変更種目の通知が来た翌日、予想通り一高全体が大騒ぎとなっていた。大会の公式サイトに詳細が公表されたことで、競技に関係するクラブで様々な反応を示すほどだ。
その中で一番大変となったのが、俺がいる生徒会。
今回スピード・シューティングなどの三種目が外された事で、出場予定となっていた生徒達に事情説明する必要があった。選手選考はまだ確定してないのだが、例年より早く始めてしまった為、中条が非常に申し訳なさそうな顔で謝罪したのである。尤も、謝罪を受けた生徒達はそこまで怒っていなかった。三種目も変更するなんて予想外の他、「泣き面に蜂」状態の生徒会長を非難する気など微塵も無かったから。
謝罪は問題無く終わるも、その後の仕事も非常に大変だった。選手選びも最初からやり直しするだけでなく、新競技に関する事務仕事もやらなければならない。普段仕事を早めに終わらせる俺や司波も今回ばかりは流石に無理で、最終下校時間になるまで生徒会室に残らざるを得ない事態になる程だ。
因みに選手選考についてだが、修哉と紫苑は決まっている。俺が友人である二人を推した事で生徒会、協力してる部活連会頭の服部から身贔屓じゃないかと最初疑われたが、それはすぐに解消された。
二人は前回の定期試験にやった時は二科生だったが、実技試験で上位の一桁に食い込むほど優秀で、今は俺と同じく一科生に転科している。加えて修哉は数ヵ月前に七宝琢磨との試合で『ミリオン・エッジ』を木刀一本だけで叩き落した後に圧勝の他、紫苑は試合後に魔法操作による技量の高さを披露した。それ等を直接見ていた司波と服部は途端に思い出したのか、二人の九校戦参加に文句無しと判断したのである。参加する競技はシールド・ダウンに修哉、ミラージ・バットに紫苑と俺の方で決めさせてもらった。
しかし、ここで予想外な事が起きてしまうのであった。
西暦2096年7月5日
「他の競技も出来るかって……俺が参加するのはアイス・ピラーズ・ブレイクだと思っていたんですが」
「俺も最初はそう考えていたんだが……」
今はまだ昼休みだが、生徒会室は今も九校戦に向けての準備をしていた。
先程まで司波と一緒に選手選定のリストアップをして漸く確定するかと思いきや、急に部活連会頭の服部から急に待ったが入って今に至る。
「確認するが兵藤、お前はもし三高の一条将輝と当たったら勝てる自信はあるか?」
『!?』
服部の問いを聞いた俺はすぐに察した。彼が何故自分に競技を変更しようとしてるのかを。当然これは司波や他の生徒会メンバーも同様すぐに察したと補足しておく。
一応言っておくと、その問いは『イエス』になる。去年より腕を上げたところで、所詮俺の敵じゃない。それに一条家の秘術である『爆裂』を防ぐ手段もちゃんとある為、例えアイツがどんな手段を用いようが、俺や
ついで去年の九校戦が終わった数日後に三高へ訪れて、そこで改めてアイツと試合をして勝利を収めた。アレは色々な意味で不味い非公式な試合なので、一条家当主『一条剛毅』が箝口令を敷いてる為、(一部を除いて)周囲に知られないようになっている。
服部は当然知らない筈だが、それとは別の危惧をしてるのだろう。一般家系である俺が一条将輝に魔法勝負で圧勝すれば、十師族の面子を潰してしまう事態になるかもしれないと。
「どうでしょうね。以前は
「…………そうか」
本当なら『余裕で勝てます』と言いたいところだが、一応この学校の生徒の中には十師族や百家の直系がいる為、敢えて曖昧な返答をしておいた。
それを聞いた服部は大変複雑な表情をしている。去年に(表向きとして)大会委員から妨害された件を出した事で、反論出来なくなってしまった為に。
「因みにロアー・アンド・ガンナーやシールド・ダウンのどちらかを選ぶとしたらどうする?」
「そうですね。選ぶなら……ロアー・アンド・ガンナーですかね」
「シールド・ダウンを選ばない理由は?」
「三年の沢木先輩と桐原先輩、二年の天城の実力を考えれば間違いなく優勝を狙えますから、態々変更する必要はありません」
「成程。では、兵藤が剣道と係わりの無いロアー・アンド・ガンナーを選んだのは何故だ?」
「あくまで俺の個人的な理由で、
「あの人? 一体誰の事だ?」
「渡辺摩利さんです」
「!」
俺が名前を出した直後、服部だけでなく、一緒に聞いている生徒会メンバーも反応していた。当事者じゃない一年の泉美も摩利の事を知ってるのか、中条達と似たような表情になっている。
彼女は去年の九校戦でバトル・ボードに出場するも、その決勝で予期せぬ事故に遭っただけでなく、予定していた他の競技に参加出来ない程の大怪我を負ってしまった。アレが摩利の中で大きな心残りになっているのを俺は知っている。
本当であれば優勝すれば俺が作ったスイーツを贈る予定が、急遽残念賞になってしまった。それを受け取った摩利は最初喜んでいたが、事故で敗退した事を引き摺ってると俺は気付いていたが、敢えて何も知らないフリをしながらすぐに去った。
今年の九校戦では彼女の無念を晴らそうと、アイス・ピラーズ・ブレイク以外に掛け持ちが出来る筈のバトル・ボードに参加しようと考えるも、それはもう叶わない結果になってしまった。バトル・ボードが無くなった上に、掛け持ち出来る競技がスティープルチェース・クロスカントリーだけとなっている為に。
「摩利さんの得意なバトル・ボードに出て優勝しようと密かに決意したんですが、結局諦めざるを得なく、アイス・ピラーズ・ブレイクで頑張るしかないと思った次第です」
「兵藤君……」
理由を言った後、聞いている中条が感動するように両目が潤んでいるのは気にしないでおく。
「……兵藤、確認だがロアー・アンド・ガンナーで優勝を狙えるか?」
「ええ。練習でコツを掴めば最速タイムも狙えます。だけどもし俺がやるとするならソロですかね」
「よし。ならばお前はそっちに専念しろ。是非とも渡辺先輩の無念を晴らすんだ」
「え?」
いきなりの指示に俺は目が点になった。
と言うか、服部がこんなに先輩思いだったとは予想外だ。俺の記憶だと真由美ほどではないにしろ、彼が摩利に弄られてる光景を何度も目撃してるんだが……。まぁ多分俺が見てない所で、色々世話になったのかもしれない。
「良いんですか? 俺はアイス・ピラーズ・ブレイクに参加する筈じゃ……」
「構わん。確かにお前が抜けるのは痛手だが、新競技で優勝を狙えるなら寧ろ好都合だ」
ああ、成程ね。アイス・ピラーズ・ブレイクに参加するであろう一条将輝に勝利するより、それ以外の競技で優勝した方が無難だと服部は考えたんだろう。
確かに公式の試合で一条を倒した後の面倒事が起きるのは確実だから、それを回避するのは良いかもしれない。
「頑張ってください、兵藤君! 摩利先輩の為に必ず優勝して下さい!」
「兵藤君、僕も全力でサポートするからね」
何かもう決定事項になっているのか、中条と啓から激励の言葉を頂く事になってしまった。
「なぁ司波、本当に良いのか?」
「……取り敢えず頑張れ、とだけ言っておく」
司波も反対する雰囲気が一切無く、周囲に合わせるような感じで言っている。
結局のところ、俺はアイス・ピラーズ・ブレイクから、ロアー・アンド・ガンナーに急遽変更するのは決定事項になった。
活動報告に書いた通り、
リューセーはロアー・アンド・ガンナー、
修哉はシールド・ダウン、
紫苑はミラージ・バット、
となりました。