西暦2096年8月6日/大会二日目
九校戦二日目、アイス・ピラーズ・ブレイク・ソロの予選とロアー・アンド・ガンナー・ソロが行われる予定になっている。
今日の競技で一番に注目されてるのは、女子ピラーズ・ブレイクで司波妹、男子ロアガン・ソロの俺――兵藤隆誠だそうだ。どちらも去年の九校戦で大活躍した事で全く見逃す事が出来ないと、中継してるアナウンサーが大袈裟に宣伝してる為に。
俺とは別に司波妹が何やら朝から変だった。司波と一緒に本部テントへ来た際、あの兄妹の距離が少し広かった。具体的には約三十センチ程度だが、な。他にも彼女の目じりがやや赤くなっていて、少し俯いていたりとか。
これには中条が訝って何かあったのかを尋ねるも、司波は有無を言わせぬ口調で反問された事で真相は闇の中になっている。俺が問い質せば状況は変わったかもしれないが、あの兄妹は色々な意味で
まぁそんな事より、俺が行うロアガンの出走順だが、なんと一番最後となった。くじ引きで決められたとは言え、何だか作為的に思えるのは単なる俺の思い過ごしなのだろうか。
くじ引きを終えた際、俺と同じくロアガン・ソロに参加する吉祥寺真紅郎からこう言われた。『将輝には悪いけど、今回は僕が勝つ』と宣言されたのだ。それを聞いた俺は思わず少しばかり目を見開くも、『さあ、それはどうかな?』と言い返している。
「すごっ、吉祥寺の射撃が正確に的中してるぞ……!」
「ソロなのに、よくあんな精密射撃が出来るわね」
「吉祥寺が俺にあそこまで自信を持って宣言したのは、こう言う事だったのか」
ロアガンの選手控え室に備え付けられてるモニターで観戦中の修哉と紫苑は、それぞれ思ったままの感想を口にしていた。
この二人が此処に来てるのは俺が呼んだからだ。控え室に待機しなければならないとは言え、最後にやる予定である俺としては非常に退屈なので、それを紛らわそうと修哉達を呼ぶ事にした。因みにオーフィスは
「今のところ、三高の吉祥寺君が圧倒的有利ね」
紫苑の言う通り、吉祥寺が見事な精密射撃で的中した事によってタイムが差し引かれた結果、他校の選手達の記録をかなり引き離していた。それによって暫定的でありながらもトップを飾っている。
「因みにリューセーも、吉祥寺みたいな戦法で行くのか?」
「ま、それは試合を見てからお楽しみって事で」
「そう言うって事は、吉祥寺君のタイムを簡単に塗り替えられる自信があるのね」
全く慌てた様子を見せていない俺の発言に、紫苑は少しばかり苦笑気味に言ってきた。
その直後、今度は七高の走行に移ろうとしている。
俺達三人はすぐにモニターの方へ意識を向けて、一体どんな戦法を見せるのかと思って期待しながら見ようとする。
「おいおい、的は全然当たってないぞ」
「何だか、そっちは殆ど無視して走行の方を集中してるような気が……」
「……成程、そう来たか」
走行を見ている最中、修哉と紫苑の発言とは別に俺は気付いた。七高が吉祥寺と全く違う戦法を取っている事を。
七高はスピードを重視している。的を当てればタイムが差し引かれるが、敢えてソレを捨て、魔法力をボートの操作に注いでタイムを縮めようとしている。本来なら射撃と走行に意識を向けなければならないのだが、敢えて片方を犠牲にする七高は思い切った戦法を考えたと感心してしまう。
今頃吉祥寺も予想外と言わんばかりに驚くどころか、非常に口惜しがるかもしれない。例え走破タイムが遅くても、的中率でカバーすれば充分優勝は狙えると考えていたら猶更に、な。
「おおっ、タイムが吉祥寺より上だ」
修哉の言う通り、七高は吉祥寺を超えるタイムとなっていた。的の方は運良く当たってるのもあって、それで更にタイムが差し引かれている。
「もしかしてリューセー君も、七高みたいな戦法をやるつもりだったのかしら?」
「いいや、俺はどっちも優先するよ」
紫苑は不安そうに問うも、俺はすぐに否定した。
それを聞いた事で修哉も彼女と同じく、若干不安そうに見てくる。
「大丈夫なのか? いくらリューセーでも、七高以上のタイムを狙うのは難しいと思うんだが」
「ま、観てれば分かるよ」
俺はそう言いながら、軽く準備運動を始めようとする。
確かに並みの選手であれば、吉祥寺や七高選手の記録を超えるのは不可能に近いだろう。
だが生憎、俺こと
☆
『――さあ、ロアー・アンド・ガンナー・ソロもついに最終レースとなりました!』
ロアー・アンド・ガンナー・ソロの最終レースとなり、『兵藤隆誠』の走行が始まろうとしていた。会場の観客席は満員であるにも拘わらず、立ち見でも構わないと思うほど観客が集まっている。
「やっと隆誠くんの出番ね。正直言って待ちくたびれたわ」
「エリカちゃん、その言い方は失礼だから……」
隆誠の走行が始まる前から観客席に座っているエリカの発言に、隣に座ってる美月が窘めるように注意していた。
「リューセーが負けるとは思ってねぇが、七高のアレを見せられたらチョッとな」
「確かに、七高があんな戦法を取ったのは予想外だったよ」
一緒にいるレオと幹比古は二人に気にせず、この後に行われる隆誠の走行について考えていた。先程まで走行していた七高がスピード重視の戦法を取った事で、三高の吉祥寺のタイムを超えてトップになったから、如何に隆誠でも難しいかもしれないと少しばかり不安視している。
「大丈夫、兵藤さんは必ず優勝する。多分、私達が想像した以上のことをやると思う」
「雫、何かもう完全に兵藤君を信頼してるね」
優勝と断言する雫の発言に、隣に座ってるほのかが苦笑していた。
因みに観客席に達也と深雪はいない。アイス・ピラーズ・ブレイク・ソロを行っていた都合上、二人は一高本部にあるモニターで観戦する事なった為に。
「隆誠殿が吉祥寺や七高の記録をどうやって抜くのかが楽しみなのじゃ!」
「沓子、思ってても口に出すのは止めなさい」
「でもそれは、此処にいる観客達の誰もがそう思っている筈」
隆誠を応援しようとする三高の生徒がいた。
彼に好意を抱いている沓子の発言を問題視する愛梨が指摘するも、栞は周囲にいる観客達を見ながら強ち間違ってないと擁護していた。
そして観客席とは別に、隆誠の試合を非常に楽しみにしている者が来賓席の最前列に座っている。
「く、九島先生、今年も此処で観戦ですか」
「勿論だとも」
去年と同じく傍にいる大会委員の問いに、九島は当然と言わんばかりに頷いていた。
本来であれば九島烈は
それとは他に、久しぶりに会った隆誠と話して良かったと思う事もある。前夜祭パーティを終えた後に部屋で話している際、魔法師として生きる道が他にないかの話題を振って、思いもよらぬ返答が返ってきた。土木業や工業関連だけでなく、更には芸能界でもやっていけると。それらを全く視野に入れてなかった九島としては、目から鱗が落ちると言わんばかりの内容であり、全く発想出来なかったと内心非常に驚かされた。それに気付かれないよう必死にポーカーフェイスで誤魔化していたが。
(もしかすれば、兵藤君ならば孫の
あと少しで始まる隆誠の走行を楽しみに待ちながらも、九島は同時に別の事を考えていた。とある事情で身体が病弱になっている孫を、自分が想像出来ない方法で救う事が出来るのではないかと。
ついでと言う訳ではないが――
「リューセー。態々
九校戦の会場、もとい日本から遥かに離れた基地の一室にて、とある金髪碧眼の少女が食い入るようにモニターを見ているのであった。
感想お待ちしています。