再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

190 / 224
今回は前話と違ってちょっと短いです。


ダブルセブン編 翻弄されるダブルセブン③

「いたた……あんな魔法使えるなんて、反則だよ……!」

 

「確かにアレは、わたくしも、想定外でしたわ……」

 

 敗北した香澄と泉美は痛そうに背中を擦りながら移動していた。

 

 香澄は納得行かないと言わんばかりに隆誠をキッと睨んでおり、泉美も理不尽な目に遭ったと嘆きながら涙目で訴えている。彼女達の訴えは当然隆誠も気付いているのだが、敢えて無視して自分と対峙してる七宝の方へ意識を向けている。

 

「大丈夫、香澄?」

 

「泉美ちゃん、まだ辛いの?」

 

 風紀委員の雫と、生徒会の深雪が後輩の身を案じるように声を掛けていた。

 

 自身が所属してる先輩二人の姿に、香澄と泉美は即座に反応する。

 

「こ、これくらい平気です!」

 

「深雪先輩、わたくしの身を案じて頂けるなんて感激です!」

 

 痛みを堪えながらも虚勢を張る香澄に対し、泉美は憧れの先輩に甘えるようにすり寄ろうとしている。対照的な反応を示す双子に、雫と深雪は苦笑を漏らしている。因みに深雪の場合は、自分に甘えようとする泉美の行動に少々困惑してるが。

 

「それはそうと香澄、負けた以上は素直に罰を受けてもらうよ」

 

「うっ!」

 

 雫からの警告に香澄は嫌な事を思い出したように苦い表情となっていく。

 

 今回行った手合わせに勝利すれば罰は免除される予定だったが、敗北すれば風紀委員会本部で言われた罰を受けなくてはならない。しかも監視役は琢磨と手合わせしようとする隆誠である為、余計に気が滅入ってしまう。今も変わらず反抗心があるも、これ以上見苦しい姿を見せる訳にはいかないと、香澄は雫の言う通りにするしかなかった。

 

「え? 罰って一体どういうことですの?」

 

 罰の件について一切聞いてない泉美からすれば寝耳に水の話だった。香澄から諸事情があって隆誠と勝負する事になったとしか聞いていないから。

 

「ねぇ雫、具体的にどんな内容なのかしら?」

 

「兵藤さんが決めた罰で――」

 

 反省文提出の他、数日の間は手足に重りを着けた状態でグラウンド十周と言う罰を教えた直後、泉美は凄い勢いで顔を青褪めた。後者のランニングの内容を聞いた時点で。

 

 深雪は懐かしそうな表情になっていた。数ヵ月前にあった『吸血鬼(パラサイト)事件』の際、隆誠にあらぬ疑いを掛けてしまった事で罰を受けてしまった経緯がある為に。

 

「も、もしかして、わたくしもその罰をやらされるのですか!?」

 

 いきなり隆誠と勝負するよう無理矢理参加された泉美からすれば、とんだとばっちりであった。確かに彼女は香澄と違って問題行動を起こしてないから、一緒に罰を受けるのは理不尽としか言いようがない。これは流石に後で隆誠に確認を取る必要がありそうだと、深雪はそう考えた。

 

「大丈夫よ、泉美ちゃん。わたしが兵藤くんにやらせないよう言っておくわ。アレは以前やったわたしも本当に辛かったから」

 

「え? 深雪先輩、それって一体……?」

 

「深雪、それは私も初耳。何があったの?」

 

 手足に重りを着けてランニングした当時の事を思い出しながら言った深雪は、不味いと気付くも遅かった。泉美だけでなく、雫も気になるような表情になっている。

 

 泉美はもとより、雫に教える訳にはいかない。彼女がアメリカで交換留学中に、自分を含めた達也達は隆誠がパラサイトじゃないかと疑った事で罰を受ける事になったのだから。

 

「そ、それより皆、そろそろ兵藤君と七宝君の試合が始まるよ!」

 

 会話を聞いていたほのかは、深雪と同じく不味いと思って急に割って入り、試合に集中するよう誤魔化した。

 

 

 

 女性陣が会話しているのとは別に、左の脇に分厚く大きなハードカバーの本を抱えている制服姿の琢磨がエリア内に入っていた。

 

 香澄と泉美を相手に魔法を行使していた隆誠は、疲労してる様子を一切見せる事無く、審判役の司波に向かってこう言う。

 

「司波、二戦目もさっきと同じルールで良い」

 

「お前が一歩でも動いたら失格のも含めてか?」

 

「勿論」

 

 先程までと同じルールと聞いた琢磨は、異議ありと言わんばかりに口を挟もうとする。

 

「チョッと待って下さい、兵藤先輩。それは女子の七草達だからこそのルールであって、俺にそんな気遣いは必要ありません」

 

「別にそういう意味で言ったんじゃない」

 

 琢磨の異議に隆誠はすぐに否定した。

 

「ルールを変えても結果は変わらないから、今のままで問題無いと思っただけだ」

 

「ッ!」

 

 理由を言った途端、琢磨が眉を顰めた。同時に腸も煮えくり返っている。

 

 隆誠は遠回しにこう言ったのだ。『お前もあの二人と同じく俺に絶対勝てない』のだと。

 

 格下同然のような態度を取る事に、琢磨は文字通り生まれて初めての経験をしていた。

 

 自分より実力が上である十師族当主に言われたのであれば、不服に思ってもそれは仕方のない事だと敢えて受け入れるしかない。しかし、兵藤隆誠は二十八家と一切(ゆかり)も無く、九島烈に気に入られただけに過ぎない一般魔法師。そんな奴に言われて黙っている二十八家の誰一人とて許さないだろう。

 

 故に琢磨は決めた。七草の双子に勝った程度で粋がってる一般魔法師(おろかもの)風情は、七宝家嫡男である自分が絶対的な力の差を教えてやろうと。今やってるのは罰による『教訓』だと言うのを、頭に血が上った所為で失念していることを一切気付かないまま。

 

「ならば二戦目も同じくノータッチルールの他、七宝の過剰攻撃は可、逆に兵藤は過剰攻撃禁止の他に一歩でも動いたら失格とする」

 

 達也は確認をするように改めて二回戦目のルール説明を淡々と行っていた。

 

 これを聞いていた琢磨は、達也と隆誠(このふたり)はグルだと改めて認識する。自分の意見を一切聞き入れず、隆誠の要望通りに応えてる時点で不公平だと内心そう考えている。尤も、それは琢磨の勘違いに過ぎないのだが。

 

「では、双方、構えて」

 

 隆誠は一切動かず腕を組んだまま佇んでいる。

 

 琢磨は境界線近くから動かず、脇に抱えていた本を手にしていた。

 

 達也が二人の顔を交互に見て頷き返したのを確認してから壁際に下がり、右手を頭上に挙げて、勢いよく振り下ろす。

 

 開始早々、動いたのは琢磨だった。それに対して隆誠は先手を譲っているつもりなのか、一戦目と同じく動く気は無いようだ。

 

 その間に琢磨がハードカバーの表紙を開く。その瞬間、全てのページが一斉に紙吹雪となって飛び散った。

 

(紙片全てに想子(サイオン)を纏わせているのか)

 

 隆誠は琢磨が本のページを破り取った紙吹雪を観察していた。彼の眼には、舞う一片一片の動きを正確に捉えている。小さな紙片がガラスのように硬質な素材で出来てるかの如く薄い方形の刃と化しており、意思があるかのように自分を取り囲んでいる。

 

 香澄と泉美と違い、琢磨は力の差を教えてやる為に最初から全力を出し、短期決戦を期する事にした。

 

 琢磨が展開してるのは七宝家の切り札の一つ、『ミリオン・エッジ』。あらかじめ(たま)となるものを用意して、個々独立した物体、現象を1つの生きもの如く操る『群体制御』を使い、百万の紙片を操り、刃の群雲と成して敵を切り裂く魔法。これは現代魔法として、例外的にCADを使用しない術式でもある。

 

「兵藤先輩、今すぐ降参して下さい」

 

「はぁ?」

 

 突然上から目線な言い方をする琢磨に、隆誠は少しばかり不快そうに眉を顰めた。

 

「貴方が魔法を使う仕草をした瞬間、この百万の刃が即座に襲い掛かります」

 

 先ほど香澄達が使っていた『窒息(ナイトロゲン)乱流(・ストーム)』の強風とは違い、『ミリオン・エッジ』は相手を襲う物理攻撃同然の魔法。意思を持った刃は一斉に押し寄せ、確実に大怪我をしてしまう。琢磨はそう考えて、隆誠に降参するよう勧告していた。

 

 百万の刃が隆誠に襲い掛かって血だらけになる想像でもしたのか、審判役の達也以外の面々が段々顔を青褪めている。

 

(残念だが七宝、リューセーはその程度の脅しに屈したりしない)

 

 近くで顔を青褪めてる十三束とは別に、隆誠の弟子である修哉は呆れ果てた目で見ている。琢磨が降参しろと聞いた途端に冷めたから。

 

 百万の刃に取り囲まれてる師匠を見ても、微塵も動揺していない。それどころか、自分と同じく呆れた感じだ。間違いなくこの状況でも、苦も無く琢磨に勝つのだと修哉は確信する。

 

 琢磨は隆誠の表情を全く見ておらず、自身の勝利は確定だと言わんばかりの余裕な態度を見せており、再度勧告しようとする。

 

「いくら兵藤先輩でも、これをまともに喰らえばタダではすみません。だから早く降参を――がっ!」

 

 琢磨が再度降参を促すように言ってる最中、突如吹っ飛んだ。少々強い衝撃だったのか、場外エリアにまで到達した後にゴロゴロと倒れている。

 

 術者から送り込まれてる想子(サイオン)が途切れてしまったのか、隆誠を取り囲んでいた筈の百万の刃は意思を失ったかのように、元の紙片に戻ってそのまま落ちていく。

 

 いきなりの光景に、倒れてる七宝以外の全員が一体何が起きたのかと困惑するばかりだった。

 

「悪いな、七宝。余りにも隙だらけだったんで、つい攻撃してしまったよ」

 

『!』

 

 落ちて来る紙片を手で払いながら言った隆誠に、修哉達は一斉に彼の方へと振り向く。

 

 先程までの彼は百万の刃に取り囲まれ、腕を組んだまま全く動けない状態だったのに、一体どんな魔法を使って琢磨を倒したのかが全く分からない。香澄と泉美に使った念動力(サイコキネシス)だとしても、何かしらの動作をしなければならない筈。

 

「リューセー、お前一体どうやって七宝を倒したんだ?」

 

 修哉からの問いが全員の代表であるかのように、誰もが隆誠の回答を待っていた。

 

「後で教える。おい司波、七宝は場外で倒れてるんだが」

 

「そうだな」

 

 隆誠がそう言って、審判の達也に判定を下すよう促した。

 

「七宝はエリアの外に出たので失格とする。勝者、兵藤隆誠」

 

 達也が勝敗の判定を下した事で、隆誠の連勝が決まるのであった。




舐めた態度を取る七宝にリューセーがあっと言う間に倒す展開にしました。

どうやって倒したかは次回で分かります。

感想お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。