「分かってます」

 

 オーフィスに相手の過去や心情を言い当てる行為はしないよう警告して来る真由美に、俺は素直に従うことにした。別に彼女にやらせなくても、聖書の神(わたし)が能力を使えば解るので。

 

 すると、七草弘一についての話が終わった直後、途端に彼女は不機嫌な表情になっていく。

 

「それにしても、まさかオーフィスちゃんが、あんな凄い美人な姿になっちゃうなんて私知らなかったわぁ~」

 

「急に何ですか?」

 

「べっつに~」

 

「???」

 

 真由美は一体どうしたのだろうか。

 

 急にオーフィスに対して羨ましがるような感じがするが……もしかして自分より身長があってスタイルが良い事を妬いてる?

 

「神霊と言っても、あんな美人さんと一緒にいるなんて、リューセーくんは幸せ者よね~」

 

「えっと、真由美さん、俺とオーフィスは貴女が思ってるような関係では……」

 

 何故か急に機嫌が悪くなってしまった真由美を見て、俺は急遽宥めることにした。

 

 さっきまで対応していた七草弘一と違い、彼女には色々恩があるから、ご機嫌取りする選択しかない。

 

「あ、そうだ。今度のホワイトデーですけど、卒業式間近ですから、予定を早めて――」

 

「こらーーー!! またお姉ちゃんに何かやろうとしてる!」

 

 すると、またしても聞き覚えのある叫び声が聞こえた。

 

「はぁっ……。お宅の妹さんに学習能力と言うモノは無いんですか?」

 

「おバカな妹で、本っ当にごめんなさい」

 

 先程まで不機嫌だった筈の真由美が、叫んでる妹――香澄の行動を見て途端に謝るのであった。

 

 その後、またしても彼女の妹の頭に拳骨が振り下ろされる展開になったのは言うまでもない。




思った通りの展開じゃなかったかもしれませんが、取り敢えず七草家との話はこれまでになります。

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