二科生の時とは違い、一科生は実技指導の教師が付くことになっている。生徒を見る為の教員が付くのは当たり前なのだが、魔法科高校に関しては別だった。
前にも言ったが、教師資格を持つ魔法師は不足している。一高の場合は一科生を優先的に見る事になっており、二科生は独力で学んで結果を出さなければいけない。隣のB組にいる元二科生の修哉と紫苑、そして幹比古は教師から教わる事に内心久しぶりだと思ってるだろう。
因みにA組を担当するのは、去年からいる
午前のカリキュラムが始まった際、(司波妹、光井、北山を除く)新クラスメイト達の殆どが、授業中に俺をチラチラと見ていた。授業担当の教師も気になったのか、問題を答えてもらうよう俺を指してきたので、自分が分かる範囲内の回答と解説をする事にした。どこも間違ってはない筈なのに、何故かドン引きされたのは少々納得行かなかったが。
授業が終わって昼休みになり、俺は生徒会室に来ている。生徒会と風紀委員会が新役員を迎えたから、その顔合わせの為に集まったのだ。
因みに司波は中条と千代田による共謀の結果により、風紀委員会から生徒会に移籍して、生徒会書記として活動する。尤も、司波としては生徒会入りに反対を示さないどころか、寧ろ好都合のようだ。理由は言うまでもなく、俺と同じく副会長をしている司波妹の傍に居る為に、な。
アイツはもう俺に
因みに司波の生徒会入りに喜んでいるのは、言うまでもなく司波妹と光井だ。司波妹はアイツを自分と同じく副会長にしたがっていたが、既に
まぁそんな事は如何でも良いとして、風紀委員会にも新たなメンバーが加わっている。司波兄の後任として生徒会推薦枠で幹比古。昨年度末に欠員が出た部活連推薦枠の補充に北山が選ばれている。補足ではないのだが、風紀委員長の千代田は密かに大事な後輩である佐伯紫苑を風紀委員に入れたがっていた。しかし当の本人が辞退している他、去年の九校戦で見事な功績を出した北山が適任だと周囲から説得された為に諦めるしかなかったらしい。
その新メンバーも含めて生徒会室は、俺、司波兄妹、光井、北山、幹比古、啓、千代田、中条の顔ぶれによる新役員歓迎会みたいな感じで昼食会が開催されていると言う訳であった。
流石に九人いる事もあってか、生徒会室の会議用テーブルも手狭だった。これを機に千代田が啓にぴったりくっつこうとするも――
「千代田委員長。まさかとは思いますが、許婚だからと言って、風紀委員長が自ら風紀を乱すような真似はしませんよね?」
「っ! そ、そんなことする訳ないじゃない!」
俺がさり気なく言った瞬間、千代田はビクッと身体を震わせながら即座に否定してきた。
実を言うと、彼女は俺に対して少々苦手意識を持っている。この前のバレンタインデーで、
そして食事を終えた俺達に、それぞれの好みに合わせたコーヒーカップとティーカップが配られる。
給仕を行ってるのは『3H』のピクシーだ。この少女型家事ロボットはパラサイトが憑依し、光井の想念によって自我が目覚めて司波に従属している。元々ロボット研究部に貸与されていた物だが、様々な事情によって司波が買い取り、現在は生徒会室で使用する事になった。尤も、コレは給仕以外の事で司波が密かに使う事になるが、な。
「そう言えばリューセー、今日の放課後もリハーサルなのかい?」
入学式の準備にタッチしてない幹比古が、隣に座ってる俺に訊ねてきた。
「リハーサルと言うより打ち合わせだな。答辞のリハーサルは春休み中と式直前の二回だけになってる。去年に答辞をやった司波さんもそうだったろう?」
「はい、わたしの時もそう言う流れでした」
俺が教えながら確認の問いをすると、司波妹はすぐに頷いた。
「えっ、そうなの?」
何故か千代田が大袈裟にも思える驚きを示した事に疑問を抱くも、それはすぐに分かった。
「あんな堂々とした答辞、あたしたちの時と違ってひど……かなり苦労してたから、もっと多めにやると思ってた」
「どうせ私は酷かったですよ……」
千代田の失言とも言える台詞に、一昨年の新入生代表を務めていた中条が激しく落ち込んだ顔でいじけてしまう。
それを聞いた俺は容易に想像が出来た。恐らく当時の中条は答辞をやる前からガチガチに緊張して、本番もそれが続いた所為で物凄く噛みまくっていたに違いない。
「ま、まぁ、中条さんは緊張してたしね……」
許婚の失態を啓が慌ててフォローしている。否定しなかったと言う事は、やはり俺が想像した通りの展開になっていたのだろう。
「もちろん、緊張しなかった深雪がおかしいわけでもないからな」
「まあ、お兄様ったら。わたしだって緊張していたのですよ」
何やら予防線を張っているような発言をする司波兄に、司波妹がごく自然なタイミングで隣に座ってる司波兄の太腿に自分の両手を重ねておいた。そのまま顔を覗き込むように上体を寄せながら。
千代田にも負けず劣らずのイチャ付きっぷりを見せようとする司波妹の行為に、俺は嘆息するしかなかった。今年から生徒会室でこの兄妹が、仕事中にこんな事をすると考えるだけでチョッと気が滅入りそうになる。
「あっ……」
他の面々も何か言いたげな表情になってる中、司波妹はすぐに距離を取ろうと離れていた。もしかしたら、俺に何か言われると思い、千代田の二の舞にならないよう動いたに違いない。
「ところで兵藤。俺も深雪も、まだ今年の新入生総代に直接会ったことがないんだが、お前はもう会ったのか?」
妹に矛先を向けさせたくないのか、司波兄は何事も無かったかのような声で俺に話しかけた。
「俺もまだ会ってないが、確か
名前から分かるように、今年の新入生総代は『
七宝家の事を知ってるのかは分からないが、司波兄は相変わらずの無表情で聞いている。
「直接顔を合わせた中条会長は、どう言う風に見えましたか?」
俺がそう言った直後、司波兄だけでなく、他の面々も気になるように彼女へ視線を向けた。
「そうですね。なんというか……やる気がある子に見えましたよ」
「ふぅん。野心家ってことね、七宝家長男は」
当たり障りのない言葉を選ぶ中条の発言に、千代田は身も蓋もない表現で言い換えた。
いつもの生徒会長であれば必ず何かしらのフォローをするのだが、否定せずに曖昧な苦笑いをしたとなれば、千代田と同意見なのかしれない。
☆
「紹介します。今年度の新入生総代を務めてくれる七宝
「よろしくお願いします」
放課後の生徒会室。既に揃っている生徒会一同――俺、司波兄妹、光井、啓――に中条の紹介により、新入生総代である七宝琢磨はペコリと一礼した。
「三年、会計の五十里啓だよ。よろしくね」
啓の挨拶は問題無かったのだが――
「二年、副会長の兵藤隆誠だ。よろしくな、七宝君」
俺が自己紹介をした瞬間に何故か一変した。
「……大変失礼ですが、兵藤先輩は二科生だと聞いております。どうして一科生のエンブレムを?」
上手く言い回してるが、本当は『
「ああ、これね。俺が二科生のままだと色々不味いからって、学校側が俺を一科生のA組へ半強制的に転科させられたんだよ」
「っ!?」
俺が理由を告げた瞬間、七宝は信じられないと言わんばかりに驚愕していた。
嘘は吐いていない。あの時と違って今度は是非ともA組へ転科してもらうと、一高の校長が直々にそう言ってきたのだから。
二科生だった筈の俺が優秀なクラスに配属されるなど、七宝からしたら寝耳に水の話だろう。それどころか、さぞかし不愉快に思ってる筈だ。
その証拠に、先程まで疑問視していた彼が、途端に忌々しいような目になっている。理由を話せばこうなる事は既に予想していたので、俺は気にせず敢えて流す事にした。
次は俺と同じ副会長の司波妹が紹介するのだが、自分より兄を優先しようとする。
「二年、書記の司波達也です。よろしく、七宝君」
「七宝、琢磨です。よろしくお願いします」
司波と分かった途端、不自然に名字を強調した言い方だった。その直後、彼は司波の顔ではなく左胸を不思議そうに見ている。
「七宝くん、どうしました?」
「いえ……司波先輩が着けている歯車のエンブレムに見覚えがなかったものですから」
俺の時と違って、本当に分からないように言う七宝に、中条はすぐに頷いて答えようとする。
「今年から新設された魔法工学科のエンブレムなんですよ」
「そうでしたか」
意図したものかは分からないが、七宝は知った途端に興味が無いと言うぞんざいな素振りで相槌を打った。
だが、それはやってはいけない行為だ。この生徒会室には、司波兄を愛してるんじゃないかと疑問視するほど重度のブラコン娘がいる。
七宝が次に挨拶をしようとする者へ視線を向けた瞬間――司波深雪が冷たい表情となっていた。
表情だけでなく、彼女の全身から途轍もないプレッシャーを放っている。普通の人間なら間違いなく平静を失っているだろう。
「兵藤くんと同じく、副会長の司波深雪です」
「――七宝琢磨です。よろしくお願いします」
七宝は気圧されそうになるも、すぐに儀礼的な対応をするもぎこちない。
声が少し震えていたのは、彼女に恐れたのではなく自身への怒りだ。それを抑える為に、奥歯を噛みしめているのが分かる。
司波妹と七宝によって、徐々に不穏の度を増す空気になっていき、周囲が段々とオロオロし始めている。普通なら司波兄が止める筈なんだが、当の本人は妹を窘めることをしないどころか、ただ七宝の表情を無言で観察しているだけだ。
この光景に俺は嘆息しながら――
「兵藤、何をやろうとしている?」
「本当に反応が早いな、司波」
元凶である司波妹の頭にチョップを当てようとする寸前、司波兄が俺の手首を掴んでいた。
突然空気が変わった事に七宝と司波妹だけでなく、中条達も戸惑いの表情になっている。
「司波さんがチョッとご乱心だったから、正気に戻そうとしただけだ」
「深雪の頭を叩こうとするのは過剰な暴力行為だぞ」
「暴力とは人聞きが悪いな。ほんの軽いチョップをする程度だっての」
「そのようなことをしなくても、声を掛けるだけでも充分な筈だと俺は思うんだが」
「お前が兄として妹を窘めようとしなかったから、俺がこうしてやらざるを得なかったんだよ」
俺と司波兄の会話により、周囲は段々と混乱し始めているが――
「なぁ、そろそろ放してくれないか? いくら愛しくて凄く可愛い大好きな妹が自分以外の男に触れて欲しくないからって、そんな握り潰すように掴まれたら俺も流石に痛いんだが」
「なっ……!」
さり気なく司波兄がシスコン男だと言った瞬間、困惑していた司波妹が途端に顔を赤らめた。
不穏な空気から一変して、先程まで険悪な雰囲気を醸し出していた七宝は完全に戸惑い気味になっている。
その後は光井が自己紹介で精一杯明るく話しかけた事もあって、何とかムードが和らぎ、入学式を行う段取りも短時間で終わる事となった。
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