再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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ダブルセブン編 新入部員勧誘

 西暦2096年4月10日

 

 

 

 新入生にとって入学三日目の昼休み。俺を含めた生徒会メンバーは生徒会室にいる。七宝が生徒会入りを断られた為、他の新入生を勧誘する為だった。

 

 この前予想した通り、中条が呼び出したのはあの双子――香澄と泉美。その二人は司波兄妹が勧誘する為の交渉をされている。尤も、主に対応しているのは司波妹で、彼女の後ろに控えてる司波兄は何やら現実逃避してるように黙っているだけだ。

 

 アイツがそうしたがるのは分からなくもない。何故なら、正面に向かい合ってる香澄が今にも吠え掛かりそうな目で睨んでいるのから。もし俺が対応するなら、間違いなく同じ事をしてるだろう。

 

 その香澄と違って、泉美の方は何故か見惚れるように、煩悩むき出し状態だった。百合な雰囲気ではないのだが、まるで女神のように神聖視してるような気がする。対応してる司波妹も当然気付いてる筈だが、敢えて何も触れようとはせず、鉄壁の愛想笑いを浮かべている。

 

 まぁ取り敢えず結果としては、双子が揃って生徒会に入る事はなかった。

 

 香澄は司波兄だけでなく、俺にも敵意を抱いてる事もあってか、生徒会入りの意思は無いようだ。

 

 泉美は何故か神聖視してる司波妹と一緒に生徒会で仕事が出来る事に歓喜し、生徒会に入る事を即答で了承している。

 

 因みに後で知ったのだが、生徒会入りを断った香澄は風紀委員に入ったようだ。何でも職員室推薦枠が余っていたらしく、カウンセラーの小野によって上手く乗せられたとか。

 

 

 

 

 

 

 西暦2096年4月13日

 

 

 

「部員を確保したい気持ちは分かるけど、何でこう毎回トラブルを起こすんだか。いい加減学習しろっての」

 

「それは俺じゃなく、トラブルを起こした生徒に言ってくれ」

 

 新入生の生徒会入りとは別に、新たな問題が起きていた。前日から毎年お騒がせとなってる恒例行事――新入部員勧誘習慣に入った為に。中条が「今年はこのまま何事も無く終わりますように」と祈っていたが、既にその願いは儚くも夢と散っている。

 

 二日目も引き続き、俺と司波は部活連本部に待機していた。それは当然、勧誘活動のトラブルが発生した場合、即座に実力行使込みで対応する為だ。因みに去年は真由美と服部が務めていたらしい。小動物タイプの中条は流石に無理なので、今年は副会長の俺と書記の司波が務める事となった。理由は当然、どちらも荒事に対応出来る実力があるからだ。司波妹も同行したがっていたが、流石に副会長が二人とも空けてはバランスを欠くので、彼女は(強制的に)待機させている。万が一に司波兄がトラブルで怪我した場合、魔法の暴走で周囲が氷漬けにされたら余計面倒になってしまう。今日も司波妹から抗議の視線を送られたが、俺は敢えて何も気にせず司波兄を連れている。

 

 今いる部屋には部活連の治安部隊である執行部のメンバーも控えている。去年までの執行部は必要に応じて各クラブから人を出すシステムだったが、服部が会頭になってからは常任性に変更され、規模も拡充された。先代会頭の十文字に比べればカリスマ性は劣るが、組織運営者としては彼を上回っていることを示している。

 

 だが俺から言わせれば、十文字のスタンスには問題があった。彼は上に立つ者の責任感があり過ぎただけでなく、何でも一人でこなせるほどに優秀だった。その所為で他の執行部員達は本来やるべき仕事を覚える事が出来ず、却って悪循環を招く結果となり、引き継がれた服部は相当苦労していたらしいと真由美から聞いた。

 

 それはそうと、昨日本部に詰めていた執行部メンバーは、二年生を含めて俺や司波と大して接点の無い生徒ばかりだった。あくまで顔と名前は知ってる、だけだ。だが今日は昨日と違い、顔見知り以上の人物がいる。

 

「修哉が今年執行部に入ったのは、桐原先輩からの推薦だったんですね」

 

「天城にはこう言う経験もさせた方が良いと思ってな。益してやお前の直弟子で、あの千葉に一本取れるほど強くなったんだから、是非とも執行部に入って欲しかったんだよ」

 

 その一人は剣術部の桐原。剣道部と合同練習をする事で、彼とは結構話す間柄になっていた。恋人である壬生とは別に、修哉も一緒に仲良く話している。その反面、姉弟のように接してる壬生と修哉の関係に桐原は時折チョッとばかり子供染みた嫉妬をするも、そこは俺がどうにか抑えている。

 

「それにしても今思えば不思議なもんだな。去年は下手すりゃ停学の事件を起こした俺が、今こうしてお前等と一緒にいるだけじゃなく、今年は騒ぎを取り締まる方だなんてよ」

 

「そうですね。こんなことを言っちゃいけませんが、もしあの出会いが無ければ、剣道部と剣術部は今もずっと険悪な関係だったと思いますよ」

 

「かもしれねえな」

 

 俺の不謹慎な発言に、桐原は一切否定せずに笑っている。

 

 だが、それを流石に聞き流す事が出来ない者達がいた。

 

「二人とも、それを此処で言うのは如何かと」

 

「兵藤、桐原。あまり余計なことは言わないでくれ……。お前達の発言で、変な勘違いをするヤツが出たら困る」

 

 桐原と俺の会話に少々呆れるように言う司波とは別に、服部は机に肘をつき指でこめかみを押さえ深い溜息を吐くと言う大袈裟な反応をしていた。

 

「別に平気だろ。誰も聞いてないんだから」

 

 言い忘れていたが、現在部活連本部室にいるのは俺、司波、桐原、服部の四人だけ。今日当番の執行部メンバーは後四人いるが、その内の二人は小体育館の使用割当時間が守られているかの監視に行っており、残りの二人は最初から校内を見て回っている。因みに執行部に入ってる修哉は今日当番じゃないので、剣道部の新入生勧誘をしている。

 

「桐原先輩、あちらを」

 

「おっと。この話題はもうこれまでだな」

 

 俺が三年生女子生徒の執行部員が小体育館から帰ってきたのを教えると、桐原は先程までの話を無かったかのように振舞い始める。

 

「剣道部の演武が始まったところですね」

 

 服部に小体育館の状況を報告してる女子生徒達とは別に、司波は話題を変えていた。

 

「確か聞いた話だと、実演の割当時間をオーバーするクラブが多いそうですね」

 

「ああ。拳法部もその一つだが、どうやらきっちり時間を守ったみたいだな」

 

 思い出すように言う俺に、桐原もそれに合わせて頷いていた。

 

「兵藤にも言えることだが、先輩は出ないんですか? 三月は剣道部で練習している時間の方が長かったようですが」

 

「よく知ってるな、司波」

 

「知らなかったんですか、桐原先輩。コイツ、時々練習を見に行ってましたよ」

 

「マジかよ、いつの間に……俺は全然気付かなかったぜ」

 

 司波は先月まで風紀委員だった為、見回り中に部活の練習風景を目撃するのは当然と言えよう。尤も、司波の場合は練習の邪魔にならないよう気遣っていたのかは分からないが、殆ど気配を消して移動していた。俺にはバレバレだったが、な。

 

 戦慄と警戒を含む眼差しを司波に向ける桐原だったが、今更無意味だと思い直したのか、すぐに肩の力を抜いていた。

 

「桐原先輩は再来週にある、剣道部の練習試合に参加しようと来ていたんだよ」

 

「尤も、兵藤は参加しねぇがな」

 

「何故参加しないんだ? お前のように強い部員は出るべきだろう」

 

 司波は別に探る為でなく、ただ純粋に訊いてるだけだった。

 

「俺は修哉を鍛える目的で剣道部に入っただけに過ぎないし、それに何より、いくら練習試合でも俺が出たら勝負にすらならないんだ」

 

「普通は嫌味だろと言いてえんだが、兵藤の場合、実際そうなっちまってな」

 

 桐原は以前に付き添いで剣道部の練習試合について軽く教えようとする。

 

 剣道の全国的な強豪校で知られている高校で、そこで一番強いエースと試合を開始して早々、あっと言う間に俺の勝利。向こうが練習試合と言う事もあって何度も挑んで敗北の土を踏み続けた結果、そのエースは精神的に打ちのめされてしまうどころか、学校を休むほど落ち込む破目になったと後で知った。それを聞いて大変気の毒に思った修哉や桐原とは別に、主将である壬生は俺を練習試合に参加させない方針を取る決断に至った訳である。

 

「兵藤、お前は手加減と言うモノが出来ないのか?」

 

 一通りの話を聞いた司波は、若干呆れるように言ってきたので――

 

「勿論したさ。(表向きの)実力の半分以下にまで抑えようと、手足に重り用のバンドまで着けたんだぞ。それ以上どうしろって言うんだよ」

 

「………………」

 

 チョッとばかりムッとした俺はちゃんとハンデを背負った事を教えると、途端に複雑そうな表情になって何も言い返せなくなった。

 

 どうせコイツの事だから、ハンデを付けても圧勝する俺に呆れてるか、もしくは相手が強豪校のエースと言っても俺相手では実力不足だった、みたいな事を考えているに違いない。

 

「まぁそう言う事情もあって、兵藤は今後練習試合に参加させない方が良いって、壬生が結論を下した訳なんだ」

 

 桐原も俺が重りを付けて圧勝したのを知っており、物凄く複雑で微妙な表情になっていたのを今でも憶えている。主に俺と試合した他校エースを気の毒そうに見ていたが、な。

 

 すると、会話に集中してる俺達とは余所に、服部のデスクにある通報のベルが鳴り響いた事で中断された。

 

 それを聞いた俺は随分と古風だなと思いながら振り向くと、服部が卓上の受話器を手に取っている。短い通話をした直後、彼は立ち上がって此方へ声を掛けた。

 

「司波、桐原、ロボ研のガレージでトラブルが発生した。急いで仲裁に行ってくれ」

 

「分かりました」

 

「了解」

 

 服部がそう指示を出した事で、司波と桐原は了承の返事をしながら立ち上がり、すぐに現場へ向かった。

 

「あの、服部会頭。生徒会の俺と司波は一緒に行動する筈なんですが……」

 

 自分でなく何故桐原と一緒に行かせたのかを疑問を抱く俺に、服部は此方へ視線を向けて言った。

 

「兵藤を仲裁に行かせると、ややこしい事になってしまうんだ」

 

「ややこしい?」

 

 服部の台詞を聞いて思わず鸚鵡返しをしてしまった。

 

 ややこしいと言う意味は勿論解っており、何故自分が行くとそうなるのかが理解出来ないのだ。

 

「昨日、取り押さえたクラブの部長達から苦情が来たんだ。お前の取り締まりが余りにも厳し過ぎて、新入生達を勧誘出来ないとな」

 

「はぁ? 何ですか、それは」

 

 余りにも心外だと俺はチョッとばかり憤慨してしまいそうになる。

 

 昨日は勧誘初日だった所為か、多くのクラブは優秀な新入生を確保しようと躍起になっていた。その所為で無理矢理入部させようと少々度が過ぎた行為をするクラブがいくつかあったので、それを聞いた俺は即座に割って入り強制的に阻止させてもらった。その時に取り押さえたクラブの部員達が大変見苦しい言い訳をしていたが、新入生達に迷惑を掛けた行為をしたのは変わりない為、一人残らず風紀委員会へ強制連行させた。

 

 その時に風紀委員の幹比古や北山から――

 

『リューセー、君は風紀委員会に入った方が良いんじゃないかと僕は思うよ』

 

『兵藤さんなら、一高全体を取り締まれる風紀委員長になれるかもしれないね』

 

 感謝されつつも妙な発言をしていたが、そこは敢えて軽く流しておいた。

 

「殆どのクラブが過剰な勧誘行為、並びに危険魔法使用の容疑で取り押さえたと言うのに、向こうは随分好き勝手に言いますね。新入生に迷惑を掛けたと言う自覚が無いんですか?」

 

「その点は俺も全く同感だ。けれど学校側からも、『生徒会副会長がこれ以上頑張り過ぎると、風紀委員会や部活連執行部の顔を潰してしまうかもしれないから、余程の事態が起きない限り出動しないで欲しい』と言う要請があったんだ」

 

「…………呆れてモノも言えませんね」

 

 クラブ側だけでなく、学校側からも苦情が来た事に俺は手を額に当てながら嘆息した。

 

 新入部員勧誘期間中はデモ用に必要だからとCADの携行が許可されてる所為で、会場は殆ど無法地帯になり果てている。それに加えて、密かに出回ってる入試成績リストの上位者や競技実績がある生徒の情報を入手してる事もあって、それを巡っての取り合いが激しく余計に拍車が掛かる始末。どちらも問題があり過ぎて学校側が禁止すべきなんだが、それをしないのには理由があった。各クラブの入部率を高めたい他、毎年行われる九校戦の成績を上げたいが為に、ある程度のルール破りを事実上黙認しているからだ。

 

 一応その対策として風紀委員や部活連の治安部隊である執行部が、違反行為をするクラブの生徒を取り押さえる方針になった。既に説明したが、今年は服部が会頭になった事で規模が拡充してるから、去年以上の警備体制となって、早急に対応出来る仕組みになっている。

 

 執行部の中に生徒会メンバーの俺と司波も警備班に加わったと言うのに、まさか此処で学校側から待ったを掛けられるなんて完全に予想外だ。いつもは生徒側の行事を殆ど放置するのに、こういう時に限って口出しをしてくるとは恐れ入る。勿論、それは悪い意味で。

 

 学校側が口出しした理由は既に察している。風紀委員会や執行部の顔を潰してしまうと言うのは尤な理由かもしれないが、それは体のいい言い訳だと俺は見抜いてる。恐らく向こうは俺がこれ以上やり過ぎたら、各クラブの入部率が低まってしまうどころか、下手すれば九校戦の成績も下がって悪循環を招くかもしれないと危惧したのだろう。彼等にとって九校戦の成績は一番大きく関わるモノだから、今回のクラブ勧誘にマイナスの要因を作っているのが俺だと分かった瞬間、普段動かさない重い腰を上げ、会頭の服部に苦情と言う名の指示を出したに違いない。

 

 服部が俺と同じく気付いてるかは分からないが、少なくとも、普段動かない学校側が突然口出しをしてきた事に疑問を抱いている筈。尤も生徒側の彼からすれば、向こうの事情なんて知った事ではないと思って切り捨てるだろう。来年に卒業する自分には全く関係無い話だから、と言う感じで。

 

「極端な言い方かもしれませんけど、学校側が生徒の努力を否定するなんて、教育者としてどうかと俺は思うんですが」

 

「………………」

 

 俺の苦言に思うところがあっても、服部は肯定や否定もせず、ただ目を逸らして無言になるのであった。




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