再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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ダブルセブン編 翻弄されるダブルセブン①

「ちょ、チョッと兵藤君、一体何を言ってるのよ!?」

 

 絶句していた一同だったが、数秒後に千代田が慌ただしく問い返してきた。服部は何も言わず、俺の提案に口を出そうとする気配を見せていない。

 

「話し合いどころか、罰を与えても何の解決にもなりません。でしたらいっその事、実力で(わか)らせるしかありません」

 

 俺の発言に十三束が驚きを露わにしており、千代田と服部は微妙な表情でありながらも理解しているようだ。因みに北山は、先程まで眠そうな顔を横に向いていたが、俺が戦うと聞いた瞬間に大変興味深そうな表情になって耳を傾けている。

 

「確かにそうかもしれないけど、実力で決めるなら、二人に試合させた方が良いんじゃないの?」

 

「お互いの言い分では相手が悪いのでしょう? しかし、それでは勝った方が正しいという事になります。俺はそうは思いませんので」

 

 先程まで相手側に非があると主張していた二人を考慮すれば、どちらかが敗北したら納得出来ないと声高に叫ぶ光景が容易に想像出来る。だから敢えて殆ど(・・)ルール無しの魔法戦闘をやらせれば、いくらこの二人でも流石に文句を言えなくなるだろう。

 

 俺の返答を聞いた千代田はチラッと香澄を見た後、途端に諦めたかのような表情になっていく。

 

「分かったわ。あたしはもう何も言わないけど、服部君は?」

 

 俺に裁定を任せた為、これ以上もう口出し出来ないと判断した千代田は服部にそう訊ねた。

 

「異存はない。兵藤、手続きを頼めるか」

 

「了解しました」

 

 服部の言葉に頷いた俺は、中条の承認書面を取る為に直通階段へ向かう。

 

「待って下さい!」

 

 すると、背後から七宝が俺に声を掛けてきた。

 

「兵藤先輩、それは本気で言ってるんですか? 俺と七草を相手にルール無しの魔法戦闘をやるなんて、いくら貴方でもそれは無謀としか思えませんが」

 

 七宝は暗にバカな真似は止めろと言っている。同時に自分達が相手では勝負にならない事も含めて。

 

 確かに端から聞けば、一般人の俺が、十師族と師補十八家の直系二人を相手にするのは無謀と言える行為だろう。

 

「七宝君に同意する訳じゃありませんが、いくら兵藤先輩が一科生だからって、私達を相手にするのは止めた方が良いかと」

 

「ハハハハハハッ!」

 

 香澄も七宝と似たような事を言った瞬間、堪えきれなくなった俺は爆笑してしまった。

 

 いきなりの笑い声に彼女だけでなく、七宝や十三束達もギョッとした反応を見せている。

 

「な、何が可笑しいんですか!?」

 

「クククク……ああ、悪い悪い。俺に気を遣ってたのは充分理解していたんだが、流石にそこまで言われると我慢出来なくなってな」

 

 本当は前世(むかし)の事を思い出してた所為で、俺は笑わずにいられなかった。

 

 嘗てオーフィスが『禍の団(カオス・ブリゲード)』のトップを務めていた頃、当時アスタロト家の次期当主――ディオドラがレーティングゲームでグレモリー眷族を罠に嵌めてる最中、旧魔王派の連中が冥界にいる各勢力のトップ達を襲撃していた。その時に見学と称して来ていたオーフィスが、蛇を与えられたディオドラはイッセー達に勝てないと教えた瞬間、俺とアザゼルは大爆笑していた。あの時とは全く異なる遣り取りだったが、自分には勝てないと言ってくる七宝と香澄の台詞で、不意にそれを思い出してしまった訳である。

 

 

 ――力が無限だった当時の我、イッセーのことを甘く見過ぎていた。あの時は本当に反省してる。

 

 

 俺の記憶を読み取ったのか、(透明化中で)傍に居るオーフィスが当時を思い出しながら反省の意を示していた。アレはもう過ぎた事だから、もう反省する必要なんか無いっての。

 

 自重してる彼女に気にしないよう念話しながら、俺は香澄と七宝に向かってこう言った。

 

「この際だから言っておこう。君達程度が本気でやったところで、俺に傷どころか、埃の一つすら付けられないよ」

 

「「んなっ!」」

 

 俺の台詞を聞いてカチンと来た香澄と七宝は、段々怒りの表情へと変わっていく。

 

 本当なら百家本流の千代田や十三束、百家支流の服部や森崎も反論してくるだろう。しかし、それとは全く異なって誰一人俺に口出しする様子を微塵も見せていない。

 

 彼等は俺のことを大変よく知っている為、何も言い返そうしなかった。去年の九校戦で相手を圧倒していたどころか、十師族直系の一条将輝を倒し、横浜事変で呂剛虎を単身撃破、そして留学生のアンジェリーナ・クドウ・シールズに余裕で全戦全勝したと言う功績があるから。

 

 自分が傲慢かつ無礼極まりない発言をした事は重々承知してるが、口で言っても分からない奴には諫めるだけでなく、直接身体に教えてやるしかない。前世(むかし)の頃、イッセーが奢り高ぶっていた当時のライザー・フェニックスを、レーティングゲームでコテンパンにしたように、な。

 

「そうだ香澄、良かったら生徒会室にいる泉美も参加させるといい」

 

「兵藤先輩、アンタ、ボクのことバカにしてるの!?」

 

 敵対視してる相手にここまで言われたのは初めてなのか、香澄は完全に素の口調で勢いよく俺に噛み付いてきた。

 

 先輩に振舞う態度でないと顔を顰めながら修哉が窘めようとするが、俺が口出ししないよう手で制止させている。

 

「バカになんかしてない。『七草の双子は二人揃ってこそ真価を発揮する』と聞いてるから、それで負けた時の言い訳にされたくないだけだ」

 

「っ~~~! もう(あったま)に来た! その思い上がりを絶対(ぜ~ったい)後悔させてやるんだからぁ!」

 

 自分の勝利は揺るぎないと遠回しに言い放つ俺に、完全にブチ切れて顔を真っ赤にした香澄は一足早く生徒会室へ向かった。

 

 その直後、今度は七宝が憤怒の表情で俺を睨みながら口を開く。

 

「兵藤先輩、先程までの発言は七草家どころか、我が七宝家にも対する侮辱です。一般人の貴方如きが、我々を敵に回したらどうなるか分かっているんですか!?」

 

「おや、実力の前に家柄で威圧か? 師補十八家の嫡男が聞いて呆れるな」

 

「ぐっ!」

 

 家名を使って脅迫行為を仕出かす七宝に指摘をした事で、途端に言い返せなくなっていた。

 

 俺の発言は確かに侮辱かもしれないが、香澄や七宝がやらかした問題に比べれば大したことは無い。この二人は外部に知られたら非常に不味い汚点を、自ら作ってしまったのだから。

 

 やり取りを見ていた千代田達は口には出さずとも、俺を怖い者知らずのように見ている。修哉だけは七宝の態度が目に余るように、凄く不快な表情になっているが。

 

「それと、いい加減理解(さと)れ」

 

「………………」

 

 声を若干低めにすると同時にチョッとばかり殺気を放つ俺に、七宝は勿論のこと、(修哉を除く)この場にいる全員が押し黙る事となった。

 

「お前達が小競り合いを起こしたのはこれで二度目だ。俺は知ってるぞ、新入部員勧誘期間中の時にやらかしていた事を」

 

 司波から聞いたが、その時は魔法を使おうとしていた直前に十三束が止めた事で未遂で終わったそうだ。それで一度目になる。

 

「そして今回起きた二度目は意図的に破った。ルールの重要性が、言葉による『教育』では分からないみたいだから、罰による『教訓』が必要だ、と俺は思っている。これを機に今一度学び直す機会を与えられたと思え」

 

 二十八家の直系なら尚更な、と付け加える。

 

 

 

 

 生徒会長の決裁印が押された許可証を手にした俺の背後には、司波兄妹と光井もいる。この三人が一緒なのは、香澄が突然生徒会室にやって来て、俺と戦う事を知ったからだ。その後に俺が来て中条に事情を説明した後、司波に審判役を依頼し、司波妹と光井も当然のように付いて来たという訳である。尤も、この女子二人は昼休みの件で俺と司波を一緒にさせたくないと言う理由で来たのだが、そこは敢えて触れない事にした。

 

 それはそうと、千代田に承認印を求めた際、チョッとばかり情けない光景を目にした。普段から事務仕事をしてないのか、何処にあるのかとあたふたしてる千代田に北山がフォローしていたのだ。恐らく前委員長の摩利もこんな感じだったんだろうなぁと思ったのは、俺の胸の内に秘めておくとする。

 

 手続きを終え、場所は第二演習室。この場にいるのは決闘をする俺、七宝、香澄、泉美。審判の司波と立会人の司波妹、鍵を預けられた光井。そして部活連から十三束と修哉、風紀委員から北山、合計十人いる。

 

 決闘は二回行う予定だ。一回目は俺VS香澄、泉美で、二回目は俺VS七宝。本当なら俺VS香澄、泉美、七宝と言う一対三の勝負形式にしたかったが、それをやると三人が確実に足の引っ張り合いをするだけでなく、負けた時に見苦しい言い訳をするのが目に見えてるから、敢えて別々でやる事にしたのだ。向こうとしても大変好都合だと言わんばかりに、反対する様子を一切見せていない。

 

「では先ず、香澄と泉美から」

 

 審判役の司波は縦長となってるフィールドの中央に立って改めてルールの説明をしようとする。

 

 一つ言い忘れていたが、制服のままである俺と違って、香澄と泉美は動きやすい実習服に着替えていた。厚手の生地で出来た長袖足首丈のツナギを。本当は袖無し上着を羽織るのだが、二人はソレを着ていない為、二人のほっそりした身体のラインを浮き立たせている。男子勢の俺、司波、修哉、七宝は全く気にしてないのだが、十三束だけ目のやり場に困ると言う初心な反応を見せているのは敢えて気にしないでおく。

 

「兵藤はルール無しの実戦形式で構わないと言ったが、異性間の関係上もある為、ノータッチルールで行わせてもらう」

 

 司波が言うノータッチルールとは身体的接触を禁止する試合用のルールで、異性間では余程のことが無い限り適用される。

 

 この世界は貞操観念が強い為、恋人や親しい関係を持っていない異性の触れ合いは極力避ける傾向が強い。だから司波はそれを踏まえてノータッチルールにしたのだ。

 

 因みにもしイッセーがこの場にいたら絶対文句を言うだろう。『これじゃ洋服崩壊(ドレス・ブレイク)が使えねぇ!』と嘆くに違いない。ついでに弟の悪友である松田や元浜もこの世界は窮屈どころか、最早拷問に等しいだろう。変態行為が一切出来ない当時の三人にとっては、な。

 

 っと、そんな事は如何でも良いから話を戻すとしよう。

 

 試合内容だが、それぞれ指定されたエリアから出てはいけないという中距離魔法で戦うルールになっている。エリア内で動くのは構わないが、そこから出た瞬間に失格となる。

 

「ただし、香澄と泉美が過剰攻撃をしても失格にならない。逆に兵藤は致死性の攻撃、治癒不能な怪我を負わせる攻撃も禁止し、危険だと判断した場合は強制的に試合を中止させてもらう」

 

「はぁ!?」

 

「チョッと司波先輩、それは私たちが余りにも有利過ぎるのではありませんか?」

 

 司波が説明したルールに香澄と泉美は不服を申し立てた。明らかに自分達を贔屓してるだけでなく、公平性に欠けているから納得行かないのだろう。

 

「これは兵藤からの要望だ。文句は本人に言ってくれ」

 

「心配しなくて良いよ、お二人さん。別にこれはハンデじゃなく、俺からのサービスだと受け取ってくれ」

 

「「っ!」」

 

 全く問題無いと余裕な表情で言い放つ俺に、香澄だけでなく泉美もカチンと来ていた。

 

「そうだ。折角ノータッチルールにしてるから、もう一つとっておきの大サービスをしてあげるよ」

 

「「?」」

 

 大サービスと聞いて二人は、急に怪訝そうに見ている。

 

「司波、俺だけに対するルール内容追加だ。俺がこの場から一歩でも動いたら失格にしてくれ」

 

「何?」

 

『!?』

 

 俺が新たに追加したルールを聞いた司波は眼を見開き、他の面々は驚愕の表情となる。

 

 一歩動いた時点で失格と言うのは、余りにも無謀極まりないと誰もが思うだろう。相手が女子とは言え、有名な『七草の双子』にそんな馬鹿げたルールを施すのは自殺行為も同然であるから。

 

「兵藤、それは本気で言ってるのか?」

 

「勿論だ」

 

「………はぁっ。好きにしろ」

 

 間髪無く答える俺を見た司波は諦めたかのように嘆息した後、ルール追加を承認してくれた。

 

 すると、身体をプルプルと震わせていた香澄と泉美が途端に怒鳴ってきた。

 

「兵藤先輩、アンタは一体どこまでボクたちをバカにすれば気が済むの!?」

 

「こればかりは私も香澄ちゃんに同意ですわ、兵藤先輩!」

 

「はいはい。文句は後で聞いてあげるから。司波、そろそろ始めてくれ」

 

 感情的になって怒鳴り散らす双子を無視するように、審判役の司波に試合開始の合図を促した。

 

「では、双方、構えて」

 

 司波の発言に、香澄と泉美はエリアの中央に移動し、先程から静止して佇んでいる俺は両腕を組んで待っている。

 

 三人が所定の位置に留まったと判断した司波は、壁際にまで下がり、右手を頭上に挙げて、勢いよく振り下ろす。

 

 その瞬間、双子から想子(サイオン)光が閃き、俺に向かって魔法が放たれた。




先ずは香澄と泉美の試合になります。

因みにリューセーの大サービスと言う台詞は、DBのフ〇ーザの台詞を真似ています。

感想お待ちしています。

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