「師匠、いくつか訊いても良いですか」
「何だい?」
隆誠が九島と年の離れた友人みたいな雑談をしている中、達也は誰にも気付かれないようにホテルを抜け出し、スティープルチェース・クロスカントリーのコースへ向かっていた。対象目的のP兵器=パラサイドールの配置とは別に、コースの地形把握や、何処に罠を仕掛け何処に伏兵を置くか予測する為に。
そこにはパーティで挨拶をした黒羽の双子――
諜報を得意とする二人ですらコースに侵入出来なかった事を鑑みた達也は、今夜は無理だと思って引き揚げようと判断を下した直後、突如現れた九重八雲も頷いた。侵入したコースには何も仕掛けられなかった事を教えながら。
八雲がコースに異常が無かった結果を報せた事で、達也は引き上げるしかないと諦めて文弥達と別れた後、自身の師匠にある事を訊きだそうとする。
「九島閣下が此処へ来たのは、パラサイドールの性能を間近で見ようと言う魂胆があるからでしょうか?」
パラサイドールの計画に加担してるだけでなく、九校戦を自らの実験の舞台に選んだ九島烈の神経を疑うほど達也は訝っていた。パーティで来賓の挨拶に、何食わぬ顔で激励の言葉を送れるものだと呆れたくらいだ。
達也からの質問に、八雲は少し考える仕草をした後にこう言った。
「多分それは無いと思うよ」
「何故ですか?」
推測でありながらも否定した八雲に達也は再度問う。
「今回行われるスティープルチェースはカメラで中継される事になってて、例え会場に行ったところで大きな画面で観戦するだけになっている。そんな無意味な事を、あの九島烈がやると思うかい?」
「それは……」
言われてみれば確かにそうだと達也も内心頷いた。
いかに九島烈がパラサイドールの実験に加担してるとは言え、直接コースに出向いて観戦する事は出来ない。彼は今も軍や魔法協会の重鎮と言う扱いをされてる為、そんな危険な真似を周囲が絶対に許可しないだろう。
だと言うのに、あの老人が一体何の目的で九校戦に顔を出したのかを達也は未だに理解出来ない。
他に考えられるとするなら――
「まさか、兵藤が出場する競技を観る為だけに……」
「寧ろ、それしか考えられないと僕は思うよ」
当てずっぽう同然の推測を言うと、八雲は正解だと頷いた。
余りにも予想外どころか、周囲が知ったらバカバカしい理由だと切り捨てたいが、達也はすぐに出来なかった。
確かに兵藤隆誠は並外れた実力者である事を、自身が身を以て経験している。恐らく今年の九校戦も自分が想像出来ない事をやらかすだろうと予想している事も含めて。
しかし、あの九島烈がパラサイドールの実験を計画してるにも拘わらず、隆誠の試合を見る為に九校戦に顔を出すのは普通に考えて有り得ない。
「確かにアイツは色々非常識な奴ですが、あの閣下がそんな理由で……」
「君はどうして、そう難しく考えてしまうのかなぁ……」
他にも何か理由がある筈だと深く考え込む達也に、八雲は苦笑すると同時に少々呆れるのであった。
(まぁソレとは別に、兵藤君や神霊のオーフィスちゃんがパラサイドールの存在に気付いたら……面倒な事になるのは確かだね)
出来れば隆誠達がパラサイドールの存在に気付く前に解決したいと内心願う八雲であった。
――司波達也に、九重八雲。あの二人、一体何を……?
――コソコソ動いて、怪しいことしてるのね。
――レイ姉さま。明日、主とオーフィス様に、報告した方が、宜しいかと。
達也と八雲は、里帰りしていた神造精霊レイとディーネに偶然目撃された事に気付いていない。
☆
西暦2096年8月4日
「全く。九島老師が余計な事を言った所為で……!」
「本当よ。少しはリューセー君の立場を考えて欲しいわ……!」
「いや、俺は全然気にしてないからな」
前夜祭パーティや九島との雑談を終えた翌日。朝から修哉と紫苑から色々と心配される破目になっていた。昨日のパーティでの来賓挨拶に九島が余計な事を言った所為で、他校生達とすれ違う度に睨まれていたのだ。
色々心配性になってる二人を何とか宥めながらも、昼頃には(俺と修哉の)部屋で仲良く三人で取っている。此処にいれば他校生達と会わない他、落ち着いて食事が出来る為に。
「そう言えば今日は壬生主将達が来る予定だけど、まだ来ないのか?」
俺が話題を変えようと、応援として来る壬生を含めた剣道部員達の事について訊いた。特に壬生と姉弟みたいに仲の良い修哉は、彼女のナンバーやメルアドを知ってるから、向こうの現状が分かるだろうと思いながら。
「俺も気になって電話したんだが、どうやら遅れて来るって言ってた」
それを聞いた修哉は見事に乗ってくれるも、何やら余り芳しくない表情となった。
「何かトラブルでもあったの?」
修哉の返答に、紫苑が不思議そうに問う。
この世界は陸上交通システムがある事で渋滞を構造的に解消されている。しかし、それがあるにも拘わらず遅れると言う事は、紫苑が言った道中のトラブルを意味する。
俺も彼女と同じく気になってるから、理由を言おうとする修哉の話に耳を傾けている。
「何でも、応援のバスが基地の入り口でデモ隊と鉢合わせたみたいだぞ」
「デモ隊って……」
予想外の理由だったのか、紫苑が思わず鸚鵡返しをした。聞いた俺も少しばかり眉を顰めている。
「そのデモ隊と言うのは、人間主義の連中か?」
「紗耶香先輩は何も言わなかったけど、多分ソイツ等だろう。『軍に入れられるのは間違っている』とか、『軍は君達を利用している』なんて叫び声が聞こえた」
「エリカ辺りがキレてもおかしくないな」
壬生だけでなく、応援に来てる他の生徒達も絶対聞いている筈だ。同時に人間主義に対して嫌悪感を抱いてるエリカ辺りが、合流した司波達に愚痴を零す光景が目に浮かぶ。
「向こうは随分と好き勝手に言うのね。魔法科高校は軍と一切関係無い筈なのに……」
まるで魔法科高校が軍と結託してると決め付けたと言うデモの内容に、紫苑は不快な表情になっていた。
昨日の雑談で九島が、『現在は強力な力を持つ魔法師が国の戦力として重宝されている時代』と言っていたから、デモ隊がそのように叫ぶのは分からなくもない。とは言え、勝手に決め付けるのはどうかと思うが、な。
「一々気にしてたらキリが無いから、放っておくのが一番だよ」
「それは、そうかもしれないけど……」
紫苑は言いたい放題言われる事に納得行かない様子だったが――
「此方の事情を一切調べずに目先の事だけしか叫ばない連中は、自ら無知を晒している有象無象だと思えばいい」
「……リューセー君、貴方……」
「お前、時々容赦しない発言するよな」
俺が人間主義に対して毒を吐いた事で、紫苑だけでなく、修哉も少しばかり引いていた。
否定出来る要素が一切無かったのか、二人は何も言い返そうとしない。
「……司波達は陰で面白い事をしてるようだな」
時間は既に夜中。
修哉達とランチを済ませた後、俺は(透明化中の)オーフィスを連れて富士山付近の森に来て鍛錬をしていた。今年はオーフィスが相手をしてくれたから、去年と違って久々に楽しい手合わせが出来て達成感を得ている。尤も、彼女が俺と一緒にいて以降、時々相手をしてくれてるが、な。
そして手合わせが終わって軽く休息をしてる最中、一年振りに
司波が黒羽の双子と仲良く話してる光景に、やはり四葉家の身内だったと確信する。だけどそれとは別に、九重八雲が九校戦の会場に来ているのは少々予想外だった。
あの住職は俗世に関わることを戒めにしているが、何かしらの事情が起きた時の場合に動く。去年に俺が神霊(だと勘違いしてる)オーフィスを喚び出した事で放置出来ないと、な。
しかし、それはもう既に解決しているから問題無い。彼が此処に来ているのは別の理由がある筈だ。司波や黒羽の双子と一緒になって話していたと言う事は、アイツ等も彼と目的が共通していると見ていいだろう。
「リューセー、どうする?」
「う~ん……」
オーフィスからの問いに、俺はチョッとばかり判断に困っていた。
恐らく司波や九重の事だから、今回の件に俺やオーフィスがいれば不味いと判断したかもしれない。その理由は未だに分からないが、な。
もしそうでなければ、俺達に何かして欲しいと遠回しに言ってくる筈。それが一切無いと言う事は、向こうにとって色々都合が悪い、もしくは十師族に多く関わる案件だから余計関わって欲しくない、とか。
「今下手に俺達がしゃしゃり出たら、却って不味い事になるからなぁ」
コソコソ動いてる司波や黒羽の動きを妨害するような事をすれば、(今更だが)四葉家に喧嘩を売ってると思われてしまう。九重は家の面子とかは無いにしても、忍びとしてのプライドが傷付くかもしれないが。
レイやディーネに監視を命じても良いけど、司波の傍には
「リューセー、我、ちょっと不服」
「そう不貞腐れるなって、オーフィス」
少し頬を膨らませながら文句を言ってくるオーフィスを宥めながらも、取り敢えずは様子見をする事にした。
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