翌日の日曜日になって、やはりと言うべきか国東が走行中に視界が悪くなる件は解決したようだ。
聞いた話によれば、中条よりメガネタイプのゴーグルを渡された。ソレは当然普通のものと違って小型カメラ搭載の他、対象をガイドする為のナビゲーションも備わっているとか。
これで大丈夫と思いきや、またしても明智の方で問題が起きた。体勢が良くても、今度は射撃方法に困って司波に泣きついていたのだ。
明智曰く『的が多くて上手く対処出来ない』との事だ。視点が固定されてるスピード・シューティングと違って、ロアガンはその逆で視点が流動するから混乱してしまうとエンジニアの司波は理解した。
選手の俺は体勢についてアドバイスはしたが、流石に射撃方法まで無理だった。それは魔法を利用しての方法だから、完全にエンジニア側が対処しなければならない。
司波も流石に時間が必要だろうと俺は予想するも、それはすぐに覆ると同時に驚いた。何とアイツは明智に散弾型インビジブル・ブリットの起動式が格納されてるライフル型CADを渡したのだ。
インビジブル・ブリットと言えば、三高にいる有名な『カーディナル・ジョージ』こと吉祥寺真紅郎が開発した加重系の系統魔法。使い手は今のところ開発者本人しかいないと言われてる魔法を、司波は再現どころか散弾用に改造するとは恐れ入る。今度の九校戦で吉祥寺が見た後、ギリギリと思いっきり歯を食い縛ると言う少々気の毒な姿も想像してしまう程に。
非常に如何でもいい話なのだが、司波のヤツは去年に続いて少々やり過ぎだと思う。いくら選手を優勝させる為に考案したとは言え、高校生レベルでは到底不可能な高難度魔法を次々と披露し続ければ何かしらの厄介事が起きると俺は予想してる。当の本人は後先の懸念を微塵も考えてないから、色々な意味で質が悪いったらありゃしない。
「司波、こんな事やって大丈夫なのか?」
「問題無い。起動式が既に公開されていれば、改造してはいけないと言う決まりはないからな。吉祥寺真紅郎もそれ位は理解してる筈だ」
「いや、そういう意味じゃ……まぁ良いや。お前の好きにしろ」
同級生の
本当ならそこを指摘すべきなんだが、俺は敢えて放置する事にした。今は同じ生徒会でかなり話してる相手といっても『付かず離れずの関係』に過ぎなく、司波も当然それを理解してる。
恐らくアイツの事だから、その不味い事態に直面しない限り絶対気付かないと俺は思う。例え気付いたところで既に手遅れな段階になって、後々になってから後悔し始めるのではないかと。その時にはズバズバと指摘させてもらうとしよう。俺も司波と同じく性格が悪いと思われるかもしれないけど、後先の展開を全く考えていなかったのが悪いと言い返せる。
因みにその司波は、九校戦の練習期間中に欠席となった。司波妹と桜井も一緒に、な。
この三人が揃って休んだと言う事は、必ず何かしらの裏があると見ていいだろう。司波が所属してる独立魔装大隊関連、もしくは四葉家から急な呼び出し等々、決して人には言えない裏事情がある筈だ。
俺には全く関係無いとは言え、司波が急に欠席するのは何か嫌な予感がする。アイツはトラブルに愛されてると周囲に言われてるから、今回の九校戦で(無自覚のまま)厄介事を持ち込んでこなければ良いんだが。
西暦2096年7月21日
「『牙撃』!」
「甘い!」
第二演習室にて、俺は修哉とシールド・ダウンの模擬戦をしている。
今日の俺はロアガンの練習が出来ないから、時間を無駄にしないよう弟子の練習相手をしていた。普通なら外の運動場でやるべきなんだが、今回はチョッとした理由がいくつかある。
一つ目はバンドを外した修哉の全力を確認する為、以前に七宝と試合をした演習室を使う事にした。当然これは生徒会長の中条からも了承済みだ。外の運動場で披露すればレオとエリカが絶対騒ぐのが容易に想像出来たから、人目が付かない場所へ移す事にした。
二つ目は司波がいないからだ。アイツは
三つめは修哉に関してだが、シールド・ダウンに慣れたとは言っても、やはり俺が相手をしなければ物足りないみたいだ。練習相手になってるレオや桐原、そして沢木は充分に強いのだが、自身の攻撃や技を真っ向に受け止めてくれる俺じゃなければ改善出来ないらしい。つい先程この前の模擬戦でレオに使った『牙撃』を披露したが、(俺からすれば)まだ未熟な突き攻撃に過ぎず、俺が片手に持ってる盾で横へずらしていなす事が簡単だった。
「うわっ!」
突進方向を強制的に逸らされた事により、修哉は両脚のバランスを崩し、そのまま転倒してしまう。
「っ~~~。やっぱリューセーだと簡単に防がれるかぁ……」
「『牙撃』は確かに強力な突き技だが、防いだり受け流せば完全に無防備となってしまう。今転んだお前のように、な」
「うっ……」
俺の指摘に修哉は起き上がりながらも、返す言葉が無いと言わんばかりに口を噤んでしまう。
男子のレオ達に無双の如く披露した技は、教えた俺の前だと全く形無しになっている。
「ちゃんと両脚を意識してれば転んだりしないが、これは口で言うより何度も経験しなければ改善出来ない。ほれ、もう一度チャレンジだ」
「お、おう!」
失敗を糧にしろとアドバイスを送る俺に、修哉は再び挑戦しようと構え始める。
牙撃の一撃目を防がれた場合の
西暦2096年7月22日
「凄い凄い。それなら充分に優勝を狙えるよ」
「そ、そうかしら?」
修哉に続き今日も第二演習室にて、もう一人の弟子である紫苑を見ている。
昨日はレオやエリカ達から一体どんな練習をしたのかと問われたが、そこは適当に誤魔化しておいた。桐原や沢木からも同様に問われるも、先輩相手には『試合当日になれば分かります』とだけ言葉を濁してる。
ミラージ・バット練習中の紫苑を呼び出し、バンドを外した状態で俺が教えた魔法を披露させるも、中々良い結果だった。やはり彼女は修哉と違って、魔法操作における技量は高いと改めて認識する程だ。
「でもこの魔法、本当にミラージ・バットで使っても大丈夫なの?」
「大丈夫。ソレは前に教えた飛翔術と違って、
今年行われるミラージ・バットはチョッとしたルール変更がある。
去年に司波妹が披露した飛行魔法は、殆ど着地する事無くポイントを取り続けていた。それによって各校も真似していたのだが、魔法力の消耗が激しい所為で続々と選手達が(安全装置有で)落下していく事態に陥った為、今年はルール変更されている。(世間では知られてない飛翔術も同様に)飛行魔法は1回1分を超えて連続使用してはならない他、1分以内に着地することを義務付けると。
そう言った変更をしなければ、各校は再び飛行魔法を必ず使おうとするのが目に見えてる。安全だと分かっててもソレ前提で使う事になってしまえば、ミラージ・バットとしての在り方が大きく変わって大会側としても非常に困るだろうから。
今回俺が紫苑に教えた魔法はルール変更に抵触しない筈だ。それでも万が一に何か起きれば紫苑にじゃなく、俺の方で対処させてもらう。
尤も、ソレを披露するのは決勝になるだろう。紫苑がバンドを外して本気になれば、鍛えられた身体能力と跳躍魔法だけで問題無く勝ち上がるから。
今回は九校戦に出場する修哉と紫苑の秘密特訓と言う内容です。
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