修哉が優勝の結果を示したのを見て、師匠の俺は本当に嬉しい気持ちでいっぱいだ。
本当なら紫苑や壬生と一緒に拍手を送りたかったのだが、桐原とエリカとレオから物凄い勢いで問い詰められて全然出来なかった。
桐原は修哉が披露した『流水の舞』と『円天剣舞』を見て、去年みたく自分にも技を教えてくれと強請られた。それどころか俺が剣術道場を開いたら真っ先に通うと言う始末で、眼が本気で少々ドン引きした程だ。
エリカなんて『ふざけんじゃないわよ! こんな公衆の面前で披露する技じゃないでしょうが!』と、訳の分からない説教をされた。余りにも理不尽過ぎると思うのは俺だけだろうか。
最後にレオは『リューセー! お前が良かったら俺も修哉と同じく弟子にしてくれ!』と弟子入りを求められた。もし了承なんかしたら、俺はエリカから弟子を奪う事になってしまうので即座に断ったが、な。
だけど、その後が少しばかり大変だった。修哉が戻ってから、壬生が突然抱擁したのだ。大事な弟分が優勝した事で、姉分としての祝福のつもりだったかもしれないが、端から見れば恋人同士の抱擁同然だった。
その光景に壬生の恋人である桐原と、修哉に片思い中の紫苑が『それはやり過ぎだ(よ)!』と完全に嫉妬丸出し状態になり、宥めるのに時間が掛かってしまった。正直言ってロアガン・ソロの試技より大変だったと思うくらいに。
とまあ、そんな個人的な事情は此処までにして、今日の結果に移るとしよう。
一高の成績はアイス・ピラーズ・ブレイク男子ソロ三位、女子ソロ一位。シールド・ダウン・ソロ男子ソロ一位、女子ソロ二位。ポイントで言えば一高が四〇〇点で、三高が四一〇点。大した差ではないとはいえ、三高が若干高いのが現状になっている。
今まで一高が上だったが、逆転される要因となったのは女子シールド・ダウン・ソロだった。三高の一色愛梨がその競技に出場し、決勝で千倉を倒して見事一位を飾ったから。試合内容としては、一色の速さと攻撃に千倉が対応しきれずに押し負けた、みたいな感じだ。
明日からは新人戦で、一高の一年達に期待するしかない。七草の双子や七宝なら、確実に一位を取るだろうと粗方の予想はしている。特に泉美は司波妹、香澄は紫苑が応援すれば張り切る姿が目に浮かびそうな程に、な。
☆
「♪~♪」
キャンピングカーのキッチンで、俺は大変機嫌良くお菓子作りをしていた。
いきなりこんな事を言われて何をやっているのかと思われるかもしれないが、これにはちゃんと理由がある。
弟子の修哉が優勝したから、そのお祝いも兼ねて俺がお菓子を作る事にした。それを聞いた修哉は恥ずかしそうに断ろうとしていたが、紫苑がフォローしてくれた事でOKを貰っている。
しかし、ホテルでお菓子を作れる場所が無かった為、北山が所有してるキャンピングカーのキッチンを使わせてもらうように頼んだ。勿論了承してくれたから、彼女や参加するであろう司波一行の分も当然作っている。
今回作るお菓子は、チョコタルトとベイクドチーズケーキの二つ。材料は前以て俺の方で用意しており、どちらも無駄なく並行して作っている。既にもういくつか出来上がって冷やしてる最中で、残り2ホール分のタルトとケーキはオーブンで焼き上がったら終了だ。
「さて、と」
後は焼き上がるのを待つだけなので、数分前からキッチンに潜入しているお客さんの相手をする事にした。
「人の調理を盗み見るのは余り感心しませんよ、九重さん」
「おや、気付いていたのかい」
俺が振り向きながら言うと、先程までいなかった筈の人間――
彼とは既に昨夜会って、パラサイドールについて一通り聞いている。その直前、チョッとばかり驚かそうと気配やオーラを完全に消しながら背後からトンッと肩を叩いた瞬間、それはもう面白い反応をしてくれた。まるで不覚を取ったと言わんばかりの反応で、少しばかり怖い顔になっていたが、な。
「残念。気が緩んでる時に声を掛けようと思っていたんだがねぇ」
「……もしかして昨夜の事、まだ根に持ってます?」
「さて、僕には何の事やら」
俺がさり気なく訊いてみるも、九重は身に覚えが無いような返答をされたが、やっぱり根に持っているようだ。俺が司波以上の実力を持っているとは言え、学生に後ろを取られたのが『忍び』としてのプライドを傷つけてしまったかもしれない。
「まぁ取り敢えず、その話は一旦横に置いておこう」
そう言いながら九重は途端に話題を変えようとした。まるで此方の話が重要だと言わんばかりに。
「成程。貴方が急に此処へ来たのは、例のパラサイドールについてですか?」
「いいや、今回は全くの別件だよ」
「は?」
九重が想定外な返答をした為、俺は思わず目が点になってしまった。
俗世間に関わらない筈の九重八雲が九校戦の会場に来ているのは、パラサイドールと言う名の妖魔が放置出来ない為だと言うのに、それ以外の件で俺に会いに来るなんて一体何だろうか。正直言って全く見当が付かない状態だ。
そうなってる俺に、向こうは気にせず本題に入ろうとする。
「今回のシールド・ダウン・ソロで優勝した天城修哉くんの事なんだけど」
「修哉に何か?」
いきなり弟子の名前を口にした事で、俺は少しばかり声色を変えた。
「いやいや、別に手出しする気なんか無いから」
「ならばどう言う理由で?」
「彼の技について確認したくてね。兵藤くん、決勝で天城修哉くんが披露したあの技は君が教えたのかい? 斬撃じゃなくて、移動法についてだよ」
「移動法……ああ、『流水の舞』の事ですか」
九重の質問に、俺は思わず技の名前を口にしてしまった。
それを聞いた九重は、大変興味深そうな表情になっている。
「『流水の舞』、ねぇ。魔法の反応は一切無かったけど、もしかしてソレ抜きでやったのかい?」
「ええ。俺が独自に編み出したやり方を、修哉に丸々教えました」
あの移動法は簡単に出来る技じゃないが、修哉にはアレが使える素質があった。まだまだ粗が目立つとはいえ、俺との訓練を続ける限り、何れ完璧に出来上がるだろう。
「まさか技術だけであれ程とは……達也くんが段々可愛く見えてきそうだよ」
そう言いながら九重は次にこう言った。
「まぁ兎に角、その『流水の舞』なんだけど、出来ればこれ以上広めないで欲しい。それと天城くんの方にも、余り人前で使わないよう釘も刺して欲しいんだ」
「そうしないと何か不味いのですか?」
「不味いも何も、僕が先代から受け継いだ術、『
「!?」
いきなり彼が扱う魔法について口にした事で、俺は思わず目を見開いてしまった。
「原理は全く異なるけど、僕としては到底見過ごせない案件なんだ。もし万が一に君の『流水の舞』が広まり続けたら、僕たち『忍び』の立場が不味い事になってしまう」
「そこまでですか……」
以前に問い詰めてきた一条剛毅を思い出しそうになる。あの時は俺が披露した『ソールパニッシャー』が爆裂と類似してると分かった直後に、何処で盗んだと疑っていたから。
前々から思っていたが、この世界の魔法関係者は自身が扱う魔法に関して非常に過敏だ。確かに疑いたくなる気持ちは分からなくも無いが、だからと言って彼是疑うのは勘弁して欲しい。とは言え、今の俺はこの世界に生まれた人間である以上、この世界のルールに従わなければならないが、な。
「……仰りたい事は分かりました。九重さんのお言葉に従いましょう」
「随分素直に受け入れるんだね。てっきり反対するかと思ったんだけど」
「オーフィスの件がありますから」
九重は今も(神霊だと思ってる)オーフィスを無害な存在と見てくれているから、此処で彼と敵対すれば面倒な事になってしまう。恩に報いる為、彼の警告を受け入れるしかない。
すると、九重は途端に表情が変わって周囲を見渡していた。
「因みにそのオーフィスちゃんは此処にいるのかい?」
「今は森で散歩中です」
俺が新たに造った神造精霊を連れて、と俺は内心付け加えてた。
返答を聞いた事で、九重は急に残念そうな表情になる。
「そうか、出来れば幼女姿のオーフィスちゃんと話したかったんだけどなぁ……仕方ない。取り敢えず今日はこれで失礼するよ」
九重は暗い影を落としながら嘆息した直後、急に俺の視界から消えてしまう。まるで転移術を使ったのかと思うほど鮮やかに消えていたから、思わず凄いと思ってしまいそうだった。
長く話していたつもりは無かったが、オーブンで焼いていたチョコタルトとベイクドチーズケーキが丁度良く出来上がっていた。
そして俺は何事も無かったかのように、デザートや自前の紅茶を用意して、修哉や紫苑、並びに司波一行に披露する。
修哉達がデザートを大変美味しそうに食べてくれてる最中、俺はある事を思い出した。
「ほれ司波、お前ブラックコーヒーが良いんだろ」
「ああ、すまない」
「「「!」」」
俺が司波にコーヒーを渡していると、デザートを美味しく食べている司波妹と光井、更には桜井が何やら過敏に反応していた。
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