女子二人の誤解を解くのに少しばかり時間をロスしたが、それでも俺は問題無く準備に取り掛かった。
司波の方で密かにパラサイドールを撃破しても、午後には予定通り男子スティープルチェースを行うようだ。これでもしパラサイトが選手に憑依したと言う事態が起きたら、確実に競技中止となるだろう。それどころか九校戦自体そのモノが危うい事になるだけでなく、後々に国防軍や九島家が非難轟々の展開が容易に想像出来てしまう。
そんな恐ろしい事態がこの後の競技で起こさないよう、俺も司波と同じくパラサイドールを倒す予定だ。向こうが出さなければ越したことはないのだが、国防軍や九島家が簡単に引き下がるとは思えない。大きな組織や派閥に属してる
どちらにしても、俺は今回周囲に合わせず単独でやらせてもらう。本当なら女子スティープルチェースで優勝した紫苑と同じく、修哉に花を持たせたかったのだが、今回は非常事態なので諦めざるを得ない。
パラサイドールを破壊すると言う理由を話す訳にはいかない為、修哉や服部達にはこう説明した。
『実は一条将輝より手を抜いたら許さないと言われましたので、(チョッとばかり)本気で一位を狙おうと思います』
一条をダシにした説明だが、これは実際本当なので問題無い。
スティープルチェースでの裏側に軍が大きく関わっている事について話した際、一条は俺が参加するのかを問われた。その時は勿論出ると教えたら『絶対に本気でやれ』と念を押された。どうやら自分が十師族を理由に態と負けるんじゃないかと危惧していたみたいで、そうさせないよう先手を打ってきたのだ。他の十師族が騒ぎ立てるんじゃないかと確認するも、万が一に何か起きても一条家の方で責任持って対処すると言う返答をされた。そこまでするのかよと最初は内心呆れるも、今となっては非常に好都合だが。
(ある意味では)十師族からの許可が下りた事で、服部は微妙な表情になりながらも、俺の先行を了承してくれた。やるからには必ず優勝するようにと念を押されて、な。
☆
男子スティープルチェース・クロスカントリーが始まるまであと僅かとなり、選手団はスタートラインに集まっている。
誰もが緊張した表情になっている中、一人だけ浮いている選手がいた。男子用の野外服を身に纏っている一高選手――兵藤隆誠が周囲と違って全く緊張してないどころか、リラックスするかのように準備体操をしているのだ。それによって各校の選手達だけでなく、会場で見ている来場者達の目も一斉に向けるのは言うまでもない。
普通であれば場違いな行動をしていれば誰かが指摘してもおかしくないのだが、各校の選手達は一切それをする素振りを見せていない。寧ろ、今まで以上に警戒していた。
彼等は知っている。隆誠が去年の新人戦モノリス・コードで途轍もないスピードを披露していたのを今でも鮮明に憶えていた。最も走りにくい森林ステージでありながらも一気に駆け抜けただけでなく、ホームステージと自負していた筈の八高選手達を彼一人だけであっと言う間に戦闘不能にさせた。その時の苦い記憶がある所為か、今回の競技に参加してる八高のグループが憎々しげに見るのは致し方ないと言えよう。
だが、それは七高にも言える事だった。自分達の得意分野であった水上競技のロアガン・ソロで、圧倒的な差を付けられて優勝した隆誠の姿を見た事で、二位だった七高選手はあの時の屈辱を嫌でも思い出される。
八高や七高とは別に、三高の一条将輝は大変複雑な気持ちになっている。本当ならアイス・ピラーズ・ブレイクでリベンジしたかったのだが、十師族だからと言う理由で叶う事が出来なかった。
因みに各校からの視線を浴びている当の本人は――
(ディーネ、奴等はコース内にいるか?)
――はい。数は四、ゴール手前辺りに、布陣、しています。
パラサイトを探知する為の斥候役を命じた水の神造精霊ディーネと念話で通信していた。
隆誠は
(コッチは何故か四体固まって布陣してるな)
目を閉じて準備運動をしながら、隆誠はディーネと共有してる視覚情報を通じてパラサイドールの位置を把握し、同時に疑問を抱いている。
午前に達也が倒した十二体のパラサイドールはゴールライン手前に布陣するも、各地点に配置されていた。しかし今回は全く異なり、まるで団体行動をしているかのような布陣だった。
(まぁ良い。寧ろ俺にとっては好都合だ)
あっと言う間に倒そうと考えている隆誠からすれば、願ってもない展開だった。一体ずつ倒すより、纏めて倒せば大幅に時間を割く事が出来るから。
それでも万が一の場合に備えてある。今も彼の近くに――
――リューセー、何かあれば、我、すぐに手を貸す。
――ワォッ!
透明化しているオーフィスだけでなく、彼女の傍には見慣れぬ狼がいる。
この狼は隆誠が新たに造った、と言うより造らざるを得なかった狼の神造精霊。名前は『フェン』と名付けている。
経緯としては、九校戦初日にオーフィスが隆誠に倣って神造精霊を造ってみようと無数の精霊達を集めていた。最初はすぐに中止させようとしたが、彼女のオーラに惹かれた精霊達が群がってしまい、結局のところ造る事になってしまった。その結果として新たな神造精霊が誕生し、レイとディーネの後輩が出来たのである。
今回は美少女の姿をした人間型ではなく、雪色の毛並みを持つ狼として造られた。別に隆誠が意図した訳ではないのだが、嘗て
フェンは元龍神のオーラに惹かれているのか、基本的にオーフィスの傍にいる。創造主である隆誠に対して勿論忠誠心はあるが、レイやディーネとは少しばかり違う。まるで母親の傍にいたいかのような感じがして、オーフィスが優しく頭を撫でれば、フェンは大変嬉しそうに尻尾を振っているのが何よりの証拠だった。
そんな新たな神造精霊が今回オーフィスと一緒にサポート役として控えており、いつでも加勢出来る状態になっている。頼もしい奴だと思いながらも、隆誠は準備体操を終えて、各校の出場選手達と同じくスタートラインに並ぶ。
「修哉、お前は自分のペースでやるんだぞ」
「分かってるって」
隆誠が隣に立っている弟子に無茶をしないよう念を押すと、修哉は苦笑しながらも了承した。
競技開始時間になったのか、ピストルの号砲が響いたことで、男子スティープルチェース・クロスカントリーが開始される。
『……え?』
誰もが一斉に進もうとする中、開始直後に修哉の隣にいた筈の隆誠が一瞬で姿を消す事に、修哉を除いた出場選手達は目が点になるのであった。
本当はリューセーがパラサイドールと戦う予定でしたが、今まで放置気味だった新たな神造精霊を出す事にしました。
今回は以前(一年以上前ですが)の活動報告でコメントしてくれた零乃零夜さんの案を参考にさせて頂きました。
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