再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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入学編 ブランシュの目的

 保健室前に転移し、二人を担いだまま中に入ると女性保険医――安宿(あすか)怜美(さとみ)がいた。学校にテロリストが侵入してる事を分かってる筈なのに、慌てる様子を一切見せないなんて中々肝が据わってると思ったのは内緒だ。

 

 突然入室した俺に彼女は驚くも、気絶してる修哉と紫苑を見た途端、まるで察してくれたかのようにベッドへ案内された。

 

 二人をベッドに寝かせてすぐ出ようとするも、安宿から呼び止められた。此処にいた方が他と比べれば安全だと。

 

 安宿の気遣いに感謝しつつも、どうしてもやらなければいけない事があると言って、今度こそ保健室を後にした。

 

 単独行動を開始する俺は、先ずテロリスト達が襲撃した目的を調べようと実技棟へ向かう事にした。

 

 途中、またしても武装した連中が襲い掛かってきたが、今度はさっきと違って一瞬で終わらせた。超スピードで背後を取ってすぐ相手の首筋に手刀でトンッと当てて気絶させる。

 

 そして俺が気絶させたのは、相手の目的を知る為に能力(ちから)を使って頭の中にある記憶を探ったのだが、意外な事実を知った。今回の襲撃には壬生を含めた有志同盟達が関わっていると。

 

 詳細を確認すると、有志同盟は単なる陽動として利用されただけに過ぎなかった。今回の公開討論会で行う講堂に、第一高校の主力である生徒会・風紀委員会・部活連を誘き寄せる為の餌として。

 

 主力メンバーが講堂に集まってる事で学校の周囲が手薄となってるところを、有志同盟を利用した組織――『ブランシュ』が動き出した。

 

 ブランシュは「魔法による社会的差別の撤回」を掲げている反魔法国際政治団体みたいだが、実際はそうでもないようだ。テロリストとなんら変わりない犯罪組織だと、コイツ等の頭の中で充分に分かったので。

 

 そのテロリストは現在実技棟を中心に交戦してるが、何とそれも陽動だったと判明する。奴等の本当の目的は図書館にある機密文献を盗み出す為だ。しかもその手引きをしてるのが壬生紗耶香と言う、大変信じ難い情報を知ってしまった。修哉が知れば確実にショックを受けるだろう。自身が尊敬している先輩なら猶更に。

 

 本当ならブランシュの目的を知った後、襲撃の被害を受けているかもしれない壬生を助けに行くつもりだった。しかし肝心の壬生が悪事に加担している為、予定変更せざるを得ない。それは当然、図書館にいる連中の目的を阻止する為だ。

 

 今から図書館へ全速力で向かう時間も惜しい為、さっきと同様に転移術を使ってショートカットする。勿論、気絶中のブランシュ以外の目が無い事を確認済みだ。

 

 

 

 

「さて……」

 

 無人となってる図書館内の一階出入り口に出現した俺は、人数を把握しようと探知を開始した。

 

 いきなり俺が現れた事によって、向こうは慌てながら配置している。目の前にある階段の上り口に二人、階段を上り切ったところに一人。後者は学生だな。

 

 それとは別に二階特別閲覧室に四人か。その中には壬生がいる事も確認済みである。

 

 実技棟や図書館前に戦力を集中してるから、この中は少人数しかいないようだ。尤も、多かろうか少なかろうが俺には関係無いが。

 

 敵の人数と位置を確認し終えた俺は移動する。このまま一気に二階特別閲覧室に向かっても良いんだが、潜伏してる敵が援軍を連れて来られると面倒なので、後顧の憂いがないよう先に片付ける事にした。

 

「何者だ!?」

 

「止まれ!」

 

 階段を目指している俺に最初の二人が手にしている武器を持って襲い掛かろうとした。

 

「邪魔」

 

「ごあっ!」

 

「がはっ!」

 

 対象を確認した俺は遠当てを使おうと少し強めに睨んだ瞬間、敵の二人は強い衝撃を受けて吹っ飛んでそのまま壁に激突。胸と背中に強烈な痛みを受けた所為により、あっと言う間に気絶していた。

 

 やっぱりザコ相手に遠当ては非常に便利だ。前の世界で使っていた光弾技を使えば確実に死んでしまう。加減すれば問題無いが、態々使う相手でもない為、遠当てだけで済ませている。

 

「誰だ!?」

 

 いざ階段に上ろうとした瞬間、階上にいる待ち伏せ要員が駆け下りて来た。

 

 その声に反応して視線を向けると、今度はさっきのテロリストではなく男子生徒だ。脇差と思われる本身の刃で斬りかかろうとする。

 

 普通の人間なら真剣で襲い掛かってきたら怯むだろうが、そうでない俺は慌てる様子を見せる事無く、右手の人差し指と中指の間で受け止めた。

 

「なっ!? ゆ、指だけで……!?」

 

「すいません、つい受け止めちゃいました。って、何処かで見た顔だな」

 

 相手の顔をよく見ると、以前に剣道部の演武で壬生の相手をしていた男子生徒だ。必死な表情で俺の指で掴まれている脇差を引こうとしてる際、ソイツの右手首に、青と赤で縁取られた白いリストバンドが見えた。

 

 そう言えば此処へ来る前にテロリストの頭の中を探ってた際、『エガリテ』とか組織もいた事が分かった。その連中はブランシュの下部組織であり、剣道部の主将――(つかさ)(きのえ)が剣道部を中心に構成されたメンバーだと。

 

 それを知った際、修哉が無事である事に疑念を抱いた。アイツも剣道部にいるのだから勧誘されて、今頃は俺と敵対してもおかしくない筈だ。まぁ恐らくそれは壬生が関係してると思うから、後で彼女に問い質すつもりでいる。

 

 俺は別の事を考えながらも、人差し指と中指に力を込めた瞬間、脇差の刃がパキィンと音を立てて折れた。

 

「え……!?」

 

 目の前の現実を受け入れられないように驚愕する男子生徒に、即座に回り込んだ俺は左の手刀で首筋にトンッと当てた。その瞬間に相手は気絶し、そのまま地面に倒れる。

 

 テロリスト相手に容赦はしないが、相手は俺と同じ学生で手心を加えさせてもらった。悪事に加担してるとは言え、ブランシュが弱みにつけ込んで利用されただけに過ぎないので。司波から見れば甘いと言われるだろうが、余程の事が無い限りスタンスを変える気はない。

 

「ふぅっ……。行くか」

 

 潜伏してる敵を全て片付けた俺は階段を使わず助走なしで跳躍し、一気に階上へ降り立った。

 

 そしてそのまま一瞬で突き当たりの特別閲覧室へ向かい、大きな扉の前で止まる。

 

 ふむ……この扉は結構頑丈に作られてるだけじゃなく、魔法によって強化されているな。破壊するには幾重にも重ねた、大規模の魔法式を構築しなければいけない仕組みになっているか。

 

 機密文献があるのだから、それくらいの強固なセキュリティは当然だろう。尤も、聖書の神(わたし)能力(ちから)の前ではそんなの無意味だが。

 

 取り敢えず時間も惜しいのでさっさと開ける事にした。早く終わらせないと、つい先ほど感じた司波兄妹達がこの図書館へ来てしまう。特にあの冷血そうな司波の事だから、ブランシュに加担した一味と言う理由で、壬生を容赦なく叩きのめすかもしれないので。

 

 そう危惧した俺は大きな扉に右手で当てた瞬間、聖書の神(わたし)能力(ちから)を行使し、設定されている魔法を全て無効化(キャンセル)させていく。そして効力が失った扉を軽く押すと、そのまま開かれていく。

 

 特別閲覧室の中にいる連中は、誰もが信じられないみたいな目となって此方を見ていた。当然、その中には壬生もいる。

 

「ひょ、兵藤君……!」

 

 壬生がドアの近くにおり、他の三人はブランシュのメンバーで端末に作業を仕掛けている最中だ。

 

 見た感じ、まだ終わってないと言ったところか。

 

 確かテロリストから得た情報の中に、ハッキングを使う為の携帯端末と、データを吸い出す為の記録キューブがあった。それらしき物は……発見したのでさっさと壊そう。

 

 破壊する対象を確認した俺は奴等の目論見を阻止しようと、右手でパチンッと指を鳴らす。その瞬間、対象の二つからボンッと小さな爆発音が起きて、使用不能状態となった。

 

 さっきのは聖書の神(わたし)能力(ちから)を使ったものだ。本当は人前で見せるつもりはなかったが、連中の目的を阻止したかった為、今回は非常事態として使う事にした。尤も、壬生達から見れば未知の魔法のようにしか思われないから、そこまで心配していない。

 

「な、何だ!?」

 

「キューブが!?」

 

 携帯端末と記録キューブが破壊された事により、接続されていたデバイスからの信号が途絶え、閲覧用端末がロック状態になる。

 

「さて、これで貴様等(ブランシュ)の真の目的は潰えたな。機密文献(そんなもの)を盗む為に修哉達が殺されそうになったのを考えると、非常に許しがたい」

 

「………え?」

 

 俺の台詞に壬生が途端に反応し、段々と顔を青褪めていく。

 

「ど、どういう、こと? 学校を襲っても修哉君には手を出さないでって、約束した筈なのに……」

 

 ……成程、そう言う事か。

 

 詳しい理由は分からないが、どうやら壬生は初めから修哉を今回の件に巻き込む気はなかったようだ。大方それを条件として、ブランシュに特別閲覧室への手引きをしたってとこだろう。

 

 そんな彼女の頼みをブランシュは口だけの約束をするも、守る気なんて毛頭無かったと見える。

 

 どこまでも不愉快な連中極まりない。相手の弱みにつけ込み、人の思いを踏み躙り、挙句の果てには無関係な人達を平然と殺そうとする。こんな奴等に情けを掛ける必要は一片も無い。

 

「ね、ねぇ、どういうことですか!? あたし、約束した筈ですよね!? 修哉君には手を出さないでって!」

 

「あ、アレは奴の出任せだ! 我々が嘘を吐く筈ないだろう!?」

 

 壬生がブランシュの一人に問い詰めるも、ソイツは誤魔化すように叫んで言い返す。

 

 出任せ、か。直接関わった俺を噓つき呼ばわりとは、本当にいい度胸している。

 

「壬生、早く指輪を使え!」

 

 すると、もう一人の男が壬生に指示を出しながら、床に向かって腕を振り下ろした瞬間、白い煙が噴き出る。

 

 同時に彼女はハッとして、取り敢えず従おうと右手の中指に嵌めている指輪から、耳障りなノイズが発生させた。

 

 煙幕はともかく、壬生が使ってるのは少々見覚えがあった。あれは確か新入部員勧誘週間の一日目に、司波が赤毛の子を救い出す時に使った振動系魔法に少しばかり似ている。

 

 と言っても、コレに関しても既に情報を得ていた。

 

 壬生が使用してる指輪は『アンティナイト』と呼ばれる特殊な金属であり、妨害する無系統魔法の一種――キャスト・ジャミングの条件を満たすサイオンノイズを作り出す事が出来る。大半は魔法師の天敵とも言える代物であり、それを受けたら行動が阻害されて無防備となってしまう。尤も、これは軍事物資に指定されてる上に、民間人が簡単に手に入るものじゃない。ブランシュのような犯罪組織が持ってるのは、闇ルートで入手したんだろう。

 

 さて、そんな大変物騒な物を壬生がキャスト・ジャミングを放つも……能力(ちから)で防いでる俺には全く無意味で、ただの耳障りな雑音に過ぎなかった。

 

 それに全く気付いていないブランシュの三人は噴き出た煙の中から出て、いつの間にかガスマスクを被ってる状態で襲い掛かってくる。

 

 前の世界で何度も経験した俺にとっては古過ぎる手段だ。おまけに動作も攻撃も雑過ぎて話にならない。

 

 襲い掛かってくる三人を全て一撃で伸す為に、左裏拳、右裏拳、右肘打ち、と言う流れるような動作で一人ずつ確実に倒した。

 

 因みに壬生はキャスト・ジャミングを放った後、仲間を見捨てるように特別閲覧室から出て逃走したのは確認済みだ。

 

「……此処はもういいか」

 

 逃げた壬生を追跡しようと、俺も特別閲覧室から姿を消した。

 

 確認してないが、俺が伸したブランシュのメンバー三人は全員気絶している。顔の形が変わって血が流れてると言う無残な姿で。




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