再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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番外編 ホワイトデー①

 翌日、一高内に大きな噂が広まった事で、チョッとばかり荒れ気味になっていた。

 

 内容としては、真由美が兵藤隆誠(おれ)を父親に紹介しようと自宅へ招いたと言う噂。それを修哉と紫苑から聞いた瞬間、俺は学校へ向かう途中に多くの男子生徒達から睨まれた事に納得した。

 

 一体どうやって広まったのかは知らないが、勘違いも甚だしい事実無根の噂だ。本当の事は言えないが、実際は七草弘一が俺と神霊(オーフィス)を自分の手駒にしようと七草邸へ呼び出されたのだ。何がどう紆余曲折して、俺と真由美がいつの間にか恋仲の関係になってるのかが理解出来ない。

 

 これは当然、真由美の耳にも入っている。聞いた瞬間に断固否定するも、顔を赤らめたのが不味かったのか、男子生徒達は余計に勘違いする破目になってしまった。

 

 大変面白そうに揶揄ってくるエリカやレオとは別に、部活連会頭の服部刑部から急な呼び出しをされる事となった。本人は噂の真意を問い質す為の事情聴取だと言ってたが、目が少しばかりヤバかった。明らかに嫉妬と殺意に満ちてて、いつ爆発してもおかしくない状態だったと断言出来る程に。

 

 だがまぁ、他の男子生徒達と違って理性はあったみたいで、事情聴取は問題無く行われた。流石に本当の事は言えなかったが、七草家当主からの呼び出しと聞いた瞬間、瞬時に十師族関連の話だと理解してくれたのだ。その後すぐに、服部は部活連会頭として噂は事実無根だと一高全体に広めて、何とか事無きを得て収束するのであった。

 

 さて、卒業式の準備が本格的に忙しくなる前に、なるべく早くアレ(・・)を作っておくか。

 

 

 

 

 

 

「おはよう、突然だが失礼するよ」

 

 いつもより早めに登校した俺は、隣のクラス1-Eの教室へ訪れていた。

 

「どうした、兵藤」

 

 教室にはいつものメンバー――司波、エリカ、レオ、幹比古、柴田――が揃っており、俺の登場に全員視線を向けていた。

 

 もうお決まりのパターンとなってるように、椅子に座っていた司波が急に立ち上がって早々此方へ近付いて来る。

 

「いや、今回はお前じゃない」

 

「何?」

 

 意外そうな表情をする司波を余所に、俺は用がある人物の方へと移動する。

 

「やぁ、柴田」

 

「ふぇ!? お、おはようございます、兵藤君!」

 

 自分に声を掛けられるのは予想外だったのか、柴田は急に緊張して声が上擦っていた。

 

 司波達も俺が柴田に話しかけた事に、少々意外そうな表情で見ている。因みに幹比古だけは他と違って少々違う反応を示してるが、敢えて気にしない事にしておく。

 

「そう緊張すること無いだろう。今はそんなに行ってないけど、時折美術部で話してる仲なんだからさ」

 

「え? リューセーくんって美術部も掛け持ちしてたの?」

 

 俺の台詞に真っ先に反応したエリカは、全くの初耳と言わんばかりに質問してきた。彼女だけでなく、司波達も似たような反応を示している。

 

「違う違う。生徒会の仕事関係で美術部へ行ってただけだよ」

 

「はぁ? 何で生徒会が?」

 

 共通点が全く見当たらないのか、今度はレオが不可解そうに訊ねてきた。

 

「実は去年の秋頃に美術部が、チョッとばかり過激な同人誌を描いてるって報告があってな」

 

 俺が生徒会副会長に就任したばかりの頃、とある生徒から苦情が寄せられた。噂で美術部が何やら良からぬ行為をしていると。

 

 俺には全く心当たりは無かったのだが、一緒に聞いていた司波妹と光井が何か思い当たるように反応していた。聞いた話によると、九校戦の時に柴田が同人誌の話をしていたらしい。真由美をネタに同人誌を作っている人がいると。

 

 美術部で活動してる彼女がそう証言したのであれば、噂は本当かもしれないと判断した生徒会長の中条は、美術部に抜き打ち検査をすることを決定した。それを行うのは司波妹や光井でなく、何故か俺一人だけで。

 

 結果としては、一部の部員が不健全な同人誌を描いていた事が判明した。美術部全体で行っていた訳じゃなかったので、取り押さえたのはあくまで主犯だけに留め、無関係な部員達には警告だけで済ませている。もしまた不届きな行いをする部員が出たら、その時は生徒会権限で美術部の活動を停止させると。恐らく中条は、俺がハッキリとやるだろうと見越して検査員に選んだに違いない。

 

 流石に一度注意して解決と言う形で済ませる訳にはいかない為、暫くの間は向こうの動きを見張ろうと、時折俺が生徒会副会長として美術部へ足を運んでいた。そう言う経緯もあって、俺はそこで活動してる柴田と色々話す仲になった訳である。

 

「――と言う事があったんだ」

 

「なるほど。美月が隆誠くんとそれなりの付き合いがあるって、そう言う事だったのね」

 

「はぅぅ……」

 

 まるで氷解するように納得の表情を浮かべるエリカに対し、美術部が本当に過激な同人誌を描いてた事にバラされた事で少々縮こまってる柴田。

 

 司波とレオも噂を知っていたのか、少々反応に困ってる様子を見せている。幹比古だけは何故か安堵の表情になっているのは分からないが。

 

「それで、隆誠くんは何の用で美月に会いに来たの?」

 

「大した用じゃない。美術部で世話になった礼も兼ねて、チョッと早いホワイトデーを贈ろうと思ってな」

 

「………ええ!?」

 

 俺の台詞が予想外だったのか、柴田は急に顔を赤らめながら固まってしまった。

 

 因みに司波達も、俺が懐から小箱を取り出し、彼女に渡そうとするところを見た瞬間目が点になっている。

 

「いや、あの、その! 私は、兵藤君にバレンタインデーのチョコは渡してませんから、お返しなんてしなくても!」

 

「言っただろう? 美術部で世話になった礼だって。気にしないで受け取ってくれ」

 

「で、でもぉ……」

 

 小箱を見て高級そうなモノだと思ったのか、柴田は未だに受け取る気配を見せてくれない。

 

「大丈夫だって。コレは俺が作ったお菓子だから」

 

「兵藤君が作ったんですか!?」

 

「ああ、お菓子作りは得意なんでね。去年生徒会室で司波兄妹も食った事がある」

 

「……あったな。あの時はチョコチップマフィンで、確かに美味かった」

 

 俺に言われて思い出した司波は、去年の出来事であってもちゃんと味は憶えていたようだ。

 

「美月。受け取るかどうかはお前の自由だが、味に関しては保証しておく」

 

「おい司波、それはフォローのつもりか?」

 

「俺は事実を言ったつもりなんだが」

 

 司波の言い方にチョッとばかりカチンと来た俺は反応して睨むも、当の本人は全く気にせず言い返してきた。

 

 以前に精霊の眼(エレメンタル・サイト)を封じた時は大変面白い反応をしていたが、元に戻れば何時ものポーカーフェイス、か。

 

 俺と司波のやり取りはE組のクラスメイト達も当然知っており、エリカ達と同様に苦笑している。

 

「え、えっと、達也さんがそう言うのでしたら……」

 

 すると、先程まで迷っていた柴田は、司波の台詞で後押しされたように受け取ってくれた。

 

「チョッとミキ、思わぬ強敵(ライバル)が現れたわね~」

 

「…………………」

 

 受け取った柴田を見たエリカは、幹比古を肘で軽く小突いていた。いつもなら『僕の名前は幹比古だ!』と訂正する筈なのに、今回は言い返そうとする素振りを全く見せていない。

 

 如何でも良いんだが、何故か幹比古がチョッとばかり怖い気がする。俺はあくまで感謝の気持ちで柴田に贈っただけなので、一切疚しいことは無いんだが。

 

 さて、取り敢えず用は済んだから、今度はもう教室にいるであろう紫苑にホワイトデーを渡しに行くとしますか。その後は昼休みに昼食を利用して真由美と摩利に渡す予定になっている。

 

 ……もうついでに、三高の沓子達にちゃんと届いたかな?




本当は終わり間際に、リューセーが達也に嫌がらせ目的でホワイトデーを渡すつもりでしたが、やらない事にしました。

内容としては――


「司波、チョッと手を出せ」

「何故だ?」

「はい、お前にもホワイトデーだ」

「…………は?」

「俺からの素直な気持ちを受け取ってくれ。柴田と違ってお前のは特別な贈り物だ」

「……………」→達也は石のように固まってる

『!?』→余りの展開に1-E全体も固まってる


――って言う感じでしたが、そうなると深雪やほのかは勿論のこと、色々な意味で大きな誤解を招くと思って却下しました。


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