再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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ダブルセブン編 入学式

 2096年4月8日

 

 

 

 入学式当日の朝。

 

 今日は入学式開会二時間前に一高へ来ている。こんな早い時間に登校したのは、勿論入学式の準備の為だ。最終打ち合わせの場となってる講堂の準備室には俺だけでなく、光井と啓も集まっている。

 

 その数秒後に司波兄妹がやって来た。光井が二人を見た途端に嬉しそうな表情で挨拶をするのはデフォルトだ。

 

「ところで司波、あの子は新入生だよな?」

 

 挨拶を終えて早々、俺は司波兄妹が連れて来たであろう少女を見ながら問う。

 

「ああ、そうだ。()(なみ)

 

「はい、達也兄さま」

 

 水波と呼ばれた少女は、司波に呼ばれ小走りに駆け寄ってくる。その応えに聞いていた啓と光井も少し驚きの表情を見せた。

 

「兄さま? お前、司波深雪さん以外にも妹がいたのか?」

 

「いや、従妹(いとこ)だ」

 

 従妹だと? 確か俺が調べた時、表向きとは言えそんな情報は無かった筈だ。なのにコイツが平然と嘘を吐くとなれば……四葉家の関係者と見て間違いないだろう。

 

 俺が内心訝っている中、一緒に聞いていた啓と光井は疑う様子を微塵も見せていない。

 

「水波、兵藤に自己紹介を」

 

「はじめまして、兵藤先輩。(さくら)()水波です。いつも達也兄さまと深雪姉さまがお世話になっています」

 

 丁寧過ぎない言葉遣いを心掛けてる少女――桜井の挨拶に、俺は違和感を抱きつつも対応する事にした。

 

「よろしくな、桜井さん」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 対応しながらも司波の方へチラッと視線を向けるも、無言のまま首を軽く横に振っていた。これは『余計な詮索をするな』と言う意味で、間違いなく四葉家の関係者だと確信する。

 

 以前に河川敷へ呼び出し、そこで司波をコテンパンにした際、九重八雲から司波兄妹が四葉家に連なる者だと教えてくれた。そんな事実を妹の司波深雪の耳に入れば確実に荒れるのだが、今のところはまだ知らない筈だ。仮にもし知ってれば、今頃は俺に対して友好的に話しかける事はしない。

 

 すると、今度は中条、千代田、そして新入生総代の七宝が入って来た。

 

「おはようございます、五十里先輩、兵藤先輩、司波先輩」

 

 少々遅れたことに申し訳なさそうな表情をしてる中条とは別に、彼女の後ろから進み出た七宝が、男子の俺達に声を掛ける。

 

「おはよう、七宝君」

 

 代表する啓の返答に黙礼し、七宝は次に女子の司波妹と光井の方へと向き直った。

 

「司波先輩、光井先輩、おはようございます。本日はよろしくお願いします」

 

 一昨日と打って変わったように、七宝の態度は殊勝なものだった。

 

 普通なら考えを改めたんじゃないかと捉えてもおかしくないが――

 

「おはようございます、七宝君。今日は頑張ってください」

 

 兄を侮辱した態度に対する謝罪がない限り、司波妹はそう簡単に許すつもりはないようだ。一昨日とは違って可憐な笑みと優しい口調で対応してるのとは裏腹に、一切隙を見せない社交性と言う名の仮面を付けてるのが丸分かりだった。七宝も単に態度を変えただけで、謝罪をする姿勢を一切見せようとしない。

 

 ったく。この前は俺がどうにかムードを変えようと、司波兄と小芝居したってのに再現するなよ……。

 

 入学式の準備がある為――

 

「はいはい、全員揃ったから式次第の確認をしましょうか」

 

 ここは何事も無かったかのように話を進めようと、一先ずは準備を優先することにした。

 

「確かにそうだな」

 

「そうね、時間を無駄にすることもないわ」

 

 俺の台詞に賛同しようと、司波兄だけでなく千代田も同意するように頷いていた。

 

 リハーサル前の打ち合わせを進める前に――

 

「桜井さん、悪いけど君は退室してくれ」

 

「はい、分かりました」

 

 部外者である桜井を準備室から出るように促すと、彼女は文句を言う事なく了承する。

 

「待て、水波は俺が連れて来たんだ。別に何も追い出す必要は無いだろう」

 

「そうですよ、兵藤くん。入学式が始まるまでの時間はもう少し先なのですから」

 

 退室を促す俺を見た司波兄妹が不服を申し立ててきた。

 

 確かに司波妹の言う通り、入学式は二時間後もある為、一高に来たばかりの従妹が目が届かない所で時間を持て余させるのは良くないだろう。

 

「二人の身内であっても、部外者であることに変わりはない。と言うより、入学式の準備があると分かっていながら何故その子を連れてきたんだ?」

 

「「……………」」

 

 俺の問いに司波兄妹は途端に無言となった。

 

 いや、答える事が出来ないと言った方が正しいか。

 

 二人の様子に光井達も疑問の表情を浮かべるも――

 

「達也兄さま、深雪姉さま、兵藤先輩の仰ることは至極当然です。わたしは適当な場所で時間を潰しますので、どうかお気になさらず」

 

 桜井は余計な疑いを持たれたくなかったのか、すぐに準備室から出て行くのであった。

 

(オーフィス、彼女の後を追ってくれ)

 

 ――分かった。

 

 俺の傍に居る(透明化中の)オーフィスに、桜井を尾行するよう頼んだ。

 

 怪しいからと言う目的でなく、後でチョッとしたお詫びをする為に。

 

 

 

 

 

 

 司波兄妹から少々恨めしい目で見られつつも、式直前のリハーサルは終了間際となった。

 

 このまま問題無く終わりそうだと予測した俺は、一旦講堂から出る。まだリハーサル中と言っても、俺のやる事はもう終わっているし、中条にもちゃんと言ってあるから大丈夫だ。

 

(彼女は何処だ?)

 

 ――こっち。

 

 尾行を頼んだオーフィスに桜井がいる場所へ案内してもらってると、講堂から少し離れた中庭のベンチに座っていた。携帯端末で何かを見ることを一切せず、ただジッと座して待つと言う姿勢だ。

 

 まさか、あのままずっと待ち続けていたのだろうか。いや、いくらなんでもそれは流石に……。

 

 ――あの人間、我が見てる間もずっとあの姿勢だった。

 

(一時間以上もあのままだったのか!?)

 

 ある意味凄いと俺は思った。

 

 瞑想による修行ならまだしも、ただ何もせず待つなんて、今の現代社会の人間には退屈極まりない行為だ。去年の入学式前、俺や司波でさえ時間を潰そうと携帯端末でサイトを見ていたのに。

 

 あの状態でずっと待たせていたことを考えると、何だか罪悪感をおぼえてしまいそうになる。強制的に退室させて以降少し気になってたから、様子を見に来て正解だった。

 

 そう考えながら、俺はベンチに座って待ち続けている桜井の方へと向かう。

 

「ここにいたのか」

 

 あたかも捜していたかのように言う俺に反応した桜井は、瞑目していた双眸を開こうとする。

 

「兵藤先輩、何故此処へ? まだ入学式のリハーサル中では?」

 

「もう終わり間際だったからチョッと抜け出してな。君が何処で時間を潰しているのかが気になって捜してたんだよ」

 

 他にも、司波兄妹の目線が少しばかり鬱陶しくなってきたと言う理由もあった。そんな事を口にすれば、恐らくこの子の事だから自分のことのように謝ると思うので言わないが。

 

 取り敢えず俺は、手に持っていた飲み物とお菓子を渡そうとする。

 

「はい、どうぞ」

 

「え? いや、わたしにそのようなものは……!」

 

 予想通りと言うべきか、受け取るのを拒否しようとする桜井。

 

「いいのいいの。俺が君を追い出したからな。せめてこれ位の詫びはさせてくれ。そうしないと司波達に何を言われるか分からないからな」

 

「!」

 

 俺が司波兄妹の名前を出した途端、桜井は途端に何かを考えるような表情になる。

 

「……分かりました。では、不躾ながら頂戴します」

 

 数秒後、桜井は答えを導き出したように飲み物とお菓子を受け取ってくれた。

 

 本当なら彼女ともう少し話してみたいが、余り長居してると司波達に小言を言われるかもしれないから、此処までにするとしよう。

 

 それに今の時間帯から、桜井以外の新入生達の姿が見え始めている。

 

「じゃあ俺は戻る。講堂はもう開いてる筈だから、司波達に顔を見せに行くと良いよ」

 

「は、はい。ありがとうございました、兵藤先輩」

 

 ペコリと頭を下げて感謝の言葉を述べる彼女を見た俺は、再び講堂へ戻ろうとする。

 

(手伝ってくれてありがとうな、オーフィス)

 

 ――問題無い。だけどリューセー、後で……。

 

(はいはい。お礼にご飯作るよ)

 

 ――楽しみ。

 

 オーフィスは神霊となっている為に本来食事は必要無いのだが、実体化すれば食べる事が可能だった。それに加えて、前世(むかし)の頃から食事に関しては結構食い意地が張っている。特に俺が料理を作ると知った時は、通常よりもたくさん食べて、イッセーやリアス達を困惑させた程だ。あの小さな体にどうやって収まってるのかと疑問を抱いていた位に。

 

 入学式が終わった後の予定を考えながら講堂に戻ろうと足を運んでる最中――

 

 ――リューセー、あそこに見覚えのある人間が。

 

 すると、オーフィスは指をさしながら言ってきた。

 

 見覚えのある人間とは誰の事かと思いながら、彼女が指す方法へ視線を向けると……確かに見覚えがある人物がいた。それも複数で。

 

 俺とオーフィスが見ている方向には、司波だけでなく、レディススーツを纏った真由美の他、一高の制服を纏った真由美の妹達――香澄と泉美――がいる。

 

 真由美があのような格好で一高にいるのは、恐らく一高に入学する双子の保護者代わりで来たのだろう。

 

 双子の妹達が姉に怒られてるのは、傍観者となっている司波に何かやらかしたのだと確信する。前に俺も七草邸に来た際、香澄の膝蹴りと言う名の歓迎をされたのだから。

 

 そして俺が呆れるように見ている中、真由美達と話を終えたであろう司波は、向こうの返事を待たずその場を後にした。

 

 少しばかり確認したい事がある俺は、移動している司波の方へと向かい始める。

 

「入学式開始前から面倒な双子と遭遇したな、司波」

 

「兵藤……」

 

 俺が声を掛けると、司波は俺を見て早々に不機嫌そうな表情になっていく。

 

「中条会長から席を外してると聞いたが、今まで何処へ行っていた? 深雪が少しばかりボヤいていたぞ」

 

「お前達の従妹を捜してた」

 

「水波に会ったのか?」

 

 理由を言った途端、意外そうに少々目を見開く司波。

 

「ああ。追い出して待たせたお詫びをしようと、チョッとしたお茶菓子を渡したんだよ」

 

「……後で俺の方から深雪に話しておく」

 

 俺の言った事が嘘じゃないと判断したのか、司波は今も不機嫌であろう妹のフォローをすると約束した。

 

 このまま桜井の素性を尋ねたいところだが、生憎俺が司波に声を掛けた目的は別にある。

 

「それよりも、あの双子、香澄の方はまた何かやらかしたようだな」

 

「その言い方だと、兵藤は七草の双子と会った事があるのか?」

 

「ああ、前に聞いただろ。俺が七草家に呼び出されて大騒ぎになったアレを。その時に変な誤解をした香澄が魔法使って、俺に飛び膝蹴りをかましてきたんだ」

 

「成程な。七草先輩が『またあんなことをして』と怒鳴っていたのは、そう言う意味だったのか」

 

 七草家に招かれた状況の一部を教えると、司波は無表情でありながらも呆れた様子が見受けられた。それは当然、飛び膝蹴りをやった香澄に対して、な。

 

 どうやらコイツも先ほど俺と同じ事をされたようだ。その後に真由美が拳骨をした後に説教をしたとか。

 

 相変わらずと言うべきか、香澄は本当に学習能力がない、もしくは懲りると言う単語が無いようだ。若さゆえの行動とは言っても、いい加減に自重して欲しい。

 

「っておい、香澄がまたやらかしたって事は、学校に配置してるセンサーが記録してるんじゃ……」

 

 思い出したように言う俺は少々焦り気味となった。

 

 あの時は七草邸だったから問題無かったが、学校となれば話は別だ。校内には随所に魔法の行使を監視するセンサーが配置されてるから、魔法の不正使用はその観測装置に記録されてしまう。

 

「それを抹消しようと、今からピクシーに頼むつもりだ」

 

「ああ、成程」

 

 道理で司波が人目の少ない所へ向かおうとしていた訳だ。

 

 端から聞けば、3Hのピクシーに何故そのような事をさせるのかと疑問を抱かれるだろう。

 

 前にも言ったが、アレにはパラサイトが憑依して司波に従属している。それを司波が買い取って生徒会室に引き取らせた真の目的は、給仕ではなく、校内の監視システムに対するハッキングをさせる為だった。ピクシーにそのテクニックを教えた方法までは知らないが、恐らくソレに詳しい専門家から伝授されたのだろう。

 

 普通に考えて犯罪行為であり、本来なら俺は副会長として阻止しなければならない。だが敢えて黙認しているのには理由があった。

 

 真由美が在籍していた頃、彼女のお陰で色々と融通が利いた。どうやって手に入れたのかは知らないが、本来生徒会長に許されるレベルを超えて校内の監視システムに介入するコードを保有していたのだ。流石に後任の生徒会長に引き継がれたりしないのだが……実はそのコードを俺が保有していたりする。これは中条は勿論のこと、司波ですら知らない。

 

 副会長の俺が保有するなんて普通にあり得ないのだが、俺も司波と同様に色々目立っている身である為、真由美から万が一の場合が起きた時に備えて託されたのだ。俺としてはこんな物騒な物を使いたくないが、以前一高に集結したパラサイトのような事件に遭遇しないとは限らない為、非常手段として隠し持っておくことにした。もし司波の奴がコードを持ってる事を知れば絶対文句を言うだろうが、その時は適当に誤魔化しておく。

 

「取り敢えずそっちは司波に任せたよ」

 

 これ以上引き留める理由が無くなった俺は、講堂へ戻る事にした。




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