七宝の件が片付いて以降、一高はこれといった騒ぎが起きる事無く落ち着いた日々を送っていた。
それとは別に、生徒会の方はチョッとした問題が起きていた。その原因は書記の司波達也だ。
現在の生徒会役員は会長、副会長二名、会計、書記三名の合計七名の体制になっている。去年と比べて二人多いことで、一人当たりの仕事量が減っているのは言うまでもない。けど司波がそれ以上に減らしていた。
内容をチェックしてる副会長の俺も本気にならざるを得ない所為で、周囲の生徒会メンバーを
この状況に生徒会長の中条は非常に不味いと判断して、司波だけでなく俺にも指示を出した。ある程度の仕事を終えたら早退して欲しいと。
早退させる理由は、司波の処理能力が余りにも高過ぎる余り、他のメンバーが行う仕事に大きな支障が起きているからだ。俺は完全にとばっちりだが、な。
普段から周りに合わせて加減しながら処理していた俺と違って、司波は遠慮無しと言わんばかりな勢いで業務に取り掛かっていた。その所為で俺もアイツと同じペースでやるしかなかったから、中条達から改めて俺の処理能力を評価したと言う訳である。
とばっちりを喰らった俺は司波に文句を言うべきだが、今更そうしたところで意味は無いが、これは却って好都合だった。クラブを優先したい俺としては、今まで以上に早い時間で参加出来るのは願ってもなかったから。そういう点に関しては司波に感謝しなければならない。
因みに司波が俺と一緒に早退する際、二人っきりになる事が何度もあった。別に密会とか怪しい事じゃなく、アイツが俺に色々話したい事がある為に付き合わされただけだ。『ブリオネイク』の情報提供や、七宝との試合に修哉が披露した飛翔術とかを、な。
前者はもう既に全て提供したから良いのだが、後者に関しては非常に面倒だった。『専用CADと思われる媒体を一切使用せずに一体どうやって飛行魔法を発動させた?』と聞かれて、コイツよく観察してたなぁと思わず感心してしまう程に。
結果としては、司波が簡単に引き下がってくれた。そうなった理由は、執拗に問い詰められた際――
『もしかして司波、飛行魔法を開発したトーラス・シルバーとして見過ごせないから問い詰めてたりする?』
俺がそう言う質問をした事で一気に頭が冷えたのか、司波は途端に引っ込んで以降詮索しなくなった。
あの司波がその程度で簡単に引き下がる性格じゃないけど、
とまあ、俺と司波の個人的事情について語るのはここまでだ。
一高、と言うより魔法科高校は重要な行事が迫っている。九校戦と言う魔法競技大会が。
生徒会長の中条は早めに準備を進めようと、去年より一ヵ月も早く進めていた。試験直前にバタバタする事無く、余裕を持って準備を整えたいからと。
俺としては是非ともそうして欲しい。入念に準備するのは大事なことだし、慌てずに行うのは大変結構だから。
しかし、今回それが裏目に出てしまう結果となってしまった。予想外の報せが生徒会室に飛び込んでくるまでは。
西暦2096年7月2日
「…………………」
「中条会長。お気持ちは理解出来ますが、ここはもう割り切りましょう」
「リューセー君の言う通りだよ、中条さん」
放課後の生徒会室。
生徒会長のデスクに突っ伏しながら意気消沈中の中条に、俺と啓が必死にフォローするも無意味だった。既にいる泉美は彼女の姿を見て何とも言えない様子で、俺達と違って見守っているだけだ。
すると、生徒会室の扉が開いたので思わず視線を向けると、司波兄妹が入室している。
「兵藤、会長に一体何があった?」
入室早々、司波は事情を知ってるであろう俺に事情を尋ねてきた。
中条と違って既に思考を切り替えてる俺は答える事にする。
「ついさっき、会長宛に九校戦の運営委員会から今年の開催要項が送られてきてな」
「ああ、もうそんな時期だったな」
「詳細も明日、公式サイトに公開するんだと」
「そうか。だが、それの何が問題なんだ?」
いまいち分からないと司波が再度訊ねると――
「何もかもです!」
先程まで落ち込んでいた中条が、途端に勢いよく顔を上げ、呪詛と思わしき愚痴を司波に向けて零し始めようとした。
「開催要項は競技種目の変更を告げるものでした!」
中条は去年と同じく競技は変わらないと思って準備を進めてきたのだが、今年から急に変更されたと聞いた瞬間にショックを受けていたのだ。
一緒に聞いた俺や啓も完全に予想外だったから、彼女がこうなるのは無理もないと心中を察していた。
「しかも三種目です!」
中条が悲鳴のような声で叫ぶと、これには流石の司波も驚いた表情をしていた。
「例年のスピード・シューティング、クラウド・ボール、バトル・ボードが外されて、新たにロアー・アンド・ガンナー、シールド・ダウン、スティープルチェース・クロスカントリーが追加されました!」
全六種目の内、その半数が入れ替えになるなど誰が予想出来るだろうか。これは中条だけでなく、他の魔法科高校にいる生徒会長達も同様に嘆いているだろう。
だが、まだこれだけではない。
「しかも掛け持ちでエントリーできるのはスティープルチェース・クロスカントリーだけなんですよ! その上、アイス・ピラーズ・ブレイク、ロアー・アンド・ガンナー、シールド・ダウンはソロとペアに分かれているんです!」
ヤケクソと言わんばかりに中条が両手で机を叩いて力説する。これはもう完全に九校戦の進行そのモノが変更されてるから、選手選考どころか、戦略も戦術も一から見直さなければならない。
早い話、例年より早めに準備していた中条のやった事が全て無駄になり、逆にその行動が裏目に出てしまったのだ。中条が落ち込むのは無理もないと、司波兄妹は漸く理解しただろう。
「と言う訳だが、ご理解頂けたか?」
「……まぁ、取り敢えずは」
確認の意味を込めて問う俺に、司波だけでなく妹も頷いていた。
「もう終わりました……! あずさの一高☆今年も一位取っちゃうぞ大作戦は儚くも今終わりました!」
一通り叫んだ中条だが、再び机に突っ伏してしまった。
一ヵ月前から入念に準備した結果がコレだから、な。
「ま、まぁ中条さん。こうなった以上、選手の選考をやり直すしかないよ」
中条が余りにも気の毒過ぎると思ったのか、啓は後ろに回り込み、彼女の肩を優しく揺すっていた。
「それに全てが無駄になった訳じゃ――」
必死に中条を元気づけようとしている啓だったが、
「――啓?」
何処かからか掛けられた冷たい声によって凍りついた。
「か……花音……?」
(ぎこちない動作をする)啓と一緒に俺達も声が聞こえた方へ振り向くと、風紀委員会本部に続く階段から、風紀委員長の千代田花音がいた。しかも笑いながら、こめかみに青筋を浮かべて。
「中条さんに覆い被さって、なぁにしてるのかな~?」
笑みを浮かべたところで、如何にも怒ってますと分かり易い心情を示している千代田。
誤解とは言え、婚約者が自分以外の女に触れるのが相当お気に召さないようだ。嫉妬深いと言うか、器が小さいと言うか、せめて何があったのかを聞くだけの寛大な心を持てと突っ込みたい。
これは非常に如何でもいいが、もし司波が妹や光井以外の女に啓と似たような事をしたら――
「兵藤くん、今何か不穏なことを考えていませんでしたか?」
「言ってる意味が分からないぞ、司波さん」
エスパーでもないのに、司波妹が俺にブリザードの笑みを浮かべながら言ってきたので、考えるのは止めておくとしよう。
「花音! 誤解だから!」
啓が懸命に首を振りながら否定するも、千代田は全く聞く耳を持とうとしない。
因みに誤解の元になってる中条は部屋に隅に避難しており、いかにも巻き込まれたくないと言わんばかりの様子だ。
他のメンバーも同様なのか、我関せずを貫こうと仕事を始めようとしている。
「啓、チョッとばかり――」
「はいはい千代田委員長、先ずは落ち着いて話をしましょう」
今にも啓に襲い掛かろうとする千代田に俺が割って入る事にした。
そこから先どうなったかについては……彼女の名誉の為に黙っておくとしよう。
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