再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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ダブルセブン編 予定外の試合

「そこまで。勝者、修哉」

 

 修哉の九頭龍撃、もとい五頭龍撃を受けて倒れた七宝を見た俺――兵藤隆誠は、試合終了と勝利の判定を下した。

 

 技がまだ未完成とは言え、本気でやれば七宝は確実に気を失っている筈なのだが、意識がまだあって苦しそうに呻いている状態だ。恐らく修哉が武士の情けとして、必要最低限の威力まで加減したのだろう。確かにそうしなければ、意識を失うどころか直撃した両腕両脚の骨も折れていただろう。身体に情報強化を施さず、恐怖に怯えて完全に無防備な姿を晒していた七宝の姿を見れば猶更に、な。

 

 もしこれが血生臭い実戦であれば命取りになるかもしれないけど、今回は学校で起きた小競り合い程度の試合に過ぎない。相手の心情を察しただけでなく、態と加減した修哉の判断は称賛に値する。それでも技の粗さが目立つところがあるので、後日細かく指摘させてもらうが。

 

 すると、俺の後ろにいた紫苑がすぐに修哉の方へと駆け寄っていく。

 

「怪我は無さそうだけど、確認させてもらうわ」

 

「大丈夫だって。本当に紫苑は心配性だな」

 

「良いからチョッと手足を見せなさい」

 

 怪我を負ってないかを確認する紫苑に、修哉は問題無いように言い返すもされるがままになっていた。

 

 まるで夫婦みたいなやり取りを見せている二人の姿に、倒れてる七宝を除く男性陣が興味深そうに見ている。その中で十三束がチョッとばかり頬を赤らめている事に、本当に初心な少年だと俺は内心そう思った。

 

「お二人さん、そう言う事は保健室でやってくれないかな?」

 

「「!」」

 

 俺の指摘により、修哉と紫苑は瞬時に顔を赤らめて少しばかり距離を取った。もしこれが普段からイチャ付いてる司波妹や千代田であれば、兄もしくはフィアンセの身を案じるのは至極当然のことだと言い返してるだろう。

 

「し、七宝、動けるかい?」

 

 そんな中、倒れている七宝の横に膝をついた十三束が声を掛けていた。

 

「動けます」

 

 痛みを堪えながらも立ち上がる七宝は、それだけを答えた。

 

「なら少し壁際で休んでいろ」

 

「――はい」

 

 指示を出す十三束に俺は疑問を抱く。

 

 敗北感に打ちのめされてる七宝も似たようなことを考えてる筈だが、言われたとおりに従っていた。倒れてる身体を起こし、痛そうな表情をしながらもゆっくりと壁際へ、立会人の並ぶ側とは反対側へ歩いていく。壁に背中を預けた直後、ズルズルと床にへたり込んだ。

 

 痛みを堪えながらも休んでいる七宝の姿を確認した十三束は、次に俺の前へ歩み寄ってくる。

 

「何だ、さっきの試合判定に不服なのか?」

 

 俺からの問いに十三束は違うと首を横に振り、決心したかのように口を開いた。

 

「兵藤君、今度は僕と試合してくれないか!」

 

「………は?」

 

 突然の要件に俺は目が点になってしまった。

 

 先程まで審判をしていた俺に十三束がいきなり試合をしろと言ってきたのだ。これが司波であっても、俺と似たような反応を示す筈。それが当たってるかのように、俺の視界に入ってる司波も訳が分からないと首を捻らせている。

 

 他にも先程までイチャ付いていた修哉と紫苑も訝しさに満ちた視線を向けており、気付いた十三束が居心地悪げに目を背けるも、すぐに立て直そうと改めて言い放った。

 

「君の本当の実力を七宝に見せてやって欲しいんだ!」

 

 ああ、そう言う事か。何となく分かったよ。

 

 恐らく十三束は前回の試合で敗北しても納得が行かない七宝に、俺がどれだけ手加減していたのかを分からせてやりたいのだろう。同時に実力差も理解してもらうことも含めて、な。

 

「そうするとまた中条会長に頼まないといけないんだが?」

 

 だが俺はもうこれ以上付き合う気は無かった。

 

 今回の試合で七宝に本当の意味で敗北を教えた他、修哉に魔法戦闘の経験を積ませることも出来た。密かに考えた俺の計画が達成したから、これで終了にさせてもらう。加えて再申請するにしても、今日はもう無理だから月曜日以降になる。その日から七宝と(この場にいない)香澄に反省文提出とランニング十周の罰を与える予定だから、無駄に長引かせる必要など無い。

 

「ええと、そうか。確かにそうだよね。でも……」

 

「兵藤、俺からも頼む。七宝に見せてやってくれないか」

 

 あたふたしている十三束に援護したのは服部だった。

 

「別に生徒会の俺じゃなくても、後のことは部活連(そちら)の方でやれば良いと思いますが?」

 

 これ以上の面倒事を生徒会(おれ)に押し付けるなと遠回しに言ったのだが、服部はそれに気付いていながらも言い返した。

 

「兵藤、お前の実力を見せることに意義があるんだ」

 

 そう言いながら服部は更に続ける。

 

「それと試合申請については問題無い。兵藤が申請した後、俺が中条に予約時間を引き延ばすよう頼んである」

 

 人がいない間に勝手なことするなよと思わず突っ込みたかった。

 

 くどいのは重々承知してるが、七宝の違反行為は本来会頭の服部や執行部が解決すべき問題で、第三者の俺に裁定を下すこと自体おかしい。とは言え、執行部に入ってる修哉を無断で試合を組ませてしまったから、服部を非難する資格は無いのもまた事実だった。却って試合を申請する手間を省けたと考えるしかない。

 

 まぁ試合をするにしても、取り敢えず演習室の床一杯に散らばってる紙屑の掃除をしないといけないんだが。そうだ、折角だから紫苑にやってもらうとしよう。

 

「紫苑、昨日やった感じで掃除してくれないか?」

 

「ええ、良いわよ」

 

 俺からの頼みに紫苑は了承した。大量の紙屑を一通り見た後、彼女はCADを操作した直後、あっと言う間に室内の気流が緩やかに動き始める。空気の流れは演習室の隅々を巡り、複雑に渦巻いて、あっと言う間にゴミを一か所に集めた。その後に紙屑は部屋に備え付けの掃除機に吸い取らせようとする。

 

 紫苑がここまで上手く出来ているのは、昨日に千葉道場で修哉にミリオン・エッジの対策をしてる最中、掃除と称した魔法の練習をさせたからだ。魔法操作における技量は勿論のこと、複雑で精緻な魔法を使わせることに関しては修哉より段違いに上手い。その気になれば七宝のミリオン・エッジ以上の技術を披露する事も可能だが、当の本人は楽に掃除出来る程度にしか思っていない。

 

 チラッと別の方へ視線を向けると予想通りと言うべきか、三年生は紫苑に称賛の眼差しを向け、幹比古と十三束は感嘆の溜息を吐き、七宝は衝撃を受けていた。そして司波は紫苑が見せた魔法に驚愕している。恐らく司波妹に匹敵してるんじゃないかと考えてるに違いない。

 

「司波、急で悪いが審判やってくれ」

 

「……いいだろう」

 

 俺からの頼みに司波は少々間がありながらも了承してくれた。すぐに返答しなかったのは、下手に断れば何をされるか分からないと考えたのだろう。

 

 

 

 

(全く、こんな時に……!)

 

 今の達也には一番気になる事があった。修哉が試合中に魔法式を展開してないだけでなく、専用CADと思われる媒体を一切使用せずに飛行魔法を発動させていた。その魔法は開発した者の一人(トーラス・シルバー)として到底見過ごす事は出来ない。

 

 十三束が余計なことを言わなければ、達也はすぐに(修哉に媒体無しの飛行魔法を教えた)隆誠を問い詰める予定だった。勿論二人だけで話そうと、深雪やほのかに誤解されるのを覚悟の上で。

 

 本当は今すぐにでも隆誠を別室に連れて行きたい衝動に駆られているのだが、修哉から審判役をやるよう頼まれてしまった為、仕方なく引き受けることにした。自身の心情を隆誠や幹比古達に気付かれる訳にはいかないから、持ち前のポーカーフェイスで何とか誤魔化している。

 

「兵藤君はそれで良いの?」

 

「問題無い」

 

 そんな達也の心情とは別に、試合する二人の準備は済ませていた。マーシャル・マジック・アーツのユニフォームを纏ってる十三束に対し、隆誠は一切着替えず制服のままだ。

 

 前回と違って両腕を組まずに佇んでいる隆誠、最初から強敵と挑むように構えている十三束。

 

 明らかに隆誠が十三束を甘く見てるんじゃないかと思われるが、実際そんな事は無い。一昨日に香澄と泉美、そして琢磨と試合していた時と違って表情が全く違う。観察するように相手がどう動くかをジッと見ているのだ。達也は勿論のこと、紫苑と一緒に試合を見届けてる修哉も当然気付いている。

 

「二人とも、準備は良いか?」

 

 審判の達也は、中央で向き合う隆誠と十三束の間に立って確認する。

 

「それでは、始め!」

 

 二人が頷いたのを見た直後、すぐに離れて開始の合図をした。

 

 先に動いた十三束が床を蹴るも、隆誠は動かず見ているだけ。

 

 十三束は積極的に隆誠へ向けて突進していた。

 

 だが、隆誠は何もしなかった訳ではない。相手がすぐに仕掛けるのを予想し、開いてる片手を前に出した途端に障壁魔法を展開する。

 

 並みの魔法師と違って、隆誠の障壁魔法は簡単に破る事が出来ない。今から二ヵ月ほど前、統合体のパラサイトが放った強力な魔法(ブレス)を簡単に防いでいたのを直接見た達也が一番知っている。

 

 すると、突進してる十三束の拳から想子(サイオン)光が纏っていた。その状態で正拳突きをして、隆誠を守る盾となってる障壁魔法に当たった瞬間に罅が入り、砕けて霧散していく。

 

「あれはまさか、術式解体(グラム・デモリッション)……?」

 

 十三束の攻撃で簡単に壊されたのが予想外だったのか、幹比古は呆然と呟いた。

 

 相手をしてる隆誠も同様の心情なのか、大変意外そうに目を見開いている。

 

 その隙に十三束は懐に入ってボディブローを仕掛けた。しかし姿があるのに何故かすり抜けてしまう。

 

「え?」

 

 拳に直撃した感触がせず、まるで幽霊のように消えていく隆誠に十三束は戸惑いの表情を見せる。それは当然達也だけでなく、試合を見届けてる修哉達も同様に。

 

「本物はこっちだ!」

 

『!?』

 

 突如、十三束の背後から隆誠の声がした。

 

 振り向いた先には、演習室の端にいる隆誠が新たな魔法を展開している。右手の人差し指で自分の正面に光の軌跡を生み出した直後、その軌跡が無数の光の破片を生み出して前方正面に高速連射する。

 

 琢磨のミリオン・エッジとは全く違うが、明らかに殺傷性が高い魔法であるのは一目瞭然であった。光の破片の群れが、十三束の全身を裂かんとする。

 

 それと同時に、十三束の全身から爆発的な想子(サイオン)光が迸った。不可視の光が煌めく中、彼を襲う全てのガラス破片は当たった瞬間に霧散していく。

 

(成程。あれが『接触型術式解体』、か)

 

 隆誠はオンネンバの光弾技――『シャイニングシャワーレイン』の威力を抑えて放ったとは言え、簡単に防がれても狼狽しないどころか理解と納得の表情を示していた。

 

 先ほどまでの試合中、十三束が接触型術式解体と口にした時から気になっていた。達也が使う術式解体(グラム・デモリッション)とは一体どんなに違うのかと。

 

 接触型と言う前置きがあるのだから、恐らく接近戦で真価を発揮するのだろうと隆誠は予想していた。けれど、自身の身体に分厚い想子(サイオン)の装甲を纏わせる事で魔法を防ぐのは流石に予想外だった。

 

 修哉も身体に溜め込んでいた想子(サイオン)を放出した事で魔法を防いでいたが、十三束のは全く異なっている。

 

 放出する想子(サイオン)をコントロールする事で身に纏わせている修哉と違い、十三束の場合だと想子(サイオン)の出力を調整するだけで勝手に身体に纏わりつく。二人のやり方は似て非なるモノである。

 

 他にも隆誠はある事に気付いていた。術式解体(グラム・デモリッション)と、接触型術式解体は似て非なる技術である事に。

 

 達也が使う術式解体(グラム・デモリッション)が攻撃型で、十三束の接触型術式解体(グラム・デモリッション)は防御型。この世界で例えるなら『最強の矛』と『最強の盾』みたいなモノだと、隆誠はそう解釈した。

 

(だがどうやら欠点もあるようだな)

 

 魔法師なら距離が開いていれば遠隔魔法を使う筈なのに、十三束はそれに反するように一切使わず高速で突進していく。まるで遠隔魔法を使う事が出来ないと自分で物語っているように。

 

 隆誠は当然それに気付いていながらも、敢えて何も言わず彼が繰り出す攻撃をひたすら紙一重で躱している。

 

(やはり兵藤君は、魔法だけでなく体術も優れている……!)

 

 攻撃や近接魔法が当たらない事に十三束は苛立ちを覚えないどころか、隆誠の力量に対する素直な感嘆が芽生えている。

 

 十三束は知っていた。母親経由であるが、去年の秋に『横浜事変』が起きてる最中、彼が大亜連合で『人食い虎』と呼ばれる凶暴な魔法師――呂剛虎をたった一人で倒した事を。

 

 対人接近戦等で世界の十指に入ると称される呂剛虎を倒したのが自分の同級生だと知った瞬間、十三束は是非とも隆誠に会って手合わせしたい衝動に駆られた。だがその時の彼とは何の接点も一切無いどころか、我儘同然な理由で手合わせするのは言語道断だと自ら戒めて会うのを避けていた。

 

 けれど今年になって、隆誠の弟子である天城修哉が執行部に入っただけでなく、こうして手合わせの機会(チャンス)を得ることが出来た。それを無駄にしない為にも、十三束は全力で彼に挑もうと闘志を湧き上がらせている。

 

(例え彼の魔法が強くても負けない。この距離で負ける訳にはいかない!)

 

 レンジ・ゼロと呼ばれている十三束としては、自身の得意分野で必ず勝利しようと固く決意している。今の彼には既に琢磨の事を完全に忘れて、自分が一番に手合わせしたかった相手に勝利しようと奮い立たせていた。




原作だと達也と十三束の試合ですが、こちらではリューセーと十三束の試合になります。

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