エリカからの追求を何とか逃れながらも、一回戦に勝った修哉はやっと自信が付き、その後の試合も難なく勝ち進んでいた。流石に全力でやるのは少々危険だと感じたのか、力加減をする余裕が出来ていた。
次の試合では俺が教えた突き技の『牙撃』を使うも、相手は修哉の速さと突進力に対応出来ず、一回戦と同様に吹っ飛んで終わると言う瞬殺劇の試合が連続も続いた事で、観客達はかなり盛り上がっている。
因みにエリカは試合を観戦しながら、『さっきと違って加減してるわね。今度の試合では絶対に……!』とブツブツ呟いていたが。この呟きを聞いて察してると思うが、彼女は九校戦が終わり次第、修哉と試合する事が確定している。それは勿論、バンドを外した全力の修哉を望んで、な。尤も、日時については決めてはいないが。
競技中の修哉には申し訳無いと思いつつも、男子シールド・ダウン・ソロは既に決勝まで進んでいた。
相手は優勝候補と呼ばれている三高選手。試合時間が短かったとは言え、向こうが決勝が始まるまでに修哉の技について対策を練っているだろう。
「天城修哉が試合で見せたあの突き技には致命的な弱点があります」
決勝が始まる前、三高の控え室では緊急作戦会議を行っていた。その最中、三高スタッフの一人が修哉の技について語った途端、誰もが気になるように視線を向ける。
「致命的な弱点だと?」
あと少しで修哉と決勝戦を行う三年の三高選手は、どんな情報でも良いから教えて欲しいと話を聞こうとした。
「はい。あの技は構えに移る際、一定の距離と溜めが必要なんです。ほら、ここを見て下さい」
そう言いながら三高スタッフは、修哉が試合で見せた突き技の『牙撃』を映像で見せようとする。
「彼は相手との距離を見てから構えに移り、腰を落としながら、両脚に力を込めてから突進するのに僅か数秒の溜めを要しています」
「ふむ、言われて見れば確かにそうだな」
三高選手は否定出来る要素が一切無かった為、成程と頷いていた。
「あの突き技が出たら即座に障壁魔法で展開して防ぐ、もしくは急接近して阻止する、のどちらかで良いのか?」
「そうですね。因みに先輩はどちらを選びますか?」
「俺としては前者を選びたいところだが、奴の身体能力を考えれば後者を選ぶしかないだろう」
三高選手はガッシリした体格をしており、尚且つ実戦向けの訓練を経験して防御力にはそれなりの自信もある。
しかし修哉は一回戦で、自身と体格の似た八高選手を簡単に吹っ飛ばすほどのパワーも兼ね備えていた。そんな相手に真っ向勝負を挑めば、間違いなく場外に吹っ飛ばされてしまうだろう。
三年生である彼としては今年最後の九校戦である為、是非とも有終の美を飾りたいと思っている。だからその為にも、敢えて真っ向勝負を捨て、相手の隙を突く戦いに専念する事にした。
「だが、この天城と言う選手には他の技もありそうな気がするが」
三高選手は修哉が突き技だけで優勝するとは思えなかった。
確かに凄いとは言え、シールド・ダウンは身体能力や技一つだけで優勝出来るほど簡単なモノではない。主に魔法を主体とした競技だから、魔法が加わるだけで一気に勝敗が逆転する事もある。
「かもしれませんが、そこは先輩の得意な障壁魔法で防ぐべきとしか」
「まぁ、それしかないか」
後輩のアドバイスを聞いたことで、三高選手は嘆息していた。
だがそれでも、例え向こうがどんな凄い技を繰り出そうとしたところで、結局は魔法で防げば問題無い。加えて彼は十文字家程ではないにしろ、障壁魔法の防御力もそれなりに高い。仮に一高の桐原武明の『高周波ブレード』みたいな魔法を使っても防ぎきれると自負しているから。
「――と言う作戦会議をしてると思うぞ」
「思うぞって……」
一高の選手控え室にて俺――兵藤隆誠は、決勝が始まる前の作戦会議をしてる最中、三高側がどのような会話をしているかの推測をしていた。聞いていた修哉は俺の推測を聞いて何やら呆れた感じを見せているが。
「まるで盗み聞きしてきたかのような感じがするんだけど」
「そんな訳あるか。あくまで俺の推測だっての」
ディーネを向かわせてやろうと思えば出来るが、生憎そんな狡い手段はやらない。裏情報を入手するならまだしも、正々堂々を重んじている学生の大会でやるなど以ての外だ。弟子を絶対優勝させる為に卑怯な手段を使うほど、俺はそこまで落ちぶれていない。と言うか、そんな事をせずとも修哉の実力を考えれば優勝して当然なのだから。
「だがそれとは別に、向こうがお前の『牙撃』対策を講じていると考えた方が良い」
「た、確かに……」
三高は他と違って分析能力が高い。加えて武道・格闘技系のクラブ活動が盛んな学校でもある為、修哉が披露した『牙撃』を使う動作、発動させる為の距離や溜め等を冷静に分析してると考えるべきだろう。
向こうがどのように対処するかは断定出来ないが、障壁魔法を使って防御、もしくは発動前に阻止するのどちらかと見るべきだ。
だから今まで加減した状態でなく、俺を想定した全力の『牙撃』を修哉に指示すれば対策は無意味なんだが……それは却って危険なので却下する。全力になった修哉が使うシールドに纏わせる
本当は防がれた場合の第二撃として違う技も考慮していたのだが、ここはいっそ開始して早々に使った方が良いかもしれない。
「修哉、予定変更だ。決勝では俺が教えた
「え? でもアレって、『牙撃』が防がれた時の第二撃として使うんじゃ」
「既に対策されてると分かった以上、そのまま馬鹿正直に使い続けるのはどうかと思ってな。修哉だってそう思ってるだろ?」
「まぁ、そうだけど」
「それじゃ早速、決勝が始まるまでに瞑想するぞ。俺も付き合うからさ」
第二撃を使うと決めた以上、修哉には今も昂ってる心を落ち着かせる必要があった。初手から使うには相手を惑わす為の精密な動きが必要になるから。
いきなりの事に修哉は少々戸惑っていたが、反論する様子を見せる事無く、俺と一緒に座禅を組んで瞑想をするのであった。
次回でシールド・ダウン・ソロを終わらせます。
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