2095年4月23日
公開討論会当日。
全校生徒の半数が講堂に集まった。
俺も一応討論会を見ていたが、誰にも気付かれないよう講堂から出ようとする。これはもう既に討論会でなく、真由美の演説会となりつつあったからだ。
最初は同盟連中が勢いよく声高に叫んで演説してたが、真由美が余裕で躱すような感じで冷静に返していた。それによって段々と形勢が傾き、同盟連中が殆ど敗北を悟っていくかのように顔を俯かせつつある。
思った通りの結果になりそうだと思った俺は、これ以上見るまでもないと思って退堂すると言う訳である。明日は真由美達にスイーツをご馳走するのは確定だ。
けれど、ハッキリ言ってそんな事は如何でもよかった。今は俺にとって一番気掛かりなのは壬生で、肝心の彼女が講堂にいなかったのだ。てっきり演説側に加わってると思っていたんだが、それをしているのは見知らぬ三年生の四名しかいない。
因みに俺と一緒に講堂へ来ていた修哉と紫苑は、彼女がいない事を不審に思って既に退堂している。そうしたのは勿論、壬生を探す為だ。俺はもしかしたら途中で現れるかもしれないと思い、もし出てきたら連絡すると言って講堂に残っていた。
二人がいなくなった後、俺は討論会の状況を見守りつつ壬生のオーラを探そうと講堂全体を探知したが見つからなかった。それどころか講堂に訪れた形跡が一切無い。
その為、俺は討論会よりも壬生が一体何処にいるのかが気掛かりだった。尤も、俺より修哉が一番気にしているんだが。
「リューセー!」
「ん?」
講堂を出てすぐに俺を呼ぶ声がして振り向くと、此方へ向かって走っている修哉と紫苑がいた。
俺の前で止まると、二人揃って息がかなり上がっている。二人ともかなり走り回っていたのか、見ただけで顔から汗が出ているのが分かった。
「はぁっ、はぁっ……! な、なぁ、紗耶香先輩は来てたか?」
開口一番に壬生の事を聞いてくる修哉だが、俺はすぐに返答した。
「いや、演説中に現れる気配は全然無かった。と言うより、講堂にすら来てない感じだったな」
「はっ……はっ……ど、どう言うこと? あの人、学校に訴えるんじゃなかったの? 討論会に来てないっておかしいわよ……!」
修哉と同じく息を切らしながらも紫苑が訝りながら思った事を口にした。
それは俺も同感だ。真由美から打ち合わせをした時には討論会に出ると聞いたのに、当日に会場すら来てないのは明らかにおかしい。
矛盾した行動をしている壬生に、何かあると疑念を抱かざるを得ない。主に嫌な予感の方で。
「なぁ、二人は今まで何処を探していたんだ?」
「お、俺は、教室と部室で……はっ、はっ……」
「はぁっ……はぁっ……。私は、カフェテリアと体育館よ……」
壬生がいると思われる場所を探してもいなかったか。となると、それ以外の場所を探す必要がありそうだ。
ここからは俺も探すつもりだが、一旦二人を休ませよう。見ての通り修哉と紫苑は全速力であちこち探し走り回っていた為に汗だくとなってるから。
本当なら俺が持ってるあの
「よし、今度は俺が探すから交代しよう。二人は休憩がてら、講堂に壬生先輩が出てくるか確かめてくれ。もしかしたら土壇場で現れるかもしれないし」
「いや、講堂にいないなら他を当たった方がいいだろ」
「万が一だ。それに討論会はまだ終わっていな――」
俺が言ってる最中、爆発音が鳴り響いた。
突然の不意打ちに俺は勿論、修哉と紫苑も驚愕しながら音がした方向へ振り向く。視線の先には実技棟があり、そこから爆発による煙が舞い上がっていた。
「っ!?」
「な、なんなのよアレ……!?」
言葉を失っている修哉と、訳が分からないと叫ぶ紫苑。どちらも正しい反応と言える。
さっきの爆発によって、学校がいきなり戦場と化したから、二人が混乱するのは無理もない。
だが、此方の反応を余所に怪しげな連中が此方へ向かっている。見ただけで学校の生徒でなく、ガスマスクを被ってマシンガンを持った、如何にもテロリストらしき集団だ。
奴等は講堂の出入り口に佇んでいる俺達を見た瞬間、持っているマシンガンの銃口を俺達に向けようとする。
「ッ! 紫苑!」
「きゃっ!」
マシンガンが放たれる寸前、修哉は隣にいる紫苑を守ろうと覆い被さる様に押し倒した。
良い判断だ。そうしてくれるお陰で、コッチは対処しやすくなったよ。
「死ねぇ!」
修哉の英断に感謝してると、テロリスト共が一斉にマシンガンを撃って来た。
俺は倒れている二人の前に立ち、常人では見えない速さで、撃ち放たれた弾丸を一発残らず両手で全て防ぎ掴み取っている。
「え? あ、あれ……?」
「お、俺達、撃ったよな……?」
「あのガキ共、何で無傷なんだ……?」
一通り撃ったテロリスト共だったが、目の前の光景を見てポカンとなっていた。
俺が種明かしをするように無言で両手を前に出し、開いた瞬間に先程まで撃たれた弾丸がパラパラと落ちていく。
『!?』
弾丸を全て防がれたと漸く分かったテロリスト共は信じられないと言わんばかりに狼狽していた。
魔法師とは言え、魔法を一切使わずに両手だけで全て防いだなんて思いもしないだろう。
だけど、そんなの俺には知った事じゃない。今度はこっちが反撃しようと超スピードを使い、一瞬で奴等の間合いに入り込む。
「ぶごっ!」
真ん中にいる奴の目の前で現れた直後、俺は速攻でガスマスク越しで顔面パンチをした。即死しないよう加減しても、マスクの口の部分に罅が入りながら、そのまま軽く吹っ飛んで倒れ気絶する。
「な……!?」
「何で……!」
予想外の反撃を受けた事に、残った連中が困惑する一方だ。
奴等の反応に一切気にしない俺は次に、開いてる両手で両隣にいるテロリスト二人の腹部に向ける。
直後――
「はぁっ!」
「「がはっ!」」
気合を入れながら遠当てを使い、両手から発生した見えない衝撃波が襲い掛かった。
腹部に命中したテロリスト二人はくの字となって軽く吹っ飛び、仰向けに倒れる。
「あ、ぐぅ……!」
「お、あぁぁ……!」
少々加減し過ぎた所為か、連中は衝撃波を受けた激痛に悶え苦しんでいた。同時に肋骨は何本か折れて内臓も負傷してるから、暫く立つ事は出来ないだろう。
人を平然と殺そうとする奴に容赦などしない。コイツ等だってやられる覚悟があって来た筈だ。
俺の攻撃を受けた際、テロリスト共は持っていたマシンガンを手放し地面に落としていた。それを見た俺は、不愉快と言わんばかりに全て踏み潰す。罅が入って完全に折れ曲がり、使用不可となったのは言うまでもない。
それとは別に、講堂の中も何やら大騒ぎとなっていた。俺が敵を一通り片付けた直後、講堂の扉が開いて誰かが飛び出してくる。
「これは……!」
「……兵藤、そこで倒れている奴等はお前がやったのか?」
出てきたのは司波兄妹だ。妹は倒れている修哉と紫苑を見て目を見開いており、司波は俺に状況確認をしてきた。
「ああ、友人を守る為に迎撃した。司波の妹、その二人は大丈夫か?」
「え? ……あ、はい。お二人とも、今は気を失っています。お怪我もありません」
「そうか」
近くにいた司波妹が修哉と紫苑の状態を確認し、命に別状はなく気絶してると答えた。
実戦経験のない者がいきなり死の恐怖を感じれば、極度の緊張状態に陥ってしまう。益してや二人は疲弊していたので、それらが重なって気を失うのは当然だ。
無事で良かったと安堵した俺は、すぐに気絶している二人に近付きながら司波に尋ねる。
「で、この襲撃は一体何なんだ? 俺が倒した連中の装備から見て、何処かの犯罪組織の一員みたいに思えるが」
「悪いが今は説明してる暇は無い。俺達はこれから実技棟へ向かう」
「その言い方だと、お前は今回の襲撃者が何者かを知ってそうだな。妹の方もそれを分かってる上で付いていく、と言ったところか?」
「「…………」」
俺の推測に司波兄妹は突如無言となった。特に兄の方は何やら凄く警戒するように俺を見ている。
「ま、行くならどうぞご自由に。風紀委員や生徒会でない俺が、お二人さんを止める権利なんて無いからな」
そう言った俺は紫苑に覆い被さってる修哉を離した後、両手でそれぞれ二人を持ち上げて担いだ。
難なく担いでいる俺に司波兄妹は少々目を見開くも、俺は大して気にせず移動を始めようとする。
「待て兵藤、何処へ行くつもりだ?」
「見れば分かるだろ。気絶してる二人を安全な場所へ運ぶんだ」
「でしたら、講堂にいる生徒会や風紀委員の誘導に従ったほうが良いのでは?」
「そうしたいけど、てんやわんやと化してる講堂が安全とは言い難くてね。と言う訳で、失礼」
司波兄妹の質問に答えた俺は、テロリストがいない方角へと向かっていく。
「あっ、お一人で動くのは危険で――」
「放っておけ、深雪。アイツが自らああしているんだ」
俺を引き留めようとする妹を司波が制止し、向こうも本来の目的である実技棟へ向かい始めた。
ある程度移動し、周囲を見ながら俺は誰もいない場所へと隠れる。
「………よし、誰もいないな」
オーラを確認しようと半径50メートルぐらいで探知してみたが、自分の周囲に誰もいないのを確認した。司波達が向かっている実技棟周辺に数多くのオーラが集まっている。
それらを全て確認した俺は、気絶してる修哉と紫苑を保健室へ連れて行く為に転移術を発動させた直後、俺達三人は一瞬で消えた。
「っ!」
「お兄様、如何なさいました?」
「……いや、何でもない」
感想お待ちしています。