再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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ダブルセブン編 七草の双子

 リハーサルと同じく、本番の入学式はアクシデント、並びに七宝の答辞も問題無く終了した。去年に司波妹みたいな会場全ての目を釘付けにした訳ではなく、至って無難な内容だったと補足しておく。

 

 その答辞を行った七宝は、入学式が終わった後に中条と五十里によって生徒会室へ招かれている。恒例の生徒会勧誘を行う為に。

 

 新入生総代、並びに主席入学者に生徒会の話をするのは、入学式が終わってからという不文律がある。入学式が終わるまでは生徒ではないと言う理由で。それを俺が初めて知った時は形式主義的過ぎると思うも、それが規則になってるなら仕方ないと他人事のように聞いていた。勧誘されても別に強制じゃないし、本人が断ればそれまでに過ぎないから。

 

 断言は出来ないが、七宝は生徒会入りを断るかもしれない。そう思う理由としては、彼が元二科生である俺を忌々しいと思ってる他、司波兄妹に対して妙な敵愾心を抱いているのだ。何故なのかは流石にそこまで分からないが。加えて、俺としては生徒会に入って欲しくない。ああ言うヤツは絶対反発して問題を起こすのがお決まりになっている。その直後に司波妹の全身からブリザードを放出し、周囲に迷惑を掛ける光景が目に浮かび上がってしまうほどに。

 

 勧誘交渉してる中条と啓に申し訳ないと思いつつも、俺は七宝が生徒会に入らないよう願いながら作業をしていた。

 

「来賓の出欠チェックと祝辞の整理は俺がやるから、光井は業者との撮影データの受け渡しを頼む」

 

「りょ、了解!」

 

 素早く事務作業を行いながら指示を出す俺に、光井は言われた通りの作業を集中して行っていた。

 

 此方とは別に、司波兄は式の手伝いに駆り出された二年生の指揮監督をしている。二科生だった去年はともかく、魔工科のエンブレムを付けてる事もあってか、誰一人アイツの指図を受ける事に不満の声は上がっていない。

 

 そして、もう一人は俺達と違って別の意味で大変だった。

 

(あのスケベ親父、いつまで喋ってるんだよ……)

 

 司波妹は空騒ぎする大人たちに囲まれて、ひたすら愛想笑いを浮かべながら応対していた。

 

 俺がスケベ親父と蔑称した壮年の男性は政治家であり、東京を地盤とする与党所属の国会議員。聞いた話によると、あの議員は魔法師に対して好意的であり、魔法大学の学外監事を務めた事があるとか。反魔法師団体の勢力が徐々に増そうとしてる中、ああ言うのは扱いを疎かに出来ない。

 

 けれど、生徒の俺からすれば非常に迷惑だった。いくら有名な議員だからって、ああやって作業員を縛り付けるように無駄話を付き合わせるのは、単なる邪魔者に過ぎない。

 

 それは当然対応してる司波妹だけでなく、俺と同じく様子を伺ってる教職員達も同様に思ってるだろう。しかし相手が相手なだけあって、下手に手を出す事が出来ないのが現状であった。

 

 いつもなら司波兄が割って入ってもおかしくないのだが、司波妹が議員に絡まれてるのが見えない……訳が無かった。視界に入らなくても、ご自慢の精霊の眼(エレメンタル・サイト)で今も視ている筈。なのに手を出さないのは、作業で忙しくて向かえないか、相手が有名な議員で下手に手を出す事が出来ないと敢えて静観しているのどちらかになる。あのシスコン男の性格を考えれば間違いなく後者だが、議員の方から度が過ぎる行為をすれば即座に作業放棄し、すぐ助けに向かおうとするだろう。

 

(おっ、とうとう我慢出来なくなったか)

 

 一通りの指揮を終えたのか、司波は議員に絡まれている妹の方へと向かおうとする。

 

 いくらアイツでも議員相手に手荒な真似はしないと思いたいが、以前の九校戦で検査員に暴行を働く行為を働いた前科がある。あの時は俺が咄嗟に阻止したから良かったものの、あと少し遅かったらとんでもない事になっていただろう。

 

 あの時の記憶を思い出した事もあってか、俺は少しばかり不安な気持ちになっていく。妹を最優先してしまう司波兄の行動原理を考えると猶更に。

 

 万が一の場合を考えて、やはり俺も行くとしよう。自分がやってる作業も丁度終わって、至急手伝って欲しいと作業が忙しいことを伝えれば、議員も無理に引き留めようとはしない筈だ。

 

「悪い光井、すぐに戻る」

 

「え!? ちょっ、兵藤君!?」

 

 俺が抜けようとするのが予想外だったように、光井は引き留めようとするも一足遅かった。

 

 司波兄の後を追いかける感じで作業場を後にする最中、意外な展開になっていた。七草の双子を連れてる真由美を見た議員が、突如顔を強張らせ、さっきまでと違って軽く話した後、まるで逃げるような感じでそそくさと立ち去ったのだ。

 

(どうやら俺の取り越し苦労だったな)

 

 俺と同じく見ていた筈の司波からも、もう助ける必要が無くなったかのように移動してる足が段々遅くなっているのも確認する。

 

 まぁそれでも光井に席を外すと言った以上は真由美に会っておくとしよう。ついでにあの双子との再会も兼ねて、な。

 

 俺も司波と同じくゆっくり足を運んでいる中、司波は妹と七草三姉妹、そしていつの間にか話に加わってる桜井と合流していた。

 

 あと少しで合流しようとしてる直前――

 

「絶対反対!!」

 

「何が反対なんだ?」

 

「お姉ちゃんが司波先輩のお嫁さんになることだよ! ただでさえ兵藤隆誠とか言うお姉ちゃんに近付く悪い虫が既にいるのに!」

 

 背後にいる俺が声を掛けると、双子の一人――七草香澄は全く気付かずに答えてくれた。

 

「っ! か、香澄ちゃん、後ろ、後ろ……!」

 

「はぁ? 後ろが何………あ」

 

「ほほ~う、君は俺をそう言う風に見ているのか」

 

 顔を青褪めているもう一人の双子――七草泉美からの指摘に香澄が煩わしそうに振り向いた直後、一気に顔を青褪めた。双子達の反応に、事情を知らない司波兄妹と桜井は不可解な表情になっている。

 

「この前あれだけお姉さんに怒られても、全く反省してないようだな」

 

「あ、いや、兵藤先輩、さっきのは言葉の綾で……!」

 

「今更取り繕っても遅い、よ!」

 

「ふぎゃっ!」

 

 必死に誤魔化そうとしている香澄の言葉に訊く耳持たずの俺は、今までのお礼も兼ねて彼女の額にデコピンをかます事にした。

 

 必要最低限の威力にまで加減したとは言え、向こうからすれば強めだったのか、香澄は余りの痛さに額を両手で覆いながらしゃがんでしまう。もし本気でやろうとすれば……それは言うまでもないだろう。

 

「~~~~~!」

 

「か、香澄ちゃん、大丈夫?」

 

 痛みに悶えてる香澄の身を案じる泉美が恐る恐ると声を掛けているのとは余所に、俺は真由美の方へと視線を向ける。

 

「お久しぶりです、真由美さん。それと申し訳ありませんでした。大事な妹に手を上げてしまいまして」

 

「……気にしないで。寧ろ私の代わりにやってくれて助かりました」

 

 妹が全く反省してないと言う失態を晒した事に一切反論出来ないのか、真由美は逆に感謝の言葉を述べていた。

 

 その直後――

 

「リューセーくんともゆっくり話したいところだけど、今は忙しそうだから、私たちはこれで失礼するわ。――二人とも、さっさと帰るわよ!」

 

「まっ、待ってお姉ちゃん、まだダメージが……」

 

「お姉さま、痛いです! 何で私にまで~」

 

 俺がいる事で居た堪れない心境だったのか、左右の手で双子の襟首を掴み、真由美は逃げるように去っていくのであった。

 

「まるで嵐のようだったな」

 

「それを簡単に止めた兵藤もある意味凄いが」

 

 思ったままの事を口にする俺に、先程まで無言だった司波兄がそう突っ込んできた。

 

「さて、残りの後片付けをさっさと終わらせるか」

 

「そうだな」

 

「そうですね」

 

 さっきまでのやり取りは無かったことにしようとする俺の発言に、司波兄妹は同意するように頷く。

 

 すると、司波妹の後ろに控えていた桜井が俺に声を掛けようとする。

 

「兵藤先輩」

 

「ん?」

 

「リハーサルでお忙しい中、頂いたお茶菓子は美味しく頂きました。ありがとうございます」

 

 感謝の言葉を述べる桜井に、俺は思わず苦笑してしまう。単なる詫びでやっただけだと言うのに。

 

「あら兵藤くん、あの時急にいなくなったかと思えば、水波ちゃんにそのようなことをしていたんですね」

 

 まるで今知ったばかりのような言い方をする司波妹だが、その実、少しばかり楽しそうな表情をしていた。

 

 この反応から察して、司波兄から聞いたのだろう。俺が桜井を追い出した後、お詫びをする為にお茶菓子を渡していた事を。

 

 

 

 

 

 

「お疲れ。今日は俺の奢りだ」

 

「別にそんな事しなくても良いのに」

 

 行きつけとなってる喫茶店「AMAGI」――修哉の父親が経営してる店――で俺は寛いでいた。歓迎してくれる修哉は、いつも利用してる席に案内して早々コーヒーセットを用意してくれている。いつもならちゃんとお金は払うんだが、今日は朝から入学式の準備で忙しかった労いと言う事で奢ってくれるようだ。

 

 七草三姉妹と別れた後、後片付けの作業を終えて中条と合流した。しかし、まだやる事があるにも拘わらず、今日はもう帰って良いと中条から強く言われた為、仕方なく下校する事になった。因みに北山から一緒に喫茶店「アイネブリーゼ」に来ないかと誘われたが、別の喫茶店で友人達を待たせてると丁重に断らせてもらった。

 

「そう言えば、確か一高って新入生総代を生徒会に勧誘する慣例があるみたいだけど、どうなったの?」

 

 修哉と同じく雑談に加わっている紫苑が、ふと思い出したかのように言ってきた。

 

「ダメみたいだった」

 

 本当なら勧誘に断られた事に残念がるべきなんだが、俺としては寧ろ安心している。もし七宝が入れば、確実に生徒会で揉め事を起こすと予想してるから。それを流石に修哉達に教えられないので、敢えて俺が考えてる事は言わないでおく。

 

「えっ、生徒会勧誘って普通に断れるのか?」

 

 話を聞いていた修哉は意外そうに言ってきた。去年に司波妹が断る事無く生徒会に入ったから、必ず入らなければいけないモノだと思っていたのだろう。

 

「今年の主席入学者――七宝と言う奴は、部活を頑張りたいと言ったらしくてな。明確な理由があるなら、無理に入れさせる訳にはいかない」

 

「まぁ、それはそうね」

 

「確かに」

 

 生徒会は強制的に入れさせる決まりが無い事を教えると、紫苑と修哉は納得するように頷いていた。二人も部活メインで頑張ってるから、七宝が断った理由に共感しているようだ。

 

 だが、修哉は突然思い出したように訊ねてきた。

 

「けどさ、新入生が誰も生徒会に入らないって不味いんじゃないのか?」

 

「ああ。中条会長の事だから、今頃誰を入れようかと悩んでるだろうな」

 

 今も生徒会室に残ってるであろう生徒会長は、誰かに相談しない限り決めようとしない筈だ。その相談者が中条を後押しする為のアドバイスをする、と言う展開があれば好都合だが。

 

「主席がダメなら次席で良いんじゃないの?」

 

 新入生総代は主席入学者が行うから、成績順で考えるなら次席になるべきではないかと紫苑は考えてるようだ。

 

 確かにその考えは正しいし、俺も当然だと理解出来る。だが、今回はすぐに頷く事が出来なかった。

 

「そうなると三席もセットで来る事になるんだよなぁ」

 

「? 何でそうなるんだ?」

 

 俺の言ってる事が理解出来ないように、修哉は首を傾げながら訊いてきた。

 

 新入生の一人が生徒会に入るのに、三席も来る事に疑問を抱くのは無理もない。

 

「次席は七草泉美で、三席が七草香澄なんだよ」

 

「え? その二人ってまさか……」

 

「七草先輩の妹、なのか?」

 

「正解。聞いた話によると、その二人は『七草の双子』と呼ばれて数字付き(ナンバーズ)の間では有名らしい」

 

 中条は当然知っているから、次席と三席があの双子であれば、いっそのこと纏めて生徒会に入れようと考える筈だ。益してや二人は真由美の妹だから、猶更入れるべきだと。

 

「出来れば俺としては遠慮して欲しいな」

 

「そう言えば、以前リューセーが七草家に行った時、その双子に絡まれたんだっけ?」

 

「ああ。特に七草香澄の方は、未だに俺のことを真由美さんに近寄る悪い虫扱いしてるよ」

 

 あの時に声を掛けたのが俺だと気付かなかったとは言え、間違いなく本心で言ったに違いない。そう考えると、もしあの子が生徒会に入れば俺に何かしらの理由で突っかかって来る光景が目に浮かんでしまう。別にそうなったところで、大人しくさせればいいだけなのだが。

 

「まぁ、それだけお姉さんの事が大好きなんでしょうね」

 

「となると、目の敵にされてるリューセーからしたら、その双子の生徒会入りは好ましくないって事か」

 

「あくまで俺の個人的要望だが、な」

 

 向こうが七宝と違って生徒会に入る意思を見せるのであれば、断る理由なんか一切無い為、その時は出来る限り仲良くやっていくしかない。

 

 ――リューセー、約束のご飯……。

 

 友人達と談笑している最中、傍に控えてる(透明化中)のオーフィスが訴えるような感じでボソッと念話してきた。

 

 分かってるよオーフィス、今夜は母さん仕事でいないから、その時にお前の分も作るって。




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