主に魔法を撃っているのは香澄と泉美で、隆誠は領域干渉を展開して防御に専念している。
先程まで泉美も隆誠と同じく防御側に回っていたのだが、相手側が全く攻撃の意思を見せない事に疑念を抱きながらも、香澄に加勢しようと攻撃側に回っていたのだった。
端から見れば、七草の双子が有利に見える。
「天城君から見て、どう思う?」
雫が小声で近くにいる修哉に問い掛ける。
いつもであれば最初に
「あの様子からして、リューセーの
修哉は全く問題無いように返答した。
香澄と泉美は移動系魔法を主体に、隆誠本人を対象としたり空気の塊を動かして突風を隆誠にぶつけたりしてる。場外勝ちを狙った戦い方をしてるのだが、隆誠は領域干渉のみで防御してる。
一方の隆誠は、反撃する姿勢を一切見せず腕を組んだまま微動だにせず防御のみ徹しているままだった。先程彼が自ら、一歩でも動けば失格と言うルールを追加した為、ああするのは仕方のない事と言えよう。だが彼は全く焦った表情を見せていないどころか、少々退屈そうに香澄と泉美の魔法を眺めている。不利な状況であるにも拘わらず、余裕どころか二人の実力を測ってるように見てるから、修哉は勝利を確信していたのだ。
「リューセーがその気になれば、あっと言う間に片が付くはずだ。去年のピラーズ・ブレイクで見せた魔法を使えば」
「そうだね。でもアレは殺傷性が高いから、使ったら即失格になるんじゃないかな?」
「勿論ちゃんと加減するさ。リューセーはそう言うの凄く上手いから、二人が怪我しないよう最小の威力で撃つ筈だ」
「はっきり言えるんだね」
「そりゃあ、俺はリューセーの弟子だからな」
「チョッと羨ましいかも、そう言う師弟関係」
(何か最近の雫、兵藤君関連の事になると積極的になるどころか、いつもより饒舌になってる気がする)
さり気無く二人の会話を聞いているほのかは、大事な親友が隆誠に取られているような感じになり、少しばかり寂しげな表情になっていた。
(バカな! 何故あんな簡単に防げる!?)
雫と修哉の会話とは別に、琢磨は目の前の光景を信じられないように絶句していた。香澄と泉美が放つ魔法を、大して防御力が無い薄皮同然の障壁で防御してる隆誠を見ながら。七草の双子がまだ本気でやってないとは言え、一年上の先輩とは言え二十八家でもない隆誠に二人の魔法を簡単に防ぐとは思わなかった。
兵藤隆誠についての情報は勿論入手していた。去年の九校戦で一条将輝に勝利した事もあって、二十八家は無視出来ない存在となっている。それに加えて、魔法協会理事の九島烈が絶賛するどころか、自身の陣営に加えたのではないかと思うほど親密な関係になってる事も含めて。もし下手な横槍を入れてしまえば、九島の耳に入って怒りに触れてしまうだろう。それを知った琢磨は面白くないどころか、殺意を抱いてしまうほど嫉妬した。日本の魔法師の間で敬意を以て『老師』と呼ばれる人物に認められるなど断じてあり得ないから、凡人は凡人らしく身の程を弁えるべきだと。であるのに、そんな身の程知らずな人物は全く予想外な事をしている。七草の双子を相手に防戦一方でありながらも、焦りの表情を一切見せておらず、それどころか少々退屈そうに眺めている始末。
琢磨は七草家に敵意を抱いていても、実力に関しては一切甘く見ていない。香澄と泉美は『七草の双子は二人揃って真価を発揮する』と呼ばれるほどの実力者であるから、もし自分が相手をすれば多少の苦戦は免れないだろうと認めている。
香澄の『
隆誠が使っている領域干渉は、他者からの魔法による事象改変を防止する対抗魔法。相手側がそれを上回る干渉力が必要となるのだが、今の時点で突破される様子はなさそうだった。
(何なのコイツ!? ボク達の魔法をこんな簡単に防ぐなんて!)
(お姉さまから聞いてましたが、まさかこれほどまでとは!)
魔法で攻撃してる香澄と泉美も、隆誠の防御力に内心驚愕していた。
姉の真由美より、ある事を教えられている。兵藤隆誠は自分よりも遥かに上を行く魔法師であると。
最初に聞いた香澄は信じられないと叫び、泉美もそれと似たように疑問視していた。二人掛かりで
「おっ、やっとその気になったか」
香澄と泉美が攻撃を中断したのを見た隆誠は二人の表情を見て、漸く本気でやるのだと察した。
まるで自分達の攻撃は全く脅威じゃない発言と捉えたのか、香澄は急にカチンときたが、沸騰してる頭を冷やす為に一旦深呼吸する。
「どうやらボクたち、アイツのことをチョッとなめていたみたいだね」
「なめていたという言い方はともかく、どうやらそのようです」
「このままやったところで全然通じない。泉美、あれ、やるよ」
「ええ、わたくしも、そう思っていましたので」
双子の会話に隆誠は一切口を挟む事なく見守っていた。
そして――
「キャスト!」
香澄が発した掛け声の直後、隆誠へ襲い掛かる魔法の威力が先程までと違って数倍に跳ね上がった。
(これは……)
隆誠の背後に、頭上に、側面に渦巻く事象干渉力が襲い掛かろうとしていた。
室内の狭い範囲で激しい風が荒れ狂う。全方位からの強風は隆誠に直撃してるが、領域干渉どころか彼の身体に一切変化は起きていない。今も変わらず微動だにしていない状態だった。
発動している魔法名は『
この魔法は本来高校生レベルでは使えない高等魔法だが、香澄・泉美だからこそ使えた。『
(中々の威力だけど、粗さが目立ち過ぎだ)
けれど隆誠からの視点だと、大変お粗末な児戯に過ぎなかった。高等魔法とは言っても、使い手が未熟であれば本来の威力を出し切る事など出来ない。これなら先程まで撃っていた『
あの双子は高等魔法を放てる魔法力や才能があっても、基礎が全くなっていない。加えて身体能力も常人と大して変わらないから、高等魔法を使い続ければあっと言う間に体力が尽きてしまう。隆誠は『
彼女達の魔法を一通り見た隆誠は、反撃に転じようとする。組んでいた両腕を下ろし、腕輪型CAD操作をしながら右腕を上げてパチンッと指を鳴らした瞬間――先程まで吹き荒れていた筈の強風が突如消えた。
「「え?」」
『ッ!?』
発現していた『
「あれはまさか……お兄様の
「いや、違う」
驚きと同時に愛する兄の魔法を
「あれは俺が使う魔法とは全く別物だ」
達也が使う
対して隆誠が先程発動させたのは、自身の周囲から
本当ならすぐにでも
だが、視なくてもある程度分かった。
(っ! そうか、あの魔法で図書館にある大扉に施した魔法式を消したのか……!)
ここで達也がずっと疑問に抱いていたのが漸く氷解する。
去年の春頃に起きた『ブランシュ事件』で、隆誠が図書館にある特別閲覧室の扉をどうやってこじ開けたのか今まで謎だった。しかし、目の前で見た魔法を見た瞬間に確信する。
しかし、それが分かったところで詮無いことだった。今の自分では隆誠に勝てないどころか、命も同然である
香澄と泉美が信じられないように呆然としてる中、隆誠が自分の方へ視線を向けていた。目が合った瞬間にフッと笑った後、すぐに二人の方へと向けている。
(まるでバラしても構わないと言いたげな表情だったな)
隆誠の質の悪さは今に始まった事ではないが、それでも達也は少しばかり苛立ってしまう。尤も、これは達也にも言える事なのでお互い様なのだが。
「い、一体何が起こったんですの!?」
「泉美、そんな事よりもう一回だ!」
自身の魔法を強制的に
「悪いがもう時間切れだ」
そう言いながら隆誠は開いた右手を真っ直ぐ伸ばした瞬間――
「あ、ぐっ……!」
「か、身体が、動けません……!」
香澄と泉美が途端に動けなくなった。二人は抵抗するも、全く無意味であった。
(アレは
隆誠が使う魔法の存在に達也はすぐに気付いた。
正確に言うと、アレは魔法と言うより
魔法師でありながらもサイキックも行使出来る隆誠の底知れぬ実力に、達也も含めた二年生側は只管驚くばかりだった。
「ふむ、やはり今の君達では無理そうだな」
まるで試したかのような言い方をする隆誠は、少々ガッカリした様子を見せていた。
「こ、この! 訳の分からないこと言ってないで、早く解放しろ……!」
「ああ、そうしよう。だがその前に――」
「「うわわわっ!」」
隆誠は二人へ向けてる右手の手首を半回転させ、くいっと手招きするような挑発染みたジェスチャーをした瞬間、香澄と泉美の身体は途端に浮遊し始める。
まるで飛行魔法を使ってるように浮遊してる二人に、達也達は再び驚愕していた。実際は隆誠が
「ちょ、チョッとぉ! 何でこんなことするの!?」
「ま、まさか、わたくし達をこのまま場外へ……!」
完全に慌てふためく香澄に対し、相手の狙いが読めた泉美。確かに動けない二人をエリア外の場外へ運ぶのは、隆誠にとっては造作も無い。
「生憎だが、俺はそこまで優しくない。場外ついでに、チョッとばかり痛い思いをしてもらう、よ!」
「うわぁっ!」
「きゃあっ!」
隆誠が次に右手を軽く引き、押し出す仕草をした直後、浮遊したままの香澄と泉美が吹っ飛ぶように勢いよく後方へ飛んでいく。そしてそのまま、演習室の壁がドンッと二人の背中にぶつかる音がした。
「いったぁぁ~~~!」
「うう……ひ、酷い、です……!」
余りの痛さに香澄が悲鳴を上げ、泉美は涙目になっている。
そんな二人の反応とは余所に――
「香澄と泉美、エリアの外に出たので失格とする。勝者、兵藤隆誠」
審判役である達也が勝敗の判定を下した事で、一回戦目の勝者を告げるのであった。
次は七宝琢磨との連戦となるが、隆誠は全く疲れてないと言ってる為、すぐに二回戦目へ移ろうとする。
香澄と泉美に力の差を教えた後、少しばかり痛い目に遭わせて勝利するリューセーでした。
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