七宝の試合は香澄と泉美より呆気無い結果となってしまい、俺――兵藤隆誠は内心呆れていた。
さっきの紙吹雪みたいな魔法が切り札と判明したのは、
確かに七宝の言う通り、刃の群れが襲い掛かると理解すれば並みの魔法師は降参するしかない。これ以上抵抗すれば無惨な姿になってしまうと言う嫌な想像をしながら。だが俺の場合だと油断どころか、非常に愚かな行為であった。勝利を確信してることで防御魔法のシールドを一切張らず、無防備な姿を俺に晒していた為、俺の攻撃を受ける破目になってしまったのだから。
気合いを入れて睨むだけで眼から衝撃波を出す『遠当て』によって、七宝は軽く吹っ飛んだ。去年から何度も使ってる技で、審判役の司波も何度も視た事があるから、他の面々と違って大した驚いた様子を見せていない。
修哉とは別に、気になるように耳を傾けてる他の面々にも教えた直後、信じられないと言わんばかりに驚いていた。魔法とは違う方法で相手を吹っ飛ばすなど、微塵も想像してなかったんだろう。その中で十三束だけは、驚きとは違う反応も示していたが。
「チョッと待って下さい。そのような技があるのでしたら、わたくし達との試合でも使えたのではありませんか?」
話を聞いていた泉美が気付いたかのように、若干強い口調で質問してきた。
「女子に使ったら不味いと思って、別の手段を取っただけだ。壁にぶつかるより痛いんだが、君達にやっても良かったのかい?」
「……………………」
未だに起き上がれないまま蹲ってる七宝の姿を見た泉美は顔を青褪め、再度問う俺に返答をせず大人しく引き下がった。香澄も似たような事を考えてるのか、噛み付く事はせずに押し黙った様子を見せている。
反抗的な態度は相変わらずだが、それでも理解してくれたようだ。今の自分達では俺に勝てないと言う事を、な。
数分後、漸く話せる状態になった七宝は、自分が場外負けになった理由を改めて聞くと――
「そ、そんなの反則じゃないですか!」
納得行かないと言わんばかりに声高に違反だと叫んでいた。
突然の言い掛かりに俺だけでなく、修哉は不可解な表情になっている。
「何故そう言い切れるんだ?」
「魔法戦闘をすると言い出したのは兵藤先輩ではありませんか! なのに貴方がそれを自ら破ったから反則でしょう!?」
なるほど、そう来たか。
確かに魔法戦闘をすると言っておきながら、俺は魔法以外の手段で倒してしまった。七宝が反則だと抗議するのは無理もないかもしれない。
「別に『魔法だけしか使ってはいけない』なんてルールを課したつもりはないんだが」
「魔法師ならば魔法を使うのは当然でしょう!」
「俺から言わせれば、相手の魔法を封じたと勝手に思い込んで、何一つ防御手段を取らなかった七宝に問題があると思うんだが」
もし対物障壁を張っていたところで俺の遠当ては簡単に貫いていたから、どの道七宝の敗北は変わらない。例えシールドを張っていたところで、防御の甘さについて指摘するつもりだったが。
俺の指摘を聞いている審判役の司波も同感だと思ってるのか、一切反論する姿勢を見せておらず黙って聞いている。
「そうであっても、どの道こんな結果は認められません! 審判の司波先輩と共謀関係だと分かった時点で!」
「? 何故そこで司波が出てくる?」
「七宝、それはどういうことだ?」
いきなり予想外の人物の名を口にしたので俺は首を傾げ、呼ばれた司波も不可解そうに七宝を見ている。
「惚けないでください! 司波先輩は俺が何を言っても耳を貸さないどころか、兵藤先輩に有利な判定を下したではありませんか!?」
「致死性の攻撃、治癒不能な怪我を負わせる攻撃でなければ問題無いと言った筈だ。兵藤の使う『遠当て』が魔法じゃなくても、単なる衝撃波に過ぎないと元々知っているから問題無いと判断した」
理路整然と話す司波であるが、同時に冷ややかな視線を送っていた。
恐らくコイツの事だから、非常に心外だと思っているだろう。俺に審判をやるよう頼まれただけなのに、いつの間にか共謀関係にされたのだから。
如何でも良いんだが司波妹と光井、俺と司波を交互に見ながら疑惑の視線を送るんじゃない。昼休みのアレを未だ引き摺ってるかもしれないが、いい加減に止めて欲しい。
「詭弁だ! その『遠当て』を知っていたなら、事前に言うべきだろう!」
「相手の手の内を明かす行為をすれば、それこそ審判の俺とお前がグルではないかと疑われることになる」
淡々と言い返す司波に、七宝が言葉を詰まらせる。
「だが七宝、お前のミリオン・エッジはどのみち兵藤に通用しない。香澄と泉美が使っていた
「言い掛かりだ! 俺の術式は七草の魔法と違って、全て刃を無効化できるわけがない!」
七宝の反論は全く根拠の無い、反射的で感情的で短絡的なものだった。
司波が指摘したとおり、俺はその気になればミリオン・エッジとか言う魔法を一瞬で無効化する事は出来る。実を言うと、そうするつもりでいた。
本当なら魔法を無効化してから(貫通力が一切無い手加減した)キルビームで軽く吹っ飛ばすつもりだったんだが、七宝が余りにも隙だらけな状態で舐めた態度を取っていた為、思わずムッと来てしまい遠当てを使ってしまったのだ。倒す順序を思いっきり変更してしまった為、こういう結果になったのである。
冷静に事実のみを言い返す司波に対し、今も納得行かないとギャーギャー反論する七宝。これ以上放置すると、司波妹がキレてブリザードが吹き荒れてしまうと嫌な想像をした俺は――
「いい加減にしろ!」
そろそろ黙らせようと考えた直後、予想外な事が起きてしまう。余りにも意外な光景に俺だけでなく、司波達ですら言葉を失った。怒りの感情を露わにして叫んだのは修哉が、片手で七宝の胸倉を力強く掴んでいたから。
「あ、天城先輩、何を……!?」
同じ執行部である修哉の事を知っている七宝は、困惑しながらも抵抗しようとするが、余りにも強い握力で逃れる事が出来ない様子だ。
「さっきから黙って聞いてれば、自分の敗北を認めないどころか見苦しい言い訳するばかり……お前は一体何様のつもりだ! それが一科生や二十八家のやることなのか!?」
「っ!」
怒りの表情になっている修哉は、身体から
司波妹の冷酷な怒りとは全く違うものであり、修哉の方は重苦しい威圧を込めた怒りだった。
修哉は元々感情的な性格ではないのだが、入学以降から一科生に対する不満を溜め込んでいた。そこを俺が対処したことで心に余裕を持たせる事が出来たのだが、どうやら七宝の見苦しい言い訳の所為で、堪忍袋の緒が切れてしまったようだ。加えて此処へ来る前に風紀委員会本部で、七宝や香澄が問題行動を起こして反省の態度を一切見せなかったから、二十八家に対する不満も膨れ上がったかもしれない。
かと言って、このまま黙って見過ごす訳にはいかない。怒りの感情に任せて暴行に発展してしまえば、それこそ取り返しのつかない事になってしまう。
「止めるんだ、修哉。お前らしくないぞ」
「っ!」
俺は割って入りながら、修哉の肩に手を置いた。その直後、俺を見た修哉は途端にハッとした表情になり、七宝の胸倉を掴んでる手を放す。解放された七宝は脱力してるのか、身体が落下して、そのまま尻餅を付いてしまう。
「だがまぁ、修哉の怒りは尤もだな。今やっているのは七宝と香澄に対する罰だと言うのに、当の本人達は全く自覚がないから困ったものだ」
俺がそう言いながら香澄を睨むと、彼女はビクッとして段々と縮こまっていく。
香澄の方は後で処すから良いとして、一番の問題は七宝だ。脱力状態でありながらも、未だに反抗心は抜けていない。
この阿呆には徹底的な敗北を自覚させない限り、決して態度を改める事はしないだろう。かと言って俺が再戦して勝利したところで、今回みたいに見苦しい言い訳をして負けを認めようとしないのが容易に想像出来る。
お得意なミリオン・エッジを真っ向から全部叩き落とせば、いくら七宝でも完全に自信を喪失するだろう。魔法ではなく剣でやれば猶更に……あ、そうだ。
「おい七宝、どうせこのまま平行線になるのが目に見えてるから、お前にもう一度再戦の機会を与えるよ」
『!?』
負けを認めようとしない七宝に、俺が新たな提案を出した事に司波達は目を見開く。
「だが相手をするのは俺の弟子――天城修哉だ。先に言っておくが拒否権は無いからな」
「はぁ!? ちょっ、リューセー! お前何を言って……!」
突然の指名に慌てふためく修哉を無視する俺は、七宝に(強制的な)再戦の約束をさせている。
原作では十三束が七宝と戦いますが、此処ではオリキャラの修哉と戦わせることにしました。
ミリオン・エッジを使う七宝に、剣をメインで戦う修哉。とある漫画の名シーンの一部を再現しようと思ってます。
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