再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

177 / 224
本当は更新する気は無かったんですが、未だに熱が冷めない状態なので書いちゃいました。


ダブルセブン編 進級と転科

 西暦2096年4月6日

 

 

「行ってきま~す」

 

「「いってらっしゃ~い」」

 

 本日は第一高校新年度初日。俺はいつものように小さい弟と妹に見送られながら自宅を出て登校した。今まで春休み中だったが、生徒会の打ち合わせの関係で度々登校していた為、久しぶりと言う修飾詞が付かない。

 

 けれど、いつもと違う点がある。今まで身に纏っていた制服の上着は去年と違って新しくなり、一科生の証である八枚花弁のエンブレムが付いている。それは即ち、俺が一科生になったという事だ。

 

 二科生から一科生への転属は本来認められていなかったのだが、今年になってから認められるようになった。

 

 そうなる原因となったのは、二科生の兵藤隆誠(おれ)が、去年の九校戦で圧倒的な実力と結果を示したからだ。更には魔法協会理事の九島烈からも絶賛するほど注目される事になった為、俺をこれ以上『補欠』扱いするのは、色々な意味で不味いと判断したらしい。その結果、俺は半強制的に一科生へ転科する事となった。しかも、一度拒否した筈のA組へ。因みにコレを聞いた何処かのシスコン兄は物凄く何か言いたげな顔をしていたが、敢えて気にしないようにしている。

 

 だが、他の二科生達の転科が可能となった一番の要因は、俺と同じ二科生の司波達也だった。アイツも俺と同様、対内的にも対外的にも無視することが出来ない派手な実績を積み上げた一人である為、『補欠』扱いするのは、学校の対面にとって不利益だと判断された。その結果として、今年度から魔法工学科、通称()(こう)()と言う学科が新設された。ある意味、司波の為に設立された学科とも言える。

 

 新しい学科によって、二年生の進級する手続きが変わった。進級時に、一般魔法科と魔法工学科のコース選択が可能となったのだ。一般魔法科は従来通りだが、魔法工学科を志望した場合、三月の試験を受けて合格しないと入れない仕組みになっている。それに通過した生徒は、魔法工学技術系に重点を置いたカリキュラムを与えられる予定になる。因みに生徒会長の中条は根っからのCADオタクである為に魔工科へ入りたがっていたが、現状は新二年生しか認められてない為、三年生は従来通りのままと言う結果を知った途端に真っ白になっていたとか。

 

 まだ設立したばかりなので今は一クラスだけだが、今後の成果によっては入学時点から募集する事も計画されているらしい。

 

 その魔工科クラスが出来た副次的な効果として、魔工科に移動した一科生の人数分を補充しようと、二科生が一科への転科が認められるようになった。それでも条件があり、二科生の実技成績上位者から順に選ばれることになっており、初めから一科生の転科が決まっていた俺は別として、司波の友人の一人である幹比古が今年度から一科へ移る事になった。

 

 他にも――

 

「リューセー、おはよう」

 

「おはよう、リューセー君」

 

 すると、聞き覚えのある声が俺に挨拶をしてきた。

 

「おはよう、修哉、紫苑。今日から晴れて一科生になった心境は如何かな?」

 

「止めてくれよ。俺としては、まだ信じられないんだからさ……」

 

「私も修哉に同感。これ着てると、何だか皮肉のようにしか思えなくて」

 

 思わず上着に付いている八枚花弁のエンブレムを見ながら訊ねるも、二人は揃って眉を顰めている。

 

 俺の友人である修哉と紫苑も、今日から俺と同じく二科生から一科生へと転科することになった。理由は当然、定期テストで実技成績上位者となっていたからだ。まぁ他にも、去年俺のクラスメイトだった二科生数名も一科生になっているのも補足しておく。

 

 最初は俺が一科生へ(半強制的に)移ると聞いて寂しそうにしていた二人だったが、後になって自分達も一科生になると分かった途端、只管戸惑うばかりだった。

 

 因みに修哉と紫苑の転科を特に喜んでいる者達がいた。

 

 一人目は壬生紗耶香。大事な弟分が一科生への転科を知った瞬間、姉分としての行為なのかは知らないが、余りの喜びように修哉を抱擁していた。それを見た恋人の桐原が思いっきり睨んでいたとか。

 

 二人目は千代田花音。大事な後輩が自分と同じ一科生になったことで、物凄くはしゃいでいた。一緒にいた婚約者の五十里啓が苦笑してしまうほどに。

 

 とまあ、俺と司波の功績によって、一高は大きな改革を踏み出したと言う訳である。これが果たして吉となるか凶となるかは、聖書の神(わたし)でも全く分からない。

 

 二人の友人と合流して一緒に登校している中、魔法科高校生徒達は俺達が視界に入った途端に視線を向けて来る。尤も、俺が気付いたように振り向くと、一気に逸らして逃げるように去っていく。

 

「修哉、紫苑。前にも言ったけど、気にするなよ」

 

「分かってるって」

 

「もうあんなの一々相手にする気なんか無いわよ」

 

 以前から一科生に対して悪感情を抱いてる二人に俺が忠告するも、問題無いように返答してきたので一先ず安心した。

 

 元々の一科生達は、転科した元二科生達を未だ認めていない節が見受けられた。未だに一科生至上主義の連中が良からぬ事をしないとは言い切れないが、生徒会や風紀委員に警戒をしておくよう進言しておく必要がある。

 

 そう考えながら一高の校門を通ると、目の前にお馴染みの集団が歩いているのを発見する。

 

 司波兄妹、エリカ、レオ、光井、柴田、幹比古、そして先月に帰国した北山がいる事で、いつもの司波一行が勢揃いしていた。

 

「いつ見ても錚々(そうそう)たる顔ぶれと言うべきか……」

 

「私達と違って、あの一団に喧嘩を売る人は絶対いないでしょうね」

 

 まるで一高の精鋭たちのように言う修哉と紫苑に、俺は思わず苦笑してしまう。

 

「そう卑屈になるなよ。今のお前達も、アイツ等に匹敵する実力者なんだからさ」

 

 修哉は上級用バンドを着けて二ヵ月以上経ち、身体能力が更に磨きが掛かっている他、俺が教えてる技のいくつかも使いこなせるようになっている。

 

 紫苑は未だに中級用バンドだが、修哉以上に魔法力が格段に向上している。上級用バンドを着けて慣れてしまえば、司波深雪をあっと言う間に超えるだろう。

 

「特に修哉、剣の腕に関しては確実にレオ以上だぞ。この前なんかエリカと手合わせして、見事に一本取ったじゃないか」

 

「いや、あれは向こうが油断してただけで」

 

「ちょ、チョッと二人とも、前、前!」

 

「「ん?」」

 

 俺が修哉と話している最中、紫苑が突然焦るように前を見るよう促してきたので、言われた通り視線を向けた。その先には、明らかに此方の会話が聞いていたと思われるエリカが、チョッとばかり恐そうな笑みを浮かべて此方を見ていた。彼女の行為で司波一行も気付いたのか、俺達の方へ視線を向けている。

 

 因みに司波と柴田の上着には、一科生や二科生とは異なるエンブレムがあった。魔法工学科在籍を示す歯車のようなエンブレムが。それと幹比古は俺達と同じく転科した一科生のエンブレムもある事も含めて。

 

「どうやらエリカは耳が良いようだ。特に自分に都合の悪い話に関しては」

 

「だとしても、どれだけ地獄耳なんだよ……」

 

「此処から十メートル以上離れてる筈なんだけどね……」

 

 エリカの聴覚の良さに少しばかり呆れていると、話題の人物がツカツカと向かって来る。

 

「おはよう、お三方。朝っぱらから中々面白い会話してるみたいね」

 

「「……………」」

 

「私は何も言ってないんだけど……」

 

 威圧感のある挨拶に俺と修哉は思わず無言になり、紫苑だけは無関係だと主張していた。

 

 

 

 

 

 

「全く、リューセーが余計なことを言った所為で……」

 

「ホントよ。私まで要らないとばっちり受けて散々だったわ」

 

 隆誠と別れた修哉と紫苑は、教室に着いて早々不満を漏らしていた。

 

 二人が一科生として所属することになったのはB組。このクラスに(あけ)()(えい)()(さくら)小路(こうじ)(あか)()と言う二人は隆誠の知り合いなのだが、生憎と修哉と紫苑には全く接点が無い為に声を掛けたりしない。

 

 因みに明智は魔工科のクラスに行っていた。そこには去年一緒だったクラスメイトが転科した為に。桜小路はB組にいるが、特に何も語る必要が無いので省略する。

 

 いつもなら頼りになる筈の隆誠がいない事に不安を覚える二人だが、それはすぐ解消することになる。

 

「僕としては、あんな離れたところから聞こえるエリカが逆に凄いと思ったけどね」

 

 九校戦を通じて話す仲となった、(よし)()(みき)比古(ひこ)も一緒にB組へ所属することとなった。

 

 幹比古も最初は誰一人知り合いがいなくて少々不安だったが、修哉と紫苑が一緒だと分かった途端に安堵の様子を見せていた。去年は違うクラスだったが、同じ元二科生として気軽に話せる相手がいてくれて安心してる。

 

「吉田、同じ元二科生同士頑張ろうな」

 

「よろしくね、吉田君」

 

 修哉と紫苑が挨拶しながら手を差し伸べると、幹比古は喜んで握手しようとする。

 

「こちらこそよろしく、天城、佐伯さん。それと出来れば僕のことは幹比古って呼んでくれないかな。名字で呼ばれるのは好きじゃなくてね」

 

「オーケー。じゃあ俺も修哉で頼むよ、幹比古」

 

「私も紫苑で構わないわ、幹比古君」

 

 三人からすれば、初日から幸先の良いスタートと言うべきだろう。 

 

 尤も、修哉と紫苑は何かあれば隆誠がいるA組へ行き、幹比古も達也がいる魔工科のE組へ行く。だから友人達とクラスが違っても、別に何の問題もない。

 

 

 

 

 

 

 友人二人と途中で分かれた俺は、一科生の中で最も優秀な成績を収めているA組へ向かった。

 

 想定通りと言うべきか、入って早々A組にいる(俺にとって)新しいクラスメイト達が一斉に此方へ視線を向けて来た。未だ一科生至上主義がいるのか、まるで忌まわしい存在を見るような目で睨んでる奴もいる。

 

 これが普通の二科生なら気圧されてるだろう。だが俺からすれば、向こうがただ単に強がってるだけにしか思えない。

 

 修哉と紫苑に言った手前として、普通であれば気にせず無視すべきなんだが、A組にいる生徒は他の一科生と違って無駄にプライド高いのがいる為、ある程度の牽制をしておく必要がある。

 

「おはようございます。本日からA組に所属することになりました兵藤隆誠です。二科生如きの自分が、此処にいること自体お気に召さない方々もいらっしゃるでしょうが、これは学校側の決定なのでどうかご容赦ください。それでも御不満でしたら、先月まで留学していたアンジェリーナさんみたいに、どのような勝負でも受けて立ちますので」

 

『…………………』

 

 俺が宣戦布告みたいな挨拶をすると、A組にいるクラスメイト達は誰一人言い返そうとしない。

 

 リーナの名前を出したのは、チョッとした警告の意味もあった。司波妹に匹敵する実力を持つ彼女が、ずっと俺に挑み続けても全敗したのは、一高にいる誰もが知っている。だからもし他の一科生が俺に挑めば、リーナと同じ敗北の運命を辿ることになってしまう。言うまでもないが、A組の誰かに挑まれたところで、俺の勝利は一切揺るがない。それは当然向こうも理解しているから、俺が勝負をしようと言っても『避ける』と言う選択をするしかない。

 

 勝負と言う単語を聞いた瞬間、瞬時に敗北したリーナを思い出したのか、クラスメイト達はすぐに視線を逸らしてしまうのであった。

 

 余りにも呆気無い結果に、俺は少しばかり抵抗する姿勢を見せて欲しかったと思いながら、指定された席に座ろうとする。

 

 如何でも良いんだが、以前の九校戦の頃から二科生に対して敵意を剥き出しにしていた筈の森崎(もりさき)駿(しゅん)は、今までと違っていた。俺を見ても敵意は示さず、妙に達観したかのように眺めているだけだ。そうなってる理由は全く不明だが、恐らく何か考えを改めるような出来事と遭遇してああなったのかもしれない。

 

「チョッと兵藤君、いくら何でもアレは言い過ぎだと思うんだけど」

 

「でも、効果覿面なのは確か。兵藤さんの挨拶で、もう殆どが意気消沈してる」

 

「リーナの名前を出してしまったら、仕方ないと言えばそれまでだけど……」

 

 席に着いた直後、俺に話しかけてくるクラスメイト達がいた。光井ほのか、北山雫、司波深雪の三人が。

 

 彼女達は俺がA組へ来る事を反対してないどころか、最初から賛成している。特に北山は、自分以上の実力者なのに一科生じゃないのがおかしいと言うほどだ。

 

 まさか進級してすぐ成績上位者の女子三人に囲まれるとは思いもしなかった。さっきまで意気消沈していた男子達が、先程とは違う意味で俺を睨んでいるし。

 

「取り敢えず今日から宜しくな、光井、北山、司波さん」

 

 流石に女子に握手する訳にはいかないから、さっきと違って親しみを込めた挨拶を改めて行った。

 

 三人もそれに応えるよう、こちらこそ宜しくと返してくれる。

 

「ところで兵藤さん、ずっと前から訊きたい事があるんだけど」

 

 すると、挨拶を終えてすぐに北山が早速質問しようとしてくる。妙に迫力があるのは俺の気のせいだろうか。

 

「兵藤さんのお友達、天城君と佐伯さんに一体どんな方法で、あんな凄い成績を残したの?」

 

 よりにもよって、この質問が来るのは予想外だった。

 

 すっかり忘れてたよ。北山も司波兄達と同様、修哉と紫苑が実技成績が急激に上がったのが凄く気になってる事を。

 

「あ、それは私も気になる」

 

「兵藤くん、もしよろしければ教えて頂けませんか?」

 

 北山が言えば、光井と司波妹も気になるように言ってくるのは必然的な流れだった。

 

 流石に言える訳が無い。聖書の神(わたし)が作った特殊なバンドで、身体能力と魔法力を向上させてるなんて。

 

 ぶっちゃけ俺が二人にやってる事は、魔法界の常識を覆す行為も同然だった。聖書の神(わたし)と言うイレギュラーな存在が、前世で培った修行法を実践した事により、二人は並の魔法師をあっと言う間に上回る実力を得ている。と言っても、実戦経験は未だ皆無のままだが。

 

 こんな事がもし世間に知れ渡れば、日本魔法界どころか、全世界が確実に俺を狙おうとするだろう。国の魔法師達を強化する為に捕獲、もしくは世界のパワーバランスを崩す危険分子と見なして抹殺する、とか。

 

 少々大袈裟な言い方をしてしまったが、要するに修哉と紫苑を除いて、誰にも教える気は一切無いと言う事だ。

 

「そうだな。知りたければ、俺に魔法勝負で一度でも勝てたら教えてあげよう」

 

「やる」

 

 暗に教えないと言ったつもりなんだが、どうやら北山は本気で受け取ってしまったようだ。そう言えば彼女ってアメリカに留学してたから、リーナが俺に全戦全敗してることを知らないんだった。

 

「ちょ、チョッと雫、止めた方が良いって! 兵藤君の実力は深雪より上なんだよ!」

 

「あはは……」

 

 光井に自分より実力が上と言われてしまった司波妹だが、当の本人は否定することなく苦笑するだけだった。もしこれが司波兄より上とかだったら、間違いなく反論してるだろうが。

 

「それでもやる。勝てないと分かってても、強い人と戦うのは大きな経験になる」

 

「えっと、君ってそんな熱血キャラだったか?」

 

 俺が知ってる北山は普段から物静かなクール系女子だと思っていたのだが、明らかにキャラがおかしい。もしかして留学先のアメリカで何かあったのだろうか。

 

「留学先のレイが言ってた。兵藤さんと戦うのは大変貴重な経験だって」

 

「ソイツの仕業だったか……」

 

 レイとは、レイモンド・S・クラークと言う男だ。魔法を学ぶ男子学生だが、その正体はUSNAの情報機関でも正体不明とされている七賢人の一人。

 

 あの男は俺のファンと自称してたから、恐らく北山に余計なことを吹き込んだに違いない。もしまた電話してきたら絶対文句を言ってやる。

 

 まさかA組に来て早々、溜息を吐く事態になるとは思いもしなかった。




本当はリューセーもB組にする予定でしたが、今後の展開を考えて深雪達のいるA組に行かせました。

感想お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。